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「新富裕層」が日本を滅ぼす

カテゴリー:社会

著者  武田 知弘 、 出版  中公新書ラクレ
 いつのまにか、日本という国は中身がすっかり変わってしまったのですね。
 この本を読むと、アベノミクスを手放しで礼讃する人々がたくさんいる理由がよく分かります。私のまわりには不景気な話ばかりなのですが、世の中には、もうかって仕方がない人、ありあまったお金の使いみちが分からずに困っている人が、なんとたくさんいることでしょう・・・。信じられない思いです。
 日本には、世界的に見ても巨額の資産がある。個人金融資産は1500兆円に達している(2006年)。バブル末期の1990年には1017兆円だったから、わずか16年で50%増となった。「失われた20年」のあいだに、潤っている人間は、しっかり潤ってきたのだ。
 今の日本は億万長者が激増している。2004年に134万人だったのが、2011年には182万人になった。これは、世界全体の富裕層の17%を占める。世界の人口の2%でしかない日本人が、世界の富裕層の17%も占めている。アメリカの307万人に次いで世界第2位である。7人口比率から言えば、日本のほうが富裕層が多い。
 ところが、大金持ちへの減税が進んでいる。所得税率は、1980年に75%、1986年に70%、1987年に60%、1989年に50%、そして2010年には40%にまで下げられた。住民税のほうも、18%だったのが10%になっている。このため、最高時に27兆円近くあった所得税収入が、2009年には13兆円にまで激減している。
金持ちは、元からいい生活をしているので、収入が増えても消費はあまり増えない。結局、貯蓄にまわってしまう。
日本の金持ちの所得税には、いろいろな抜け穴があり、名目税率は高いけれど、実質的な負担税率は驚くほど安い。アメリカ、ドイツ、フランスは、どこもGDP比で10%以上の負担率であり、イギリスは13.5%なのに、日本はわずかに7.2%でしかない。アメリカの所得税の税収は、日本の7倍もある。
 つまり、日本の貧乏人はアメリカの貧乏人よりも多くの税負担をしている。
日本の相続税は大幅に減税された。1988年までに最高税率は75%だったが、2003年には50%に下がった。この結果、相続税は税収としての機能をまったく失った。
 ピーク時には3兆円あった相続税の税収は、いまでは1兆円となって、2兆円も減収した。
 しかも、この55%というのは名目上のことで、実際には、驚くほど税金は安い。
 今の日本では、富裕層とともに、大企業もお金をため込みすぎている。日本の企業の業績は、バブルの崩壊後も、決して悪くはなかった。バブルの崩壊後、国民の多くは、日本経済は低迷していると思い込まされ、低賃金や増税に耐えてきた。しかし、その前提条件は、実は間違いなのである。
日本の法人税は、たしかに名目上は非常に高い。しかし、いろいろ抜け穴があり、実際の税負担は、まったく大したことがない。総合的に考えると、日本企業の社会的負担は先進国のなかでは低いほうであり、もっと負担すべきだ。
法人税が減税されたら、サラリーマンの給料は下がる。だから、サラリーマンは、間違っても法人税の減税に賛成などしてはならない。
 企業は人件費を削って、配当にまわすという愚を普通に犯してきた。大企業は、この20年間で人件費を20%もカットし、内部留保金を100兆円以上、ふやしてきた。そんなことをすれば、お金の流れが滞るのはあたりまえだし、景気が低迷するのも必然だ。
賃金が上がっていないのは、主要先進国では、日本だけ。政府が最低賃金を上げてこなかったのは、財界の反発が強かったからだ。
 週40時間まともに働いても家庭を養っていけないような国で、まともな人材が育つわけがない。
 先進国のなかで、これほど非正規雇用がふえているのは、日本以外にはアメリカだけ。日本は非正規雇用の言い合いが35%にもなっている。
 日本で生活保護レベル以下の生活をしている人は1000万人以上いると推定されている。実際に保護を受けている人は、200万人なので800万人が生活保護の受給からもれている。
 人件費を削減すれば、短期的には企業の実績は上がるだろう。しかし、長期的に見れば、日本企業の破滅を招くことになる。日本の消費税は、経済を停滞させ、格差社会を助長する最悪の税金である。
 日本社会構造、そして、日本人の意識を根本的に変革する必要があると思いました。
 とても分かりやすい本です。ご一読を強くおすすめします。
(2014年2月刊。780円+税)

日本は戦争をするのか

カテゴリー:社会

著者  半田 滋 、 出版  岩波新書
 安倍内閣がついに閣議決定を強行して、集団的自衛権の行使を容認しました。本当に、とんでもない暴走内閣です。安倍首相は、外遊したときには日本は一変した(一新した)と言い、日本人向けには、いや前どおりです、戦争をするわけではありません、などと、まさしく二枚舌を「器用に」使い分けています。その点の追及がマスコミに弱いのが、もどかしくてなりません。とりわけ、NHKはひどいですよね。まるで政府広報番組のオンパレードです。
 ジャーナリストきっての軍事通である著者の本です。サブタイトルは、まさしく集団的自衛権と自衛隊です。私たちの知りたいことが満載の本です。いま必読の新書ですよ。
 国民の疑問に丁寧にこたえ、不安を解消して行くのが政治家の務めのはずだが、安倍首相は違う。国内においては、「わが国を取り巻く安全保障環境がいっそう悪化している」と繰り返して国民の不安をあおり、だから憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認しなければならないと声をはり上げる。
 だから、国民の中にも、アジアの危機的状況に立ち向かうためには憲法改正手続なんか、やってられないという焦った声があがるのです・・・。
 アメリカの「行くべきではない」というメッセージを無視して、安倍首相は靖国神社への参拝を強行した。外交においては、中国、韓国ばかりでなく、アメリカまでも刺激し続け、安全保障環境を自ら悪化させている。靖国神社には、東條英樹元首相らA級戦犯14人が合祀されている。そして、そのことから昭和天皇は参拝をやめた。いまの平成天皇も、もちろん一度も行っていません。
 安倍首相が靖国神社を参拝すると、アメリカ政府は失望しているとのコメント発表した。
 アメリカは、「靖国神社」参拝は見送るべきだという考え方で一貫していた。安倍首相と、その取り巻き連中は、アメリカの考えを知っていながら、これをあえて無視した。
 4月に来日したオバマ大統領は、国賓にもかかわらず、赤坂の迎賓館には宿泊せず、都内のホテルに泊まった。
 安倍首相がアメリカに行ったとき、韓国の朴大統領とは扱いに大きな差があった。共同記者会見はなく、アメリカ議会での演説もない。明らかに冷遇されたのですよね。
いま、アメリカにとって最大の輸出相手国は日本ではなく、中国である。
 安倍首相は、立憲主義を時代錯誤だと考えています。
 「最高の責任者は私です」
 「政府の方針に私が責任を負って、そのうえで選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは法制局長官ではない。私なんですよ・・・」
 安倍首相の強気を支えるのは、高い内閣支持率だ。就任から1年を経過しても50%の支持率を維持する政権は珍しい。安倍首相は危機意識をあおり、国民の不安に乗じて、憲法解釈を変えようというのだ。
興味深いことに、集団的自衛権を行使して戦争に介入した国々は「勝利」していない。
 「北朝鮮から攻撃されたら、どうする?」
 「中国に尖閣諸島を奪われるかもしれない」
 これらを根拠に集団的自衛権の行使を容認してはならない。いずれも個別的自衛権で対処できないはずはない。
年間に30~40回もあった日中交流が、第二次安倍政権ではゼロになった。
 日本が中国と競い合って軍事費を増やし、自衛隊の出動規定をゆるめたら、アジア全体の軍拡競争につながり、地域情勢は不安定化するだろう。
 北朝鮮がアメリカを攻撃するより、アメリカによる北朝鮮攻撃のほうが、はるかに可能性が高い。いずれにせよ、アメリカと北朝鮮が戦争すれれば、全国にアメリカ軍基地をかかえる日本は必然的に戦争に巻き込まれるだろう。
 安倍首相のいう「積極的平和主義」とは、日本国憲法の柱のひとつである平和主義とはまるで違うものである。
現代の戦争に、戦場そのものの「戦闘正面」と、補給したり、休養したりする「後方地域」を区別することに意味はない。燃料、弾薬、食糧の補給なしに戦争を継続するのは不可能だ。
日本には、使用済み核燃料棒を補完する原発や関連施設が55カ所もある。その一つでもテロ攻撃されたら、日本という国は破壊してしまうのです。それを考えただけでも身震いします。
 自衛隊には「人助け」を目的として入隊してくる若者が少なくない。初任給は16万円。2年任期までまわっていく。一佐(47歳)は1243万円の年収がある。
 自衛隊がどう変わっていくのか。そのとき、大半の自衛隊員にとっては、単なる内輪ゲンカのレベルではありません。生か死の瀬戸際に立たされるのです。
いま、自衛隊から目を離せません。ぜひとも広く読まれてほしい本です。
(2014年5月刊。740円+税)

光る生物の話

カテゴリー:生物

著者  下村 脩 、 出版  朝日新聞出版
 身近な光る生物といえば、なんといってもホタルです。私の家から歩いて5分のところにホタルが飛びかう小川が流れています。コンクリート三面張りにした部分も、やがて土で覆われて、少しずつホタルが回復しています。
 本格的な梅雨入りすると、このあたりのホタルは季節は終わります。よそは8月に入ってもホタルが飛びかうようですから、私のところは早いのでしょう。
ホタルが光るのは、雌雄間の求愛行為。ホタルの点滅は、誤差20ミリ秒という正確さで同調している。ただし、雄ホタルの点滅発光は、同調しているが、雌ホタルの点滅発光は、同調発光しない。だから、雄ホタル発見できるのですよね。
雄ホタルの発酵時間は0.1秒で、発行間隔は1秒。ただし、種によって、多少異なる。
 生物が光を放つのは、化学反応である。ルシフェリンは、ルシフェラーゼの触媒作用により酸化されて、発光エネルギーを与える有機化合物である。発光量は反応したルシフェリン量に比例する。
 発光反応では、ルシフェリンが酸化され、大きなエネルギーをもつ励起状態の酸化物(発光体)を生じ、それが、通常のエネルギーの基底状態に変わるときに、余分のエネルギーを光子(フォトン)として放出する。
 著者は、光るウミホタルの研究のため500万匹のウミホタルをつかった。オワンクラゲの研究では、18年間に85万匹を、1匹1匹、手網で採取して使った。採取ノルマは、1日300匹だった。すごいですね。大変だったでしょうね・・・。
 オワンクラゲは緑に光るが、それから得た発光タンパク質イクオリンはカルシウムで青く光る。これは、オワンクラゲの発光細胞中には、イクオリンと緑色蛍光たんぱく質GFPが共存するためである。
 ノーベル賞を受賞した学者の涙ぐましい努力のあとがしのばれる本です。
(2014年4月刊。1300円+税)

藤子・F・不二雄の発想術

カテゴリー:社会

著者  藤子・F・不二雄  、 出版  小学館新書
 オバケのQ太郎、そしてドラエモンときたら、日本人で知らない人はいないと思います。そんな国民的マンガのキャラクターを生み出したマンガ家のコトバですから、とても重みがあります。読んでいて、つい、うんうんとうなずいてしまいました。
 小学校のころは、ひどく人見知りする子だった。カケッコもできず、教室の前に立って話すことができない。そのうえ、なんと、絵が嫌いだった。いじめられっ子だった。
ところが、手塚治虫のマンガに出会って、大きなショックを受けたのです。そのため、マンガを卒業できなかった。ファンレターを書いたところ、手塚治虫から返事が来た。
 昭和27年に高校の電気科を卒業して会社に就職した。ところが、マンガを書きつづけたい。そこへ、手塚先生から、「君たち、上京してきなさい。二人でも十分やっていけるから」という手紙が飛び込んできた。
なんということでしょう。おどろきの手紙ですよね。それほど、才能を見込まれたということでしょうね。
 母親は、息子から上京すると告げられたとき、「そうけ」と平然として答えた。これまた、大した母親ですね。今どき、考えられませんよね。よほど、息子を信頼していたのですね。
 初めは、両国の2畳一間の下宿。押入れもない。半年たって、トキワ壮に移った。4畳半。敷金3万円は不要だった。2年後に、手塚先生に返した。
 マンガを描く意欲をずっと持ち続けられたのは、仲間がいたこと。気が多いというか、好奇心は旺盛だった。
 「オバケのQ太郎」を連載していたときには、それほど人気がなかった。ところが、やめたら抗議のハガキが来た。それで、再開することになった。
 なんとなくわかりますよね。その時時代に生きていた私としては・・・・。
 若いころは、絵もアイデアも早くて、3時間もあれば13頁分を考えついていた。
「キミたちの絵は古い。こんな丸い線は、もうはやらない」
 新人のとき、古くてダメだと言われた。だから、もうこれ以上古くなりようがない。それで、強くなった。
 独創力のための条件は、第一に、数多くの断片をもつこと、第二に、その断片を組み合わせる能力をもつこと。
 人間は本当に複雑ないきものだから、マンガ家は、キャラクターを枠にはめてしまうのではなく、柔軟な目をもってキャラクターの個性を生かし、ある程度自由に行動できるゆとりを持たせていくべきだ。
 思いついたときに、手帳にすぐメモしておく。このとき、タネをふくらませずに書いておくことが大切。自分のスタイルに絶えず挑戦していくことが重要な課題となる。
 結局、自分自身を自作に登場させている。遠い少年の日の記憶を呼び起こし、体験したこと、考えたこと、喜び悲しみ悩みなど・・・。それを核とし、肉づけし、外見だけを現代風によそわせて登場人物にしている。
なーるほど、なるほど、と納得のいく本でした。それにしても、すごいマンガ家です。
(2014年2月刊。700円+税)

風の海峡(上)

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  吉橋 通夫 、 出版  講談社
 秀吉の朝鮮出兵について、児童文学の傑作があるというのを知りませんでした。本当に、世の中は、いつだって、知らないことだらけです。
対馬に生まれて、朝鮮は釜山に渡った日本人14歳の少年、梯(かけはし)進吾がもの物語の主人公です。母を亡くし、対朝鮮貿易業に従事する父のもとで、朝鮮語も自由に話せます。
 釜山には、日本人商人の住む倭館がありました。大勢の日本人が、日本と朝鮮の貿易に従事していたのです。そして、その元締めは対馬藩主でした。当時の対馬藩主の宗(そう)義智(よしとし)は、小西行長の娘婿でもありました。
 平和な朝鮮半島に、突然、日本軍が襲いかかってきます。進吾の友人である朝鮮人の俊民と勢雅と、生命を賭けて戦わなければいけないなんて、進吾には理解できない話です。ところが、秀吉の派遣した日本軍は破竹の勢いで朝鮮半島を北上して侵攻していくのです。
 4月13日に釜山鎮城で戦いを始めてから5月2日までに、東莱(トンネ)、梁山、密陽、大邸(テグ)、尚州と、次々に攻め落とし、ついに王都・漢城(ハンソン)に迫った。
 日本軍が勝ち続けたのは、火縄銃のおかげ。朝鮮軍の武器は、おもに弓矢や刀剣など。火縄銃は弓矢の3倍の射程距離がある。朝鮮軍も火砲類を持ってはいるが、射程距離は短く、城を守るには役立たなかった。
 日本では、ついにこのあいだまで戦国大名同士の領地を奪いあう戦乱の世が100年も続いて、兵士が戦(いくさ)慣れしている。
 ところが、朝鮮では、武力支配ではなく文治政治が続いていた。戦った経験のないもの同士が集まって謀議をこらす。そのうえ、王朝の重臣たちが二つに分かれて勢力争いをしている。
 朝鮮の人々の反撃が始まるなか、日本軍の将兵が集団で投降してきた。朝鮮軍は、これを受け入れた。「沙也可」(さやか)という名前の将軍と部下の兵士たち、あわせて30人の兵が、30挺の火縄銃とともに朝鮮軍へ投降してきた。
 児童文学書ではありますが、また、それだからこそ、きちんと歴史的事実を踏まえています。そして面白い本です。
(2011年9月刊。1300円+税)

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