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小説・青い日々

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

著者  堤 康弘 、 出版  日本民主主義文学会福岡支部
 92歳になる著者が青春の日々を思い出し、小説にした本です。
 戦前の軍国主義的風潮が強まるなかで、天皇とはいったい何者なのか、軍部の横暴はくい止められるのか、自問自答していた、若き日の葛藤が再現されています。90歳を超えて、10代の日々をこれほど情景こまやかに描き出しているのに、驚嘆するばかりでした。
 著者は八女中学校から、熊本の五高に進み、九州帝大法科に入ります。九大に在学中に兵役にとられ、2年間休学します。戦後は、平和活動などに挺身してきました。
 八女中学の1年生のとき、2.26事件(1936年)が起きて、首相らが軍人に殺害された(岡田首相は人違いによって殺されなかった)。満州事変も起きていて、日本全体が戦争へまっしぐらに進んでいるかと思うと、それに不安を覚えていた国民も実は少なくなかった。
 中国で日本軍が残虐な行為をしていることを知り、それに批判的な人も少ないながらいたが、声を上げることは出来なかった。あくまで、ひそかに身近な人に言うだけだった。そして、権力に歯向かう人は「主義者」(共産主義者)として、問答無用式に官憲が逮捕し、連行していった。
 やがて日本は国際連盟から脱退した。そして、貧しい日本人が大挙して満州へ開拓民として渡っていった。
 「満州は日本の生命線」
 「行け満蒙の新天地」
 「600万の民族大移動」
 「満州に行けば、一人、10町歩もらえる」
 それでも、暗い話ばかりではなく、主人公は4泊5日の阿蘇キャンプ旅行を敢行するのでした。男ばかりの4人組です。久住から阿蘇山をまわって、無事に帰り着くのですが、途中で図工の教師がスケッチ旅行しているのに出会います。
 そして、弁論部に所属します。軍事教練にも参加させられます。銃の分解組立も強制されるのでした。
 中学4年生のときには、実弾射撃訓練があり、また夜間遭遇演習に参加させられます。
 主人公は熊本にある五高に入学して寮に入った。同室者には朝鮮出身の朴がいた。英語とドイツ語の授業はネイティブの教師から受けた。
 陸軍大将の荒木貞夫が五高に来て講演しようとするときには、五高生は椅子に座ったまま一斉に脚を踏みならして、激しい反軍闘争を展開した。荒木貞夫は怒って、「貴様らに聞かせる話はない」と言って帰っていった。
 そして、ついに日本は開戦し、太平洋戦争に突入した。寮のラジオを聞いて主人公たちはそれを知った。主人公は五高在学中に召集令状が来て、軍隊に入った。
 戦争というものは、じわじわと忍び寄って来ること、世論をかきたてあおり、一気に戦争へ国民を巻き込んでいくことを改めて思い知らされる本でもありました。安倍首相のすすめている「この道」は、戦前のような無謀かつ無意味な「戦争への道」です。
 今の日本が戦争への道にじわじわと具体化していっていることは、シリアの日本人二人がついに殺害されてしまったことからも裏付けられます。戦争だけは絶対に繰り返してほしくないという著者の叫びが小説として結実していると思いました。
(2014年7月刊。1620円+税)

成長国家から成熟社会へ

カテゴリー:社会

著者  碓井 敏正・大西 広 、 出版  花伝社
 政党の固定的支配層は減少し、政治的課題によって離合する傾向が強まっている。各政党の党員は半減している。政党と選挙民の関係は一枚岩ではなく、屈折し、重層化している。
アベノミクスのインフレ政策、円安政策は即刻やめさせなければならない。同時に、ムダな公共投資の復活や大企業減税の停止もなされなければならない。
大企業は、円高による国民利益を通じた消費、つまり内需拡大こそ利益とする体質に自らを転換しなければならない。
 日本は、今や、アメリカに次ぐ貧困大国になりつつある。格差問題で特に重視されるべきは、教育格差である。なぜなら、教育格差は、各種格差の始点となっているから、また世代にわたって継承されるから。
 今の日本は、世界に例をみない高学費によって、高等教育への進学率は、先進国のなかでも中位以下にまで後退している。
 小中学生の全国学力テストでは、秋田や福井、石川のような社会的絆(社会関係資本の強い)日本海側の地域が上位を占めている。
 日本は、安心して離婚を選べる社会とはほど遠い。家族ケアの受けられない一人暮らしの高齢者が増加している。
日本の公務員は大幅に減少している。19494年に比べて国家公務員は3分の1へ激減した。地方公務員のほうは53万人も減った。
 国家公務員の労働組合は連合と全労連で勢力を二分している。労働組合については、組合員数の減少だけでなく、労働組合の単位組織自体が減っている。この30年間に2万の組織が消滅してしまった。
 ゼロ成長経済下で求められるのは、国家に依存しない「社会」内部の諸力の成熟だという主張でつらぬかれた本です。私にとって、やや難しすぎる論調ではありました。
(2014年10月刊。1700円+税)

ヘイトスピーチに抗する人びと

カテゴリー:社会

著者  神原 元 、 出版  新日本出版社
 横浜の弁護士による、ヘイト・スピーチとたたかう勇気ある人びとを紹介する本です。
 本屋の店頭で、また本の広告で、親しくつきあうべき隣国である韓国や中国をバカにした本が山積みにされ、大々的に宣伝されるのを見るにつけ、日本人の劣化、心の狭さに小さい胸を痛めてきました。
 この本を読むと、気狂いじみたヘイト・スピーチに対して、勇気をもって声を出し、声を上げている日本人が少なくないことを知り、大いに励まされました。
 この本は、ヘイト・スピーチに関する理論的研究書というより、ヘイト・スピーチの現場で、それとたたかう人びとの元気な生き方を紹介するものです。日本人も、まだまだ捨てたものじゃないと思わせてくれる本として、一読をおすすめします。
 毎日のように安倍首相の馬鹿ばかしい、ご高説をたれ流すだけのマスコミ(とりわけNHK)に腹を立てているなかで、かなり日本人に対するガッカリ感があったのですが、この本を読んで少しばかり元気をとり戻すことができました。
 「在特会」というのは、ヘイト・スピーチを唱道する団体の一つであり、首都圏屈指のコリアンタウン、新大久保に狙いを定めて活動を開始した。
 「朝鮮人を皆殺しにしろ」
 「日本人なら、朝鮮人の店で買い物なんかするな」
 と叫びながら、韓流料理店の外で店の営業を妨害してまわる。
 信じられませんね、こんなバカバカしいことをやる狂気の日本人集団がいるなんて・・・。みっともないこと、このうえありません。
 誰が、そんなことをやっているのか・・・。30代くらいが多いけれど、若者もいて、年寄りもいる。
 決して、失業者集団ではありません。それなりに学歴のある人びと、そして地方公務員や国家公務員もいるのです・・・。そして、警察は、ヘイト・スピーチのデモを取り締まるどころか保護するばかり。
 ヘイト・スピーチのデモ隊を圧倒するカウンターの隊列が包囲し、「帰れ」を唱和して圧倒した。本当に、この情景はすごいですね。
 日本人も、まだまだ捨てたものではありませんよね。野蛮なヘイト・スピーチを身体をはって阻止しようとする人々が少なからずいるのです。
 2013年9月、ヘイト・スピーチに反対する東京大行進は大成功をおさめた。
 たいしたものです。すごいです。まさしく良心の勝利です。
 そして、この本は、そのカウンターの内実を少しだけ紹介しています。
 「しばき隊」は、差別に反対し、日本社会の公正さを守ることを、その任務とした。そのメンバーの大部分は日本人であり、在日の人々を守るという立場をとらなかった。うんうん、それでいいのです・・・。
 ヘイト・スピーチに抗してたちあがったカウンターは、最後まで厳密な意味での組織やリーダーをもたなかった。
 カウンターは、差別デモの広がりを防ぎ、萎縮させ、縮小させる効果を生んだ。
 「帰れ」の罵声を浴びながら、デモに参加するのは、勇気のいることだ。
 ヘイト・スピーチは、マイノリティー集団を、その属性ゆえに社会から排除する意図または効果をもっているところが大きい。
 ヘイト・スピーチは、ターゲットされた人々を「平手打ち」にし、徹底的に打ちのめし、反論の気力を失わせる。これは、「沈黙効果」と言われる。
 対象となった在日コリアンを打ちのめし、排除し、人としての尊厳や存在そのものを根底から否定するとともに、すべての人が平等に共存する公正な社会を根本的に破壊し、隣人に対する憎悪、さらに暴力やジェノサイドをも煽動する。
 ネット右翼の勢力は、あなどれない。1週に2回以上アクセスし、合計15分以上「楽しんでいる」ユーザーが50万人ほどいる。月に1回だと、2倍の110万人になる。
 ヘイト・スピーチに対する法的規制は必要であり、憲法21条に照らしても、それを法的に規制することは許される。しかし、法規制の効果には限界がある。法規制より教育や啓蒙が大切である。
 そして、なによりヘイト・スピーチを誘発する政治家の発言や、政治の差別政策を是正することが重要だ。この指摘に、私も全面的に賛同します.差別を推進するばかりの安倍政権の下ではヘイト・スピーチの混絶は残念ながらありえません。一刻も早く、政権の交代が必要です。もっともっと、民族、宗教その他で平和共存を目ざしたいものです。
 とても分かりやすい、実践的な本ですので、ご一読をおすすめします。
(2014年12月刊。1600円+税)

イスラム戦争

カテゴリー:社会

著者  内藤 正典 、 出版  集英社新書
 日本がやるべきことは武力行使ではない。憲法9条の戦争放棄、あくまで平和外交を主体としたものであるべきと力説している本です。著者は現代イスラム地域研究を専門とする同志社大学大学院教授ですので、イスラムとは何か、ムスリムそしてイスラム国の現実をふまえた提言がなされていて、とても説得的です。
もともとムスリムは戦争に向いていない。イスラムを創始したムハンマド自身が商人出身だった。都市に暮らす商人の宗教としての性格が色濃く映し出されている。
 トルコ政府は、アメリカ主導の中東における軍事力行使には、これまで一度も参加したことがない。中東におけるアメリカの最大の同盟国であるトルコは、集団的自衛権の行使について、きわめて慎重かつ、アメリカの意にそわない決定を続けてきた。
 トルコは、PKKとの長い戦いのあげく、テロ組織とはいえ、軍事力でつぶすことは出来ないことをよく知っている。したがって、イスラム国に対する武力攻撃に加わっていない。
 安倍内閣が進めている集団的自衛権の行使容認は、日本にとってとてつもない危険と不利益をもたらす。
 アメリカの戦争に日本が加担するということは、あまりに世界を知らなさすぎる。地球は、アメリカを中心にまわっているわけではない。現在の状況で、中東において日本が軍事協力を求められたとき何をすべきかと質問されたら、自分は「何もしてはならない」と答える。
 アメリカが日本に対して集団的自衛権行使を求めてきたら、それはイスラム圏である可能性が高い。アメリカの情報をもとに武力行使に日本が協力したら、世界じゅうのムスリムを敵に回しかねない。世界のムスリム人口は、あと十数年で20億人をこえるだろう。
 多くのムスリムにとって、アメリカという国家のイメージは、子殺しであり、母殺しである。圧倒的に悪者のイメージが強い。
 イスラム国を武力で叩けば叩くほど、事態は悪化していく。
 「勇ましい」安倍首相に拍手する日本人は少なくないという現実がありますが、実は、それは日本という国と日本人にとって大変な危険をもたらすことになることを、きわめて冷静かつ実証的に説明した本です。今、多くの日本人が読むべき本として一読を強くおすすめします。
 ちょうどこの本を読もうとしているところに、奈良の峯田勝次弁護士から、ぜひ読むようにというハガキが届きました。峯田先生、ありがとうございました。
(2015年2月刊。760円+税)

安倍官邸と新聞

カテゴリー:社会

著者  徳山 喜雄 、 出版  集英社新書
 新聞が安倍首相の言動の問題点を国民にきちんと伝えているのか、私は日頃から大いに疑問を感じています。この本は、新聞を漫然と読んではいけないと警鐘を乱打しています。まことに、そのとおりだと思います。
 安倍官邸のメディア戦略は巧妙で、きわめて有効に働いている。
 新聞は二極化現象を起こしている。読売・サンケイ・日経新聞に対して、朝日・毎日・東京新聞が対抗している。
 安倍首相をとり巻くスタッフたちは、周知な準備をしたうえで、ひそかにリークしながらメディアをうまく利用している。
 集団的自衛権の論議のとき、安倍首相の私的諮問機関である安保法制懇の議論状況は、読売新聞を通じて流された。それは北岡伸一座長代理が読売新聞の主要な社外筆者であることにもよっている。政府関連の情報を読売新聞が独自に流していった。
 そもそも、この安保法制懇というのはメンバー14人の全員が集団的自衛権の容認賛成派で占められていた。法律上の根拠もない機関なのに、あたかも権威ある機関であるかのように報道するのは、いかがなものなのでしょうか。
 2013年10月に、アメリカのケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日したとき、二人そろって千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪問した。これは、安倍首相に対する「靖国参拝しないように」というメッセージであったことは明らか。それにもかかわらず、安倍首相は靖国神社の参拝を強行した。アメリカの面子は丸つぶれだったので「失望した」とコメントした。
 安倍首相の意向が働いた人事として、日銀総裁、日本郵政社長、内閣法制局長官、海上保安庁長官、そしてNHKの会長と経営委員・・・。
 NHKの籾井勝人会長は、まさに安倍首相のロボットのような存在です。
 NHK会長が、その発言を問題視され、国会で答弁を求められるなど、きわめて異例のこと。公共放送機関のトップというか、そもそも報道機関として権力監視という役割を籾井会長は自覚していない。要するに、いつだって、何だって金もうけの対象としてしか考えていないような人物なのでしょうね。残念です。
安倍首相の二枚舌を許さない厳しい報道を新聞はもっとすべきだと思います。
(2014年9月刊。760円+税)

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