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作家で10年生きのびる方法

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  鯨 統一郎 、 出版  光文社
 本格推理小説の第一人者が、売れる作家を10年続けてきた内幕を明らかにした体験的小説です。モノカキ志向で、今も小説に挑戦している私にとって、ヒント満載の本でもありました。
スタートは1998年(平成10年)です。
 「北方謙三のような緊迫した文章が書けるか?」
 「大沢在昌のように読者を引っぱっていくテクニックを理解しているか?」
 「若者のようなみずみしい感性はあるのか?」
 「熟練工のように人をうならせる技(わざ)はあるのか?」
 「活躍している作家たちは、みな独自の武器を持っている。これだけは、ほかの作家には負けないという武器を。それで、キミは?」
 せっかくデビューしても、半分以上の作家は1年後には消えている。毎年400人の作家がデビューしている。
 赤川次郎や西村京太郎のような流行作家は、1日に12枚ほど書いている。
 梶山秀之は、月産1200枚。1日40枚。黒岩重吾は月産1000枚。笹沢佐保は1500枚。そして松本清張は月1000枚だった。
 ミステリ小説では、冒頭に魅力的な謎を提示する。すると、読者は興味を持ち、先を読みたくなる。
 出版社は、ボランティアではない。商売だ。利益が出ると思うから作家に発注する。
なるべく読点を使わず、文章をつづるのが基本だ。読点が多いほど文章の流れが悪くなる。流れるように読んでいた文章に読点があると、そこで流れが止まる。その判断方法は声に出して読んでみること。そうすると、流れがいいかどうか、たちどろに分かる。
 インプットなくして、アウトプットなし。子どものころから読んできた膨大な小説のおかげで、文章が書ける。子どものころから親しみ、摂取してきたマンガ、テレビ、映画のおかげだ。それで摂取してきた文章、物語、ストーリーが脳に蓄積され、無意識のうちにしみ出してくる。
 取材旅行には、ノートパソコンの類は一切もっていかない。旅行は、心身ともに新鮮になる機会だから、パソコンは持っていきたくない。
 小説を書いているのは、書きたいものを書くため。すべて自分の趣味なのである。
 ぼくの趣味と一致する趣味を持つ人がいて、きっと読者になるはずだ。
 書くときには、あらかじめプロット(アラスジ)を組んで書くのだが、興が乗ると、プロットのことなど頭から消し飛び、書きながらプロットとは別の展開が頭に浮かび、それを真剣に検討する間もなく、勝手に物語を書きつづってしまうことがある。ライダーズ・ハイという。
 とても役に立った小説の書き方、ハウ・ツーものでした。
(2015年6月刊。1500円+税)

禁忌

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  浜田 文人 、 出版  幻冬舎
 ハードボイルド小説です。私は、東京・銀座の夜の世界がどうなっているのかが知りたくて、読んでみました。
 今から20年以上も前のことになりますが、銀座のクラブでひとときを過ごしたことがあります。もちろん、東京の知人の弁護士がおごってくれたのです。そのとき、私が福岡出身だというと、何人かのホステスが長崎のハウステンボスには行ったことがあると言うのです。
 ハウステンボスは、愛人を連れた東京の金持ち連中の不倫旅行の格好の舞台だということを、そのとき知りました。たしかに、「ホテル・ヨーロッパ」は、そんなしゃれた雰囲気でした。HISの経営になって大衆化してからは、どうなっているのでしょうか・・・。
 銀座のクラブホステスの半分は精神を病んでいる。いつクビになるのか、ひやひやしながらの毎日だから、精神病を患うのも無理はない。
 銀座のホステスの7割は彼氏がいない。精神的に余裕がないうえに、時間の余裕もない。昼間は電話とメールで営業、深夜は強制のアフターがある。
 この10年来、東京都内の自殺者は年間2500人をこえている。1日に約7人。そのうち女性が3割。男性では50代が突出している。
 クラブのセット料金は1万5千円。それにボトル代とドリンク代を足した金額を純売上げという。これがホステスの日給の対象になる。純売上げにいろんなチャージをつけ、50%のサービス料を加算した金額が客への請求額となる。
 クラブで客に多額のお金を使わせるためには、高いシャンパン、たとえば1本35万円のドンペリや、高額ワインを注文して飲ませる。10万円のシャンパンを2本あけると、客は20万円ではなく、いろいろチャージが付加されて40万円の請求を受ける。
 一人のホステスの総売上が200万円だとすると、もろもろ差し引かれ、手取りで月80万円となる。クラブのホステスの在籍が50人として、1日の出勤者は35人。ホステスの8割はヘルプで、ヘルプは週に3日か4日、出勤する。
 月の売上げが150万円未満のホステスをヘルプという。ヘルプの平均日給は3万3000円ほどで、月の手取りは40万円。
 ヘルプのホステスがまじめに仕事をしようとしたら、貯金するのは、ます無理。ええっ、月収40万円でも貯金がたまらないのですか・・・。
銀座で年俸1000万円をこえるホステスは全体の5%未満。ホステスの平均年収は、上場企業の女性正社員と同じくらい。ところが、手取り分から、衣装を購入し、出勤前に美容室に行く。顔や身体の手入れにもおカネがかかる。
クラブでホステスしていても、客との会話が苦痛で、同僚の女性との折り合いが大変だと思う女性は、人間関係に神経をつかわないですむ性風俗店にくらがえしていく。
 東京都内には、ソープランドや、ファッションヘルス、ピンクサロン等の性風俗店で働く女性が急増し、現在では3万人をこえると推定されている。いや、十数万人になるという説もある。
 銀座の夜の世界には、もう一つ、金持ちヤクザははびこっているようです。超大銀行と暴力団との腐れ縁は昔から有名ですが、最近ではIT企業のトップなどとも暴力団はつながっているようですね。そして、そこに退職した警察官と実は現役の警察官までがからんでくるのです。まったく、いやになってしまいます。
 そんなことを考えさせてくれる警察小説でもありました。
(2015年4月刊。1600円+税)

朝鮮王公族

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  新城 道彦 、 出版  中公新書
 1910年、日本が韓国を併合したとき、天皇は詔書を発して「王族」、「公族」を創設した。大韓帝国皇室の人々についての身分である。これは、戦後の1947年まで存続した。
 日本が1910年に韓国を併合して以降、補助金が不要だったのは1919年の1年のみで、あとは、ずっと赤字だった。台湾は、日本の編入からわずか10年で補助金を辞退するまでに経済的に発展し、宗主国(日本)に金銭的な利益をもたらした。韓国とは、まったく対照的だ。日本の財界や言論界では、韓国併合による財政負担増を非難する声が少なくなかった。
 それでも、経済性を度外視して日本が韓国帝国を支配下に置こうとした目的は、国防にあった。危機意識があった。とくに北方にはロシアという明確な仮想敵国が存在していたので、朝鮮半島の確保は急を要する課題だと考えられていた。
 大韓帝国では、1903年ころ経済支出の43%を軍事費が占めていて、財政紊乱(びんらん)の原因となっていた。そのうえ、兵員は1万人にみたなかった。
 朝鮮貴族令が定められ、朝鮮貴族には日本の華族と同一の礼遇が保障された。ただし、朝鮮貴族のなかに、公爵になった者はいない。
 日本の皇族が朝鮮の王公族に嫁いでも、めとることはできなかった。朝鮮人の血を皇族に入れないという考えが宮内省にあった・・・。
 日本の首相として韓国併合を成立させた桂太郎が国葬にならなかったのに、併合された側の李太正が国葬になった。なぜか? この答えは単純であり、朝鮮人を懐柔するためだった。
 李太正の国葬のとき、寂寞たる国葬に比べて、内葬は盛況だった。1万5000人以上の人々が集まった。国葬の会場では、朝鮮人のほとんどがボイコットしたため、会席は空席だらけになった。国葬を押しつけたのは失敗だった。
 どこの国だって、他民族から支配されたとき、独立を目ざしてがんばるものですよね。生半可な日本の懐柔策は朝鮮の人々を完全におさえこむことは出来なかったわけです。そりゃあ、そうですよね。
 帝国日本に準皇族の身分が存続していたなんて、ちっとも知りませんでした。
(2015年3月刊。840円+税)

新・観光立国論

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  デービッド・アトキンソン 、 出版  東洋経済
 日本の観光産業を振興するための積極的提言がなされている興味深い本です。
 国内の観光需要を格段レベルアップするにはまずはゴールデンウィークをなくすべきだというのは、私も大いに賛成です。昔のリゾート開発のときにも、提唱されていましたが、歴代の自民党政権は祝日を増やすことしか考えていません。これでは観光産業を育成することにはなりません。日本人が、もっと仕事を休めて旅行できるようにしないと観光業の発展はありません。ゴールデンウィークは集中豪雨型の忙しさをもたらし、それがすぎると閑散としている、というのでは良質なサービルを提供できるはずもありません。
 日本が観光立国を目ざすなら、ゴールデンウィークは廃止すべきだ。国内観光客が一時期に集中するのは、観光ビジネスにとっては大きな障害となる。ゴールデンウィークの廃止によって国内観光客が均されれば、もっと大胆な設備投資が出来、観光業が産業として成立しやすくなる。
 東京オリンピックを招致するときの滝川クリステルの「お・も・て・な・し」とひと文字ずつ区切って話したのは、良くなかった。あれは、相手を見下している態度と受け取れる。日本人は絶賛したが、ヨーロッパの見方は全然違う。
 うひゃあ、知りませんでした・・・。
 日本に「高級ホテル」がないという指摘には、腰が抜けそうなほど驚きました。
 皇居の周囲にできたペニンシュラなどの一泊40万円とか50万円(本当はもっと高い?)というのは超高級ホテルは泊まったことがありませんし、泊まろうとも思いません。ところが、この本によると、世界のスーパーリッチ層にとっては、安すぎて泊まろうとは思わないのだそうです。
 では、いくらのホテルにスーパーリッチは泊まるのか?
 1泊400万円とか900万円というホテルに泊まるのです。
 いやはや信じられない金額です。そう言えば、東京都内で遊ぶときには、遊園地を「貸し切り」にしてファミリーで遊ぶのです。とても想像できない世界です。
 日本人は、日本という国が観光後進国であることをもっと自覚せよと警鐘を乱打しています。なるほど、と思いました。外国人観光客1300万人というのは少なすぎるのです。
日本人は観光アピールを勘違いしている。
 気候、自然、食事をもっとアピールすべきであって、治安がよいとか電車が正確とか自動販売機が町にあふれているということで外国人が日本に来るわけはない。
 目からウロコの本でもありました。
(2015年7月刊。1500円+税)

クリミア戦争(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  オーランドー・ファイジズ 、 出版  白水社
 1854年にはじまったクリミア戦争についての詳細な研究書です。
 第一次世界大戦前の時代に生きていた人々にとってはクリミア戦争は19世紀の一大事件だった。損失は膨大だった。少なくとも75万人の兵士が戦死傷者となった。
 ロシア軍は50万人の兵士が亡くなり、フランス軍も10万人の兵士が死んだ。イギリス軍の死者は、2万人だけ。
クリミア戦争は兵代戦の最初の例だった。新型のライフル銃、蒸気船、鉄道、近代的な兵站、電報、革新的な軍事医学など動員された総力戦だった。同時に、クリミア戦争は、古い騎士道精神に則って戦われた最後の戦争でもあった。戦闘の最中に敵味方の話し合いがもたれ、戦場から負傷者と死体を収容するための一時的休戦が頻繁に実現した。
 このクリミア戦争には、ロシアの文豪トルストイが青年士官として従軍している。
 ロシアの正教会の支配するロシアにとって、パレスチナの聖地は、熱烈な宗教的情熱の対象だった。ロシア人とは、すなわちロシア正教の信者だった。
 ロシア帝国は、当時の列強諸国のなかで、もっとも宗教性の強い国家だった。ロシア帝国ツァーリの支配体制は、臣民の信仰を束ねるという形で組織されていた。
 ロシア帝国は、国境問題であれ、外交関係であれ、ほぼすべての問題を宗教のフィルターを通じて解釈する宗教国家だった。
 当時29歳のニコライ一世は、「軍人タイプ」の人物だった。身近なサークルのなかでは礼儀正しく、魅力的な人物だったが、外部の人間に対しては冷淡で峻厳であり、短気で怒りっぽい性格、無分別な行為に走り、怒りから我を失う場面多くなっていった。
 ニコライ一世は、常に暗殺される危険にさらされていた。
 ロシア帝国の軍隊にとって、膨大な損耗率は、決して異常な事態ではなかった。農奴出身の兵士たちの健康や福祉がかえりみられることはなかった。
 ロシア軍は基本的に農民の軍隊だった。兵士の圧倒的多数は農奴が国有地農民の出身だった。ロシア軍は、その規模からいえば、群を抜いて世界最大だった。100万の歩兵、25万の不正規兵(主としてコサック騎兵)を擁している。加えて、75万の予備兵力がある。
 しかし、ロシア軍隊は、他のヨーロッパ諸国に比べて大きく立ち遅れていた。兵士はそのほぼ全員が読み書きの能力をもっていない。貴族出身の士官たちは、わずかな手柄を立てるために膨大な数の兵士の命を惜し気もなく、犠牲にした。
 これに対するトルコ軍は、さまざまな民族からなる混成部隊だった。アラブ人、クルド人、他タール人、エジプト人、アルバニア人、ギリシア人、アルメニア人など、多数の民族が参加していた。
 オスマン帝国の典型的な軍人は、軍事的能力よりも、スルタンの個人的寵遇によって昇進は決まっていた。トルコ軍の指揮官のほとんどは、戦場で役に立つ実践的な指揮能力を備えていなかった。兵士の給与を比較すると、イギリス134ルーブル、フランス85ルーブル、プロイセン18ルーブル、オーストリア兵は53ルーブル、ロシア兵は32ルーブル、プロセインは60ルーブル、フランスは85ルーブル、プロセインは60ルーブルだった。
イギリスのパーマストンは、単純な言葉で大衆に訴えかける必要があり、そのために新聞を活用することを心がけた。
 パーマストンに反対して戦争への流れを押しとどめようとする者は、誰であれ、愛国主義的なジャーナリズムによって袋叩きにあうような社会的雰囲気だった。
 新聞は、販売部数を伸ばすために、戦争へあおりたてた。
まるで、いまの安倍内閣と一部のマスコミの情けない姿そのものですよね。
 クリミア戦争について、イギリスとフランス連合は、それほど目的は明確ではなかった。多くの戦争がそうであったように、今回の東方遠征も、わけが分からないうちに始まってしまった。
 なんとなく戦争ムードがかき立てられ、止められないうちに戦争に至ってしまうのですね。今の日本をみていると、本当に怖いです。
 クリミア戦争の真の目的は英仏両国の利益のためにロシアの領土と影響力を削減することにあると明記されるべきだった。ロシア軍の敗北の最大の原因は兵士が戦意を喪失したことにあった。近代戦において勝敗を分ける決定的な要因は、兵士の士気を維持できるかどうか、だった。
 戦争に至る道筋が解明されている本です。そして、実際に始まった戦争の悲惨な実情も刻明に紹介されています。憲法9条の空文化を目ざす自民・公明のアベ政権は本当に許せません。
(2015年6月刊。3600円+税)

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