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西はりま天文台の星空日記

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 大島 誠人 、 出版 あけび書房
 私は本格的な天文台には残念ながらまだ行ったことがありませんが、星空を眺めるのは大好きです。夏の夜、ベランダに大きな望遠鏡を据えて、目をじっくり眺めると、浮世の世知辛さをしばし忘れることが出来ます。
この西はりま天文台は一般人にも公開しているそうです。
 JR姫新線の作用駅から7キロの山の上にある天文台。兵庫県の佐用(さよ)町は人口1万7千人。標高435メートルの大撫(おおなで)山の山頂にあります。
 天文台の立地条件は、夜、空が暗いこと。なので、近くに工場街、コンビナートがあるのは良くありません。また、瀬戸内海のように雨があまり降らないところがいいのです。ここにあるなゆた望遠鏡は、口径が2メートルと、日本で2番目に大きい。
 夜だけでなく、昼でも星は見える。そうなんです。星野村にある小さな天文台で私も星を昼に見たことがあります。
 なゆたというのは「那由多」と書いて、万、億、兆そして京の先のほう、万から数えて15番目、10の60乗ということです。
 レンズを使う望遠鏡を屈折望遠鏡、鏡を使うのを反射望遠鏡という。一長一短あるが、研究用としては反射式のほうがダントツに良い。というのも屈折望遠鏡は、ある程度より大きいものをつくるのが非常に難しいから。反射望遠鏡は鏡の表面の良し悪しによる。今はめっき技術が向上している。
 星の寿命は生まれたときの質量で決まっている。質量が大きい星ほど寿命が短い。というのは、質量の大きい星ほど核融合反応が盛んになるので、燃料がどんどん減ってしまい、寿命も短くなってしまう。そのため、大きくて明るい星ほど、寿命が短い。
 若い散開星団には、質量の大きな星がたくさんいるから、そのような星は表面温度が高いので、散開集団には青白い明るい星が目立つ。星が輝き始めるというのは、星の中で核融合反応が始まること。
 著者は高校生のとき、ずっと夜空の星を観察しているうちに、変光星の増光を世界で最初に発見したということで、新聞で大きく紹介されました。たいしたものです。
 ただ、天体観測は夜ですから、生活はとても不規則になり、昼夜逆転の日々を送ることになります。これは大変ですね。私にはとても出来ません。夜はやっぱりちゃんと寝たいですから…。
 この天文台は、日曜は一般参加が自由で、平日は予約が必要だそうです。一度、宿泊つきで行ってみたいものです。
(2024年9月刊。2200円)

あの日の風を描く

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 愛野 史香 、 出版 角川春樹事務所
 芸術大学(美術大学)は、異能をもつ学生集団から成りますよね。
 東京芸大について、「最後の秘境」として紹介した本を読みましたが、まさしく秘境というか異郷です。とても凡人の行くところではありません。
そのなかに文化財保有修復専攻がある。日本絵画の模写や修復、表具の仕立てをするところ。
 江戸時代が終わるまでの絵画が「日本絵画」で、日本の伝統的な画材と技法を用いて描かれた明治時代以降の近代絵画が「日本画」。
 日本絵画を日本絵画たらしめる、古の画家がもつ底知れぬ描写力。円山応挙の絵には余分な線が一切なく、対象の本質を見抜いて充実している。
 中国では、バブル期に日本に留学した中国人によって「岩彩画」という新しい絵画ジャンルが確立している。日本画の自由な気風と岩絵具を使った表現方法は、水彩画が席巻していた中国画壇に新風を吹き込んだ。
日本において「模写」には、古くからいろいろな定義がある。教義を伝えるための仏画の模写。様式や技法を継承するための模写。修業のための模写。保存するための模写。日本の仏画や水墨画、障壁画といった絵画様式は、それぞれ図様や技法が、模写によって時代を超えて継承されている。保存のための模写は、どの状態を模写するかによって三つに区分される。現状模写、古色復元模写そして復元模写。
 卓越した腕をもつ画家の行いをなぞることで、冷静になり、自分を客観的にとらえることができる。未熟さや傲慢さ、どこに神経を研ぎ澄まさねばならないのか、いろいろと気づかされ、視界が晴れる。
新岩絵具は、化学反応で人工的に発色させた硝子(ガラス)質の塊を粉砕してつくられた天然岩絵具に比べて、色数が多い。
 絵具のにじみを防ぐ、にじみ止めを「どう砂」という。水ににわかと「明ばん」を溶かした液体。描く前に和紙に塗っておかないと、絵具がにじんで描きたい細さで線が引けない。
AI絵画が出てきたけれど、本来、絵は時間がかかって面倒臭いもの。作るにしろ、鑑賞するにしろ、芸術はタイパ良く楽しめるようには出来ていない。
 修復では、作品に影響を及ぼすような描き起こしや塗りはしない。これが原則。穴や破れを埋めた箇所に絵を足すことを補彩というけれど、周囲の色調とのバランスをとるため、作品本来の地色と合わせる程度にとどめる。
 いやあ、すごく専門的な解説があって、日本画の復元作業の奥深さをしっかり堪能できました。なので、著者はもちろん芸大が美大の卒業生だと思って巻末の著者紹介を読むと、なんと、福大の薬学部を卒業して、今は薬剤師だというのです。のけぞってしまいました。
この本は小説賞をとっただけのことはあります。ともかく最後まで読ませました。
(2024年10月刊。1650円)

なぜ彗星は夜空に長い尾をひくのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 渡部 潤一 、 出版 誠文堂新光社
 夜空の星を眺めるのは大好きですし、宇宙に関する本を読むのも好きです。
 いつも不思議なのは、星が空を移動しているのを見る(観察する)だけで、昔から数値化して軌道を計算し、いつ彗星が出現するのか予測する、できるということです。皆既日食も、いつ、どこでそれが見えるというのをぴたりと予測できるなんて、私にはまるで信じられません。
 今はコンピューターで計算しているわけですが、昔々のケプラーとか、みんな手で計算していたわけですよね。大変な計算だったことと思います。
 さて、彗星です。その正体は、なんと、巨大な汚れた雪塊というのです。
彗星核の成分は80%が水の氷、残り20%には二酸化炭素、一酸化炭素、それに微量成分として炭素、酸素、窒素に水素が化合した種々の分子が含まれている。これに岩塊や砂粒のような座(ダスト)が混ざっている。
彗星は、太陽系の中を勝手気ままに飛び回る太陽系の異端児。
彗星の2つの特徴。その一は、何の予告もなく突然に現れる。その二は、現れた彗星は華麗な姿を見せる。
 彗星の出現は西洋では凶兆とみられている。ジュリアス・シーザーが暗殺されたあと、第彗星が現れた。ところが、日本では稲作との関係で、穂垂星として吉兆とみられていた。
 ハレー彗星は、周期的に回帰する彗星のなかでも、きわめて大型で明るい彗星。
 彗星の尾(しっぽ)は、塵の粒子が太陽からの光の圧力(放射圧)によるもの。
彗星は、地球のような太陽系の内側の暖かい場所ではなく、太陽系のかなり外縁部で生まれたようだ。太陽よりも遠方で出来た微惑星が彗星だ。その意味で、彗星は、46億年前の物理・科学的状態を閉じ込めた化石とも言える。
彗星は、惑星や太陽に近づきすぎると、その潮汐力で分裂することが多い。それでなくても彗星は分裂しやすい、きわめて脆(もろ)い天体である。
 彗星はよく分裂し、そのうえで雲散霧消するものがある。
彗星核の密度はどうなのか。その中の構造がどうなっているのか、ほとんど分かっていない。まだまだ彗星は謎に満ちている。夜空に彗星や流星を眺めていると、つい、何か願いごとをしたくなりますよね…。
(2024年9月刊。1760円)

ブラジルが世界を動かす

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 宮本 英威 、 出版 平凡社新書
 ブラジルというと、真っ先にアマゾンの密林を思い浮かべます。最近では金採集などによる乱開発が進んでいるようで、心配しています。
 ブラジルの人口は2億1600万人、世界で7番目。国土面積は日本の22倍もあり、世界で5番目。GDPは世界第9位と、かなり上位にあり、今後さらに発展しそう。
 270万人の日系人がブラジルに暮らしている。これは海外の日系人500万人の半分以上という割合を占めている。戦前戦後の日本から26万人がブラジルに移住した。
 そして今、日本には21万人超のブラジル人が暮らしている。愛知、静岡、三重、群馬などの工場で働いている。
 ブラジルは、人口の4割以上が混血。その結果、差別が比較的少ない社会となっている。奴隷解放は1888年と、遅れている。
 ブラジルはカトリック教徒の国で、65%、1億2千万人の信徒がいる。プロテスタントは22%。ブラジルは貧富の格差が大きい。相続税が極端に小さいので、富裕層の子弟は、優位な立場で人生を歩む。
 今のルラ大統領は3期目で、2期つとめたあと収賄罪で刑務所に入っていたけれど、カムバックした。ルラ大統領は幼いころから街頭でピーナツを売り、靴磨きをし、また、日系人の経営するクリーニング店でも働いた。旋盤工をしているとき、左手小指を切断するという労災事故にあった。汚職事件で有罪となり、580日間、獄中生活を送った。
2024年のG20の議長国として、ブラジルは存在感を発揮している。ブラジルで中国の影響力が低下した背景に、アメリカが中南米への関心の低下もあげられる。アマゾン川の全長は7千キロメートル。その流域は700万平方キロメートル。
 ブラジルは国内電力の85%を再生可能エネルギーにしている。水力が62%、風力12%、太陽光が4%となっている。
 ブラジルには中国製の品々がよく目立つ。
 農業大国ブラジルの弱点は、肥料の8割以上を輸入に依存していること。ブラジルでは、サトウキビを原料とするエタノール燃料がガソリン並みに扱われている。エタノールはガソリンよりも3割ほど燃費が劣るが、価格はガソリンの7割ほど安い。
 ブラジルは航空機メーカーがあり、米ボーイング、仏エアバスに次いで、ブラジルのエンブラエルは世界第3位。
 ブラジル人の7割がPIXを利用している。現金を持ち歩く必要がない。
 味の素の社長は、2代続けてブラジル経験者。
ブラジルは150年来、戦争をしていない。だから、世界に平和を訴えることができる。
 ブラジルと日本との関わりも少し知ることが出来ました。
(2024年10月刊。1100円+税)

金子さんの戦争

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 熊谷 伸一郎 、 出版 リトルモア
 日本軍が中国に侵攻し、支配していた地域では、まさしく残虐な行為をしていました。その実行部隊の一人だった金子安次・元陸軍伍長の話が本になっています。
 1920年1月に東京近くの浦安に生まれましたので、1909年生まれの私の父より10歳ほど下の世代です。漁師の次男でしたが漁師にはならず、小さな鉄屋に丁稚(でっち)奉公に出ました。
 浦安コトバでは、目上の人に対して兄貴の意味で「なーこう」と呼び、二人称は「いしや」と呼ぶ。貴様の意味でしょうか…。
 丁稚奉公しているときは無給。月に1回50銭もらうだけ。浅草に行って、漫才か映画を観る。漫才が10銭、映画は15銭。帰りに25銭の天丼を食べる。
 遊廓は吉原は高くて5円。庶民的な玉の井は1円50銭。ただ、これは晴れた日の値段で、雨の日は客が来ないので1円とか50銭と安くなる。
 出征のときは喜んで行った。母親が生きて帰ってこいとこっそり言ったので、軽蔑した。軍隊に行かないと一人前の人間にはなれないという感覚があった。会社から餞別として20円もらった。
日本刀と兵隊は叩けば叩くほど強くなると言われていた。
 兵隊は毎日、上官から叩かれた。
中国人が木に縛り付けられているのを刺突させられた。日本では僧侶していた1等兵がどうしても刺せないといって泣きだした。すると、上官からめちゃくちゃ殴られた。そのうち、その1等兵も平気で刺突するようになった。
 兵隊を戦場に慣れさせるためには、殺人が早い方法だ。これは師団長からの命令だった。初めは人を殺すのは嫌だけど、戦場を経験すると、だんだん人間を殺すことをなんとも思わなくなってくる。人を殺せなくて戦争なんか出来るかという気持ちになってくる。
 人を殺し、家屋をこわして燃やすのを楽しんでやるようになっていった。
4歳の男の子を連れた母親を強姦しようとして抵抗されたので、無理矢理に井戸に投げ込んだ。すると、それを見ていた男の子は、自ら「マーマー」と叫びながら井戸に飛び込んだ。上官が、「武士の情だ。手榴弾を投げ込んでやれ」と命じた。
 いやあ、これが戦場の現実なのですね。まさしく鬼畜の仕業です。
兵士たちが強姦しても輪姦しても軍法会議にかかることはない。
 行軍途中で落伍する兵士が出ても中隊長たちは平気で知らん顔。責任をもたなければいけないのは分隊長。行軍できない兵士は自殺するしかない。手榴弾は2発もたされていて、1発は戦闘用、あと1発は自決用。捕虜になるなということ。
 日本に帰国してから、中国でやっていたこと、とりわけ強姦・輪姦をしていたことを妻や娘に話せるわけがないので、黙っていた。
 そうなんですよね。なので、今でも軍規の厳粛な帝国軍人が中国でそんなことしたはずはない。みんな中国軍のデマだ、プロパガンダと言いはる人がいるのです。
戦争が本当に人間性を喪わせるものだということを実感させられる本です。
(2005年8月刊。1980円)

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