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宇宙はいかに始まったのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 浅田 秀樹 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 読んでもよく分からないなりに、宇宙論の本はつい手にとって読んでみたくなります。
 何光年も先の星が今、見えていることの不思議さ、奇怪さがあります。
宇宙に始まりがあるとしたら、終わりもあるのか…。宇宙の始まりの前には何があったのか。何もなかったとしたら、なぜ急に誕生したのか、できたのか…。謎は次々にふくらんでいきます。
 1ナノヘルツで振動するのは、1回振動するのに30年もかかるということ。日本人の平均寿命のあいだに3回しか振動しない。
 ナノヘルツの重力波というのは、数十年にわたって観測しても、1回の振動を見ることが出来るかどうかというスケールのもの。重力波は光速で伝わる。30年間で1回振動する波の波長は、30光年。
 波長は、波が1回振動するあいだの長さ。周波数とは、1秒間に何回振動するのかをあらわすもの。
周波数1ヘルツとは、1秒間に1回振動すること。電波は、波長が1ミリメートルより長い電磁波のこと。X線が可視光と同じ電磁波にもかかわらず、19世紀末まで人類が気づかなかった理由は、それが1000万度にも相当する高エネルギーの電磁波だったため。
 パルサーは宇宙の精密時計。パルサーからの電波パルスは、きわめて正確に周期的に地球に届く。
 アメリカのLEGOが初めて検出した重力波は、ブラックホールの合体によるもので、周波数が1ナノヘルツ、波長にして数光年という、途方もないもの。
宇宙が誕生してから有限時間しか経過していないため、私たちは宇宙の全体を見ることは不可能。有限時間内では、光は有限の距離しか到達できないから。この限界を「地平線」と呼ぶ。つまり、宇宙の地平線が存在する理由は、光速が物質の速度の上限だから。
宇宙には地平線があって、向こう側は見えないんだと言われると、なんだかとても残念な気がします。それって、山のあなたの空遠く…の世界ですよね。どうしても見たい、見たいと思っても、見ることはできないというわけなんですね…。残念ですが仕方ありません。本を読んで想像してみることにしましょう。
(2024年6月刊。1100円)

脳は眠りで大進化する

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 上田 泰己 、 出版 文春新書
 睡眠は人間の成長、とくに脳の神経細胞の成長に必要不可欠、きわめて大切な時間だ。
 これは、私の実感にもぴったりあります。私は、生まれてこのかた、完全徹夜なるものをしたことが高校生のとき、実験してみようと思ってした1回だけしかありません。まるで効果が悪いと思いました。徹夜明けは何も考えられない、脳細胞がまったく働かないことを実感しました。
 2回目は、夏合宿のとき、彼女と二人で話していて、朝を迎えたので、そのまま二人とも寝入ってしましました(ちょっとでも仮眠すれば、なんとかなることも体感しましたが、やはり、それだけのことです)。
 日本は睡眠時間が先進国のなかでもっとも短い。1日あたり1時間も短い。そして、これは労働生産性が低いことにつながっている。日本の長時間労働は低い労働生産性に直結しているというのです。経営者は経団連は反省したほうがいいでしょう。
 睡眠は削ってもいい、ムダな時間ではない。むしろ絶対に必要な時間だ。睡眠中の神経細胞は、一時期かなり強く活性化して一休み、また強く活性化して一休み、というリズミカルな動きをしている。
 生物には体内時計がある。これは地球の外側の時間軸を、生物それぞれが内側にインストールしたもの。
 ヒトゲノム計画から判明したのは、ヒトは2万数千もの遺伝子をもつこと。研究のスピードを上げるため、世代をまたがずに遺伝子を改案する技術を開発した。何やらすごい技術ですよね、きっと…。
 睡眠で面白いのは、睡眠と覚醒を繰り返すこと。レム睡眠のときに夢を見るが、ノンレム睡眠時にも夢を見ることがある。
 レム睡眠時は、完全に眠っているみたいにおとなしい。つまり、脳は活発なのに、身体は非常に不活発。ヒトは、必ずノンレム睡眠から入って、その後レム睡眠になる。
 トカゲのような爬虫類もレム睡眠をとっているようだ。ヒトでも、部分的に脳が眠る。
細胞を起こす、覚醒させるときに必ず働くのがカルシウムイオン。カルシウムが欠乏すると、睡眠に影響がある。
 ヒトは、睡眠時に、神経細胞同士の新しいつながりを獲得し、次の日に少しだけ新しい自分になっている。
 ヒトは、基本的に覚醒時には平均的には忘れていってしまう。
 覚醒は探索することに最適化された状態。
ノンレム睡眠が、シナプスを強くしたり新しく生み出したりするためには最適だ。
脳は、ヒトの体の時間的分業を統括するリーダーである。脳と心臓は驚くほど似ている。脳波と鼓動する心臓の仕組みには共通性がある。脳は第二の心臓だ。
キリンやラクダはあまり眠らない。キリンは細切れの睡眠で、あわせても1日に1時間以内。
 トナカイは、眠らないで、目を開けてモグモグとかんでいる。それは、脳波の周波数に近い。
ヒトの脳と睡眠の大切さを強く実感させられる新書です。著者は、福岡県生まれ、久留米大学附設高校から東大医学部に進学して、ずっと脳研究にいそしんでいるようです。
(2024年6月刊。980円+税)

アリの巣をめぐる冒険

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版 幻冬舎新書
 アリの大群そしてアリの行列をよくよく観察すると、いろんなことが分かるという、面白い新書です。
生き物の発見は、視点がすべて。知識にもとづく独自の視点をもたなければ、新しい発見はできない。確固たる才がなければ、多くの生き物の存在を簡単に見落としてしまうのが野外調査の怖さ。
アリと多少とも共生あるいは依存することを好蟻(こうぎ)性という。
 アリの好む物質を出してアリから口移しに給餌を受けるもの、アリの巣にまぎれこんで餌の残りを食べるもの、アリの巣の周辺に住んで弱ったアリを食べるもの、アリの背中に乗って生活するもの、実にさまざまいる。
 分類学の研究では、写真技術の発達した今でも、絵描きのほうが有用な手段である。重要な部分だけを絵で示したり、強調できるから。
 アリの死骸がまとまって巣から出されるのは、年1回の早春に限られる。そこで、クサアリハネカクシは、この早春に産みつけられた卵は、わずか数日で孵化する。
アリはきわめて排他的で、他種に対しては強い敵対行動をとる。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだけど、毒針を使って、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。しかし、ヒメサスライアリは放浪性のアリなので、見つけるには偶然の出会いを求めるしかない。そして、基本的に毎晩、引っ越す。その引っ越しには、8時間も10時間もかかることがある。
ジャングルでは、ハチもヘビも怖いが、一番怖いのは蚊。マラリアにかかると大変。
 ヒメサスライアリの観察中、怒ったアリに刺されると、毒針なので強烈な痛さ。
 面白い、面白いと著者は書いていますが、なにしろジャングル(密林)の中なので、ともかく大変な現地探求の日々です。いやあ、学者って大変な苦労をするものですよね。とても真似できません。
(2024年4月刊。1040円+税)

フランスの田舎に心ひかれて

カテゴリー:フランス

(霧山昴)
著者 Myna(まいな) 、 出版 食べもの通信社
 フランスの南西部の田舎に住む日本人女性の暮らしが素敵な写真とともに紹介されている、楽しい本です。
 次々に紹介される料理の写真が実に見事なので、フツーの若い日本人女性がここまで出来るのか怪しんでいますと、なんと著者は調理師学校で学んでいたのでした。なるほどと納得できます。
 フランスの地元の食材を使いながら、実に美味しそうな料理のオンパレードです。写真の撮り方も素晴らしいので、ついふるいつきたくなります。
 フランスにも体調が不良なときに食べるごはんがあります。日本だったら、おかゆに梅干し。フランスでは、それが野菜のポタージュ、そしてハムとジャガイモのマッシュポテトです。
 フランスに旅行したとき、マルシェ(市場)で太いホワイトアスパラガスをあちこちで見かけました。わが家の庭にもグリーンアスパラガスが春になると生えてきますが、その何倍も太くて長いのです。いかにも美味しそう…。
フランスの冬の鍋料理は、なんといってもポトフです。肉には牛だけでなく、豚や鶏も使うようです。そして、牛の骨髄(オズ・ア・モワル)がいかにも美味しそうです。
7月になるとエスカルゴ狩りをして、パセリとニンニクソースでいただきます。エスカルゴは直径3センチ以上のものだけ、そして、4月から6月末まではとってはいけないそうです。初めて知りました。それにしても、エスカルゴ狩りなんて出来るのですね…。
 今年は、わが家の梅がまったく不作でしたが、ブルーベリーがかつてなく大豊作でした。
 そして、この本ではブラックベリーが食べ放題だったとのこと。わが家のブルーベリーは岩手県産の岩泉ヨーグルトと一緒に実に美味しくいただきました。
5月はアーティチョークシーズンだそうですが、私はアーティチョークを食べた記憶がありません。残念です。そして、キノコの王様と呼ばれるセップ茸(だけ)も同じく食べたことがありません。
 フランスでは3歳から義務教育が始まるというのにも驚きます。
 いまアメリカでは大統領選挙がさかんですが、アメリカがいかにも野蛮な国だと思うのは医療保険が国民皆保険ではないことです。民間の保険会社がもうかる仕組みになっていて、これを国民皆保険に変えようとすると、トランプ元大統領のような連中が「共産党=アカ」と言って、非難・攻撃するのです。その点、フランスは医療保険制度が進んでいます。トランプからしたら、まさしくフランスは「アカ」の国だということになります。もちろん、マクロンは「アカ」ではなく、どちらかいうとトランプに近い保守の大統領です。
トランプのような、なんでも営利本位のほうが良いという考えは、国の分断をすすめるだけで百害あって一利なしです。でも、トランプを熱狂的に支持するプア・ホワイト(貧乏な白人)が少なくないわけです。世の中はまさしく矛盾だらけです。
フランスの片田舎に2人の幼い娘とフランス人の夫と一緒に暮らしている、この日本人女性が仕事はしているのか、どうやって生活しているのか、不思議でした。「フリーのデザイナー」とのことですが、ネットで仕事をしているということなんでしょうか、気になりました。
(2024年5月刊。1800円+税)

原爆(上)(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ディディエ・アルカント(文)、ドゥニ・ロディエ(絵) 、 出版 平凡社
 フランスの真面目なマンガ本です。映画「オッペンハイマー」と同じく、アメリカの原爆開発の過程をマンガによって視覚的に明らかにしています。日本の物理学者である仁科(にしな)芳雄な登場するのは意外感がありました。日本の原爆研究・開発がそれほど進んでいたとは思えないのですが…。
 それより驚いたのは、「森本」という架空の人物が登場し、その息子2人が戦死するという状況も描かれていることです。この「森本」は、今も銀行の階段に黒々とした「影」が残っていますが、その「影」の持ち主、つまり原爆が投下されたときに銀行の階段に腰をおろして休んでいた人物とされていることです。なるほど、そうなんですよね。原爆投下によって一瞬のうちに何万人もの人々が蒸発したように亡くなったわけですが、その人たちはみんなみんな、それぞれの人生を過していたわけです。それが原爆によって一瞬のうちに消滅させられたのです。
 原爆開発にはナチスも取り組んでいました。そして原料となるウランの争奪戦も水面下で激しくたたかわれていました。
 アフリカのベルギー領コンゴがウランの原産地です。ノルウェーの山中にドイツは「重水」の生産工場があるので、連合国軍は特殊部隊を派遣して爆破しようとしましたが、悪天候のせいで見事に失敗してしまいました。
 下巻では、いよいよ原爆の人類初の爆発実験の様子が描かれます。映画でも緊張の瞬間でした。放射能汚染の怖さを誰も知りませんから、ゴーグルで目を保護するくらいで、防護服を着た人は誰もいません。
 実験があったのは1945年7月14日未明のこと。実験が「成功」したとき、アメリカ軍の将校はこう言った。
「我々は戦争に勝つ。日本に1.2発落とせば、終わる。よくやった」
8月6日に広島、そして8月9日に長崎に原爆が落とされ、日本は8月15日に無条件降伏しました。なので、原爆が日本敗戦の決め手になったのは間違いないでしょう。でも、多くの日本人は「新型爆弾」と呼ばれた原爆のことを十分に知らされず、また、広島・長崎の惨状も共有化されませんでした。
それは戦勝国アメリカ人にとっても同じです。原爆の悲惨さ、そのケタ外れの威力について認識を深めることはありませんでした。各戸の地下室に「シェルター」をつくる動きがあらわれたのは、その象徴です。原爆は「シェルター」をつくったくらいで被害を回避できるというものではありません。ところが、政府・当局は、それを知ったうえで、知りながらも「核シェルター」づくりを現在でも推奨するのです。おかしなことです。
映画「オッペンハイマー」には、原爆投下による広島・長崎、悲惨な状況が一切描かれませんでした。しかし、この本には銀行の階段に腰かけていた「森本」をはじめ、都市全部が消滅した状況が視覚化されています。マンガ「はだしのゲン」はとてもよく描けたマンガだと思います。ところが、子どもには残酷すぎると称して読ませないところ(学校)もあるとのこと。信じられません。大判のずっしりしたマンガ2冊です。図書館に備え置いて、誰でも見れる、読めるようにしたいフランス産のマンガ本です。
(2023年7月刊。(3800円+税)×2)

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