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民事調停

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 園尾 隆司 、 出版 金融財政事情研究会

 日本最古の裁判所が、宮城県に残っているそうです。

 明治21(1888)年9月、登米(とよま)治安裁判所が創設された。翌年に移転した庁舎が現存している。しかも、明治6(1873)年に、司法省が制定した断獄則例中に「断獄廷」として定めた様式のまま。当時のままの姿で保存されている。

 この法廷は、江戸時代のお「白洲(しらす)」と同じく、上・中・下段の3段構造。判事と検事は上段の法卓前に並んで着席する。中断には書記、下段には廷丁(ていてい)。当事者(被告人または原・被告)は同じく下段の柵の前に立つ。上・中段は板敷で、下段は土間になっている。

 書記は、前は解部(ときべ)といい、その次に判事補とされていた。この建物には、現在、「水澤県庁記念館」という看板が入口にかかっているが、登米治安裁判所のころは、「石巻治安裁判所登米出張所」と表示した看板が掲げられていた。

 戦後、昭和22(1941)年4月、仙台地裁登米(とめ)支部となって、さらに10年後に別の地に移転した。

 著者は、この建物は、国の重要文化財(重文)として指定して保存すべきだと提言しています。まことに、もっともです。

 著者は、現在の日本の民事調停制度は江戸時代前期に形成され、400年の伝統をもっているとしています。しかも、それは、日本の山間僻地(へきち)にまで浸透していて、諸外国の調停制度にはない、大きな特徴があるとします。

 なにより、訴訟になっていない当事者間の紛争を扱って調停していること。そして、2人の調停委員は法曹ではない民間人から成り立っていること、そして、裁判以外の解決方法を模索していることです。

 調停機関は裁判所内に設置されているが、そこでは裁判になってからではなく、まだ裁判になっていない紛争を扱うのです。これは、諸外国にはないとのこと。また、民間人から成る調停委員の手当がその良し悪しはともかく低額であり、基本的にボランティア精神を基礎にした報酬になっている。

 著者の祖父も調停委員だったそうです。幼い著者は「チョーテイ」というコトバを聞いて「朝廷」と勘違いしていたそうです。祖父は元教員で、その後、村役場に嘱託として村史の編纂にあたるかたわら、月に1回か2回、片道10キロの山道を往復5時間もかけて池田簡裁に通っていたというのです。無報酬ですから、まさしくボランティアそのものです。

 江戸時代の裁判は調停前置制度だった。当事者双方が町村役人の立会の下で調停がなされ、それが不調に終わらない限り奉行所での訴訟には移行できなかった。

 町奉行所における裁判制度が整備され、多数の訴訟が提起されるようになってから、訴え提起前に町村役人による調停が実施されるようになった。そして、裁判になってからも職権で調停にまわされ、そこで決着すると「内済(ないさい)」と呼ばれた。

 江戸時代、訴訟の当事者は奉行所の指定した期日に出頭しないと、処罰されることになっていた。ただし、明文の法令ではなく、判例法。そして、この出頭の義務付けは、明治に引き継がれ、現代でも通用している。

 江戸時代、奉行所に勤める与力が賄賂を受けとっていたという話はあっても、町奉行自身が賄賂を収受していたという話はまったくない。そして、これは、奉行所が2つあって、相互に監視・牽制する関係にあったことによるとしています。

明治時代になって、調停前置制度でなくなり、いきなり訴訟が提起できるようになったので、訴訟事件が爆発的に増えた。明治6年から8年へ、2年間で23倍にもなった。そこで、明治15(1882年)から、治安裁判所で勧解手続が始まった。これは和解の勧奨。

 裁判官による職権和解と勧解による和解とは大きな違いがあったとされています。つまり、勧解によるほうは、必ずしも法律にとらわれることなく解決を探るものだったのです。

 いつもながら、よく調べられていて、大変勉強になりました。

 今回も著者より贈呈を受けました。まことにありがとうございます。

(2025年10月刊。3300円)

東大生はなぜコンサルを目指すのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 レジー 、 出版 集英社新書

 今や東大法学部より経済学部が人気があり、入試の難易度も上だと聞くと複雑な気持ちです。法学部から高級官僚になるというのは、例の「アベ神話」にからんで佐川某という恥さらしの高級官僚の国会答弁によって地に墜(お)ちてしまったことはよく分かります。

 文科省の事務次官だった前川喜平氏のような骨のある官僚がまだいると信じたいのはやまやまですが、外に見えてくるのは、国民生活を犠牲にしてアメリカに追随して大軍拡路線を突っ走っている官僚ばかりです。

では、経済学部のほうはどうか…。今の日本の超大企業は空前の好景気にあって内部留保を貯めに貯め込むばかりで、労働者の賃金を上げようとはしません(取締役報酬のほうはアメリカ並みにしようと、大幅に上げています)。そして、戦争をネタに金もうけを企み、軍事産業でボロもうけしようとしています。そんな企業に入って楽しいですか…。人殺しに加担して、1回きりの人生に何の喜びがありますか…。

 コンサルタント会社を全否定するつもりはまったくありません。でも、結局は、いかに効率よく金もうけするか、それに全身全霊をつぎこむという毎日を送るのではありませんか。

 まあ、そんな人生の一時期があってもいいのかもしれませんが、一生ずっと、そんなことやるものでしょうか…。

 今の若者は「成長したい」と願う。その裏側にあるのは「安定したい」。

 最近、東大ロースクールの在学生と話す機会がありました。彼は弁護士になって食べていけるのか、とても心配していました。私のときは司法試験の合格者は500人。今は3倍の1500人。なので競争はきびしい。しかも、地方は人口減で、経済も衰えている。だから、東京で仕事するのを選ばざるをえないし、大きな事務所に入って、多面的なスキルを身につけようと思う、こう言うのです。深刻な状況です。でも、他方にも弁護士へのニーズはあるし、やり甲斐を感じて毎日仕事をしているのです。それがまったく伝わっていません。

 コンサルには、十分な収入と他人に発信して恥ずかしくない看板がある。スキルとお金を得ることができて、かつ時代のトレンドに乗っている仕事、それがコンサル。

 コンサル業界特有のコトバ。

 「バリューが出ているか(価値が出ているか)」

 東京で生活するのは、地価も物価も高いし、週末に遊びに行くのにもお金がかかる。その生活を支えるだけの給与を払ってくれるのは、コンサル、外資系、そしてIT企業しかない。

 今の時代に求められるのは、「出された問題を解ける人」ではなく、「自分で問題を発見し、解決できる人」だ。

 多くの人がコンサルになりたがる状況の裏側には、拡大を志向する業界側の事情もある。

 コンサル業界では、MECE(ミーシー)、「結論から話せ」「3つあります」が流行する。

 MECEは、「もれなく、だぶりなく」。今や、コンサル業界も「やさしい」を売りにしている。かつての「地獄」ではなくなったという。ホントかな…。

 コンサル業界には、辛い、怖いというイメージがある。ホント、そうですよね。電通の「鬼の十則」なんて、驚き、かつ、呆れてしまいましたが、東大卒の若い女性社員を自死に追い込みましたよね。あんな恐るべき企業体質は本当に変わったのでしょうか…。

 自分の人生、いったい何をするのか、ぜひ真剣に考えてほしいと思わせる新書でもありました。

(2025年8月刊。1056円)

根も葉もある植物のはなし

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 塚谷 裕一 、 出版 山と渓谷社

 多種多様な植物について、実に不思議だらけ、奇妙な生態を面白く説明していて、少しも飽きることなく、最後まで一気読みしました。

コアラの食べるユーカリは等面葉をもつ。葉に表も裏もないように見える。

なぜか・・・。オーストラリアの夏の光は強すぎるので、表だけに直射日光があたることのないようにしたのだ。

楠(クスノキ)は、自らダニ室をつくって、善玉のダニを住まわせている。ハダニを退治してくれるのを期待して・・・。

新緑の葉が赤いのはカナメモチやイロハモミジ。でも、なぜ赤くなるのか。その理由は解明されていない。

ネギの葉は、もともとは中空ではなく、中が詰まっている。それが成熟するにつれ、中空になっていく。

カエデは蛙手から来ている。

わくらば、とはお酒に酔って寝入ってしまうこと。病葉と書く。

ソメイヨシノの片親はオオシマザクラ。河津桜はカンヒザクラの血の入った自然雑種。

変化(ヘンゲ)朝顔は江戸時代に大流行した。大名家などの富裕層のあいだにあまりに流行したため、禁止令が出たほど。そして、明治・大正と何度も繰り返しブームになった。葉と花の形を見ても、まさかこれが朝顔とはとても思えないものになっている。突然変異体なので、その系統の維持には、本来、遺伝学の知識が必要。しかし、江戸の人々は、それなしに、広い場所と根気でやり遂げた。漱石の『行人』にも変化朝顔が登場している。確かめてみました。たしかに登場しています。1912年ころの風俗です。

カリフラワーは、自然界ではありえない姿形。人間が長い期間をかけてつくりあげた食物。

チューリップにもバラにも青い花はない。黒いチューリップは出来た。

ヒスイ色したヒスイカズラは育てるのが難しい。ともかく、見事なヒスイ色の花です。びっくりします。

似た色の碧(あお)い花が紹介されています。屋久島固有種のヤクノヒナホシです。とても不思議な色と形をしています。

大変勉強になる植物のはなしでした。

(2025年8月刊。1980円+税)

95%の宇宙

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 野村 泰紀 、 出版 SB新書

 私は、たまに宇宙について書かれた本を読むようにしています。
人間同士の欲望のぶつかりあいの場に日々身を置いている者として、たまには地球を脱出して想像の上だけでも宇宙の果てまで駆けていきたいのです。せせこましい現世から逃れて、宇宙はこのまま膨張を続けるのか、それとも反転して圧縮する方向に進むのか、私の死後の何億年も先のことではありますが、現世の欲望にとらわれず自由に想像するのも楽しいことです。
光は波であり、粒子でもある。光は物質とエネルギーを変換することが出来る。いやはや、光より速いものが存在しないというのに、光は粒子でもあるというのです。どうしてそんなに速く走れるのでしょうか・・・。
この宇宙は、少なくとも17種類の素粒子で構成されている。
時間というものも不思議なものです。まず、重力が大きい場所にいたり、移動速度が速くなったりすると、時間の進み方が遅くなる。
GPSはアメリカの測位システム。同じ働きをするシステムは、世界的にはGNSと呼んでいる。
重力は質量のある物体にある時空の歪(ゆが)み。こう表現されると、あまりにも難解で理解不能です。
宇宙の誕生から38万年たち、温度が3千度Cに下がると、原子核は電子を捕獲して、原子になる。そして、原子は中性なので、光の進行を邪魔しなくなるので、光はまっすぐに進めるようになる。これを、「宇宙の晴れ上がり」という。
宇宙が膨張するというのは、宇宙全体のサイズが大きくなるという意味ではない。宇宙膨張とは、無限の空間に散らばった物質同士の間の距離が大きくなっていくという現象。宇宙全体の大きさは常に無限大だ。ゼロ掛けゼロはゼロ。同じく無限大掛け無限大も無限大というわけです。なんだか、分かったようで分かりませんよね。
宇宙の膨張を加速させているのはダークエネルギー。
時間の矢とは・・・。事変が過去から未来に一方向に流れていくこと。基礎的な物理法則とは時間の向きを区別しない。方程式の上では、過去と未来の区別はなく、時間は対称する。しかし、現実の世界では、過去と未来は明らかに非対称。
映画「バックトゥザフューチャー」はありえないのです。これは、過去にさかのぼって、あなたが親殺しをしたら、いったい、あなたはなぜ生まれたのかという疑問は解決できないということです。
空間の次元は三つなのに、時間の次元は一つしかない。これがなぜなのか、根本的な答えは得られていない。結局、果たして、時間は存在するものなのか、という疑問にたどり着くのです。
どうでしょう、たまには、こんなことに頭を悩ませてみるのもいいのでは。
まったく理解できないし、想像すらできない世界がそこにあります。
ところで、私には、なぜ地下鉄のなかでケータイで会話できるのか、不思議でなりません。海底に有線ケーブルを設置しているから海外と通話できるというのなら、少しは想像できるのですが・・・。世の中は知らないこと、理解できないことだらけです。
(2025年8月刊。1045円+税)

恐竜学

カテゴリー:恐竜

(霧山昴)
著者 小林 快次 、 出版 東京大学出版会

 私は恐竜の話が大好きです。福井の恐竜博物館には2回行きました。最近、リニューアルされたそうなので、また行きたいです。
残念なのは、九州にも恐竜化石が出土していて、博物館まである(天草にも近い御船町恐竜博物館)というのに、まだ行ってないことです。ここでは、ティラノサウルス、ヴェロモラプトル、ヨロイ竜類など多様な恐竜化石・卵殻化石が発見されているそうです。
あの恐竜学研究の第一人者である小林快次(よしつぐ)博士によると、日本の研究者は、世界の恐竜研究において重要な位置を占めているとのこと。頼もしい限りです。モンゴルはともかく、アメリカのアルバータの恐竜博物館にいくのが私の夢です。この夢が実現することを願っています。
恐竜映画「ジュラシック・パーク」には、度肝を抜かれました。その後のシリーズは観ていませんが、今ではNHKの恐竜特集番組でもCGによって恐竜が地上をのっしのっし歩き、食うか食われるのかという格闘場面が再現されていますし、身体のカラフルな模様もイメージをかきたててくれます。
恐竜化石からタンパク質・アミノ酸を取り出し、DNA復元を目ざしている(?)とのこと。まるで「ジュラシック・パーク」の世界です。でも、恐竜は巨大天体がメキシコ湾あたりに衝突したことで絶滅してしまったのですよね。簡単に復元されても困ります。ゴジラの復活と同じように、人類は対抗できないでしょうから・・・。
恐竜が出現したのは2億3000万年前の三畳紀。絶滅したのは6600万年前の白亜紀。ということは1億7000万年ほども地球上の王者だったわけですよね。
そして、恐竜は本当は絶滅なんかしておらず、今の鳥類が恐竜の子孫であることは間違いないこと。まあ、鳥類といっても小鳥から大型のコンドルまで、いろいろいますけどね・・・。
鳥類といえば、歯がないと思います。クチバシはありますが、一気に吞み込んでしまいますよね。でも、途中では、歯がある鳥類の仲間もいたようです。
生痕化石とは、過去に生きた生物の痕跡が化石として残されたもの。恐竜の食性研究では、糞石がある。恐竜が何を食べていたかが、これで分かる。
ティラノサウルスの糞石として高さ44センチ、幅16センチ、長さ13センチという長大なものが見つかっている。これに3センチほどの骨片を多く含んでいることから、ティラノサウルスが獲物の骨を砕いて飲み込んでいたことが分かる。
恐竜の羽毛はウロコから退化したものであり、これは皮膚が変形したもの。この羽毛に色がついていたと考えられるが、構造色というものがある。昆虫の玉虫と同じで、それは色がついているわけではない。
日本の恐竜化石は北海道から九州まで全国各地で発見されている。そして、北海道のカムイサウルスは全身骨格の8割が発見されている。これはすごいことです。
500頁近い大作で、いい値段もしているのですが、4月の初版から3か月後には第4刷というのもすごいですね。私のような日本全国の恐竜ファンが買っているのでしょう。
(2025年7月刊。5800円+税)

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