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西南諸島を自衛隊ミサイル基地化

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 土岐 直彦 、 出版 かもがわ出版
 沖縄と西南諸島の島々で自衛隊によるミサイル基地化が急速に進んでいます。
 台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄やミサイル要塞の島々は真っ先に標的になる。「ミサイル戦争」下、島の住民が逃げ惑う惨状がやってくる。
有事の際には米軍と自衛隊とが「統合軍」を形成する。もちろん自衛隊は、米軍の指揮下に置かれる、「目下の軍隊」である。いま、日米の司令部統合体制は事実上、できあがっている。
 自衛隊は平時から米艦を防護するし、基地は共同で使用し、訓練に使う。物品・役務も提供させられる。
理不尽のきわみは米兵器を「爆買い」させられること。それも米海兵隊が買わなくなった古い型の水陸両用車(1両8億円)を52両も買うなど、米軍にとって不要になった兵器をアメリカの軍需産業を救済するために買わされる。これが日本の「軍事力強化」の内情というのですから、思わず涙が出てくるほど情けない話です。
 馬毛島(まげしま)の基地建設にあたって、反対派の行動を監視するため、漁師を4時間5万円で雇っている。これは、月に100万円もの収入になる。こうやって札束で反対派を黙らせてしまうのです。ひどいものです。
 宮古島駐屯地の造成工事が始まったのは2017年10月30日。住民への説明会は11月19日に開かれ、翌日が起工式。説明会の開催は単なるアリバイづくりのため。そして、「保管庫」ということだったのに、実は「弾薬庫」で、中距離多目的ミサイルや追撃砲、弾薬を置いておく弾薬庫だった。この弾薬庫は、民家から、250メートルしか離れていない。また、この弾薬庫にはまったく逃げ場がない。
 西南諸島の住民を台湾有事の際には九州へ避難させる計画だそうです。冗談なんか言ってほしくありません。いったい九州のどこに島の住民10万人以上を受け入れる場所があるのですか。
 また、船や飛行機で運ぶそうですが、ミサイル攻撃を受けているなかで、そんなことしたら、まさに対馬丸の悲劇の再現ではありませんか。
 軍事には軍事で対抗する、なんて古い発想をきっぱり止めましょう。平和は軍事力では決して得られないものなんです。目を覚ましましょう。
(2022年4月刊。1600円+税)

「帰れ」ではなく「ともに」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 師岡 康子 ・ 崔 江以子 ・ 神原元 ほか 、 出版 大月書店
 川崎市は、人口155万人の大都市です。京浜工業地帯の工場群のすぐ近くに「桜本(さくらもと)」があります。東日本有数の在日コリアン集住地区になっています。
大学に入ってすぐ、高校の先輩に誘われて私は川崎セツルメントというサークルに入りました。そして、セツルメントなるものが何なのか、何をするのかまったく知らない状況で、現地に出向きました。そこが桜本だったのです。
桜本で川崎セツルは子ども会活動を展開していました。そして、そこに学生が下宿していたのです。いかにも安そうな古びた木造アパートの2階に先輩セツラーの部屋があり、学生が5人ほど膝を詰めて話を聞きました。なにしろセツルメントに入ったばかりで、桜本という下町そのものの町並みも珍しくて、今もって忘れようがありません。
今、桜本の子どもたちが通う市立さくら小学校では、毎年1回、キムチ漬けの体験教室が開かれる。6年生になると参加できる。お楽しみの授業。6年生70人分の白菜を3日前から塩漬けにして、キムチを生徒たちがハルモニたちと一緒につくっていく。
 近くに、1988年に開設された川崎市立の「川崎ふれあい館」がある。崔さんは「ふれあい館」で職員として働いている。
 そこにヘイトデモが押しかけてきた。2013年5月のこと。レイシスト(差別者)たちが「日本浄化」などを叫んで襲いかかった。
 当初、川崎市はヘイトデモに慎重な姿勢を示し、重い腰を上げることはなかった。そこで国会議員に桜本へ視察に来てもらい、実情を訴え、見てもらった。そして、ついにヘイトスピーチ解消法が成立した。2016年6月のこと。
 川崎市長は、「自治体でやれることをして、ヘイトスピーチがおこなわれないようにすると答弁し、実行した。また、法務局はレイシストに対して、ヘイトスピーチ解消法を踏まえ、人格権を侵害する不法行為だと認定して勧告した。
 ところが、インターネット上のヘイトスピーチはエスカレートしていった。インターネットなんか見なければいい、気にしすぎだというのは、あまりに現実を知らなさすぎる空論だ。なにより仕方がないとして、やり過ごすのは、差別を放置することになる。
 インターネットこそ、ヘイトスピーチの震源地であり、拡声器だ。
そこで、裁判を起こし勝訴したのです。一審は人格権を侵害していることを認め、レイシストに対して91万円を支払えと判決した。さらに二審の東京高裁は賠償額を40万円も積み増しを認めました。すごいです。拍手します。
 ヘイトスピーチとは、差別的言動のこと、言動による差別。悪質・異質な人々と決めつけ、人間の尊厳を攻撃している。ところが、ヘイトスピーチがネット上で展開すると、たちまち236万件もの閲覧数となる。いやですよね…。
 ヘイトスピーチには、「排除類型」「害悪告知類型」「侮辱類型」の4つに分類されている。
 ヘイトスピーチそのものが違法である。在日朝鮮人・韓国人に対しての「帰れ」発言は、理不尽だ。彼らの大半は望んで日本にやって来たわけではない。
 在日朝鮮人の多くは、現在、特別永住者の在留資格をもつ。「帰れ」発言は、「日本に住まわせてあげている」という意識に裏づけられている。しかし、自分たちの力でなんとか生活してきた在日朝鮮人の歴史を踏まえると、それは「倒錯的な主人意識」というよりほかにない。
 誤った右翼へのヘイトスピーチを真実だと思い込んで行動している日本人の若者が少なくないのが、本当に残念です。でも、ヘイトスピーチを許さない社会づくりは着実に前進しています。本書は、その歩みを具体的に紹介し、読み手を励ましてくれます。
(2024年10月刊。1800円+税)

リーゼ・マイトナー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マリッサ・モス 、 出版 岩波書店
 NHKの朝ドラ、「虎と翼」の主人公の女性は、戦前の日本で苦労して大学に入り、司法試験を受け、ついに弁護士、裁判官になることができました。ヨーロッパでも似たような状況があったことが分かる本です。
 この本の主人公のマイトナーは、ウィーン大学を受験し、1901年に入学しました。14人の女性が受験して4人が合格し、マイトナーは物理学を学んだのです。ところが、教授も学生も、ほとんどが白い眼でみるのです。それでも、マイトナーはウィーン大学で物理学の博士号を取得しました。
 やがて共同研究者となるハーンと出会い、ともに放射能の研究をすすめます。
アルベルト・アインシュタインはマイトナーと同じ年齢。31歳で、すでに有名でした。
さらに1922年、マイトナーはベルリン大学の教授になりました。ドイツで初めての女性の物理学教授です。
 ところが、1933年にヒトラーが政権を握ると、ユダヤ人迫害が始まります。マイトナーはユダヤ人です。ところが、心配はしたものの、すぐにドイツを脱出しようとは考えませんでした。それより研究室を失って、ゼロから再出発するほうを恐れたのでした。考えが甘かったのです。
マイトナーはオーストリア人でしたが、1938年3月、ヒトラー・ドイツがオーストリアを併合。マイトナーのパスポート(オーストリア国籍)は無効になりました。いよいよマイトナーは追いつめられます。大学での仕事はできず、出国も出来ません。さあ、どうする…。マイトナーを密出国させようという取り組みが始まりました。
 マイトナーの研究所の同僚にはナチのスパイもいて、マイトナーの動きを監視しています。変な動きがあれば、すぐに警察に密告・通報するのです。
 列車での逃亡のときは、マイトナーが女性であったことが幸いしたのでした。検問にひっかかることなく、危機一髪で脱出できました。
 そして、ついに原子が分裂すること、そのとき信じられないほどの強力なエネルギー源になることを発見したのです。そうなので、マイトナーこそ、核分裂を発見した女性科学者でした。
 でも、これは人類にとって悪夢の始まりでもありました。原水爆が開発される道を開いたというわけですから…。
 1945年8月6日、広島に原爆が投下された。このニュースをスウェーデンで聞いたマイトナーは泣きだした。マイトナーの「美しい発見」が原爆をもたらした。
マイトナーは「原爆の母」と呼ばれるようになった。
マイトナーの共同研究者だったハーンは1946年12月、ノーベル賞を受賞したが、このときハーンはスピーチのなかでマイトナーについてまったく言及しなかった。ただし、賞金からかなりの金額をマイトナーに渡した。せめてお金を分けようとした。
 マイトナーは、受けとったお金をユダヤ人と亡命科学者の定住支援のために寄付した。
 いま、マイトナーの名前は、原子番号109の元素マイトネリウムとして残っています。これは永遠・不滅です。初めて知る話でした。ヒトラー・ナチスのユダヤ人絶滅策は人類の貴重な英知をたくさん失ったのだろうとも思い至りました。
(2024年3月刊。2200円+税)

チャップリンが見たファシズム

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 大野 裕之 、 出版 中央公論新社
 著者は日本チャップリン協会の会長です。これまでチャップリンに関する本を何冊も書いています。チャップリン家が所蔵する膨大な第一次資料を丹念に掘り起こしてチャップリンの足跡そして、その偉大な作品の形成過程を明らかにしています。
 今回は、サイレント映画の最大傑作『街の灯』を公開したあと、気分を一新するために世界一周旅行に出かけたチャップリンの旅先での出来事が実に詳細に描かれています。
 旅行に出かけたとき、チャップリンはまだ41歳です。独身男性でもありましたから、旅行の行先では何人もの女性と親密な関係にもなっています。
 日本にもやってきて、1932(昭和7)年の五・一五事件に危く巻き込まれるところでした。幸い、チャップリンの気まぐれもあって、5月15日は首相官邸には行かず、大相撲を見物して、難を逃れました。危機一発でした。事件のあと、殺された犬養首相の息子に弔問もしています。
 チャップリンは歌舞伎なども鑑賞していますし、銀座で天ぷらを食べています。なんと、エビの天ぷらを30匹、キスを4匹も平らげたとのこと。すごい食欲です。若かったのですね。
 小菅(こすげ)の刑務所も訪問しています。雑居房、独居房そして工場、炊事場、病舎など見学したそうで、日本の刑務所の明るさ、清潔さに感銘を受けたとのこと。治安維持法違反で逮捕された被疑者・被告人もたくさんいたと思いますが…。
チャップリンは三越百貨店で「キモノ・スーツ」をつくって、着たようです。そして、「どじょうすくい」を踊ってみせたとか。日本の芸人が踊ったのを見て、それをすぐに再現できるというのは、やはり天才ですね。
 チャップリンの秘書として世界一周旅行に同行したのは広島生まれの高野虎市。チャップリンに誠実に尽くして大変気に入られ、一時期チャップリン邸に働く使用人17人全員が日本人だったとのこと。すばらしいことです。
1932年5月14日夜、東京駅にチャップリンが到着したとき、そこに詰めかけた日本人は、なんと8万人…。いやはや、ものすごい大群衆です。この日の入場券は8000枚も売れたというのですから、信じられない熱狂ぶりです。
 地下道に降りて、改札に向かう階段でチャップリンは仰向けになって、群衆に持ち上げられ、宙を泳ぎながら移動した。ハンカチ、ベルト、ボタンはすべてむしり取られた。自動車までわずか30メートルを10分かけて到着。いやあ、すさまじい…。これも歓迎のうちなんですよね。
 日本ではありませんが、ボタンやベルトが盗られてチャップリンのズボンがずり下がってしまったところもあるそうです。
ロサンゼルスで「街の灯」を上映するときには、2万5千人が詰めかけたそうです。これまた大変な熱狂ぶりです。アインシュタインがチャップリンの隣でみていて、「ああ、素敵だ!美しい!」と感嘆したことも紹介されています。
チャップリンという天才の素顔を少しばかり垣間見ることも出来て、休日の午前中、喫茶店でカフェラテを味わいながら心豊かなひとときを大いに楽しむことができました。
(2024年7月刊。2200円+税)

「よく見る人」と「よく聴く人」

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 広瀬 浩二郎 ・ 相良 啓子 、 出版 岩波ジュニア新書
 著者の二人は、全盲の視覚障害者(男性)と聴力障害者(女性)です。
 伝音声難聴は補聴器で音を大きくできるが、もう一つの感音性難聴だと補聴器をつけてもことばは理解できず、役に立たない。私も難聴に困っています。
 「一目ぼれ」はありえないが、「一耳ぼれ」は頻繁にある。しゃべり方や声の質に魅かれる。目による読書は客観的に外から、耳による読書は主観的に内から作品世界に触れる。
 中学1年生の終わりに完全に失明した。原因は眼底出血。
パソコンの音声読み上げ機能を使って原稿を書く。点字で書いて音声で確かめる。点字は表音文字。点字の根底には、豊かな音の世界が広がっている。
全盲で京都大学文学部に入学した(1987年)。京大で初めての全盲の学生。そして京大居合道部に入る。視覚障害者なので、視覚情報に惑わされず、より深く自己の心と対話し、仮想敵に立ち向かうことができる。目に見えない敵を媒介として、己の精神を錬磨する。大切なのは闘魂。
その後も武道のいろいろに挑戦した。太極拳、テコンドー、ヨガ、合気道そして今は少林寺拳法。いやはや、すごいものですね…。
武道の稽古においてもっとも重視するのは音。道場に入ると、音の反響で自分の位置、壁までの距離を推測する。音の響きは道場の広さ、人数、天気などによって異なるので、気を四方八方に配って気配を感じとる。この心地よい緊張感が耳から全身に広がる。
 手話言語にも方言がある。手話も音声言語と同じく各地で自然発生的に表出される言語なので、世界共通どころか、国内共通でもない。うひゃあ、そ、そうだったんですか…、知りませんでした。
全盲でもテレビを「みる」。画面は見ずに(見えないから)、音声や雰囲気でイメージを広げて「全身でみている」。
 難聴者は「字幕メガネ」をかけて映画を楽しめる。動画で手話している様子を送る。これで、リアルタイプに使えるようになった。
世間では、障害者を十把一絡(から)げでとらえている。しかし、それは皮相的。
 「障害」を出発点として、共感力、コミュニケーション力を考えた新書です。大変興味深く読み通しました。
(2023年9月刊。940円+税)

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