法律相談センター検索 弁護士検索

蜜蜂と遠雷

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 恩田 陸 、 出版  幻冬舎
うまいですね。よく出来てますね。この本は、有明海を渡るフェリーの住復の船中で読んだのですが、まさしく至福のひとときを過ごすことが出来ました。
私の親しい友人の勧めから読んだ本です。もちろん直木賞を受賞した本だというのは知っていましたが、賞をとった本が必ずしも私の好みにあうとは限りませんので、先送りしていました。
よく言われることですが、面白い本というのは、初めの1頁せいぜい2頁までに分かります。この本は、出だしの3頁を読むと、何か面白いことが起きそうだという気がしてきて、頁をめくって次の展開がどうなるのか、はやる気持ちが抑えられなくなります。
ピアノのコンクールに出場するピアニストの心情、そして演じられる曲が実に言葉豊かに表現されるのです。まったくピアノの曲目のことを知らない門外漢の私にも妄想たくましくというか、果てしない想像をかきたててくれるのです。その筆力には完全に脱帽です。
うーん、これは、すごい。心憎いばかりに計算され尽くした展開には茫然とするばかりです。
幼いころからレッスン漬けで頭角をあらわし、著名な教授に師事していれば、めぼしい者は業界内では知れ渡っている。また、そんな生活に耐えている者でなければ、「めぼしい」者にはなれない。まったく無名で、彗星のごとく現れたスターというのは、まずありえない。
プレッシャーの厳しいコンクールを転戦して制するくらいの体力と精神力の持ち主でない限り、過酷な世界ツアーをこなすプロのコンサートピアニストになるのは難しい。
技術は最低限の条件にすぎない。音楽家になれる保証など、どこにもない。運良くプロとしてデビューしても、続けられるとは限らない。
幼いころから、いったいどれくらいの時間を、黒い恐ろしい楽器と対面して費やしてきたことか。どれほど子どもらしい楽しみを我慢し、親たちの期待を背負いこんできたことか。
誰もが、自分が万雷の喝采をあびる日を脳裡に夢見ている。
練習を一日休むと本人に分かり、二日休むと批評家に分かり、三日休むと客に分かる。
いいなあ。心から幸福を覚えた。
いいなあ。ピアノって、いいなあ。ショパンの一番、いいなあ。
音楽って、ほんと、いいなあ。
なんだろう、音楽って。
ただ、限りない歓びと、快感と、そして畏怖とが確かに存在しているだけだ。
音楽、ピアノ、そしてコンクールのことを何も知らなくても、十二分に楽しめる本です。すごい言葉のマジックに酔わされてしまいました。
絶対おすすめの本です。
(2017年1月刊。1800円+税)

裁判の非情と人情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原田 國男 、 出版  岩波新書
読んでいると、なんだか、ほわーっと心が温まってくる、そんな本です。
私は東京から帰ってくる飛行機のなかで読了しましたが、それこそフワーッと心が浮き上がってしまいました。その心地良さにです。
ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
無罪判決は、楽しくてしょうがない。筆が自然と伸びる。文章の長さなど気にならない。気が付いてみれば、長文となっただけで、それを目ざしたわけでもなく、長文を書かなければと苦しんだわけでもない。ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
そもそも、しっかり書けないような無罪判決は、その判断や理由づけに問題があるからであり、考え直したほうが賢明である。無理して無罪にする義理はない。
無罪判決を続出すると、出世に影響し、ときに転勤させられたり、刑事担当から外されたりする。これは、残念ながら事実である。だから、無罪判決をするには勇気がいる。
しかし、無罪だと信じる事件を有罪とする裁判官がいたら、それだけで失格であり、裁判官が犯罪者に転落してしまう。
私も、現実に、裁判官に勇気がないから無罪判決を書けなかったんだなと感じたことが複数回あります。重大事件とか警備公安事件ではなく、一般のフツーの事件について、です。
被告人の更生に関心をもたなくなったら、刑事裁判は終わりである。
裁判官は、訓戒すべきだと著者は言いますが、私も同じ考えです。ムダなので何も言わないという裁判官にあたると、ガッカリします。
著者は、裁判官は小説や映画をたくさん読んで観てほしいと強調しています。これまた、まったく同感です。
寅さん映画は、ぜひ観てほしい。まさしく人情とは何かを語っているからだ。
裁判官は、多くの文芸作品や小説を読むべきである。自分では経験できないようなことも、小説を通じて感得することが可能なのだ。
著者が勧めているのは藤沢周平と池波正太郎の『鬼平犯科帳』です。
私は、山本周五郎もいいと思います。藤沢周平は、「たそがれ清兵衛」など映画になったのもいいですよね。
『世界』の連載コラムが本になったものです。コラムは読んでいませんでしたので、すべて初めて読んだわけですが、こんな芯のある裁判官が残念ながら少なくなりました。「青法協」退治の負の遺産が今も残念ながら確固として生きているのです。そして、それを打破すべき弁護士任官も、裁判所の厚い壁にぶつかっている現実があります。
軽く読めて、フワッとする心地よいコラムですが、よくよく考えてみると、実に重たい内容ばかりです。
法曹関係者には広く読まれてほしい本です。
(2017年2月刊。760円+税)
春になりました。チューリップの花が色とりどりに咲き誇っています。ウグイスの鳴き声を聞きながら春の陽差しの下で庭を手入れするのが至福のひとときです。とはいっても、実は花粉症に悩まされる季節でもあります。なんとか薬に頼らずに乗り切りたいと、毎年はかない抵抗をしています。毎朝のヨーグルトと寝る前の鼻洗いだけが予防薬です。
それにしても春は陽が長くて、いいですよね。暑くもなく、寒くもなくて・・・。

歯みがき100年物語

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ライオン歯科衛生研究所 、 出版  ダイヤモンド社
いま、毎日、合計10分間の歯みがきに挑戦中です。歯ぐきに違和感があったので歯科医院に行ったところ、心配していた虫歯はありませんでした。そのとき歯周病の恐ろしさから、毎日20分間の歯みがきをすすめられたのです。実際やってみると大変です。キッチンタイマーを目の前にして歯ブラシを動かしますが、夕食後の6分間は、すごく長く感じられます。
歯の表面をこするより、歯ぐきのマッサージのつもりです。まだまだ力の入れすぎだと反省しています。やり始めた直後は、口を開けている時間が急に長くなったせいで、アゴが痛くて、かむ力が弱くなった気がしたほどです。
そんな苦労をしているときに、この本を紹介されたので、さっそく読んでみました。
庶民が今のような歯みがきを日常的にするようになったのは、明治になって歯みがき剤や歯ブラシが普及してからのこと。
明治になってから、人々が甘い物をたくさんとるようになって、明治末期になると、子どものむし歯罹患率は96%に達した。このままでは、むし歯で国が滅んでしまうという危機感から、口腔衛生思想の普及活動が強まった。
今では、小学生(12歳)のむし歯保有数は1本を切っている。そして8020運動(80歳になったとき、自分の歯を20本もっている人が50%以上)の目標達成に近づいている。
私は、むし歯にやられたのは一本だけです(差し歯をしています)。歯は大切ですよね。
平安時代から江戸時代まで続いていたお歯黒(はぐろ)には、むし歯予防の効果もあった。でも、なんだか気持ち悪いですよね。黒い歯って・・・。やっぱり、歯は白いのが一番です。
日本人の歯並びの悪さは世界でも突出している。
江戸吉原の遊廓では、客が朝帰りするときに、楊枝と歯みがき袋、うがい茶碗を出していた。
子どもたちのむし歯洪水が急速に改善した要因として、フッ素配合の歯みがき剤があげられる。
歯垢(しこう)は、歯の表面に付着した飲食物の残りかすと思うのは間違い。本当は細菌のかたまり。これをそのままにしておくと石灰化が始まり、歯石(しせき)になる。
歯周病は、糖尿病を悪化させる要因のひとつ。日本人の成人で歯周病をかかえている人は8割。歯周病は、糖尿病の6番目の合併症。
よくかんで食べる。食後にはきちんと歯みがきをする。寝る前にも歯みがきをする。
すこやかな生活を送る工夫のひとつだと思います。いい本でした。
(2017年1月刊。1800円+税)

カロライン・フート号が来た

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山本 有造 、 出版  風媒社
1855年(安政2年)3月15日(日本暦1月27日)にアメリカ商船カロライン・E・フート号が下田港に入って来た。ペリー艦隊が既に来て、次いでロシアのプチャーチン使節団が来たあと、アメリカ人が商売にやってきたのだ。
6人の平服の紳士が3人の妙齢の婦人を伴い、さらに2人の幼い子どもを連れてきた。そして、2ヶ月半も下田に留まった。西洋人の女性が日本に上陸したのは文化14年(1817年)の長崎以来の、50年ぶりのこと。
3組の夫婦が子ども連れで町を練り歩いたことから、一大センセーションを巻き起こした。子どもは、9歳の男の子と5歳の女の子だった。彼らは、子どものペットとして犬二匹のほかに鹿まで連れていた。鹿の絵が描かれているので間違いない。
なかでも、ドーティー夫人は「容顔美麗、丹花の唇、白雪の膚」で「衆人の眼を驚かせ、魂を飛ば」せた。なにしろ芳紀22歳。目の覚めるような美女だったようです。
これらのアメリカ人は日本へ何をしにやって来たのか・・・。
彼らは、日本に住み込んで、商売をしようという商人パイオニアだった。実際には、日本に住み込むことは出来ませんでしたが、日本の目ぼしい品物を大量に買い込んでアメリカ本国で売り出して、大もうけしたのです。
日本の工芸品や骨董品を7400ドルで買い込み、それをサンフランシスコで売り出したところ、売上額2万3000ドルになった。大もうけしたわけです。
そこで、日本物産を輸入してひともうけしようという冒険商人が次々に日本を目ざした。
自由闊達にふるまった三人の女性と二人の子どもについて、接触した日本人のほとんどが魅了された。アメリカは美女の多い国であり、子どももきれいだ。それで、彼女らを描いた絵がたくさん残されている。
ただし、アメリカは、やがて南北戦争が激しくなり、しばらくは日本どころではなくなった。
幕末の日本にアメリカの若き女性を連れた商人たちが押しかけていた事実をその絵(もちろんカラー)とともに知ることができました。
(2017年2月刊。2000円+税)

重版未定

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川崎 昌平 、 出版  河出書房新社
私の本は、残念なことに、一つを除いて、すべて重版にはなりませんでした。私としては、数万部とまではいかなくても万に近い数千部は売れると見込んでいたのですが・・・。ですから、文庫本にして、さらに売るつもりだった思惑も、見事にはずれてしまいました。
この本は、出版業界の、なかなか思うように本が売れないという悩み深い現場をマンガで描いています。私にとっても、身につまされる話で、思わず泣けてきました。だって、本を出版する以上、やはり大いに売れて、たくさんの人に読んでほしいじゃありませんか・・・。
ちなみに、私の売れた本の最高は800部です(『税務署なんか怖くない』)。
カラー印刷は、ふつう4色の版を重ねて色を表現する。その版がずれると、輪郭線が鋭くなったり、紙色が見えてしまったりする。
カラー印刷って、いつも平気で見慣れていますけれど、あれってよく考えると、不思議なんですよね。たった4色で、あれだけ複雑かつ微妙な色あい・濃淡を再現できるのも不思議ですし、版のずれが起きないというのも私には摩訶不思議なことです。
実売印税とは、実際に売れた部数をベースに設定されるもの。実売印税8%だとすると、2000円の本が1000部売れたら、著者の印税収入は16万円となる。
私の場合、8000部も売れたときには、それなりの印税収入となりましたが、それを元手として新聞広告をうったので、差引ゼロに等しくなりました。広告代を著者負担で新聞一面下に広告を出すことにしたのです。あまり効果はありませんでしたが、自己満足にはなりました。
書店の平積み。書店は、売れる見込みの高い商店(本)しか平積みはしない。
ですから、私の本はなかなか(1回だけしか)平積みしてくれないのが現実です。
出版社のぞくぞくする実際を知りたい人には必読というべき真面目なマンガ本です。
(2016年11月刊。1000円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.