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争議生活者

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 田島 一 、 出版  新日本出版社
私が弁護士になったころは労働組合がストライキをするのは日常的な光景でした。一日スト、部分スト、そして国電・私鉄が順法闘争に突入すると、電車のダイヤが大きく乱れました。すると、普段は法律にしたがった運行をしていないのだと実感しました。公務員はもちろんストライキをするし、大企業でもストライキに突入するところが珍しくはありませんでした。
1週間ブチ抜きストライキのときには、それでも動いている私鉄を乗り継いで通常の通勤が1時間のところを倍以上かけて出勤した覚えがあります。
そして、パート・アルバイトの雇傭確保のために仮処分をバンバン申立していました。人夫出しを見つけたら、職安法違反で次々に告発しました。みんな40年も前の話しです。今では、どうでしょうか。ストライキやデモなんて、今日の日本では、まるで死語になってしまいました。デモとは言わず、パレードと呼びます。弁護士会でも安保法制法案反対の集会をし、パレードを天神を舞台として何回も敢行しました。
人夫出しは今では合法化され、非正規雇傭がありふれています。でも、それってヒトを人間扱いしていないですよね。
何のために労働法制があり、裁判所があるのか、そう叫んで立ち上がった労働者を現代日本社会がどう扱うのか、扱っているのか、それをこの本は小説として描き出します。読ませます。読んでいると、ついつい悔し涙が出てきます。悲しくて流す涙なんかではありません。あまりに理不尽な仕打ちが連続して立ち上がった労働者に襲いかかるのです。裁判所だって、まったくあてになりません。そんなときいったいどうしたらよいのでしょうか・・・。救いがあるのは、それでも支えてくれる仲間がいるということです。このときには、ほっと一息ついて、安心の涙が流れ落ちます。
小林多喜二は革命のためにすべてを捧げて生きていく「党生活者」を書いた。同じように争議に勝つために全力を注いで日々を過ごす人は現代の「争議生活者」と言うことができる。争議生活者には、仕事を終えるという概念がない。他によりよい働き口を求めて探すという選択肢もない。普通の人のような暮らしを願ってはならず、貧乏物語を地で行くことになる。
ただ、争議生活を捨てていたら、病気もちの人間だと、どこかで野垂れ死にしていたかもしれない。争議生活者には、支えてくれる仲間がいる。争議生活者は、この日本社会のあり方を問うている。つまり格差と貧困の根本にある社会構造の矛盾に正面から挑む存在でもあるのだ。争議生活者として、何度も危機に直面してきた。そのつど、大勢の仲間や支援者に支えられ助けられてきた。
争議生活者は決して自分だけで存在できるものではない。
いったい私たちは何のために生きるのか、何のために働くのか、家族はそのとき、どんな意味をもっているのかを考えさせてくれる本でもあります。
(2017年9月刊。1900円+税)

スカートをはかなきゃダメですか?

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 名取 寛人 、 出版  理論社
形は女性だけど、心は男性。元トロカデロのバレエ団ダンサーになった人が女性から男性に変わる人生をたどっています。
小学生のときから女の子であることを断固として拒否して大きくなってきたというのですから、すごいですね。スカートの代わりにジャージ姿で通しています。着物姿なんて、とんでもありません。でも、生理があるようになるのでした・・・。
「世界的に有名な男性だけのバレエ団で活躍した唯一の日本人。名取寛人が語る、女として生まれて、男になるまで、そして夢のかなえかた・・・」
小学生のころ。「男の子らしいね」と言われることがしたかったかというと、そういうわけではない。ぼくは、ただぼくなだけで、「女の子だから」という言葉には違和感しかなかった。
それでも、著者は恵まれていたようです。母親(父親は離婚して、いません)は、いつでも、どんなときでも著者の味方になって、著者を安心させてくれました。偉いですね、この母親は・・・。そして、友人も教師も著者も変な扱いはしなかったようです。
高校では器械体操でがんばります。見かけは女性でも心は男性ですから、当然、女性を好きになります。でも、恋の告白はうまくいきません。
そして、男装した女性が接客するバーで働くようになります。1ヶ月たつと、ナンバーワンになったのでした。そして次はショーパブの世界へ。ここでもすごい人気。プレゼントしようという人が行列をつくって、30分も並んでいたといいます。ところが、4年たって、このままでいいのかと疑問を感じて、29歳のときアメリカはニューヨークへ行くのです。その前に胸を除去する手術を受けています。
ニューヨークではダンスのレッスンを受けていたのですが、ある日、バレエのレッスンを受けるようになります。そして教師に恵まれてトロカデロのオーディションを受けて合格。
著者は高校まで器械体操をしていましたが、その経験はバレエには生かせないといいます。
器械体操はスポーツで、バレエは芸術。筋肉をつかい、力を入れて、手や脚をまっすぐに伸ばすのはバレエではない。ジャンプするとき、器械体操は筋肉で跳ぶが、バレエは身体のバネをつかって跳ぶ。器械体操とちがって、バレエは身体の力を抜くことが重要なのだ。
この違いって、門外漢の私にはまったくピンと来ませんでした。
著者は、31歳のとき、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に入団した。日本人として初めてだった。トロカデロにとって、日本はビッグマーケットになっている。著者は8年間、トロカデロで出演し、38歳で日本に帰国した。
その前に性別適合手術を受け、その結果として戸籍を男性に変更し、パスポートの性別も男性にした。
身と心が異なる人がこんなに多いのかと改めて驚き、かつ心配になりました。現代日本人がますますアメリカのように偏狭となって寛容の精神を失っている状況では、LGBTの存在が広く認められるのは容易なことではないように思われます。その意味で、本書が「フツー」の日本人の意識を根本的に変えることにつながることを心願います。ご一読ください。
(2017年8月刊。1300円+税)

反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版  日本評論社
昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)

亡国の武器輸出

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 池内 了・青井 未帆・杉原 浩司 、 出版  合同出版
アベ政治は、いろんな点でひどい、ひど過ぎますが、日本が「死の商人」となって海外へ武器を大々的に輸出するようになったことも、安保法制と同じ動きですが、私には絶対に許せません。
「死の商人」は、世界が平和であっては商品が売れないので困ります。世界中で紛争が起きて、戦争になることを願うのです。そして、彼らは波風を立てることまでするのです。それが一貫したアメリカ政府のやり方です。アメリカでは産軍複合体が権力を握っています。そのことをいち早く警告したのが、なんと軍人出身のアイゼンハワー大統領だったということには驚かされます。
アベ政権はそれまでの武器輸出禁止政策をやめて、2014年4月に「防衛装備移転三原則」を定めて武器輸出を全面解禁した。
ただ、日本人にとって少しだけ胸をなでおろすのは、事情を知った国民が武器を輸出する企業を「死の商人」として指弾するだろうことを恐れて、輸出にためらっていることです。しかし、それも時間の問題でしょうね・・・。
日本は2006年にインドネシアに海賊対策の名目で巡視船艇(鋼板が厚い)をODAで支援・送り込んだ。また、オーストラリアへ潜水艦に売り込む寸前までいった。
日本で軍需産業が栄えると、その利権にむらがる連中がはびこります。かの天皇とまで呼ばれた守屋武昌防衛事務次官の汚職・腐敗がその典型です。そして、防衛省の幹部職員が大量に軍需産業へ天下りしています。三菱重工業26人、三菱電機23人、日本電気21人、東芝19人、富士通15人。IHI16人などです。みんなで、甘い汁を分けあっているのです。
大学の研究まで軍需産業が入っています。それは研究予算が年々削減されるなかで進行していますので、「研究者版経済的徴兵制」と名づけられているほどです。
軍事的紛争の解決に軍事的対応しても本当の解決にならないことは世界の現実が教えています。目先のお金に踊らされることなく、世界の平和を守るために声を上げたいものです。
(2017年9月刊。1650円+税)

チャヴ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 オーウェン・ジョーンズ 、 出版  海と月社
チャヴとは、イギリスの労働者階級を侮辱することば。この差別用語は、ロマ族のことばで「子ども」を指す「チャヴィ」から来ている。いまや、インターネットでは、チャヴを笑い物にする悪意が満ちている。ロンドンの中流階級は下の階級に不安や嫌悪感をもっていて、それがうまく利用されている。なぜ、労働者階級への嫌悪感がこれほど社会に広がってしまったのか・・・。
チャヴということばには、労働者階級に関連した暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存など、あらゆるネガティブな特徴が含まれている。
「プロール」とは、プロレタリアートを短縮した軽蔑語で、貧しいから無価値という意味を伝えている。
これには驚きました。マルクス『資本論』発祥の地でプロレタリアートが馬鹿にされているなんて、信じられません・・・。
最下層の人々を劣等視するのは、いつの時代でも、不平等社会を正当化する便利な手段だった。
労働党の議員には、かつては工場や鉱山の現場からスタートした人が多かった。今では、肉体労働していた議員は下院に20人に1人もいない。国会議員のうち、私立校出身者は国民平均の4倍以上。保守党議員は5人のうち3人が私立校の出身者だ。
イギリスのエリートには、中から上にかけての中流階級出身者があふれている。貧困者が犯罪を起こせば、似たような出身の全員が非難はされる。これに対して、中流階級の人間の犯罪はそうはならない。
公営住宅に住んでいるのは貧困層だけ。公営住宅の半数近くは、下から5分の1までの貧しい地区に存在する。30年前は、上から10分の1にあたる富裕層の20%が公営住宅に住んでいた。そのときと現在はまったく様変わりしている。
公営住宅にはイギリスの最貧層が住んでいるので、その地域はチャヴに結びつけられる。公営住宅は、社会の掃きだめのようになってきている。
イギリスの保守党は、裕福な権力者たちの政治執行部門だ。保守党の存在意義は、トップに君臨する人たちのために闘うこと、ここにある。それは、まさに階級闘争だ。ところが保守党は、多くの巧妙な手段で労働者階級の「個人」の機嫌をとって選挙に勝っている。
炭鉱労働者のストライキが敗北したとき、炭鉱労働者はイギリス国内でもっとも強力な労働組合をもっていたのに大敗してしまった。それでは、ほかの者にどんな希望があるというのか・・・。炭鉱労働者を叩きのめせるなら、ほかの誰でも叩きのめせるということ。残ったのは、長年の失望と敗北主義だった。この現実はイギリス映画『ブラス』とか『パレードにようこそ』によく反映されていると思います。
サッチャーたちの攻撃が始まったとき、イギリスの労働者の半数は組合員だった。それが1995年には、3分の1まで後退していた。
イギリスの貧困者は、1979年に500万人だったのに、1992年には1400万人になった。しかし、サッチャー哲学は、「貧困」は現実には存在しないとする。貧しい人々は、自分で失敗しただけのこと。貧困らしきものはあるかもしれない。しかし、それは個人のごく基本的な性格の欠陥だけのこと、こう考える。
いやはや、「自己責任」の論理で「貧困」をないものとするのですね。今の日本とまったく同じですよね、これって・・・。
サッチャーの得票率は最高でも44%。有権者全体の3分の1以上の支持は得ていなかった。それでも、サッチャーが勝ち続けたのは、サッチャーを支持しない熟練と半熟練労働者の60%がどうしようもなく分裂したからだ。
サッカーは、長く労働者階級のアイデンティティの中心にあったスポーツだ。ところが今では、億万長者のよそ者が支配する中流階級の消耗品になってしまった。労働階級のファンは、愚かな暴力に熱中する攻撃的なフーリガンと見なされ、排除されている。
イギリスは、今では階級のない社会という幻想がすっかり定着してしまっている。しかし現実には、これまで以上に階級化されている。
貧困層をマスコミが攻撃し、民間労働者に公務員への敵意をあおる。これって、まるで、現代日本でやられていることですよね。日本の近未来が、こうあってはならないと思わせるに十分なイギリス社会の矛盾を鋭く分析した本です。
(2017年9月刊。2400円+税)

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