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電鍵砦の一矢

カテゴリー:社会

著者  菊沢 長 、 出版  一葉社
 NTTに立ち向かった無線通信士たちの20年に及ぶ戦いが、大部の小説になって紹介されています。
NTTの民営化のなかで無理な合理化と人員削減が強行されていきます。刃向かう労働者には「異単長」の配点が命じられます。「異単長」という言葉を初めて知りました。異業種、単身赴任、長時間通勤の頭文字を並べた、リストラによって生まれた造語です。労働者を使い捨ての道具のように考えている資本の冷酷さをあらわす言葉ですね。
 労働組合がストライキを打たなくなって(打てなくなって)久しい日本では、労働組合の存在が本当に影の薄いものになってしまいました。労働者自身が労働組合について、自分たちを守ってくれる存在だと考えていないのではないでしょうか。第二人事部の役割を果たしているにすぎないとしか言いようがない組合が多すぎます。
今でこそ全電通は会社側の施策を周知し、一方的に了解を取りつけるだけの労務対策部的な機関に変貌しているが、かつては労働条件改善のために重要な役割を担っていた。
 そうですよね。総評を支える有力な単産でした。国労とか全逓とか・・・。
船舶通信士労働組合というものがあるそうです。全日本海員労働組合から独立した職業別の労働組合です。現役70人、退職者150人の構成。
海上にも人員削減の波が押し寄せている。衛星通信の普及、電子技術の進展によって専任の通信士を置かず、船長などが兼任している。そうすると、どうしても片手間仕事になって、わずらわしいからとスイッチが切られたりして、肝心な通信がお互いに届かなくなったりする。それが危険を招き、大惨事にいたることがあるのです。
遭難警報91.4%が誤報という報告がある。遭難通信の誤発射、誤操作が起きている。
 無線局廃止差止裁判をはじめ、いくつもの裁判をたたかいますが、司法は大資本を味方し、連戦連敗です。それでも、国際的な労働法に照らして、日本の労働条件の一方的に切り捨ては許されないと、スイスに出かけILDに訴えるのでした。
 ジュネーブでは、私のよく知る牛久保秀樹弁護士が活躍したようです。
 しかし、2002年から始まったNTTリストラ裁判では、全国各地の裁判所がNTTによる遠隔地は移転を断罪し、一人100万円の慰謝料を支払えといった判決を出していきました。NTTに「アリ」が勝ったのです。長年の苦労が少しだけ報われたわけです。
 それにしても、労働者無視の労働法改悪はひどいものです。
(2013年6月刊。2400円+税)

狼が語る

カテゴリー:生物

著者  ファーリー・モウェット 、 出版  築地書館
 カナダ人が、北極圏で狼の身近なところ、もちろん大自然のなかです、一人でテントを張って居をかまえ、じっとオオカミの生態を観察した記録です。
 信じられないような話のオンパレードなので、本当に体験記なのかを疑いたくなります。
 1921年生まれのカナダ人である著者は兵士として第二次大戦の戦場にも行っています。それだから、こんな北極圏でのオオカミ生態調査という恐ろしい仕事に従事できたのでしょうね。
 ホッキョクオオカミは、体重80キロほどもある。鼻先から尾の先まで260センチ。肩までの高さは100センチ。
著者がオオカミの観察を始めて何日かすると、何世紀にもわたって普遍的に受けいれられてきたオオカミの性格についての人間の観念は明々白々な嘘だということが分かった。オオカミたちは、「残忍な殺し屋」ではなく、慈悲深く、軽蔑をこめながらも自制した態度で、著者に接した。
北極圏でもっとも血に飢えた生き物は、オオカミなどではなく、飽くことを知らない蚊の大群だ。
 オオカミは、週に1度、一族で家族の土地を巡回し、境界の印を更新する。これは、一種の、オオカミ式抗打ち作戦だ。
 オオカミは、きわめて規則正しい生活を送る。しかし、なお、決まったスケジュールに、ただ闇雲に従っているだけでもない。夕方早く、オオカミのオスは猟に行く。それは4時ころのこともあれば、6時か7時ころのこともある。夜の猟に出かけるが、それは家族の縄張り内に限定されている。通常の猟では夜明けまでに50~60キロの距離をカバーする。日中は、眠って過ごす。
 メスの狼と子どもたちは、昼型の生活を送る。夕方、オスが出かけると、メスは巣穴に入り込み、そこにとどまる。ときに、大急ぎの軽い食事をとりに食糧貯蔵庫に出かける。
 食物を巣穴の近くに蓄えたり、食べ残しをそのままにしておくことはない。いつも、当座に消費するだけの量が運び込まれる。
 食糧貯蔵庫は、近くに巣穴をもつキツネも使っていた。オオカミはキツネと共存している。オオカミの使っている巣穴のほとんどは、キツネが放棄した巣穴であり、オオカミがそれを拡張したものだった。
 オオカミのメスは、ただ一頭のオスとしか関係を結ばないし、しかも、一生連れそう。オオカミは厳格な一夫多妻主義である。
 オオカミは、ネズミを丸ごと食べ、お腹につめて単に戻る。そして、子どもたちの前で、すでに半分消化されたものを吐き出して与える。
オオカミは自分たちの言語をもち、仲間同士で会話している。遠吠え、嘆き声、震え声、クンクンいう声、不満の声、怒りの声、キャンキャン声、吠え声。お互いの声に知的に反応する。
 オオカミは犬より長生きする。20歳のオオカミもいる。
 オオカミでは、実際の親が誰なのかは、たいして重要ではない。孤児という言葉もない。
 交尾するのは、通常3月の2、3週間だけ。
 メスの狼は2歳に達するまで出産しない。オスは3歳になるまで子どもを作らない。
 繁殖可能年齢に達するまで、若者オオカミたちは両親のもとにとどまる。
 年寄りオオカミ、とくに連れあいを亡くしたオオカミたちは独身のままでいることが多い。
 オオカミは、体内に組み込まれた産児制限メカニズムによって抑制されている。食料となる動物が豊富なとき、あるいはオオカミの数がわずかなときは、メスは8頭といったように多くの子どもを産む。しかし、オオカミの数が多すぎたり、食料が少ないときには、1回の出産数は1頭あるいは2頭まで減少する。
 健康なオスのカリブーは簡単にオオカミから走って逃げられるし、生後3週間の子どもカリブーでも、特別に足の速いオオカミ以外なら逃げきることができる。だから、カリブーはオオカミを恐れる必要がない。オオカミが追跡の標的に選ぶのは、もっとも弱い個体か、何らかの欠陥をもったカリブーだ。
 オオカミは、決して楽しみのためにカリブーを殺したりはしない。労力の節約こそ、オオカミの行動指針だ。捕獲に適した虚弱なカリブーに出会うまで試験(テスト)の過程は、しばしば何時間にも及ぶ。いったん、そうした個体が選び出されると、狩りは新たな展開を迎える。攻撃するオオカミは、長い探索のあいだ保持してきたエネルギーを思いきり発散し、見事なスピードとパワーの高まりのなかで餌食を追い、カリブーの背後に迫る。
オオカミをやみくもに危険視するのは間違っていることを実感させる本です。
(2014年2月刊。2000円+税)

「どぜう屋・助七」

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  河治 和香 、 出版  実業之日本社
 浅草駒形にある「駒形どぜう」6代を小説にした、江戸情緒を心ゆくまで堪能できる小説です。
 私にとってドジョウって、なんだか泥臭い味のようで、食べてみようと思ったことはありませんでした。でも。この本を読んで、一度、1日600人の客が来るというこの店に足を運んでドジョウを食べてみたくなりました。
 なにしろ、210年の歴史をもつドジョウの店なのですから・・・。
 有名な作家である獅子文六が昭和36年に、東京の好きな店として、駒形のどぜう屋と神田のヤブをあげています。神田のヤブのほうはいって食べたことがあります。たくさんの人でにぎわっていました。
 「駒形どぜう」のほうは、はじまりは、もう江戸時代も幕末のころのことです。
 人々が助けあって生きていました。しかし、次第に殺伐な社会風潮になっていきます。ペルリの黒船が来て、新選組が京都に出来て、剣道を教える道場が大流行していました。
 こんな世相の移り変わりを、小説のなかに時代背景としてよく取り込んでいます。
 今でも「駒形どぜう」で出す酒は、伏見・北川本家の「ふり袖」、そして、「どぜう汁」の味噌は「ちくま味噌」である。
 本当に、おいしそうな店です。しっかり江戸気分に浸ってしまいました。
(2013年12月刊。1600円+税)

秘密保護法は何をねらうか

カテゴリー:社会

著者  清水雅彦・台宏士・半田滋 、 出版  高文研
 「何が秘密か?それは秘密です」
 特定秘密を漏えいしたら、最高10年の懲役刑に処せられる。現行法の1年以下(自衛隊員だと5年以下)にくらべて格段に重い。未遂だったときも処罰される。
特定秘密の内容が示されないまま、逮捕、起訴されて、裁判になったときにも有罪になる。
 こうなると、もう裁判ではありません。誰も、なぜ処罰されるのか説明できないというわけです。政府の思うままに処罰できる。これっで、まったく民主政治では、あるまじきことです。
公務員による内部告発も委縮してしまう。マスコミも足がすくみ、スクープ報道が期待できない。
 防衛省は秘密開示したことがない。これまでずっと廃棄してきたから。
 自衛隊員の給料は、一般の民間企業のサラリーマンより、はるかに高い、一佐(戦前の大佐)は、年収1200万円をこえる。そして56歳で定年を迎えても、天下りして週3日の勤務で現役のときの7~8割の年収が保障される。
 自衛官が「高給取り」だと叩かれないのは、国民が自衛官の高い年収を知らないから。
 これだけの高給取りなので日本の自衛官にとって、外国のスパイになるなんて、まったく割の合わないこと。
いま、弁護士会は、強行採決で成立した特定秘密保護法の施行(年末の12月が予定)までに廃案しようという署名運動に取り組んでいます。ご協力ください。
(2014年1月刊。1200円+税)

福島第一原発・収束作業日記

カテゴリー:社会

著者  ハッピー 、 出版  河出書房新社
 福島第一原発で今も働く現役作業員である著者が発信しているツイッターが本になりました。著者のフォロワーは7万人もいるとのこと。すごいですね。
 3.11のとき、著者は福島第一原発にいて、その後の収束作業にも自ら「志願」して参加しているとのことです。もっとも、親には言っていないそうです。著者名が仮名になっているのも、そのせいでしょうか・・・。
 それにしても、現場からの貴重な情報発信だと思います。今も続いているようです。
この本で明らかになったことは、
 第一に、福島第一原発事故は今も「収束」なんかしていないこと、政府の宣言は国民をだますものであること。
 第二に、原発事故の収束作業は今から何年どころか。何十年でもなく、何百年もかかるものであること。
 第三に、それにしては国が東電という私企業にまかせているのはおかしいこと。東電は予算を削ろうとしているが、国が全面的に責任をもってやるべきこと。
 第四に、そのためにも現場の作業員をきちんと確保しておく必要があるけれども、劣悪な環境で働かされる割にはペイがよくないし、海外へ原発を輸出したら、日本では技術者が足りなくなること。
 第五に、これがもっとも肝心なことだが、要するに原子力発電所というのはあまりに危険すぎて、とうてい人類の扱えるようなものではないこと。
 これらのことが、現場で働く実感をもって語られています。同感、共感させざるをえません。
 福島第一原発事故の収束作業に従事している人たちは、ごくごく普通の人が一生けん命にがんばって働いている。ただ、この現場は今でも特別な場所だし、事故は収束なんかしていない。
 現場で3時間も働くためには、移動時間をふくめて前後8時間以上がかかる。逆に言うと、拘束8時間であっても、そのうち3時間しか現場では働いていない。
現場付近でマスク外して、タバコを吸ったり、食事したりする作業員がいる。建設作業員には、放射線について知識のない人も多い。人手が足りないので、そんな人たちも集められている。
 使用済み燃料の取り出しが3年後から始まって、3年くらいかかるだろう。原子炉の燃料とり出しは10年後に始まるだろう。つまり、早くて20年後にすべての燃料の取り出しが終わるということ。
 原子炉建屋内は線量が高いので、作業員が被曝しながら「人海戦術」でやるしかない。
東京電力は解散して、送発電を分離して、国が先頭に立って予算も作業員の給料も面倒みなければダメ。今は、一流企業(私企業)のやり方で「収束」作業をしている。
 2011年12月の「収束宣言」のおかげで、現場での労賃が大幅に下がった。「収束」したのだから「危険手当」が少なくなってしまったのである。
 いまだに、毎時0.6億ベクレル以上の放射性物質が日本中に向けて拡散している。
 テロ対策の訓練をしているけれど、ガードマンが1時間もテロリストと対応しているという非現実的なマニュアルに頼っているのが現実。
 そうなんです。北朝鮮の「テポドン」の脅威を安倍・自公政権は強調しますが、原発へのテロ攻撃は現状では防ぎようがないものですよね。そのことについて、政府は知らんぷりです。本当に怖いことは国民に知らせません。それは、「国民がパニックになってしまうから」だというのです。それって、まるで国民をバカにした発想だと思いませんか・・・。
 著者の健康が心配になりますが、ぜひ引き続き内部の情報を発信してください。心より期待しています。
(2013年10月刊。1600円+税)

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