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歌うカタツムリ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  千葉 聡 、 出版  岩波科学ライブラリー
 カタツムリが歌うだなんて、何かのたとえ話かなと思うと、そうでもないようです。歌うカタツムリの伝説は、ハワイにある昔からの言い伝え。しかし、著者も確かに聞いたというのです。
 小笠原の島で、雨上りの夏の真夜中、耐えることなく湧きあがるように聞こえてきた不思議なざわめき。短い口笛のような音、軋(きし)むような音、ガラスのコップが触れあうような音、そんな一つひとつの小さな音が幾重にも重なり、共鳴し、ついに波濤のような響きとなって、森や谷間にあふれていた。この不思議な音色がカタツムリのものだとは、にわかには信じられなかった。これは、足の踏み場もないほど地上にあふれだした、おびただしいカタツムリの群れが、互いに貝殻をぶつけあい求愛し、硬い歯をむさぼる音だった。
およそ200年前、ハワイの住民はカタツムリが歌うと信じていた。しかし、20世紀の今日、ハワイにはカタツムリがいない・・・。ええっ、本当でしょうか。
ダーウィンはガラパゴス諸島で、三つの島で、15種のカタツムリを採集している。
ナメクジは、カタツムリとともに陸貝のメンバーである。殻のないカタツムリがナメクジの仲間。ナメクジは、多くのカタツムリと同じく雌雄同体で、一匹の個体にオスの機能とメスの機能が両方そなわっている。雌雄胴体の動物は、普通、二匹が交尾をして、卵は別の個体から受け渡された精子と受精する。ナメクジは、それだけでなく、好んで自分の精子を自分の卵と受精させる。
 北海道にいるエゾマイマイは、捕食者オオルリオサムシに襲われると、大きな殻を激しく振り回し、相手に打撃を与えることによって敵を追い払う。殻を武器として振り回すことによって敵を撃退するのだ。
 同じく北海道にいるヒメマイマイハ他の多くのカタツムリと同じくオオルリオサムシの攻撃を受けると瞬時に身を殻内に引っこめ、引きこもって防御する。
 オナジマイマイ系は、交尾のとき、恋矢を繰り返し相手に突き刺す。これによって自分の精子の受精確率を高めるため。恋矢を刺されると、以降の交尾意欲が失われ、受け渡された精子の受精機会はいっそう高まる。そのうえ、恋矢を刺されると、寿命まで縮んでしまう。
交尾相手が自分より大きいと、自分の身が危ない。小さい相手は、子孫を残す相手として好ましくない。できたら、体の大きい相手、つまり質の良い相手と交尾したほうが、この適応度は上がる
 なるほど、カタツムリの研究って、大変ですけど、よくもここまで観察したものです。学者稼業も楽じゃありませんね・・・。
(2017年6月刊。1600円+税)

スリーパー、浸透工作員

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者  竹内 明 、 出版  講談社
 久しぶりに警察小説を読みました。警視庁公安部外事二課(ソトニ)というサブタイトルがついています。
 日本社会に北朝鮮の浸透工作員がいて、その摘発に日本の公安警察が躍起となるのですが、公安警察にもいろいろあって、相互に激しく反目しあっていて、単純な協力関係にはありません。浸透工作員のルートもいくつかあるという筋立てです。現実の取材にもとづいているのでしょうね、細部(ディテール)の描写はなかなかのものです。
浸透工作員は金正日総合大学出身。この大学は主体(チュチェ)思想で徹底的に武装し、党と首領に忠実な民族幹部の骨幹を養成する超エリート大学。その3年生、20歳のとき、朝鮮人民軍偵察総局に採用された。
朝鮮労働党幹部の子弟には、金正日総合大学への抜け道がある。入学試験の採点を担当する教授を家庭教師として雇う。受験生は、その教授に指示された秘密の印を答案用紙に書く。すると、教授が採点のときに加点して合格させる。教授へは高額の報酬が支払われる。
朝鮮人民軍偵察総局は共和国最大の謀報機関にして、最強の戦闘能力をもつ特殊部隊である。
かつて日本に実在し、行方不明になった日本人。それがアメリカに渡り、アメリカ育ちの日本人としての経歴を、戸籍や旅券をつかって北朝鮮が成りすます。それに「生まれ変わる」。国家が潜入工作員のために育てた背乗(はいの)り用の身分を活用する。
浸透工作を指揮する工作組長がいて、月1回、月間総括をする。対象の基礎調査、接線の状況、浸透生活中の交友関係、友人との会話状況まで仔細にわたって報告する。月に10万円が支給される活動資金についても、その使途をレシート添付して提出しなければならない。
昔は、短波のラジオ放送で指令が送られてきていたが、今ではステガノグラフィーが使われる。ネット上の画像に隠されたテキストや音声ファイルを複写して、指令を受信する。これだと日本の公安は傍受できないし、深夜にラジオにかじりついておく必要もない。
日本への不法侵入国を浸透、共和国に向けて出国することを復帰という。浸透より復帰のほうが難しいと言われている。迎えの船を待っているところを、日本の公安に見つかり拘束されてしまった工作員は多い。それで、浸透や復帰に使われる沿岸部には、スーパーの女性店員のような補助工作員が多数配置されていて、工作員の安全確保を徹底的にサポートする。
チヨダとは、警察庁警備局警備企画課指導係のこと。全国の公安警察の協力者獲得工作と、そこから得られた情報を管理している秘密部署。その情報は精査され、確度は高い。
腕時計を入手すると、中のクオーツムーブメント一式をそっくりそのまま入れ替え、新しいクオーツには、FBIの研究機関が開発した1円玉ほどの大きさのGPSが仕込まれている。
GPSをつけられたら、対象者の私生活のプライバシーなんて、まるで丸裸になってしまいます。
私の知らない、想像もできない世界が日本のどこかに、いえ至るところにあるのでしょうね。この本を読んで、つい、そう思ってしまいました。それとも、これも例の陰謀史観でしょうか。
(2017年10月刊。1600円+税)

強欲の銀行カードローン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 藤田智也 、 出版  角川新書
 かつての「サラ金地獄」が、今では「銀行カードローン地獄」と言える状況になりつつあります。金利規制そして貸出規制が減って多重債務者が減り、自己破産の申立件数が減って喜んでいると、再び破産者が増え始めているのです。その原因が、銀行カードローンの拡大にあることは明らかです。
 いま、銀行は一般的には苦境に立たされている。貸出金利が歴史的低水準になっているため、利ざやを稼ぎにくくなっている。それで個人をターゲットにしている。
 この本は、銀行カードローンの表向きの言い訳を紹介しながらも、その内情を明らかにしています。2016年の自己破産申立件数が13年ぶりに増えた。そして、その原因は、銀行のカードローンにあるのだろう。貸金業法が2006年に改正され、上限金利が年15~20%に引き下げられ、2010年に完全施行となった。貸出額は年収の3分の1をこえてはいけないという総量規制も働いている。
 ところが、カードローンを提供する銀行は、貸金業者でないため、この総量規制の対象とはならない。
 銀行のカードローン残高は2013年3月に3兆5千億円だったのが、3年後の2016年3月には5兆1円億円と急増している。なぜ、銀行には年収の3分の1以上という総量規制が必要ないというのか・・・。
 それは、銀行には、返済能力をきちんと見極める力があるから、だという。ええっ、そんなこと信じられません。銀行のカードローンの審査は、わずか30分。それで、そんなことが可能とは思えない。サラ金も銀行もテレビCMは同じように茶の間に流れている。どこから違いが生まれるというのか・・・。
銀行は行員カードローンの利用者を広げるためにノルマを課している。すると、借金を現に抱えている人にも2枚目、そして3枚目のカードをつくらせることになる。「利便性がある」とか「ニーズがある」というのは、昔サラ金学者がよく言っていた。同じことを銀行が言っているのはおかしい。長い目で見て、返せないような借金をかかえてしまえば「利便性」なんて問題にならない。ただ、人生を壊しているだけ。7割もの借り手の人生が壊れたり、壊れかけたりしている。
 銀行カードローンも当然に同じような規制が必要です。
 タイムリーな告発書となっています。
(2017年9月刊。800円+税)

人を襲うクマ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 羽根田 治 、 出版  山と渓谷社
 山でクマと出会ったときにどうしたらよいか・・・。人を襲うクマは昔からいた。音を立てたら逃げるクマばかりではなく、しつこく人間を狙うクマもいるというのは歴史が教えるところだ。
 なぜなのか・・・。その最大の理由は、山々に杉林などの人工植林が増えてクマの食べるエサが少なくなって、人里にあるおいしいものをクマが狙っているからだというのです。
 私もたまに近くの山をハイキングします。幸い九州の山ではクマは既に絶滅していていないようです。九州で怖いのはイノシシとハチです。私も気を付けています。
 本土ではクマと遭遇して大ケガしたという人が毎年、少なくありません。
 ヒグマに襲われたら30%以上が死亡している。ツキノワグマだと死亡事例は数%ほど。
 ヒグマはツキノワグマと比べて体格が大きいことにもよるが、実は被害者の半分は狩猟者。ヒグマは一発必殺しないと危険だということ。
 人身事故を防ぐためにもっとも重要なことはいかにクマと遭わないように工夫するかということ、鈴やラジオを持って山中を歩いていてもクマ避けには万全ではない。イヌを連れて山に入ったとき、イヌが怒ったクマを引き連れて飼い主のところに戻ってくる危険もある。
 トレイルランとか、クマの想定をこえるスピードでの移動をしているときも注意が必要。
 枯れ葉や土がかけられたシカなどの動物遺体を見つけたときには、決して近づいてはいけない。クマが自分の占有食物として、近くで見張っている可能性が大きく、とても危険な状況にある。
 クマに遭ってしまったときには、クマを刺激しないように相対したまま、できるだけ落ち着いて後方にゆっくり下がって距離を取り、その場から遠ざかる。
 このとき、背中を見せて走って逃げてはダメなようです。クマの走るスピードにはかないません。すぐに追いつかれてしまうのです。
また、大きな声で叫んでクマを無用に刺激して興奮させるのもいけない。
 クマの攻撃は、威嚇だけのこともある。本当に襲われたら、地面に腹ばいになり(腹をやられないようにする)、手を首のうしろで組んで首を守り、両肘で顔面をカバーして守る。急所を守ってクマの襲撃に耐える。うひゃあ、そんな勇気はありませんよね・・・。
 クマは人を攻撃するときには顔面を狙う。クマと取っ組み合いをするときには、顔面をしっかり守ること。ペッパースプレーも有効だが過信してはいけない。
 この本には1970年7月に福岡大学ワンゲル部のメンバーが日髙山脈で襲われた状況が詳細に紹介されています。私と同学年の人など3人がクマに襲われて亡くなっています。
 このときのクマは、人を見ても、音を聞いても恐れず、しつこく人間を追って、襲って殺した。そして、クマが人を加害するときは、衣類と体毛をはぎとる。なので、食害がひどいのは、顔面、下腹部、肛門周辺。ですから遺体は丸裸のうえ、顔もお腹もお尻もないという無残な状況になってしまうようです。
 クマに殺された学生の一人が、夜、テント内でその直前に書いたメモ(日記)の一部が紹介されています。どれほど恐かったでしょうか・・・。読んで涙が出てきました。
 クマをふくめて大自然の恐ろしさを改めて実感させられます。山歩きを楽しもうという人は読んで損しない本というか、読むべき本だと思いました。
(2017年10月刊。1600円+税)

一遍、捨聖の思想

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 桜井 哲夫 、 出版  平凡社新書
一遍(いっぺん)上人(しょうにん)って、街頭で人々と一緒に踊っている人ですよね。捨聖とは、「すてひじり」と読みます。
一遍は、1239年、四国の伊予松山に武将、河野通広の次男として生まれた。一遍は30代のとき、再び出家したが、河野家内部の権力争いにも原因があった。
「阿弥陀仏」(あみだぶつ)は、サンスクリットで「アミターユス」(無限(無量)の寿命をもつもの)と「アミターバ(無限(無量)の 明をもつもの)という二つの仏名で表現される。
「浄土」という漢語をつくって、中国で術語として定看させたのは、鳩摩羅什(クマラジュー)である。それは、「諸仏の浄土」であって、阿弥陀仏の極楽を指していたわけではない。 「極楽」とは、サンスクリット語で、スカーブフラィーと言う。「楽のあるところ」という意味で、鳩摩羅什が、これを「極楽」と訳した。
「聖」(ひじり)の語源は、「日知り」で、太陽が世の隅々まで照らすようにこの世のことをすべて知るという意味。
善導の主張の中心は、凡夫が阿弥陀仏の浄土に生まれることができるという点にあった。ひとは皆凡夫であり、その凡夫もまた、口で称える念仏で弥陀の浄土に往生できるという教えである。これは、中国では認められていないものだった。
念仏者には、智恵も愚痴も、善も悪も、身分の上下も何の関係もない。地獄を恐れたり、極楽を願ったりする気持ちも捨て、すぐれた諸宗派の智者。教えも捨て、一切を捨てて称える念仏こそ、阿弥陀如来の本願にかなっている。
鎌倉の宗教界の様子を知ることができました。
(2017年8月刊。860円+税)

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