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「その日暮らし」の人類学

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 小川 さやか 、 出版  光文社新書
東アフリカのタンザニアで15年にわたって零細商人に密着し、そのタンザニアの町での商慣行、商実践そして社会関係を調査している日本人(女性)学者のレポートです。
ところ変われば、品変わると言いますが、日本人にはとても理解できない状況です。そこでは、日本人の一般常識はまったく通用しません。
タンザニアでは、一つの仕事に収入源を一本化するのは、リスキーなことである。
タンザニアの人々のもつ事業のアイデアは、その後の人生において実現することもあるが、少なくとも、その実現が一直線に目ざされることはない。
タンザニアの都市住民にとって、事業のアイデアとは、自己と自身が置かれた状況を目的、継続的に改変して実現させるものというより、出来事、状況とが、その時点でのみずからの資質や物質的、人的な資源にもとづく働きかけと偶然に合致することで現実化する。
このような仕事に対する態度は、彼らの危機的な生活状況を反映している。彼らは一方で、計画を立てても、本人の努力ではどうにもならない状況に置かれている。
計画的に資金を貯めたり、知識や技能を累積的に高めていく姿勢そのものが非合理、ときには危険ですらある。
「明後日の計画を立てるより、明日の朝を無事に迎えることのほうが大事だ」
一日くらい食事を抜いても、同じ境遇の仲間がいて、明日を語りあうことが楽しいと思えるし、重労働をこなせる自らを誇りに思うことができる。
広告産業が未発達なタンザニアでは、流行がコントロールされていないので、消費者の需要・嗜好の多様性はゆっくりとしか変化していかない。
タンザニアでは、2000年ころから、中国に渡航して商品を買いつける商人が急増している。国の法や公的な文書は価値をもたず、香港や中国に商人本人が出向いて、みずから対面交渉をし、そこで取引の詳細と輸送までの手続をたしかめる。そうしなければ騙されやすい。人々は大企業の権威を無視し、具体的な人間との関係性でしか動かない。対面的な関係こそが信頼できるすべてである。
旅行者扱いで短期的に中国・広州に入ってくるアフリカ人は年間20万人にのぼる。
中国のコピー商品は、消費者の心を動かす価格にまで一気に引き下げ、そこから売れた商品の価値を徐々につり上げていく。
アフリカでは、今、ケータイによる送金サービスが発展している。これは、銀行のサービスを利用できない人でも、利用できるので、どんな奥地の農村部でもつかわれている。
いやあ、目を大きく開かせられる思いのする、面白い本でした。著者は、よほどアフリカ、タンザニアの現地に溶け込んでいるようです。アフリカの人々の物事の考え方を理解するに役立つ本だと思いました。
(2016年7月刊。740円+税)

大元師と皇族軍人

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 小田部 雄次、 出版  吉川弘文館
昭和天皇は戦争遂行と密接に関わっていた。何も知らなかったとか軍部にだまされていたというのは事実に反する。昭和天皇は、当時もっとも多くの情報を得ていた。戦争の大きな流れも、現地の戦闘情況もおおむね報告されて知っていて、それらに指示も与えていた。
昭和天皇こそが戦争指導の指揮権を握っていたのであり、ときに軍部を叱責することがあった。とはいえ、昭和天皇は、はじめから計画的に世界征服を考える侵略主義者でもなかった。むしろ、英米と協調しながら軍縮や戦争放棄への道を目ざした時期もあった。
昭和天皇は、学習院初等学科5年生、11歳のときに陸海軍少尉となった。しかし、士官学校も海軍兵学校も経験しなかった裕仁(ひろひと)の軍事的技能は一般の職業軍人と比べて優秀であったとはいいがたい。
昭和天皇はヨーロッパに行ったとき、第一次世界大戦の激戦地の跡に立って自らの目で確かめた。まずは世界戦争の惨禍を心に焼き付けた。
 ヨーロッパ旅行から帰って以降、昭和天皇はベットにじゅうたん、イス式の生活で統一し、和服は一切着なかった。晩餐会では、軍服ではなく、モーニングか燕尾服にした。そして側室制度を廃した。子どもたちは、みな本当に皇后が産んだようです。
 昭和天皇は憲法順守と国際協調を重視し、軍の革新運動には好意的ではなかった。そのことが、かえって軍部や民間右翼に「君側(くんそく)の奸(かん)」論による側近攻撃を活性化させ、以後のテロ・クーデター事件を誘発したとも言える。
 昭和天皇の弟たちは、陸軍士官学校、海軍兵学校に入り、相応の勉学と訓練を重ねて、卒業後に少佐となり、さらに現場で勤務しながら順次、佐官、将官となっていった。
 1928年に起きた張作霖爆殺事件の処理をめぐって、昭和天皇の政治的・軍事的判断はしばしば軽視された。そのことから昭和天皇は軍部と政治への対応に苦慮した。
 また、1930年の軍縮条約のときに、軍部の艦隊派は31歳の昭和天皇を軽んじる動きをみせた。1931年の満州事変の勃発に際しても、昭和天皇の許可なく朝鮮軍が独断で出兵した。
 結局、昭和天皇は、最終的には、軍のつくった既成事実を追認してしまった。
軍は、自らの「野心」を遂げるため、昭和天皇の「寛容さ」にも利用していった。
皇族たちは参謀総長や軍令部長になり、「キングの側」に立って軍を抑えるというより、政治活性化した軍に利用されることで、それぞれ陸軍や海軍の意向を直接に天皇に上奏する立場となった。
皇族軍人たちは、政治的に台頭する軍部や右翼に担がれ、かつ皇族自身も自らの見解を政治や軍事に反映させようとするようになっていた。そのことが軍部や右翼の非合法活動をさらに増長させ、ついには二・二六事件を引き起こしたと言えなくもない。
 昭和天皇と、それを取り巻く皇族たちの動きが軍部との関係が深く分析されていて大変興味深い内容でした。
 天皇を表看板に出して、実は軍部が天皇を軽んじて独走していたこと、昭和天皇といえども、軍の暴走を止めることが出来なかった(まったく出来なかったわけではないのでしょうが・・・)ことがよく分かる本です。
(2016年7月刊。1900円+税)

安保法制を語る!自衛隊員・NGOからの発言

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 飯島 滋明・佐伯奈津子ほか、 出版  現代人文社
 アフリカ(南スーダン)にいる日本の自衛隊員がついに戦争に巻き込まれようとしています。「平和な国・ニッポン」という貴重なブランドが今はがされようとしているのです。残念です。
 安保法制が日本国憲法9条を踏みにじるものであることは、最高裁の元長官や内閣法制局の元長官、憲法学者のほとんどが声を大にして叫んでいます。
 この本では、「戦地」へ行かされる自衛隊員や危険な紛争地帯で活動しているNGOの活動家が切々と訴えています。
自衛隊内では思想教育がなされていて、共産党や自衛隊を敵視するものは敵だと教え込まれる。選挙が間近になると、「自民党に入れろ」と言われる。
自衛隊は、海外で軍隊として扱われない。ジュネーブ条約やハーグ条約の捕虜規定が適用されない武装集団である。だから、どんな殺され方をしても、そのひどさを国際刑事裁判所に訴え出ることはできない。
 そして、戦死しても生命保険の対象外になる。イラク特措法では最高9000万円だったが、今は6000万円が最高額。そして、どんな場合が最高額になるのか、明確な基準はない。
予備自衛官は、1年間に5日間、訓練に参加する。1日8100円が支給され、別に月4000円の手当が出る。
防衛大学では、1ヶ月に11万円近い学生手当とボーナスが年に33万円9千円をもらえる。
 アフリカで日本人が殺し、殺されることが、なぜ「日本を守る」ことになるのか、とても理解しがたい。むしろ、テロを日本国内に誘引してしまう危険のほうが現実化するだろう。
現役の自衛隊員は、なかなか声を上げられないので、退職者が代弁している本です。この視点も欠かせないと思いました。
(2016年5月刊。1500円+税)

人はなぜ星を見上げるのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 髙橋真理 、 出版  新日本出版社
最近はあまり行っていませんが、プラネタリウムは私の好きな場所です。広大な宇宙にいること、ちっぽけな存在であることを実感させてくれる貴重なひとときがそこにあるからです。
そのプラネタリウムや星・宇宙というのを20年も仕事のパートナーとしている女性が書いたロマンあふれる本です。うらやましいですよね、高校生のころの夢を実現できるっていうことは・・・。
北海道大学に入ったときには、オーロラ研究をすると意気込んでいたとのこと。でも、北大はオーロラの研究はしていなかったのでした・・・。そして、アラスカにいる星野道夫に会いに大学2年生のときアラスカへ飛び、ついに蛇のように激しく上空を舞う緑色のオーロラに出会いました。
 私の身近にもアラスカまでオーロラの写真を撮りにいってきた人がいますし、これから行きたいところとしてオーロラをあげている知人もいます。私自身はマイナス40度の寒さに耐えられそうもありませんので、写真で我慢します。
 そして、著者はオーロラの研究ではなく、ミュージアムをつくることを思いたったのでした。それからの行動力がすばらしいのです。好きなことをやって生きていこうという敢闘精神にあふれています。私も、こうやって本を読んで、本を書き、好きなことばかりをして生きています。
 プラネタリウムで星などを見た子どもたちの疑問が面白いのです。はっとさせられる内容です。太陽は沈んだあと、どこに行くのか・・・。地球がまわっているというのになぜ私は落っこちもせず、立っていられるのか・・・。きわめつけは、星は、何のためにあるのか・・・。これって、自分は何のために存在しているのかに通じる疑問ですよね。
小学4年生のとき質問を書いて送ってきた女の子に答えていると、その後も今日まで交流が続いているというのです。すごいことです。
 では、時間はどうか・・・。時間というのは、不思議な存在である。えっ、時間は存在するもの、なのでしょうか。過去というのは、いったいどこへ行ってしまうものか。過去は、どこかへ行ってしまうものなんですか・・・。時間は、無限の過去から無限の未来に向かって一直線に伸びていくものなのか。
プラネタリウムにうつしだされた星空を見て、ある人が天国っていうのは、あそこにあるのかねえ、とつぶやいた。
「きっとそうですよね、たぶん、すごく美しいところだと思います」と答えた。すると、その人は、「そうだよなあ、みんな行ったきり帰ってこねえもんな。いいところなんだよな」と、小さい声で言った。
 そうなんですね。夜の星空の向こうにこそ天国があるんでしょうね。
 宇宙のことを考えていると、その年齢が138億年とか聞かされると、わずか100年も生きていない人間のちっぽけさを感じずにはおれません。
 プラネタリウムに、また行きたいなと思いました。
 
(2016年8月刊。1800円+税)

イランの野望

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 鵜塚 健 、 出版  集英社新書
浮上する「シーア派大国」というサブタイトルのついた新書です。イラン・イラク戦争とかシーア派とスンニー派の争いといっても、日本人の私には、なかなかピンと来ない話です。
安易な選択肢の一つは、考えないこと、関心をもたないこと。二つ目は、諸悪の根源をはっきりさせ、徹底的に根絶すること。いずれも、これで問題がうまく解決した例はない。
そうなんです。そうすると、私たちは知るしかありません。そして、単純な「善悪二元論」ではなく、複眼的な見方が求められます。
イランは、今や、中東では希少な、安定した大国である。
ISは、2015年12月の時点で、月8000万ドル(96億円)の収入を得ている。その50%は支配地域での税金徴収や財産没収による。残る43%は石油の密売による収入。豊かな財源と領土を確保している。
イランはイスラム教のなかの少数派のシーア派に属している。かつてイラン王朝が栄えた国だ。
イランは、1979年のイスラム革命のあと、反米路線をかたくなに貫き、アメリカはイラン「封じ込め」に力を注いできた。皮肉にもアメリカの政策は、その意図に反し、結果的にイランに有利な状況をもたらした。
16億人いる世界のイスラム教徒の9割はスンニー派で、残り1割がシーア派だ。
イランは国内人口の9割以上をシーア派が占めている。
イラン・イラク戦争のとき、アメリカはイラクを支援したため、「殉教者」の家族はイラクだけでなくアメリカに対して怨念のような感情を抱く。そして近年の核開発でイランを抑え込もうとするアメリカへの反発心が、共鳴し、増幅している。
イランは産油国であるだけでなく、7900万人の人口をかかえる中東の大国だ。一定の富裕層に加え、購買力のある中間層は分厚く、トルコと並んで魅力的な市場になっている。
最近、中国がイランで存在感を高めている。中国は、イランにとって、最大の貿易相手国となった。イランの原油輸出先の第1位は中国である。
イランは、近い将来、国内に20基の原発を設置する計画で、その中核を担うのがロシアと中国だ。ロシアはイランにおける原発利権で突出している。
イランの実情の一端を知った思いがしました。
(2016年5月刊。720円+税)

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