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歩いて行く二人

カテゴリー:司法

著者  岸 惠子・吉永 小百合 、 出版  世界文化社
 パリのセーヌ川のほとり、ノートルダム寺院(カテドラル)をバックとして、岸恵子と和服姿の吉永小百合が並んで立つ写真が本の表紙になっています。
 私は「キューポラのある街」以来のサユリストです。この映画は1962年制作といいますから、なんと50年前です。私はまだ高校生のころです。
吉永小百合は、先日も映画「不思議な岬の物語」でモントリオール映画祭で受賞し、フランス語でスピーチをしました。すごい女優です。ますます好きになってしまいました。
そんな吉永小百合が24歳のとき、失恋して、単身フランスに渡ったといいます。誰でしょう、かの吉永小百合を振り切って別の女性と結婚しただなんて・・・。
 吉永小百合は反戦・非核のために声を上げてきました。今では原発なくせの声も高らかに叫んでいます。これまた、拍手・喝采です。この本のなかにも、何回も、その主張が展開されています。地道に、いつでも、どこでも核兵器や原子力発電所をなくそうという声を上げつづけている、その姿勢に心がうたれます。
 もう丸2年も、私はパリに行っていませんが、岸恵子の豪華なアパルトヘイトマンをふくめて、素敵なパリの写真がたくさん紹介されていて、楽しい対談集になっています。
 私は大学生のときから長くフランス語を勉強していますので、なんとか日常会話の最低レベルはこなせるようになりました。ところが、岸恵子によると、そのフランス語には4種類あるというのです。
 インテリや文化人が話す言葉、ブルジョワジーの言葉、プチブルの言葉、労働者の言葉。言葉を聞けば、すぐに違いが分かる。この人は、どういう家庭に育ち、この人は、どんな教育を受けてきたのか・・・。いくら隠しても分かる。
 では、私が学んでいるフランス語はこのどれなのでしょうか・・・。
自分が願うことを声に出したいと思っている。憲法のことも、九条があるから、日本はほかの国で人を殺さないですんでいるわけだし・・・。もし、世界中に九条が広がれば、それこそ核兵器だけではなくて、戦争がなくなる日が来るかもしれないという望みをもって・・・。
 日本は核武装をすべきかどうか議論するよりも、日本だけは核アレルギーでずっといて欲しい、いるべきだという思いがある。
やっぱり、日本ではもう原発はやめてほしい。地震の多いこの国は危険がいっぱいだし。故郷に帰れない福島の人々の現状をみていると、多少不便でも、すべてを電気に頼っていなかったころの生活に戻したほうがよい。その覚悟をもたなければと思う。
 経済のためになる原発は不可欠という発想は、もうやめたほうがいいと思う。
 安倍首相がトルコに原発を売るというけれど、それより前に、まず今の福島のトラブルを、トラブルをおこしている原発をきちんと収めてもらいたいと切に思う。
 日本政府が、核廃絶の署名に賛同しなかったのはおかしい。
 みんながあきらめてしまう前に、「私はこう思う」という声を上げていくことが大事だと思う。
 広島の原焼資料館の声のガイドはやらせてもらった。
 中国と日本はいろんなことで交流してきたのに、尖閣諸島問題で、いさかいをするというのは悲しい。どんなときでも、文化の交流を絶やしてはいけないと思う。
 一方で、恋に走りそうになる私がいて、それを、いっちゃいけないと止める私もいて・・・。
 皆さん、ぜひ手にとって、二人の写真と対談集を眺め、読んでみてください。心が洗われますよ。
(2014年8月刊。1800円+税)

ルポ・介護独身

カテゴリー:社会

著者  山村 基毅 、 出版  新潮新書
 未婚率が年々、上昇している。25歳から29歳前は、男性が72%、女性は60%(2010年)。
 平均初婚年齢は、男性が30.7歳、女性は29.0歳。これは、1950年に比べて、5~6歳あがっている。
 生涯未婚率(50歳での未婚率)は、男性が16.0%(2005年)から20.1%(2010年)になった。女性は7.3%から10.6%に上昇している。
 初婚の年齢が高くなるのと同時に、結婚しない、出来ない人たちも増えている。
 同じ介護でも、高齢者の介護の先には「死」がぶら下がっている。乳幼児には、少なくとも「見かけ」は輝くばかりの未来が広がっている。
 高齢者の介護を担うものが祝福されることは、ほとんどない。
 2012年、厚労省は認知症の高齢者は300万人をこえるという推計を発表した。この10年間で2倍増大した。65歳以上の10人に1人は患っていることになる。8年後には、認知症の高齢者は400万人をこえるとみられている。
シングルの介護者は「孤立感」を抱いている。どうして、孤独感や孤立感を感じるのか・・・。
 介護が家族内で行われているときには一対一の関係である。デイサービス・センターでは職員のチームワークで介護するが、家庭内では一人で介護にあたる。
 そして、介護は、それぞれ個別の状況にあるため、他人の体験がうまく活用されないことがある。
 シングルの介護者には独身者が多い。結婚したくても出来ないからだ。同じように、ヘルパーにも独身が多い。出会いが少ないためだろう。そして、勤務時間が不規則なうえに、収入も低い。
 本当に介護職の置かれている状況は悲惨としかいいようがありません。安倍首相は軍事予算のほうは5兆円規模へ増大させている一方で、福祉のほうは、相変わらず、冷たく切り捨てています。これで、そんな「国を愛せ」と押しつけるのですから、本当にあの政治は間違っていますよね。
 誰でも、いずれお世話になる介護の現場の大変さがそくそくと伝わってくる新書でした。
(2014年6月刊。720円+税)

天地雷動

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  伊東 潤 、 出版  角川書店
 長篠合戦と、それに至るまでを克明に描いた小説です。長篠合戦では、織田信長軍が鉄砲三千挺を三段撃ちしたという通説が疑われていましたが、最近、それが逆振れして、やはり通説どおり三段撃ちはあったのではないかということに収まりつつあります。私も、そのように今では考えています。
 この本は、では、どうやって、三千挺もの鉄砲を織田信長はそろえることができたのか、そして、そのため玉薬をどうやって確保したのかが、大きな主題となっています。逆に、反対側の武田軍の鉄砲と玉薬についてはどうなのか、ということにも目配りされています。要するに、武田勝頼も鉄砲はそれなりにもっていたけれど、玉薬のほうが枯渇してしまった(枯渇させられた)という状況なのです。
 この本では、武田勝頼は突撃しか知らない馬鹿な若殿様ということにはなっていません。信玄亡きあと、実力で「御屋形様」になったものの、信玄に仕えていた有力武将たちとの折りあいに苦労していた様子が描かれています。
 このころの鉄砲は南蛮物が主流でした。しかし、その南蛮物は、使い古したものが輸入されていたので、すぐに壊れた。4分の1は使いものにならず、武将たちは辟易していた。
 玉薬は、硝石7割、木炭1.5割、硫黄1.5割を混ぜてつくる異色火薬のこと。弾丸を飛ばすときに使われる粒子の粗い胴薬(どうぐすり)と、点火のために使う粒子の細かい口薬の二種を、鉄砲足軽は常に携行していた。
 長篠合戦は、織田信長の作戦勝ちだとしています。つまり、まず、武田軍の玉薬を欠乏させ、その確保のためには前進するしかないようにする。そして、後詰め(後方部隊)を奇襲して全滅させ、前進するしか活路を開けないようにしたのです。そこを、三段構えで、鉄砲足軽が待ち構えているというわけです。
 武田軍の主要な武将たちも、勝頼から、「この期(ご)に及んで命を惜しむのか」と皮肉られたら、前方の織田軍へ突進するしかなく、バタバタと倒れていくのです。
 この本は、最新の学説の到達点を見事に小説にまとめあげている点もすごいと思いました。
 「この時代小説がすごい」1位というのも、うべなるかな、です
(2014年4月刊。1600円+税)

炎を越えて

カテゴリー:社会

著者  杉原 美津子 、 出版  文芸春秋
 NHKスペシャルで、放映された(2014年2月28日)内容が本になったもののようです。
 事件が起きたのは、1980年8月19日の夜9時すぎのこと。東京・新宿駅西口のバス停です。突然、バスにガソリンが投げ込まれ、火が付いて、30人の乗客猛火に包まれた。結局、6人の乗客が死亡し、20人が重軽傷を負った。犯人は無期懲役。やがて、刑務所内で自死した。
 この本の著者は、乗客の一人でした。熱傷の範囲は全身の80%に及び、医師は「絶望」とみた。しかし、死線を乗りこえ、ケロイドの皮膚をもちながらも退院できるようになった。ただし、大量の輸血のために、C型肝炎に感染した。
看護師が「魔の薬浴」と呼んだ治療と処置が毎朝、全身の傷口がふさがるまで数ヶ月間も続いた。手術が一週間に一度の割合で行われた。壊死した皮膚組織をメスで削りとる。次に、本人の皮膚を植皮する。
 加害者は当時38歳の男性。自らの不甲斐なさに腹立ちと焦燥を覚え、自分のみじめな境遇を思うにつけ、世間に対してねたみや恨みの感情を抱くようになった。人々から、行く先々で唾棄され、「自分だって、やる気になれば、何だってできる。馬鹿野郎、なめやがって」と思い、火とガソリンを投げ込んだ。
 死刑の求刑に対して、無期懲役の判決が出た。犯人(被告人)は低知能を基調として、心因反応性の被害・追跡妄想にもとづく情動興奮と酩酊との影響を受け、心神耗弱(こうじゃく)の状態にあったとされた。
 千葉刑務所内で自殺したとき、彼は55歳。事件から17年がたっていた。
 著者はC型肝炎から、肝がんになった。医師は「余命、半年」を宣告した。ところが、アメリカ発のサプリメントの効果で、ガンは消滅してしまった。
 人に出会い、人と胸を開けば、自分が見えてくる。そうしたら、自分にも非があったことを「詫びる」ことができる。そこから、「赦しあう」関係ができる。
 「被害者」になっても、「加害者」になっても、自分のその痛みを直視して、それを小突く者たちと闘って行くのだ。自分の痛みを自分で受けとめることができたら、相手の痛みを感じる神経も戻ってくる。
 それでも、人間は苦しみ、災害も事故も事件も繰り返され、加害の立場に立ったものは、赦されることのないその後を生き、被害を受けたものも、痛みの終わるときのないその後を生きていかなければならない。だから、被害を受けたものには、その痛みを伝え、その痛みを乗りこえていくことが許される。それが、被害者と加害者との決定的な違いだ。
 憎しみ続けることは苦しいことで、膨大な負のエネルギーが必要になる。少年は、それを抱えていく耐性が弱いため、そこから解放されたいという思いから、誰かに憎しみの感情を受けとめてほしいということになる。
 心身に傷を負った被害者が被害者として生きてくことの難しさをよくよく実感させてくれる貴重な本です。それでも、モノカキとして生きてきた著者は素顔を出して、私たちに語りかけてくれました。その勇気をもらって、元気になれる本です。
(2014年7月刊。1400円+税)

リニア新幹線

カテゴリー:社会

著者  橋山 禮治郞 、 出版  集英社新書
 この本を読んでいるうちに、ふつふつと怒りが沸きあがってきました。いえ、もちろん著者に対してではありません。書かれている内容からです。
 1997年12月に供用を開始した東京湾アクアライン(横断道路)は、現在、1日あたり1億円の赤字を出している。工事費は、当初予算の125%の1兆4千億円超。料金は当初から8割も値下げして800円。この料金収入は借入金の支払い金利すら下まわっている。投資の回収は絶望的。巨額の損失をこうむったのは日本道路公団。
要するに、私たちの税金が日々、ムダづかいされているというわけです。そして、誰も責任をとっていません。戦後最大の失敗プロジェクト。
しかし、リニア新幹線は、それをさらに上回るスケールで失敗するのは必至のプロジェクト。
 JR東海の社長は、「絶対にペイしない」と断言した。
 リニア新幹線の建設工事費は異常に高い。東京-大阪間で9兆300億円。うち、東京-名古屋間では、5兆4300億円。
 リニア新幹線は東京-名古屋間では86%が地下と山岳トンネル。大都市圏内では、地下40メートル以深の大深度地下。
 推進派の学者は次のように発言した。
 「薄暗いリニアの車内で、誰にも邪魔されずに静かに瞑想できる」
 リニア新幹線は、時速500キロで東京-大阪間を67分、東京-名古屋間を40分という。わずか1時間ほどの「瞑想」時間に、これほどの巨額の投資をするものか・・・。
 リニア新幹線には運転士は乗っていない。地震などによって中央制御センターが破壊されたときには制御不能になるのではないか・・・。5~10キロ毎に立て坑が設置されるというが、どうやって安全に乗客を誘導するというのか。
 強力な電磁波は、果たして人体に影響ないのか・・・。
 リニア新幹線は、在来のJR、新幹線と相互乗り入れすることはでいないし、連絡もありえない。ネットワーク無視の鉄道である。
 リニア新幹線の危機性だけでなく、とてつもない無駄な超大型公共工事であることが良く分かりました。こんな典型的なムダづかい工事は、一部の政治家とゼネコンを喜ばせるだけです。
 ストップさせるしかありません。
(2014年3月刊。720円+税)

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