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裁判の非情と人情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原田 國男 、 出版  岩波新書
読んでいると、なんだか、ほわーっと心が温まってくる、そんな本です。
私は東京から帰ってくる飛行機のなかで読了しましたが、それこそフワーッと心が浮き上がってしまいました。その心地良さにです。
ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
無罪判決は、楽しくてしょうがない。筆が自然と伸びる。文章の長さなど気にならない。気が付いてみれば、長文となっただけで、それを目ざしたわけでもなく、長文を書かなければと苦しんだわけでもない。ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
そもそも、しっかり書けないような無罪判決は、その判断や理由づけに問題があるからであり、考え直したほうが賢明である。無理して無罪にする義理はない。
無罪判決を続出すると、出世に影響し、ときに転勤させられたり、刑事担当から外されたりする。これは、残念ながら事実である。だから、無罪判決をするには勇気がいる。
しかし、無罪だと信じる事件を有罪とする裁判官がいたら、それだけで失格であり、裁判官が犯罪者に転落してしまう。
私も、現実に、裁判官に勇気がないから無罪判決を書けなかったんだなと感じたことが複数回あります。重大事件とか警備公安事件ではなく、一般のフツーの事件について、です。
被告人の更生に関心をもたなくなったら、刑事裁判は終わりである。
裁判官は、訓戒すべきだと著者は言いますが、私も同じ考えです。ムダなので何も言わないという裁判官にあたると、ガッカリします。
著者は、裁判官は小説や映画をたくさん読んで観てほしいと強調しています。これまた、まったく同感です。
寅さん映画は、ぜひ観てほしい。まさしく人情とは何かを語っているからだ。
裁判官は、多くの文芸作品や小説を読むべきである。自分では経験できないようなことも、小説を通じて感得することが可能なのだ。
著者が勧めているのは藤沢周平と池波正太郎の『鬼平犯科帳』です。
私は、山本周五郎もいいと思います。藤沢周平は、「たそがれ清兵衛」など映画になったのもいいですよね。
『世界』の連載コラムが本になったものです。コラムは読んでいませんでしたので、すべて初めて読んだわけですが、こんな芯のある裁判官が残念ながら少なくなりました。「青法協」退治の負の遺産が今も残念ながら確固として生きているのです。そして、それを打破すべき弁護士任官も、裁判所の厚い壁にぶつかっている現実があります。
軽く読めて、フワッとする心地よいコラムですが、よくよく考えてみると、実に重たい内容ばかりです。
法曹関係者には広く読まれてほしい本です。
(2017年2月刊。760円+税)
春になりました。チューリップの花が色とりどりに咲き誇っています。ウグイスの鳴き声を聞きながら春の陽差しの下で庭を手入れするのが至福のひとときです。とはいっても、実は花粉症に悩まされる季節でもあります。なんとか薬に頼らずに乗り切りたいと、毎年はかない抵抗をしています。毎朝のヨーグルトと寝る前の鼻洗いだけが予防薬です。
それにしても春は陽が長くて、いいですよね。暑くもなく、寒くもなくて・・・。

歯みがき100年物語

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ライオン歯科衛生研究所 、 出版  ダイヤモンド社
いま、毎日、合計10分間の歯みがきに挑戦中です。歯ぐきに違和感があったので歯科医院に行ったところ、心配していた虫歯はありませんでした。そのとき歯周病の恐ろしさから、毎日20分間の歯みがきをすすめられたのです。実際やってみると大変です。キッチンタイマーを目の前にして歯ブラシを動かしますが、夕食後の6分間は、すごく長く感じられます。
歯の表面をこするより、歯ぐきのマッサージのつもりです。まだまだ力の入れすぎだと反省しています。やり始めた直後は、口を開けている時間が急に長くなったせいで、アゴが痛くて、かむ力が弱くなった気がしたほどです。
そんな苦労をしているときに、この本を紹介されたので、さっそく読んでみました。
庶民が今のような歯みがきを日常的にするようになったのは、明治になって歯みがき剤や歯ブラシが普及してからのこと。
明治になってから、人々が甘い物をたくさんとるようになって、明治末期になると、子どものむし歯罹患率は96%に達した。このままでは、むし歯で国が滅んでしまうという危機感から、口腔衛生思想の普及活動が強まった。
今では、小学生(12歳)のむし歯保有数は1本を切っている。そして8020運動(80歳になったとき、自分の歯を20本もっている人が50%以上)の目標達成に近づいている。
私は、むし歯にやられたのは一本だけです(差し歯をしています)。歯は大切ですよね。
平安時代から江戸時代まで続いていたお歯黒(はぐろ)には、むし歯予防の効果もあった。でも、なんだか気持ち悪いですよね。黒い歯って・・・。やっぱり、歯は白いのが一番です。
日本人の歯並びの悪さは世界でも突出している。
江戸吉原の遊廓では、客が朝帰りするときに、楊枝と歯みがき袋、うがい茶碗を出していた。
子どもたちのむし歯洪水が急速に改善した要因として、フッ素配合の歯みがき剤があげられる。
歯垢(しこう)は、歯の表面に付着した飲食物の残りかすと思うのは間違い。本当は細菌のかたまり。これをそのままにしておくと石灰化が始まり、歯石(しせき)になる。
歯周病は、糖尿病を悪化させる要因のひとつ。日本人の成人で歯周病をかかえている人は8割。歯周病は、糖尿病の6番目の合併症。
よくかんで食べる。食後にはきちんと歯みがきをする。寝る前にも歯みがきをする。
すこやかな生活を送る工夫のひとつだと思います。いい本でした。
(2017年1月刊。1800円+税)

カロライン・フート号が来た

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山本 有造 、 出版  風媒社
1855年(安政2年)3月15日(日本暦1月27日)にアメリカ商船カロライン・E・フート号が下田港に入って来た。ペリー艦隊が既に来て、次いでロシアのプチャーチン使節団が来たあと、アメリカ人が商売にやってきたのだ。
6人の平服の紳士が3人の妙齢の婦人を伴い、さらに2人の幼い子どもを連れてきた。そして、2ヶ月半も下田に留まった。西洋人の女性が日本に上陸したのは文化14年(1817年)の長崎以来の、50年ぶりのこと。
3組の夫婦が子ども連れで町を練り歩いたことから、一大センセーションを巻き起こした。子どもは、9歳の男の子と5歳の女の子だった。彼らは、子どものペットとして犬二匹のほかに鹿まで連れていた。鹿の絵が描かれているので間違いない。
なかでも、ドーティー夫人は「容顔美麗、丹花の唇、白雪の膚」で「衆人の眼を驚かせ、魂を飛ば」せた。なにしろ芳紀22歳。目の覚めるような美女だったようです。
これらのアメリカ人は日本へ何をしにやって来たのか・・・。
彼らは、日本に住み込んで、商売をしようという商人パイオニアだった。実際には、日本に住み込むことは出来ませんでしたが、日本の目ぼしい品物を大量に買い込んでアメリカ本国で売り出して、大もうけしたのです。
日本の工芸品や骨董品を7400ドルで買い込み、それをサンフランシスコで売り出したところ、売上額2万3000ドルになった。大もうけしたわけです。
そこで、日本物産を輸入してひともうけしようという冒険商人が次々に日本を目ざした。
自由闊達にふるまった三人の女性と二人の子どもについて、接触した日本人のほとんどが魅了された。アメリカは美女の多い国であり、子どももきれいだ。それで、彼女らを描いた絵がたくさん残されている。
ただし、アメリカは、やがて南北戦争が激しくなり、しばらくは日本どころではなくなった。
幕末の日本にアメリカの若き女性を連れた商人たちが押しかけていた事実をその絵(もちろんカラー)とともに知ることができました。
(2017年2月刊。2000円+税)

重版未定

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川崎 昌平 、 出版  河出書房新社
私の本は、残念なことに、一つを除いて、すべて重版にはなりませんでした。私としては、数万部とまではいかなくても万に近い数千部は売れると見込んでいたのですが・・・。ですから、文庫本にして、さらに売るつもりだった思惑も、見事にはずれてしまいました。
この本は、出版業界の、なかなか思うように本が売れないという悩み深い現場をマンガで描いています。私にとっても、身につまされる話で、思わず泣けてきました。だって、本を出版する以上、やはり大いに売れて、たくさんの人に読んでほしいじゃありませんか・・・。
ちなみに、私の売れた本の最高は800部です(『税務署なんか怖くない』)。
カラー印刷は、ふつう4色の版を重ねて色を表現する。その版がずれると、輪郭線が鋭くなったり、紙色が見えてしまったりする。
カラー印刷って、いつも平気で見慣れていますけれど、あれってよく考えると、不思議なんですよね。たった4色で、あれだけ複雑かつ微妙な色あい・濃淡を再現できるのも不思議ですし、版のずれが起きないというのも私には摩訶不思議なことです。
実売印税とは、実際に売れた部数をベースに設定されるもの。実売印税8%だとすると、2000円の本が1000部売れたら、著者の印税収入は16万円となる。
私の場合、8000部も売れたときには、それなりの印税収入となりましたが、それを元手として新聞広告をうったので、差引ゼロに等しくなりました。広告代を著者負担で新聞一面下に広告を出すことにしたのです。あまり効果はありませんでしたが、自己満足にはなりました。
書店の平積み。書店は、売れる見込みの高い商店(本)しか平積みはしない。
ですから、私の本はなかなか(1回だけしか)平積みしてくれないのが現実です。
出版社のぞくぞくする実際を知りたい人には必読というべき真面目なマンガ本です。
(2016年11月刊。1000円+税)

いのちの終着駅、三菱勝田・大谷坑

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 岩佐 英樹 、 出版  宮木印刷
著者は高校で社会科の教師をしていました。宇美商業高校には社研部があり、その顧問をしていたのです。
社研部に属する高校生たちが、宇美町にあった三菱勝田大谷坑における中国人強制連行、強制労働の実情を掘り起こして研究発表したのでした。
中国人労工352人のうち、87人が死亡した。1年3ヶ月で25%もの死者を出すというのは驚異的な死亡率である。30代で3割、40代で6割、50代では10割、全員が死亡した。労工の平均死亡年齢は、なんと32歳。
ところが雇用主であった三菱鉱業の報告書では、次のように記述されていた。
「会社は戦時中の物資不足時にもかかわらず、食糧、衣服、住居、医療、労働条件、賃金や手当などにおいて可能な限り優遇した。
それは、社内の日本人や朝鮮人から不満が出るほどだった。しかし、中国人労工は、まったく労働意欲のない連中だった。おかげで会社は大変な迷惑を蒙った。多くの死亡者が出たのは、彼らの虚弱病弱な体質に原因があった」
上海で「労工募集」の張り紙が貼りだされたが、それによると、支度金として900円を出発前と到着後に2回支給する。そして、日給は54円から72円。当時、日本の役場の初任給は月に70~80円だったから、破格の好条件である。
仕事がなくて困っている中国人をだまし、近寄ってきたところを拉致して日本へ連行するという「労工狩り」がすすめられた。
この本を読んで驚くのは、中国人労工を働かせて、多くの人を死に追い込んでいる日本企業が戦後になって莫大な補助金を国からもらっているということです。
中国人を強制労働させたために会社は赤字になったので、その赤字を補填してもらいたいといって、35社に600億円(1946年当時のお金で5672万円)が支払われたというのです。信じられません。しかも、この35社は、黒字を出していたのに、赤字だと偽って国から補助金をもらったというのですから、まさしく開いた口がふさがりません。まさしく詐欺です。森友事件よりひどいです。
高校生たちが中国の遺族へ手紙を出したところ、一通だけ届いたとのこと。中国人労工の遺族から返信があったのです。
そして、大谷坑の購買店で働いていた若い日本人女性と親しくなった中国人が戦後、中国へ帰国し、今ではシンガポールで元気に生活している本人から突然、その女性にエアメールが届き、再会したのでした。
歴史を掘り起こすことは大切なことだと実感させられる本でもありました。
(2017年2月刊。1000円+税)

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