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ドキュメント・民営刑務所

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 シェーン・バウアー 、 出版 創元ライブラリー
 2020年に発刊された「アメリカン・プリズン」が改題し、文庫本になりました。
 アメリカのジャーナリストが刑務官として民営刑務所で働いた4ヶ月間の体験が生々しく語られています。刑務所内に隠しカメラとマイクを持ち込んだのです。
 アメリカの刑務所や拘置所に入れられている人は220万人(2017年)、過去40年間で500%の増加率。アメリカの人口は世界の総人口の5%しかないのに、囚人数では全世界の25%を占めている。そして、150万人の受刑者(拘置所の収容者70万人を除く)のうち、民営刑務所に13万人が収容されている。
 アメリカでは、8万人が独房に入れられている。そのなかには10年以上、20年以上も独房で生活させられている囚人がいる。
 アメリカの歴史の大半を通じて人種差別と人の自由を奪うことと、利益の追求とは常に結びついている。奴隷制が廃止されたあとは刑務所の囚人がそれに代わった。
潜入取材をしたのは、ウィン矯正センター。警備が中程度の刑務所のなかではアメリカ最古の民営刑務所。経営する会社、CCAのCEOの年収は400万ドル(2018年)。
 潜入取材の用具として、録音機付きのペン、そして蓋の部分に小型カメラが仕込まれたステンレスの保温マグを持ち込んだ。結局、4ヶ月間、バレることはなかった。
刑務官の心得。囚人としゃべりすぎないこと。囚人は、刑務官の性格や反応を探っている。
 刑務官には精神力が大切。
CCAは受刑者ひとりにつき、1日34ドルをもらっている。州の運営する刑務所では受刑者ひとりにつき52ドルの費用がかかっている。
CCAは売上高18億ドルで、2億2100万ドルの純利益を計上した(2014年)。
州にとっては民営刑務所にすれば15%もコストが低い。ところが、逆に公営刑務所のほうが14%だけ安上がりだという調査結果もある。結局、民営刑務所は、実は、それほどの費用節約にはならない。
働いている刑務官の大多数はアフリカ系黒人で、その半分以上が女性、そして多くがシングルマザー。
 監獄はジェイルで、刑務所はプリズン。
刑務所内では自殺未遂は処罰できない。しかし、自傷行為と認定すれば処罰は可能となり、CCAは受刑者に損害の回復を求めることができる。
 刑務所は白人の優越性を脅かすものではなく、むしろそれを後押しするものだ。
民営刑務所では囚人の更生よりも収益性が重視される。これは、どこでも同じこと。
 平均で3分の1の刑務官がPTSDに悩まされる。刑務官の自殺率は一般市民より2.5倍も高い。刑務官の寿命は短い。
一般的な刑務所では、医療費が人件費に次いで多い。ルイジアナ州の刑務所は予算の31%を医療費に充てている。カリフォルニア州の刑務所では、予算の31%を医療費が占めている。というのも、ウィンの受刑者の40%が糖尿病・心臓病そしてぜん息などの慢性疾患をわずらっている。
 全米で、男性受刑者の9%で、獄中で性的暴行被害を受けている。実際には、もっと多いとみられている。ゲイの受刑者の3分の1以上、トランスジェンダーの受刑者の3分の2が刑務所で性的暴行を受けた。刑務所での性的被害の訴えの半分近くに職員が関与している。
民営刑務所は、公営刑務所より受刑者どうしの傷害事件が28%も多い。また、民営刑務所の受刑者は、公営刑務所の受刑者の2倍近く武器を持っていた。
 奴隷と同じく囚人も金もうけの手段になっているのですね。大きく目を見開かされる本でした。
(2024年8月刊。1300円+税)

体内時計の科学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ラッセル・フォスター 、 出版 青土社
 私たちの身体は、しかるべき時間と場所において、適量の最適な資源を確保する必要がある。体内時計は、このニーズを予期することができる。体内時計は、単に時間を知らせるだけでなく、時間の予測や、少なくとも環境内の規則的な出来事の予測を可能にする。
 睡眠中に記憶のほとんどが確立され、問題が解決され、情動が処理される。さらに、日中の活動で蓄積された有害物質が除去され、代謝経路が再構築されてエネルギー貯蔵庫のバランスがとられる。逆に、十分な睡眠がとられなければ、脳の機能、情動、身体の健康はすべて、すぐに混乱をきたす。
 異常な睡眠は、心臓疾患、2型糖尿病、感染症、がんを引き起こしやすくする。
 睡眠は、目覚めているときの生活能力を規定し、睡眠不足や睡眠における概日リズムの混乱は、健康全般に甚大な悪影響を及ぼす。
 平均的な人間の脳には、86億本のニューロンがある。そのうちの5万本のみが、24時間周期の概日リズムを調整する「マスター生物時計」として、連携しあいながら機能している。
 この「マスター時計」は、視交叉上核(SCN)」と呼ばれる脳の部位に存在する。SCNには5万本のニューロンが含まれており、注目すべきことに、それらのおのおのが独自の時計を備えている。SCNは哺乳類における「マスター時計」ではあるが、唯一の時計ではない。おそらくあらゆる身体器官や身体組織の内部に時計が存在している。
 人間はノンレム睡眠中も、レム睡眠中のどちらにも夢を見る。しかし、レム睡眠中の夢は鮮明で、長く続き、複雑怪奇である。目が覚めても、しばらくは最後の夢を覚えていることがある。
 人間は、全人生の36%を睡眠に費やしている。睡眠とは、個体がうまく適応できていない環境内で活動することを避ける、身体的な不活動の時期を指す。この時期に、活動期に最適な結果が得られるようにする一連の基本的な生物学的活動が実行される。
 人間を含むほとんどの動植物において自己の概日リズムを昼夜のサイクルにあわせる、つまり「引き込む」ときのもっとも重要なシグナルは、光、とりわけ日の出時と日没時の光である。
 時差ボケは、睡眠と概日リズムの混乱をSCRDという。SCRDは、コルチゾールが関与する、さまざまな健康リスクを高める。
 不適切な睡眠はSCRDの重要な特徴である。交替勤務の年数、交替の頻度、1週間あたりの夜間勤務時間が増えれば増えるほど、がん発症のリスクは高まる。夜勤とがんの相関関係は非常に強い。
 年長者はコルチゾールのレベルが高く、そのためSCRDの影響を受けやすい。そして、それがストレスの増大、認知能力の低下、さらには記憶を司(つかさど)る脳領域の縮小につながっていく。
 天才として高名なアインシュタインは、夜の睡眠時間は10時間、そして日中は規則正しい生活を送っていました。天才の脳を動かすのには、夜の10時間の睡眠が必要だったというんですが、とてもマネできません。私は、7時間の睡眠と、ちょっとした「昼寝」を大切にしています。睡眠はとても大切にしています。ともかく睡眠不足では頭がまわらなくなるからです。
でも、アインシュタインのように10時間を確保しようとは考えていません。もちろん、天才ではありませんし…。
(2024年8月刊。2800円+税)

筆の音

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中山 伸 、 出版 大田文化の会
 東京都大田区で活動している民主的な人々が創立46周年を記念して発行した本です。私が大学生のころ川崎セツルメントに所属して活動していたときの先輩(太田政男さん)から贈呈されました。
 今は亡くなられた人を含め、有名人がずらり並んでいて壮観です。
 まずは、マルセ太郎(2001年1月22日没、67歳)。私は直接、その劇を見聞きしたことはありませんが、映画「泥の河」をひとり舞台で演じたのは圧巻でした(と聞いています)。50歳すぎまで売れなかったそうです。でも、最後は華々しい活躍でした。
 そして、井上ひさし(2010年4月9日没、75歳)。私のもっとも敬愛する作家です。「知の巨人」、「稀有(けう)の文豪」という評価に、まったく偽(いつわ)りはありません。
 井上ひさしの人生は、「言葉」で時代や世の中と真剣勝負をしつづけた生涯だった。日本語の素晴らしさを身をもって示した人間だった。何事も笑いに変える能力にたけた人間だった。これは畑田重夫の井上ひさしの評言ですが、ずばりそのとおりです。
 そして永井智雄(1991年6月17日没、77歳)の名前に久しぶりに接しました。NHKテレビ「事件記者」の相沢キャップ役が大当たりでした。私が小学生のころに観ていた、なつかしい番組です。いかにも知的で、いつだって物事を深く考えようとする表情・姿勢がとても印象深く残っています。この本を読んで、戦前から劇団員として活躍していて、召集されて兵隊にもとられていたことを知りました。戦後は、劇団員、俳優として活動しながら、革新懇話会などでも活躍していたのですね…。
 そして、映画「ドレイ工場」です。大学生のころに観た映画です。「男はつらいよ」では倍賞千恵子の夫役の前田吟が主役を演じました。志村喬が社長を演じています。
 この映画の苦労話として、ギャラが日給制だったということが紹介されています。すべてのスタッフ・キャストが1日3500円から2000円までの日給制だったなんて、信じられません。
 そして、撮影はすべてオールロケ。12ヶ所でロケした。エキストラも、のべ2700人。1968年に始まった上映運動は150万人の観客動員を成功させた。いやあ、すごい映画でしたし、迫力がありました。いまの日本でも、労働組合は労働者の生活を守り、権利を伸ばすために不可欠なものだということを広めるため、ぜひ見てほしい映画です。
 いま、アメリカでもヨーロッパでも、労働組合運動が盛り上がっていて、どんどんストライキをやっていて、成果を勝ちとっています。今どきストライキをやっていないのは日本くらいです。委員長に人を得て(連合の芳野女史のような自民党べったりのダラ幹部ではなく、資本家と対等にわたりあえる人)、若者を広く結集して活動しているのです。
日本だって、出来ないわけがありません。投票率53%という低すぎる壁を打ち破る力が労働組合にはあると確信しています。
(2024年9月刊。2000円)

栄光の松竹歌劇団史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小針 侑起 、 出版 日本評論社
 浅草を舞台に激動の昭和を駆け抜けたスターたちの50年史です。
私が知っているのは、SKD(松竹歌劇団)のなかでは、水の江瀧子、淡路恵子、草笛光子そして倍賞千恵子です。
 倍賞千恵子はトップの成績で卒業したのですね。でも、映画「男はつらいよ」は、まさに当たり役(はまり役)だったと思います。
私がこの本を読んだのは、戦前のターキーの活躍ぶりを調べたかったからです。ターキーが舞台で活躍しはじめたころ、私の父も20歳前で、ちょうどそのころ東京にいたのでした。
1931(昭和6)年11月、新宿の新歌舞伎座での公演のとき、水の江はカウボーイの親分役を演じ、「俺は、ミズノーエ・ターキーだ」と大見得(みえ)を切ったのが大受けして、それから「ターキー」の愛称で親しまれるようになった。このとき、ターキーは、まだ16歳でした。怖いもの知らずの年齢ですよね。
 ターキーは、それまでのオカッパ頭をショートカットにして、シルクハットの燕尾(えんび)服という颯爽(さっそう)とした舞台姿で舞台に登場した。
 派手な衣裳に身を包んだ17歳のターキーの男装ぶりは瑞々(みずみず)しく美しく、観客を完全に魅了した。
ターキーには熱烈なファンが大勢いて、強力なファンクラブもつくられていました。月刊誌「タアキイ」まで発行されていたのです。会員はなんと2万人もいました。
そして、18歳のターキーは争議団の委員長にかつぎあげられるのです。
 ときは、1933(昭和8)年6月のこと。ともかく出演料が安かったのです。ターキーらスター級でも80~100円、群舞のメンバーだと10~20円といいますから、あまりに安すぎます。そこから通勤費も化粧代も自己負担。
少女歌劇の生徒227人のうち258人が争議に参加したのでした。そして賃上げなどを要求しました。たとえば、研究生は15円、本科生になったら40円とせよ、組合加入の自由を認めよとか、40項目近くを要求しました。ところが、松竹側はほとんど拒否。そこで、争議団は本部を構えて本格的なストライキに突入。このとき、若い女性たちの保護者会として、父兄も同調して応援しています。
 会社が争議団の切り崩しを図り、争議を脱落した女性もいましたが、舞台に立つと「お詫びガール」として観客から冷たい視線を浴びたとのこと。
 そして、ついに7月15日、それなりに要求を満たして、円満解決。争議費用として、会社は争議団に6000円もの大金を見舞金名目で支払いました。
 このとき、争議団は会社側の切り崩しを避けるため、湯河原温泉に120人も籠城したのでした。これらの動きをメディアは大きく取り上げ報道しました。これが世間を騒然とさせた「桃色争議」です。ターキーたちは、特高警察に検挙され留置場にも入れられています。
 そして、ターキーの復帰第一作が松竹歌劇史上最高傑作といわれる「タンゴ・ローザ」。1933年10月29日から東京劇場、11月6日から浅草松竹座で公演。ターキーは闘牛大服に身を包んで登場したのでした。この「タンゴ・ローザ」の公演は浅草草松竹座だけでも74回、大阪・京都をふくめると160回も公演が開かれた。
 いやはや、ターキーへの熱狂ぶりはすさまじいものだったようです。美空ひばりの母親もターキーの熱烈なファンの一人だったそうです。
戦前、労働争議がいかに盛んだったか、それを父兄も観客の女性も応援していたことも分かります。今ではちょっと考えられませんよね…、いささか残念というほかありません。いや、日本だって、アメリカと同じようにストライキが頻発する日がきっと来るはずです。
(2024年10月刊。2500円+税)

アメリカ連邦最高裁判所

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 リンダ・グリーンハウス 、 出版 勁草書房
 日本の最高裁の裁判官の国民審査で、10%以上の人々が不信任を突きつけたのは異例でした。めったにありませんが、たまに良い判決を下すこともあるものの、たいていは三下り半の、無内容のうえ、しょっちゅうひどい判決を出している裁判官に対する国民の不信感のあらわれだと私は思いました。今の日本の最高裁判事の名前を知ってる国民は、ごくごくわずかでしょう。私も長官の名前くらいをうっすらと知っているだけです。
 その点、アメリカの連邦最高裁判事は国会で激しい審判を受けて選任されますので、かなり周知されていますよね。
アメリカの連邦最高裁は、20世紀半ば近くまで、専用の土地を持っていかなかった。それくらいの位置にあったということ。いやあ、これには驚きましたね…。
 最高裁判事は終身制なのに、40台、50台で任命されることが珍しくない。なので、20年も30年も判事を続けることが少なくない。日本だと、64歳くらいで任命されるので、せいぜい6年ほどの任期です。
 アメリカの連邦最高裁は上訴された事件のうちの1%だけに判決を下している。
 歴代の判事は全員が法律家であるが、実は正式な資格要件は定められていない。当初は、全員が白人男性で、プロテスタントだった。その後、カトリック系も出て、ユダヤ教徒もいるようになった。女性も9人のうち4人を占めるまでになっている。出身地の地理的要素は問題になっていない。なお、その前職は、大半が連邦控訴審判事がほとんど。
 黒人女性判事が任命されたのは2022年のこと。
連邦最高裁判事になったあと保守側からリベラルに変わった判事は何人もいるけれど、在任中に保守化した判事は、ほんの数人にすぎない。
連邦裁判所の組織には、1200人の終審裁判官、それ以外の850人の裁判官、3万人の職員がいて、80億ドルの予算をもっている。
 日本の司法予算は3000億円で、ほとんど増えないどころか、むしろ人件費を含めて減っています。
毎年数千件もある上訴申立事件のなかから連邦最高裁は数十件しか受理しない。それを選別しているのは、若くて精力的なロー・クラークたち。
 連邦最高裁は、判決言い渡し期日は事前に発表しない。しかし、判決文は、言渡後の数分以内に最高裁のウェブサイトにアップされる。
 連邦最高裁の法廷内はテレビにもカメラにも撮影は許されていない。
 裁判官が世論を意識するのは避けられないというだけでなく、実は望ましく必要なことだと述べられていますが、私もまったく同感です。神のみぞ知る、なんてこと言って唯我独尊に陥るより、世論の動向を踏まえた常識的な判決のほうが、害は少ないと私は考えています。
 上訴申立書には、9千字という字数制限があるそうです。上訴が受理されたあとの本案趣意書も1万3千字内という制限がある。私は、これはこれで理解できます。格別な案件については、例外措置を設けておけば目的は達成できるのです。
 アメリカの連邦最高裁と日本の最高裁の違いを考えさせられました。
(2024年7月刊。3200円+税)

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