法律相談センター検索 弁護士検索

新聞記者

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 望月衣塑子 、 出版  角川新書
 まさにタイムリーな新書です。時の人が、こんなに早く本を書いて出せると言うのも素晴らしいことです。
 スガ官房長官の記者会見の場での答えに対して、若者はこう迫った。
「きちんとした回答をいただけると思わないので、繰り返し聞いています。すみません、東京新聞です」
 そうなんです。スガ官房長官の、いかにも国民を小馬鹿にした態度・表情で、実(じつ)のある説明をまったくしないのをジャーナリストがそのまま許してはいけないのです。モリカケ事件について、きちっと解明することこそマスコミの責務です。
記者会見が始まってから37分をこえ、その間に著者は23回も質問していた。すごい執念です。ここで残念なのは、その場にいた他の記者からの援護射撃がなかったことです。これでは記者クラブって弊害しかないことになります。
それどころか、「記者クラブの総意」なるもので著者の質問を抑え込もうとしたというに至っては、御用記者の集団なのかと、ついののしりたくなってきます。それでも良かったことは、テレ朝系の「報道ステーション」やネット・メディアで著者の質問光景が流されたことです。
 これを見て、スガ官房長官の言いなりになる記者だけでないと知った国民の多くが著者を励ました。声を上げなくても、まだマスコミも捨てたものではないと思わせたのです。マスコミ各社の大幹部の何人かも直接、著者へ励ましの声をかけたとのこと。いいことですよね・・・。まだまだ日本のマスコミも捨てたものではありません。
 それにしてもアベ首相もスガ官房長官もひどすぎます。カゴイケ氏は既に4ヶ月以上も拘置所に入っているのに、カケ理事長はまだ1回もマスコミの前にあらわれていません。アキエ夫人にいたっては、公衆の面前で面白おかしく話しているのに国会では話そうとしない(夫が話させない)のです。ひどい、信じられない事態が進行中です。これで愛国心教育を学校ですすめようというのですから、政権トップの頭は変になっている、いえ狂っているとしか言いようがありません。
 前川喜平・文科省前事務次官に単独インタビューしたときのことが紹介されています。前川氏は退職後に自主夜間中学で教えるボランティアをやっていますが、改正前の教育基本法の前文を暗記していて、暗唱してくれたというのです。驚きました。この前文は素晴らしい内容です。
「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」
 いまの学校教育は、どんどんこの「前文」からかけ離れていってますよね。ストップをかけましょう。
 著者のますますの活躍を心より願っています。尊敬する大阪の石川元也弁護士から、まだ読んでないのかとお叱りを受けて、あわてて読みました。すっきり、さわやかな読後感の残る本です。一読をおすすめします。
(2017年11月刊。800円+税)

投資なんか、おやめなさい

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 荻原博子 、 出版  新潮新書
 タイトルに共感して読んでみました。 まったくもって、そのとおりです。銀行や証券会社にあおられてはいけません。
 バブルのとき、土地投資に手を出して多くの会社と個人が痛い目にあったことを思いだすべきです。デフレのときには、かえって、預金のままにしておいたほうがいいと著者は強調しています。そうなんです。下手にお金を動かしたら、「手数料」名目でどんどん目減りするだけですし、下手すると元本割れになってしまいます。
 ただ、現金を手元に置いておくと、特殊詐欺の被害にあいかねません。金庫では心もとないという不安につけ込まれるのです。
 収益の悪化に苦しむ銀行や証券会社が、いま、生き残りをかけて個人をターゲットにして、利ざやの稼げるカードローンや手数料が確実に手に入る投資商品の販売額を増やしている。とくに狙われているのが、たっぷり退職金をもちながら投資に縁がなかった、人が良くて騙されやすい高齢者。そして、投資をしないと将来が危うくなるという思い込みで、時間がないのに不安に駆られながらも何かしようとしている働き盛りの世代。
 バブルのころ、不動産業者は、「いま家を買っておかないと、将来が不安ですよ」と煽っていた。今は、「投資をしないと、老後が不安でしょう」と言う。同じことではないのか・・・。
 日本の支社で加入した「ドル建て生命保険」の保険金を、海外の本社に行ってドルで引き出すことは出来ない。日本で引き出せば、必ず為替の影響を受ける。海外に自分の銀行口座を開設して受取ろうとすると、その口座開設のための手続が大変面倒。
日銀のマイナス金利の導入によって「タンス預金」が急増している。今では43兆円にのぼると推計されている。平成16年の現金の落し物は36億円、バブル末期の35億円を上回った。
 上場企業の株主配当は年々増え続け、年間10兆円をこえている。
日銀が銀行に流したお金の多くが、再び日銀へ還流して、市中へはまわっていない。
 日銀へ預けられない、国債を買ってもマイナス金利ということで、いまや銀行は「行くも地獄、戻るも地獄」という状況にある。
毎月分配型投資信託は、実は、預けたお金が少しずつ戻っているにすぎない。20年経つと、預けた資産の5分の1は手数料で消えてしまっている。
 おいしい話には要注意。よく計算して、自分の利益と銀行の利益とを比べてみる。この計算ができないような人は、無理に「投資」してはいけない。
 私も、まことにそのとおりだと思います。あなたまかせにしていて、もうけようなんて、とんでもないことです。世の中がそんなに甘いはずはありません。
デフレの今は、低金利でもお金の価値自体が上がっているので、預金にはデメリットもリスクもないと考えるべき。
目からうろこが落ちる思いのする、「投資」をやめましょうと呼びかける本です。一人でも多くの人に読んで銀行に騙されないでほしいものです。
(2017年11月刊。760円+税)

漱石先生の手紙が教えてくれたこと

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小山 慶太 、 出版  岩波ジュニア新書
この本を読んで夏目漱石をすっかり見直してしまいました。
私は手紙をもらうのも手紙を書くのも、昔から大好きなのですが、もちろん手紙は肉筆に限ります。
漱石はおそるべき手紙魔だったのですね。なんと、22歳から亡くなる49歳までのあいだに2500通をこえる手紙を書いています。信じられません。それも、見知らぬ読者からのファンレターやら人生相談にまで、いちいち返事の手紙を書いているのです。律気というか、まめまめしいというか・・・。そして、手紙は長いものがあるうえに、内容が濃いのです。一筆啓上式の短文ではありません。
自宅に電話がやっと引かれた(1912年)ころですから、長電話はありえませんし、ラジオはともかくテレビなんかありませんので、手紙を書く時間はあったのでしょう。
漱石は、人に手紙を書くことと、人から手紙をもらうことが大好きだと書いています。私は書くことより、やはりもらうことのほうがうれしいです。
漱石全集には3巻分が書簡集にあてられていて、そこに2500通の手紙が収録されている。そして、長い手紙が多い。
漱石は木曜会というのをやっていました。自宅に木曜の午後3時からは面会日として、弟子たちが来るのを歓迎していたのです。それ以外は執筆の時間にあてていました。
漱石のかんしゃくもちは有名で、家族に対して向けられていたようです。漱石の妻がかつては悪役専門でしたが、最近は見直されていますよね・・・。
ちなみに、漱石は熊本の五高で教師をしているときに結婚しました。このとき29歳で、妻の鏡子は18歳です。
漱石は若者を惹きつける、人間味にあふれる人物だった。だから、毎週の木曜会は盛会だった。弟子たちをはじめ、若い人々の作品に対して読後すぐに批評文を送り、いいところを大いに褒めた。
漱石は博士号をもらっていません。本人が断乎として断ったのです。博士とは、きわめて偏った知識しかもたない、狭い領域にしか通じない不健全な学問の修め方をした人間がなるものであって、自分はそんな人間ではないと宣言し、実行しました。
漱石も、ずいぶん悪口やら誹謗を受けた。しかし、黙然としていた。気に入らないこと、しゃくにさわること、憤慨すべきことは山のようにたくさんある。それを清めることは、人間の力では出来ない。それと戦うよりも、それを許すことが人間として立派なものなら、できるだけ、そちらのほうの修養をお互いしたいもの・・・。
手紙魔の名に恥じず、漱石が実に心に触れる手紙をこんなにたくさん書いていることに、軽いショックすら受けてしまいました。
岩波ジュニア新書は私の愛読書の一つです。著者に対して、いい本をありがとうございますと、お礼を言おうとして奥付を見ると、著者は私と同じ団塊世代でした。引き続きの健筆を期待します。
(2017年8月刊。880円+税)

争議生活者

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 田島 一 、 出版  新日本出版社
私が弁護士になったころは労働組合がストライキをするのは日常的な光景でした。一日スト、部分スト、そして国電・私鉄が順法闘争に突入すると、電車のダイヤが大きく乱れました。すると、普段は法律にしたがった運行をしていないのだと実感しました。公務員はもちろんストライキをするし、大企業でもストライキに突入するところが珍しくはありませんでした。
1週間ブチ抜きストライキのときには、それでも動いている私鉄を乗り継いで通常の通勤が1時間のところを倍以上かけて出勤した覚えがあります。
そして、パート・アルバイトの雇傭確保のために仮処分をバンバン申立していました。人夫出しを見つけたら、職安法違反で次々に告発しました。みんな40年も前の話しです。今では、どうでしょうか。ストライキやデモなんて、今日の日本では、まるで死語になってしまいました。デモとは言わず、パレードと呼びます。弁護士会でも安保法制法案反対の集会をし、パレードを天神を舞台として何回も敢行しました。
人夫出しは今では合法化され、非正規雇傭がありふれています。でも、それってヒトを人間扱いしていないですよね。
何のために労働法制があり、裁判所があるのか、そう叫んで立ち上がった労働者を現代日本社会がどう扱うのか、扱っているのか、それをこの本は小説として描き出します。読ませます。読んでいると、ついつい悔し涙が出てきます。悲しくて流す涙なんかではありません。あまりに理不尽な仕打ちが連続して立ち上がった労働者に襲いかかるのです。裁判所だって、まったくあてになりません。そんなときいったいどうしたらよいのでしょうか・・・。救いがあるのは、それでも支えてくれる仲間がいるということです。このときには、ほっと一息ついて、安心の涙が流れ落ちます。
小林多喜二は革命のためにすべてを捧げて生きていく「党生活者」を書いた。同じように争議に勝つために全力を注いで日々を過ごす人は現代の「争議生活者」と言うことができる。争議生活者には、仕事を終えるという概念がない。他によりよい働き口を求めて探すという選択肢もない。普通の人のような暮らしを願ってはならず、貧乏物語を地で行くことになる。
ただ、争議生活を捨てていたら、病気もちの人間だと、どこかで野垂れ死にしていたかもしれない。争議生活者には、支えてくれる仲間がいる。争議生活者は、この日本社会のあり方を問うている。つまり格差と貧困の根本にある社会構造の矛盾に正面から挑む存在でもあるのだ。争議生活者として、何度も危機に直面してきた。そのつど、大勢の仲間や支援者に支えられ助けられてきた。
争議生活者は決して自分だけで存在できるものではない。
いったい私たちは何のために生きるのか、何のために働くのか、家族はそのとき、どんな意味をもっているのかを考えさせてくれる本でもあります。
(2017年9月刊。1900円+税)

スカートをはかなきゃダメですか?

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 名取 寛人 、 出版  理論社
形は女性だけど、心は男性。元トロカデロのバレエ団ダンサーになった人が女性から男性に変わる人生をたどっています。
小学生のときから女の子であることを断固として拒否して大きくなってきたというのですから、すごいですね。スカートの代わりにジャージ姿で通しています。着物姿なんて、とんでもありません。でも、生理があるようになるのでした・・・。
「世界的に有名な男性だけのバレエ団で活躍した唯一の日本人。名取寛人が語る、女として生まれて、男になるまで、そして夢のかなえかた・・・」
小学生のころ。「男の子らしいね」と言われることがしたかったかというと、そういうわけではない。ぼくは、ただぼくなだけで、「女の子だから」という言葉には違和感しかなかった。
それでも、著者は恵まれていたようです。母親(父親は離婚して、いません)は、いつでも、どんなときでも著者の味方になって、著者を安心させてくれました。偉いですね、この母親は・・・。そして、友人も教師も著者も変な扱いはしなかったようです。
高校では器械体操でがんばります。見かけは女性でも心は男性ですから、当然、女性を好きになります。でも、恋の告白はうまくいきません。
そして、男装した女性が接客するバーで働くようになります。1ヶ月たつと、ナンバーワンになったのでした。そして次はショーパブの世界へ。ここでもすごい人気。プレゼントしようという人が行列をつくって、30分も並んでいたといいます。ところが、4年たって、このままでいいのかと疑問を感じて、29歳のときアメリカはニューヨークへ行くのです。その前に胸を除去する手術を受けています。
ニューヨークではダンスのレッスンを受けていたのですが、ある日、バレエのレッスンを受けるようになります。そして教師に恵まれてトロカデロのオーディションを受けて合格。
著者は高校まで器械体操をしていましたが、その経験はバレエには生かせないといいます。
器械体操はスポーツで、バレエは芸術。筋肉をつかい、力を入れて、手や脚をまっすぐに伸ばすのはバレエではない。ジャンプするとき、器械体操は筋肉で跳ぶが、バレエは身体のバネをつかって跳ぶ。器械体操とちがって、バレエは身体の力を抜くことが重要なのだ。
この違いって、門外漢の私にはまったくピンと来ませんでした。
著者は、31歳のとき、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に入団した。日本人として初めてだった。トロカデロにとって、日本はビッグマーケットになっている。著者は8年間、トロカデロで出演し、38歳で日本に帰国した。
その前に性別適合手術を受け、その結果として戸籍を男性に変更し、パスポートの性別も男性にした。
身と心が異なる人がこんなに多いのかと改めて驚き、かつ心配になりました。現代日本人がますますアメリカのように偏狭となって寛容の精神を失っている状況では、LGBTの存在が広く認められるのは容易なことではないように思われます。その意味で、本書が「フツー」の日本人の意識を根本的に変えることにつながることを心願います。ご一読ください。
(2017年8月刊。1300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.