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北朝鮮、終りの始まり

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 斎藤 直樹 、 出版  論創社
本文500頁近くもある堂々たる大作です。北朝鮮の現代史をあますところなく論述していて、説得力があります。まずは現在の金正恩政権をどうみるか、です。
金正恩を後継者に選任するよう金正日に助言したのは、金正日の妹婿の張成沢だった。このとき金正恩は30歳にもなっていない青年。金正日は金正恩を補佐する後見人役を張成沢と夫である実妹の金敬姫に託した。この決定を意外と思ったのは、当時の組織指導部を牛耳っていた第一副部長の李済剛などの幹部たち。
金正日は、2011年12月17日に亡くなった。そして、2年後の2013年12月、張成沢が粛清された。
張成沢は2回も失脚し、左遷されながらも、復権を果たした人物である。
張成沢の取り仕切る党行政部は、権力中枢を占める党組織指導部、朝鮮人民軍、国家安全保衛部の幹部達と激しい利権争いを繰り広げた。
張成沢は金正恩を動かし、不可侵ともいえる朝鮮人民軍の利権を侵食しようとした。これに対して、朝鮮人民軍総参謀長・李英浩の配下は張と党行政部に対して激しい恨みをもった。総参謀長の解任が張成沢に対する人民軍の敵対心を一層強めたことは間違いない。
張成沢は、朝鮮労働党中央委員会行政部長、朝鮮労働党政治局委員、国防委員会副委員長などの要職を手中に収め、金正恩指導部で事実上の権力を掌握し、しかも中国指導部から北朝鮮における最も重要な人物の一人であると認知された。ところが、これについて北朝鮮の支配層のすべてが歓迎していたわけではなかった。
2013年7月、張成沢が催した盛大な酒宴の場で、側近たちが「張部長同志、万歳」と礼賛した。ところが「万歳」は、北朝鮮の最高権力者のみに許されたものだった。それを知って「万歳」したということは、張成沢が最高権力者を企むものという格好の口実を与えることになった。
張成沢は、朝鮮人民軍と外貨獲得競争で激しくしのぎを削った。漁業権は、朝鮮人民軍にとって重要な利権の一部であった。ところが、その漁業権が張成沢の取り仕切る党行政部が握るようになり、朝鮮人民軍幹部の怒りを買った。
2013年9月、金正恩は張成沢の側近たちをまずは逮捕して処刑した。そして12月には、張成沢を逮捕して、死刑判決が下され、即日処刑された。
張成沢は国家転覆陰謀行為に該当する。凶悪な政治的野心家、陰謀家、希代の友逆者というレッテルを貼られた。
祖父・金日成、父・金正日という二人の金は、自身の権力基盤に刃向う者たちに対して仮借なき粛清を続けながら、自身の権力基盤の確立と安定を図った。その意味で、金正恩が叔父にあたる張成沢を刃にかけたことも理解できる。金日成にはじまり、金正日を経て金正恩に至る三代にわたる金体制を通じて一貫して流れるのは、独裁体制の確立とその堅持のためには仮借なき粛清を常としてきた。金正日の葬儀で代表をつとめた7人のうち、これまで張成沢を含めた5人が既に排除されている。
金正日時代にまして、金正恩体制の権力構造は不透明で不確実であり、権力基盤は必ずしも盤石であるとは言いがたい。金正恩が朝鮮人民軍と手を組んでいる限り、「先軍政治」が優先され、中国や韓国などとの経済協力路線はなかなか進まない。金正恩は、基本路線として、経済再生と先軍政治の双方をかかげている。しかし、この二つは、本質的に相友するものなので、板ばさみにあうのは必至である。
いつ倒れるのか、周囲はひやひやしながら見守っているのに、なかなか倒れないという不可思議な国です。北朝鮮がミサイルを打ち上げるタイミングは、日本の支配層が苦境にあって、内政から目をそらしたときのことが多いという奇妙な現象があります。骨は折れますが、一読する価値が十分にある北朝鮮の研究書です。
(2016年3月刊。3800円+税)

不発弾

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版  新潮社
東芝を連想させる「大手電機企業」の粉飾決算について、小説仕立てで内情を暴露する経済小説です。
ところが、この本では東京と並ぶ第二の舞台が、なんと福岡県大牟田市なのです。大牟田駅のすぐ近くに「年金通り」と呼ばれる目立たない飲食店街があります。まったく偶然にも、この本を読む前日に、私はちょっとした相談を受けていました。売上が10年前の3分の1にまで減っているので、飲みにきてくださいと誘われたばかりだったのです。年金生活者が乏しい年金で飲んで歌って半日すごせるというのが「年金通り」の由来だと聞いています。昔は、店の二階の小部屋で売春が横行しているという噂が立っていました。この本にも、それらしい状況が書き込まれています。そして、暴力団とのつながりも深いとされています。今はともかく、昔は恐らくそうだったのでしょう。昔の大牟田では、利権争いからの暴力団同士の殺人事件が絶えませんでした。
サブの主人公は、そんな大牟田から脱出して、証券会社に入り、無知な人々から大金を騙しとり、次には大企業の使い走りのようにして、利益保証・補填し、役員個人の蓄財にまで狂奔し、そのおこぼれにあずかるのです。
ホンモノの主人公は東大法学部を卒業した警察キャリア。ところが、なんとしてでも自分の手でホシをあげたいという個人的野望につき動かされて行動するのです。さすがに、その行動力とあわせて、各界にのびている広いネットワークのおかげで、大牟田出身の男の実像に迫っていきます。そして、いよいよ大手をかけたところ、アベ首相とモリカケ理事長の個人的関係と同じように、「政治的に処理され」無罪放免されるのです。なんと理不尽なことが起きているのかと、憤慨するばかりです。ところが、先日の都議会議員選挙の投票率は、わずか51%でしかありませんでした。日々、きつい労働に直面している人たちは、投票所に行く元気もないのでしょう。それでも投票所に足を運ばないと、日々の生活がますます暮らしにくくなるだけなのです。やはり怒りの声はあげて、叫ぶ必要があります。
証券取引で、個人投資家は自己責任として、損を出しても平然と見捨てられます。しかし、企業投資家だったら、「損失」は証券会社がカバーしてくれるのです。まことに不公平な仕組みです。許せません。ゼニカネ一本槍の人間はそれでいいのかもしれませんが、やはり世の中は、それだけですまされたくはありません。
国政を私物化するような政治家、目先の利益しか念頭にない大企業には退職・廃業してもらう必要があると私は思います。この本を読んで、ますますそう思いました。
(2017年2月刊。1600円+税)

深海散歩

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 藤倉 克則 、 出版  幻冬舎
「極限世界のへんてこ生きもの」というサブタイトルがついている本ですが、まったくそのとおりです。奇妙奇天烈としか言いようのない形や色をした生物が海底深くに、こんなにも存在しているなんて、神様でもご存知なかったことでしょう。となると、誰が創造主なのか・・・という疑問が生まれます。
私がもっとも奇妙な姿だと思ったのは、カイメンです。枝がハーブのように広がって伸びているカイメン(タテゴトカイメン)、ピンポン玉のような球がいくつもついているカイメン(コンドロクラティア・ランパディグロバス)、打ち上げ花火の形をしているカイメン。これらは肉食性カイメン。甲殻類を食する。
写真をぜひ見てみてください。なんとも不思議な形と色をしています。
水深6000メートルという超深海では植物が育たない。だから、獲物は滅多に出会えない。大きな口をもって、一口で丸飲みしてしまい、逃さない。
リュウグウノツカイは、成長すると、大きなものは10メートルをこえる。銀色の体でウロコはなく、背びれは赤い。人形伝説のモデルになったと思われる。
深海は太陽光が届かない暗黒の世界。なのに、深海にすむ動物たちは、派手な赤や銀などを身にまとう。ほんと、派手すぎる色と形のオンパレードです。
ヒカリボヤは、5000メートルをこえる深海にもすんでいる。数ミリの小さな個虫が集まり、群体として生きている。最大20メートルにもなる。個虫のなかに発光バクテリアが共生しているので、強く明るく光る。
いやはや、生物の多様性には今さらながら驚かされます。人間が万物の霊長だなんて根拠もなく言うのは許されない、そんな気分にさせる素晴らしい深海にすむ生物写真集です。ありがとうございました。
(2017年6月刊。1300円+税)

「レ・ミゼラブル」の世界

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 西永 良成 、 出版 岩波新書
ヴィクトル・ユゴーと、「レ・ミゼラブル」について掘り下げた本です。あの大作を改めて読みたくなりました。といっても、実は、私は全文を通して読んだことはないと思います。子ども向けの本はもちろん読みましたし、フランス語を勉強していますので、いくつかの章は原文でも読んではいるのですが・・・。
ユゴーが死刑廃止を必死で訴えていたというのを初めて知りました。日本の弁護士には、死刑制度の存続を強烈に主張する若手弁護士の集団がいて、私には違和感があります。
死刑とは何か? 死刑とは、野蛮さの特別で永遠のしるしである。死刑が乱発されるところは、どこでも野蛮が支配する。死刑がまれなところは、どこでも文明が君臨する。
驚くべきことに「レ・ミゼラブル」は、カトリック教会の禁書リストに1962年まで入っていた。それは、協会の正統的な教義に反する深刻な内容がふくまれていたからだ。
ユゴーは、洗礼を受けておらず、自分が新でも宗教的儀式とすることを禁止した。しかし、ユゴーは無神論者ではなかった。
ユゴーはルイ・ナポレオンを初めは賛美していたが、あとではナポレオン3世を徹底的に批判した。「レ・ミゼラブル」の発表から8年後、1870年にナポレオン3世は、普仏戦争で捕虜となって退位する。そして、ユゴーは、亡命先からフランスに戻った。1885年に亡くなり、国葬とされたときには、200万人もの人々が葬列に加わった。
ユゴーは、貧困が犯罪を生み、刑務所が犯罪者をつくり出すと考えた。
これは、弁護士生活40年以上になる私の実感でもあります。
ジャン・ヴァルジャンは、意図的に何度もイエス・キリストになぞらえられ、あたかも殉教者のように描かれている。
500頁の文庫本で5冊という大長編小説。登場人物も100人をこえる。
フランスでは、聖書に次いで読まれている。
いやはや、大変な大長編小説なのですね。どうしましょうか・・・、読むべきか、読まざるべきか、それが問題だ。
(2017年3月刊。780円+税)

チェンジ

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 山田 優花 、 出版  海竜社
ウガンダで子どもたち支援活動を5年あまりも続けている日本人の若い女性がいます。すごいですね。ついつい応援したくなります。しかも、彼女は熊本の出身なのです。
著者は「あしながウガンダ」の代表をつとめています。
「あしながウガンダ」が支援する遺児家庭の多くは、母子家庭。
ウガンダでは、男性に比べて女性の立場が弱い。とはいうものの、実は、日本よりもウガンダのほうが女性が活躍している。日本の男女格差指数は世界で101位に対して、ウガンダは58位である。
赤道直下にあるウガンダ共和国は、「アフリカの真珠」と呼ばれるほど緑あふれる美しい国である。標高が高く、国土の大部分が丘陵地帯なので、年間の平均気温は21~23度と温暖で、1年中過ごしやすい。「アフリカの軽井沢」と日本人は呼んでいる。綿花、コーヒー、バナナが主要な輸出品目。
独立後20年間は政情不安定で、内乱が続いたが、ムセベニ大統領のもとで、この30年間は安定して発展してきた。
仏統的な家屋には、室内に風呂やトイレがない。家の外に小さな水浴び場兼トイレ用の小屋が設けられている。キッチンと呼べるものもなく、調理は室内の隅か外のかまどでする。
ウガンダ人は、50以上の民族と相当な数の言語から成っている。ウガンダ人は、ことあるごとに、「何とかなる」と言う。
「時間を守らなければいけない」という意識が乏しい。ただし、ウガンダ人は、ホスピタリティにあつい。そして、純粋な優しさがある。
著者は、女性の一人暮らしをしているので、防犯には気をつかう。鍵と南京錠を幾重にもかけ、枕元に金属バットを置いている。愛猫をなでて、気をやすめる。
あしなが育英会の奨学金を受けて外国語大学に学び、英語と中国語を身につけ、アフリカへ単身とびこんだ勇気ある女性の話は、読んでいて元気が出てきます。
(2017年4月刊。1300円+税)

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