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空洞化と属国家

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 坂本 雅子 、 出版  新日本出版社
いまの日本社会に少しでも疑問を感じている人には必読の本だと思いました。なにしろ776頁もの大著ですし、5600円(税別)もしますので、誰でも気軽に読める本ではありません。そのことを承知のうえで、それでも一人でも多くの人に読んでほしい本だと思いました。
一基1000億円もする地上型イージス装備を2基もアメリカから購入するというのに、それが日本国民を守るのに何の役にも立たないばかりか、有害でしかないことを承知していながら、今のマスコミはまったく批判もしません。北朝鮮の「ミサイル攻撃の恐怖」というアベ政権の世論操作に乗っているだけです。そのため、生活保護をはじめ福祉・教育予算は削られる一方です。今のアベ政権は「国を守る」ことに熱心ではあっても、日本国民の生活を守ることには知らん顔。そして、日本国民の半分は、投票所にも足を運ばず、アベ政権まかせで日々を考えずに過ごしています。本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。
いま、テレビでは、日本の技術力の素晴らしさを強調し、日本の伝統の深さ、豊かさ、日本人のすぐれた感性といった、「日本の優位性」を強調する番組が増えている。しかし、日本経済は長期に停滞している。現実には、日本は、生産面でも輸出面でも、中国をはじめとするアジア諸国に劣後し、後退してしまっている。
神戸製鋼所、日産、日立、東芝、日本を代表する超大企業が長く不正行為をしてきたことが最近になって次々に明るみに出ました。大手ゼネコンのリニア新幹線の談合事件も本質的に同じことです。品質本位、お客様第一をモットーとして伸びてきたはずの日本の大企業が、品質ごまかし、金もうけ本位で、客は二の次、安全性は無視、金もうけのためには兵器産業優先という醜い本質を日本経団連は率先しているのです。本当に残念です。
東芝やシャープを先頭として、日本の電機産業は、日本から消滅してしまう危機にある。日本の自動車産業にしても、電機産業と同じ道をたどろうとしている。すべてはアメリカの巨大企業の言うなりに日本の政治が動いていること、それを日本の政官財界が受け入れていることによる。
今の日本は、世界の中で「ひとり負け」の様相を呈している。日本が大きく経済成長したのは1990年代に入るまでで、この20年ほどのあいだに、日本のGDPは40兆円から50兆円も減少している。
日本の企業は、この20年間に、日本国民の雇用を海外、とくにアジア人に置き換えてきた。
日本の貿易収支は、かつては黒字が続いていたが、2011年以降は赤字になっていて、2014年には、10兆円をこえる巨額の赤字となった。今や日本は貿易赤字大国だ。
日本の輸入品は、原油などの鉱物性燃料と電気機器が最大項目。これは海外進出した日系工場からの逆輸入品や、アジア企業への生産委託品が多い。
日銀がいくら市中銀行に紙幣を振り込んでも、その資金は金融機関から先の法人や個人に流れていかなかった。大企業には金が余っていて、銀行からお金を借りている必要がなくなっている。
日本の製造業全体の設備投資が、ものすごい勢いで国外に流れ出している、恐ろしい現象が続いている。
日本の自動車メーカーによる中国工場からの対日自動車輸出が本格化すれば、そのときこそ、とてつもない産業空洞化が日本を襲うことになる。
半導体は、重機産業、そして日本のものづくり全体を支えてきた分野だった。しかし。1990年代から、日本企業は半導体生産から次々に撤退しはじめた。DRAM生産で日本企業に代わって圧勝したのは韓国企業だった。日本企業が韓国の半導体企業を「育成」した。2010年以降、日本企業の半導体生産は崩壊した。
ノートブックパソコンの世界生産に占める日本国内の生産は世界の4分の1から、今では0.2%になった。日本企業は液晶テレビでも液晶パネルでも敗北してしまった。日本の重機産業は、ものづくりでの全面敗退となった。
日本が海外の水道事業を運営しようとすると、他国の水道事業に日本の公的資金を投入するという理不尽なことをしなければならなくなる。水道事業は、まともに運営したらもうけることなど、そもそも不可能。
日本経団連の役員企業の3分の1が外資によって占められていて、外国の資産管理信託会社や日本の代理会社が大株主を占めている。だから、日本の財界が日本国民の生活を守ろうとしないのも必然なのですね。日本の産業構造の破綻というか、日本国民のためにならない政策がますます進行していく必然性を見事に解き明かした貴重な本です。著者に対しては、この本文776頁を国民一般に向けて100頁以下のブックレットにまとめることを強くお願いしたいと思います。
                           (2017年9月刊。5600円+税)

軍国少年がなぜコミュニストになったのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  松本 善明 、 出版  かもがわ出版
 いわさきちひろの夫であり、弁護士であり、日本共産党の国会議員として活躍した著者の自伝です。
著者は、1945年8月15日、19歳で海軍兵学校の最上級生として広島県江田島にいた。なぜ、あの戦争に反対しなかったのか・・・、その問いに答えるべく書いた自伝。
戦争に反対するどころか、当時の著者は心の底から日本の戦争を正しい戦争だと思い、お国のために命を投げすてることを唯一の道だと考えていた。それは愚かだったから戦争を賛美したというものではなかった。
 小学生時代の著者は身体が弱く、神経過敏だった。親は子どもたちに読書をすすめた。東郷平八郎、乃木希典などの軍人の生涯にひきつけられ、軍人として国のために命を捧げるという生き方に違和感をもたずに育った。
 著者は両親の期待を受けてまじめな秀才としての道を歩んだ。お国のために死んでいく価値観は、小学校のときから疑いをもっていなかったが、中学時代にますます確固たるものに変わった。
 中学の校長は、「10年後の大学者となるより、1年後の一兵卒たれ」と叫んだ。著者は、自らの燃えるような意思で、海軍兵学校への進学を決めた。
 このように読んでいくと、学校教育の影響力の恐ろしさをまざまざと見せつけられます。アベ首相につらなる人たちが教育勅語の復活を企図しているのが、恐ろしくてなりません。
 著者は1943年12月に江田島の海軍兵学校に入ります。75期生です。3480人が同期生でした。これは74期の3倍以上。
 敗戦によって生きる目的を失い、心にぽっかり穴があいてしまった。そして1946年4月、東大法学部に入学した。大学生になって、戦前戦中に命を賭けて戦争に反対し続けた人たちがいることを知り、ひどい衝撃を受けた。東大図書館に一人こもり続けるのを1年数ヶ月間も続けたあと、著者は日本共産党に入ったのです。信じられませんね。図書館での独習だけで共産党に入るなんて・・・。
 アベ首相の父の安倍晋太郎とは法学部の同期生で、卒業も同じだった(お互い面識はない)。
 いわさきちひろとの出会いは感動的です。交際中のある日、ちひろから「靴を買ってあげましょうか」と言われた。著者がわらの緒のついた粗末なわら草履(ぞうり)をはいていたから。しかし、著者は海軍兵学校からもらってきた靴が6足もあるから大丈夫だと答えた。自分は一生お金が入るような仕事にはつかないつもりだから、6足の靴を一生はこうと思って大切にしていると答えた。何と純粋な心の持ち主でしょうか・・・。
 著者とちひろとの二人だけの結婚式の光景を上条恒彦が歌っています。神田のブリキ屋の二階のちひろの部屋を花でいっぱいにした。1000円の大金を全部花にした。あとはワイン1本ときれいなワイングラス二つ。すばらしいですね・・・。そのあと、著者は失業して司法試験を受験し、半年間の猛勉強で合格したのです。6期です。
 国会議員になってから、田中角栄首相を鋭く追及し、総理を辞めたくなるほどの心境に追いやったのです。後輩として、読んで元気の出る本でした。
(2014年5月刊。1800円+税)

昆虫の交尾は味わい深い

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 上村 佳孝 、 出版  岩波科学ライブラリー
昆虫の交尾の研究をしている学者がいるのですね・・・、驚きました。いったい、それが何の役に立つのか、なんて野暮な質問はしないでおきましょう。
じつは、昆虫の交尾器のもつ形の不思議に魅せられて研究しているのです。それは昆虫の進化の歴史を反映するものでした。いったい、どんな・・・。
オスとメスは、どう違うのか・・・。卵をつくる側をメス、精子をつくる側がオス。
では、卵と精子の違いは・・・。鞭毛(べんもう)のない、泳げない精子をつくる動物がいる。そこで、大きな配偶子(卵)をつくるのがメス、小さな配偶子(精子)をつくるのがオスなのである。
昆虫のもっとも古いやり方では、精子の授受は間接的。シミ類がそうである。コオロギやキリギリスの交尾は、多くの場合、メスがオスの背後から背中に乗る。
オスの交尾器の腹側は、メスの交尾器の背中側にかみあうというのが昆虫の多くのグループで原則となっている。
生物全般において交尾器の進化は速い。形のなかではもっとも変化が速いと考えられている。交尾器を見ない限り、種を見分けられない。1000万種もいる昆虫たちは、それぞれオンリーワンの交尾器をもっている。
セイヨウミツバチの新女王は最大で17匹ものオスと交尾してから巣づくりを始める。その交尾のとき、オスは手持ちの精子のすべてを新女王に渡してしまい、交尾器の柔らかい部分が破れてショック死してしまう。
ブラジルの洞窟に棲むトリカヘチャタテは、なんとメスがペニスをもっている。オスの側にはペニスにあたる構造は一切なく、そのかわり、メスペニスのトゲ束を受けとめるポケットがある。トリカヘチャタテの交尾時間はとても長く、平均して50時間にも及ぶ。その間に、精子を含む巨大な精包がオスからメスへ渡される。オスは精子だけでなく、大量の栄養物質もあわせてメスに与えると、メスはたくさん交尾するほど、子の数が増えることになる。逆にオスは栄養補給のために次々に複数のメスと交尾するのは難しくなる。オスの獲得をめぐって、メス同士が競争するケースもある。
いやはや学者の世界って、こんなにも奥深いものなんですね・・・。
(2017年8月刊。1300円+税)

古墳時代の南九州の雄・西都原古墳群

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 東  憲章 、 出版  新泉社
宮崎県の真ん中ほどの台地(丘陵地帯)にある西都原(さいとばる)古墳群をまだ見たことがない人、行ったことのない人は少なくないと思いますが、日本古代史に少しでも関心があるなら必見ですよ。ぜひぜひ見学されることを強くおすすめします。ちなみに私は数回行っています。
佐賀県にある吉野ケ里遺跡、青森県の三内丸山遺跡も素晴らしいと私も思いますが、なにしろ西都原古墳群は規模が大きい。300基以上の古墳が丘陵のあちこちにあるのは、実に壮観です。
南北4.2キロ、東西2.6キロで、面積58ヘクタールというのですから、その広大さは想像を絶します。そして、古墳時代の全期間を通じて古墳の築造が続けられています。前方後円墳だけでも、32基もあります。
男狭穂(おさほ)塚古墳、女狭穂(めさほ)塚古墳の二つには対になった古墳で、いずれも同じ全長176メートルもの巨大さです。男狭穂塚古墳は日本列島最大の帆立見形古墳であり、女狭穂塚古墳は九州最大の前方後円墳である。
ここからは、鉄製の甲冑(かぶと)が出土しています。さらに、埴輪(はにわ)船や埴輪子持家(こもちいえ)も出土しているのです。見事なものです。
鉄製短甲(要するに胴まわりの防具です)を3コも入れてもらった被葬者もいます。畿内中央政権につらなる九州屈指の上位首長とみられます。
古墳の様子と出土品が多数のカラー写真で紹介されています。まずは、ぜひこの本を手にとって、次には現地へ出かけてみてください。一見の価値ある偉大なるパワー・スポットです。
(2017年10月刊。1600円+税)

私のヴァイオリン

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  前橋 汀子 、 出版  早川書房
 高校2年生の夏、17歳でソ連で留学。1961年8月のことです。いやはや勇気がありますよね。ヴァイオリンの修行のため、念願のソ連留学を実現したのでした。日本人が一人も住んでいないレニングラードに行ったのです。横浜を出発して1週間かかってようやくレニングラードに到着したといいます。今ならあっという間に、その日のうちに着きますよね。
 著者がヴァイオリンを始めたのは4歳のとき。すごいですね、こんな幼児のころからヴァイオリンを始めるのですね。自由学園幼児生活団に入ってからのことです。
 ヴァイオリンを「ヴァー子ちゃん」と呼んで、いつも枕元において寝ていたというのですから、やっぱり変わっていますよね。ヴァイオリンの練習をしないのは、ご飯を食べなかったり、歯をみがかなかったりするのと同じこと、そう思っていたとも言います。うひゃあ、す、すごいです・・・。
小学6年生のとき、コンクールに出場して2等に入賞。ところが、母親は優勝しなかったので、ひどく落胆した。著者のヴァイオリン上達に母親は並々ならぬ、涙ぐましい努力をしたようです。
レニングラードでは、4人部屋に入りました。寮の部屋では、誰が何時から何時まで練習するというスケジュールを決めていて、自分の番になったら、人が寝ていても、お構いなしにピアノを弾きはじめる。1日に10時間から12時間、みな死に物狂いで練習する。
レニングラード音楽院では、身体の骨格や筋肉について学ぶ授業もあった。ながく演奏活動を続けていくためには骨や筋肉をどう使うか、その仕組みを熟知しておくことが不可欠だから・・・。
筋肉を鍛えると、演奏をしているときの感覚が明らかに違う。うへーっ、そうなんですか・・・。
ソ連の次はアメリカへわたって勉強を続け、やがて世界にはばたいていきます。そして、今では日本で活動しています。いちど、コンサートに行って聴いてみたいと思いました。プロへの道のすごさの一端をうかがい知ることのできる本でした。
(2017年9月刊。1500円+税)

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