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守教(上)

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  帚木蓬生 、 出版  新潮社
この本のオビには、「戦国期から開国まで。無視されてきたキリシタン通史」と書かれています。まだ上巻を読んだだけですから、本当は下巻まで通読したあとに言ったほうがいいと思いますが、筑後平野のド真ん中に隠れキリシタンの集落があったことを私が知ったのは古いことではありません。今から10年ほど前のことです。
2年ほど前、今村天主堂を見学してきました。壮厳としか言いようのない見事な天主堂が見渡す限りの平野にそびえ建っているのは何とも不思議なことだとしか言いようがありません。厳しかったはずのキリシタン禁圧を江戸時代を通じて一村丸ごとはねのけてきたというのですから、信じられません。
離れ小島なんかではありません。どこまでも田圃が続く筑後平野のなかで、ある村落だけがまとまって隠れキリシタンとして親子何代にもわたって続いてきたというのです。今でも今村天主堂の周辺はキリスト教信者が圧倒的に多いとのこと。驚くばかりです。
なぜ、そんなことが可能だったのか・・・。いろんな説があるようですが。私は、藩当局も結局のところ見て見ぬ振りをしていたのではないかという説に賛同します。要するに表向きは仏教徒だということになっていて、真面目に農業を営み、藩政に反抗するわけでもないので、万一、摘発して根絶やししてしまったら、あとの補充が大変だし、藩の失政として江戸幕府より厳しく責任追及されるのを避けたかった・・・。私は、このように考えます。
この本は、戦国時代、カトリックの神父たちが次々に布教目的で来日して、苦労しながら信者を増やしていく努力の過程を丁寧に再現しています。信者を増やすには、領主を信者にするのが早道です。でも、領主も従来の仏教寺院とのつながりがありますし、容易なことでは獲得できません。
上巻では大友宗麟(そうりん)をめぐる状況に重きを置いて話が展開していきます。キリシタン禁圧が始まり、どんどん厳しさを増していきます。信者たち、神父たちの運命やいかに・・・。下巻を早く読むことにしましょう。
(2017年9月刊。1600円+税)

人口減少時代の土地問題

カテゴリー:社会

著者  吉原 祥子 、 出版  中公新書
 空家等対策特別措置法が2015年に反面施行されてから、2017年3月付で、行政による空き家の強制撤去(代執行)は全国で11件。所得者不明のときの略式代執行は34件。これって、まだまだ少なすぎますよね。
所得者の所在把握の難しい土地は、私有地の2割にのぼり、今後も増加するだろう。鹿児島で2015年に調査したところ、相続登記がきちんとなされていない農地が21%あった。全国的にも、相続未登記の農地が2割ある。
福島第一原発の除染廃棄物を保管するための中間貯蔵施設予定地の地権者2400人のうちの半分1200人分が「所得者不明」の状態にある。
なぜ相続登記がなされないのか。土地売却や住宅ローンを組むためには相続登記する必要がある。しかし、自己資金でマイホームを建てるのなら、相続登記の必要はない。そして、相続登記手続には一定の費用がかかるが、対象土地の資産価値が高くなければ、お金をかけてまでする意味はない。
土地の資産価値は下落する一方にある。人口減少にともない土地需要が減り、地価の下落傾向が続けば、人々にとって土地は資産というより、管理コストのかかる「負の資産」になっていく。もらっても困る田舎の土地をわざわざ手間と費用をかけてまで相続登記を行わないのは、短期的な経済合理性から当然と言える。
 家庭裁判所への相続放棄の中立件数は年々増加する傾向にある。2000年に10万4500件だったのが、2015年には1,8倍の18万9400件になっている。
 地方自治体は、土地の寄付を受けとろうとはしない。受けとるのは「公的利用が見込める場合」だけだ。
国土調査の進捗率は52%。残りの48%については、完了までにあと120年を要する。この国土調査費用について、市町村の実質負担は5%でしかない。しかし、職員の人件費は補助対策とはなっていないので、市町村の負担減は小さくない。そして、国土調査で「筆界未定」がたくさん生まれている。
相続人不存在によって、亡くなった人の資産が国庫に帰属した金額は、2006年度に224億円だったのが、2015年度には420億円へ増加した。
 日本全国で空き家問題、相続登記未完了の土地が大量に存在している問題について、その原因と対策が論じられています。まさしくタイムリーな新書です。
(2017年7月刊。760円+税)

沖縄フェイクの見破り方

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 琉球新報社編集局 、 出版  高文研
アメリカのトランプ大統領が平然と嘘を言うことから、どれが本当なのか世間をごまかす言論が目立ちます。
そのターゲットにされている一つが沖縄です。沖縄経済は基地でもっているとか、沖縄にアメリカ軍の海兵隊がいるから日本の平和は守られているといった言説です。沖縄の地元新聞社が総力をあげて、いずれも事実でないことを実証しています。
沖縄からアメリカ軍の基地がなくなったら、それこそ沖縄経済は見違えるように発展すると思います。私も沖縄の新都心のにぎわいぶりを見ていますので、実感できます。
アメリカ軍の基地が返還された跡地は、どこも例外なく市街地として大きく発展している。いずれも雇用は数十倍から数万倍に増え、域内総生産は数十倍になった。
那覇新都心地区では、返還前の雇用者はわずか168人、それが返還後はなんと1万5560人と、93倍になった。経済効果も、返還前は年間52億円だったのが、返還後は年間1634億円になった。31倍だ。
沖縄の経済が基地に依存していた時代は確かにあったが、それは、1950年代、1960年代の話だ。今から50年も前のこと。今では基地関連収入は県民総所得の5%ほどでしかない。
政府の「沖縄振興予算」なるものは、特別の予算でもなんでもない。その総額は日本全体の予算の0.4%にすぎず、沖縄の人口が全国の1%をこえることを考えたら、極端に少ない。
東京MXテレビで沖縄に関して事実に反する番組が放映されたが、これは化粧品会社DHC系列の会社が制作したもの。このDHCという会社は超右翼に偏向していると指摘されていますが、テレビで「嘘」をされ流すなんて許せません。先日、川端和治弁護士を委員長とする放送倫理機構(BPO)が、その偏向をたしなめましたが、東京MXテレビはまったく反省していないようです。
日本にいるアメリカ軍は沖縄をふくめて日本を守るために駐留しているのではない。それは日本の責任だ。アメリカ軍は、韓国、台湾およびト東南アジアの戦略的防衛のために駐留している。沖縄を拠点とするアメリカ軍海兵隊の主力戦闘部隊は、年間の半分以上は沖縄にはいない。太平洋地域を巡回展開している。
やはり、なんといってもマスコミは真実をあくまで報道すべきですよね。その点、沖縄の地元紙は偉いと思います。広く読まれるべき本です。
(2017年10月刊。1500円+税)

ビッグデータの支配とプライバシー危機

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  宮下 紘 、 出版  集英社新書
完全なネット社会になった現在、私たちのプライバシーは丸裸も同然という気がしてなりません。
2010年10月、警視庁公安部の日本に居住するイスラム教徒に関するデータが外部に流出しました。ターゲットにされたイスラム教徒は1万2677人。その氏名・生年月日、住所、電話番号、身長、体重、ひげ、メガネ着用の有無、交友関係のデータでした。
2013年5月から12月にかけて大阪府警は令状なしに容疑者の車両19台にGPSを取り付け、3ヶ月で1200回以上も検索した。
丸善ジュンク堂書店では、店舗における万引き対策として、顔認証カメラが導入されている。
ビッグデータは、単なる個人データの集合体としての統計データではなく、その統計から導き出された、パーソナライズされ、カスタマイズされた情報。監視の対象は人ではなく、データであって、特定のターゲットではなく、あらゆるデータをかき集める。そして、事後的な検証ではなく、事前の分析予測によってビッグデータは成り立っている。
ビックデータの典型例は、アマゾンの「おすすめの本」があげられる。
同窓会の名簿買取価格は1冊7000円から3万円。展示会入場者データは1件あたり50円。ベネッセの流出リストは、5万から16万円の値段で800万件の個人情報の売り込みがなされた。
単純な個人情報の漏えい事案における賠償金額は1人5000円から1万円というのが相場。
防犯カメラの設置と犯罪の増減の動向には相関関係はない。
人は忘れる。しかし、インターネットは忘れない。忘れられる権利は、EUが主導している。
この本を読むと、マイナンバー登録なんて、プライバシー丸裸を手助けするものでしかないと痛感させられます。タイムリーな新書です。
(2017年3月刊。760円+税)

粉飾決算VS会計基準

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  細野 祐二 、 出版  日経BP社
 この本を読むと、大企業の経理って、本当にいいかげんなものだと思いました。また、大手の監査法人も大企業の言いなり、その召使でしかない存在だと痛感します。これじゃあ真面目に税務申告して税金を払っているのがバカらしくなってきます。まあ、国税庁の長官が例の佐川ですから、「アベ友」優先の税務行政はひどくなるばかりでしょうね・・・。それにしても、公認会計士って、実に哀れな職業なんですね。みんな何のために苦労して資格をとったんだろうかと信じられない思いがしました。
 360頁もある大作ですし、会計学のことは分かっていませんので、誤解しているところも多々あるかもしれませんが、ともかく最後まで読んでみました。
 公正なる会計慣行は常に二つ以上ありうる。アメリカに上場している日本の大企業は、日本の会計基準ではなく、アメリカの会計基準にしたがった財務諸表を作成して開示している。目的による優劣に差のある複数の公正なる会計慣行のなかで、さらに目的により優劣に差のある複数の会計処理の方法が並存可能であり、それは会計の常識であって、社会はこれを許容している。ところが、日本の裁判所は最高裁も含めて、「公正なる会計慣行は唯一だ」としている。これは、そもそも前提が間違っている。
税法基準とは、税務上損金処理できるものが計上されてさえいれば、あとは何をやってもいいということで、このようなふざけた会計慣行が、当時の大蔵省銀行統一経理基準において、公正なる会計慣行として立派に認められていた。
 粉飾決算とは、事実と異なる重要な財務情報を悪意をもって財務諸表に表示する決算行為をいう。悪意がなければ、たとえ重要な虚偽表示があろうと、それを粉飾決算とは言わない。悪意が経営者にあったかどうかは、経営者の心の中の問題である。外形的かつ客観的にこれを判別することはできない。会計基準の錯誤は、故意を阻却する。
監査報告書の製品差別化ができない監査業界において、監査法人が営業努力により新規の監査契約をとるのは難しい。しかし、監査法人がいったんとった監査契約を解約するのは、それ以上に難しい。上場会社の監査契約は適正意見を暗黙の前提として継続されるというのが社会的通念となっている。監査法人が交代するというのは、世間には言えないのっぴきならない事情があると考えられる。監査法人により不正会計処理が発見されるのは、監査法人が交代したあとの、新しい監査法人による新年度監査のときが圧倒的に多い。
 日本の4大監査法人のうち最大級の2監査法人(あずさと新日本)がこのざまでは、他の監査法人も推し知るべしで、社会は粉飾決算の発見防止機能について、もはや何の選択の余地も残されていない。日本の公認会計士監査制度については、抜本的な検討がおこなわれるべきだ。
ほとんどの日本の監査法人は、監査調書のドキュメンテーションと、有価証券報告書の作成補助に汲々としており、会社の内部統制から独立した会計監査などできもしなければ、事実としてやっていない。日本社会は、この現実を直視すべきである。
東芝は、監査法人にとってまことに良い顧客で、結果として何の意味もなかった例年の監査において、新日本監査法人に10億円、EYに17億円という、美味しい監査報酬を支払っていた。しかも、粉飾への共謀が明らかとなった2016年3月期には、粉飾訂正のためという口実で、新日本監査法人に53億円、EYに26億円、合計79億円の報酬を支払っている。ちなみに金融庁が、東芝の粉飾決算に対する監査について新日本監査法人に課した課徴金は21億円あまり。これでは新日本監査法人は焼け太りで、金融庁の課徴金など、たいた意味をもたない。
 今では公認会計士ではない著書の一連の鋭い指摘について、公認会計士側からの反論があれば、それもぜひ読んでみたいと思いました。
(2017年10月刊。2400円+税)

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