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避けられたかもしれない戦争

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 ジャン・マリ―・ゲーノ 、 出版  東洋経済新報社
国連PKOの責任者だったフランス人が世界各地の紛争現地の実情をふまえて、国連のなすべきことを提言した貴重なレポートです。
この本を読むと、つくづく日本のなすべきことは、他の国と違って戦争放棄を定めた憲法をもつ平和国家としての提言であり、その立場からの貢献だということです。要するに、アフガニスタンでがんばっている中村哲医師のような地道な活動をこそ日本のなすべきことです。日本が他の国と同じように武力で紛争の現場に出かけたところで、何の力にもならないことは明らかです。
日本は軍事力という現実を認めながらも、対話と外交の価値を推進するという平和の文化を築くことに、国家としても、これから国連で働く日本人職員の手によっても、大きく貢献できる立場にある。著者は、このように強調しています。
アフガニスタンに注ぎ込まれた数十億ドルもの資金は、たいていムダにされた。現実には、その資金のほとんどは、本来の目的のためには使われなかった。たとえば、日本からの資金援助で、莫大な費用をかけて環状道路の一部が敷設された。しかし、その効果的な維持管理対策は講じられなかった。過酷な冬が、この投資をダメにしている。
軍隊だけではアフリカの紛争地帯に平和をもたらすことはできない。
国連にあってほかの国にないものは、自分たちが公明正大であるという信用を築く力である。それは、きわめて厳格で規律ある武力行使が求められる。
国連も高度な訓練を受け、迅速に反応できる部隊をもつ必要性を痛感した。何より肝心な要素は、和平を支える政治基盤なのである。
アフリカの腐敗したエリート層は、自分の財産を先進国の銀行に預け、先進国の法律から恩恵を受けている。自国の無法状態のおかげで、利益を独占し、恩恵を受けている。
脆弱(ぜいじゃく)国家からは優秀な人材が流出していく。欧米で暮らしたら、母国にいるより豊かになり、自分も子弟も高い学歴が得られるからだ。
国連が助けようとしている国に成功をもたらすことが出来るのは、その国の人々だけ。
グローバル化した世界では、愛国心はますます古臭く見えるが、実は愛国心がなければ失敗する可能性は高い。
600頁をこす大著ですが、国連PKO担当事務次長として世界各国の紛争の現場に立った体験をふまえている本なので、説得力があります。著者は私と同じ団塊世代です。1968年に起きたパリのカルチエ・ラタン騒動の世代でもあります。
(2018年1月刊。3400円+税)

朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 五味 洋治 、 出版  創元社
北朝鮮の最新のミサイル発射台は、タイヤのついた可動式なので、発射地点を衛星から特定するのは非常に困難。また、固形式燃料を使えば、発射準備から発射するまで30分しかかからない。北朝鮮から発射されたミサイルが日本に着弾するまで8分ほどでしかない。
ですから、イージスアショアに2000億円もかける意味なんてないのです。そして、日本には全国50ケ所以上に原発(原子力発電所)がありますので、戦争になったら、日本列島に住むところはありません。なので、朝鮮半島で戦争を起こさせないようにすることこそ最優先の課題だということは、はっきりしています。そのため、米朝協議は必要です。
1950年に始まった朝鮮戦争は、1953年に「休戦」になっただけで、法的には今なお戦争継続状態にある。そして、「国連軍司令部」はいまも韓国にあり、東京の横田基地には国連軍後方司令部が置かれ、日本国内の7つのアメリカ軍基地は後方基地として指定されている。
平時の作戦指揮権は韓国軍に返還されているが、戦時の作戦指揮権はアメリカ軍が依然としてもっている。
朝鮮戦争の直後に7万人いたアメリカ軍は、今は2万8000人まで減っている。2万人の陸軍と、8000人の空軍である。朝鮮の国連軍は、朝鮮半島で戦争が起きたときは、日本国内のアメリカ軍基地を自由に使う権利をもっている。
朝鮮国連軍の指揮権はアメリカ軍司令官が握っていて、国連の安保理の許可を得ることなく、自由に軍事行動できる。
アメリカは、北朝鮮と中国に対抗するため、アメリカ軍司令官の指揮のもとで機能する「日本韓の軍事協力体制」を強化したいのだ。
朝鮮戦争で大量の中国義勇軍が参戦してアメリカ軍が劣勢になったとき、それを押し直すためにマッカーサーは、原爆26発さらに追加して8発の使用をアメリカ政府に求めました。マッカーサーの考えはこうです。朝鮮戦争を10日で終らせるため、満州に30~50発の原爆を投下し、強烈な放射線を出す「コバルト60」のベルト(地帯)をつくる。それで60年間は中国から陸路で北朝鮮に侵入することはできなくなる。
 いやはや、マッカーサーって、とんでもないことを言い出す将軍でした。トルーマン大統領が怒って(心配して)マッカーサーを解任して、本当に良かったですね。
安倍首相のように、朝鮮半島の危機をあおるだけであってはいけません。
「米朝対話」が少しでも進展するように日本政府も努力すべきです。
(2017年12月刊。1500円+税)

北斎漫画(1)

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 葛飾 北斎 、 出版  青幻舎
江戸時代を生きていた日本人がどんな生活をしていたのか、ビジュアルに分かる漫画です。
「北斎漫画」は葛飾北斎(1760~1849)が弟子たちに絵の手ほどきをするための教科書として描いた絵手本。弟子はかりでなく、一般の庶民にも親しまれ、江戸時代のベストセラーとして、10編で完話しても、さらに続編が続き、ついに15編がプラスされた。
ただし、その15編完話編が出版されたのは明治11年といいますから、なんと西南戦争の翌年なのです。もちろん北斎自身は30年近く前に亡くなっています。
「北斎漫画」の総ページ数は970。図版は4000をこえる。
人物、動植物、風俗、職業、市井の暮らしぶり、建築物、生活用具、名所、名勝、天候、故事、説話、妖怪、幽霊と百科事典さながら。
この第一巻は、「江戸百態」として、市井の人々の姿や風俗、生活用具や建物などの江戸の日常が描かれている。
「北斎漫画」は19世紀後半にヨーロッパで巻きおこったジャポニズム旋風の引き金となった。かのシーボルトは、「北斎漫画」をひそかにオランダに持ちかえったとのことです。
江戸時代の後期には、江戸だけで学術書を扱う出版社が70軒、娯楽性の高い絵草紙などを扱った出版社が150軒あった。そして、600軒以上の貸本屋があり、本が買えない庶民でも、気軽に読書できる状況がつくられていた。
子どもたちが将棋をして楽しんでいる絵もあります。
人々が農作業をしていたり、また旅姿の人々がいます。日本人は昔から旅行大好き民族だったことがよく分かります。
私も江戸時代のことについては、いろいろ本を読んできましたが、やはりこのようなイメージをしっかりもちながら、江戸時代の社会を論じる必要があると思ったことでした。少々値がはりますが、読む価値は十二分にあります。
(2017年10月刊。1500円+税)
春らんまんの候です。形も色もとりどりのチューリップが全開、青紫と紅いアネモネと美を競っています。シャガの白い花、白いなかに黄色の気品あるアイリスも咲きはじめました。足元にはピンクのシバザクラも地上を飾っています。
春の味覚、アスパラガスが昨日にひき続いて今日も一本、収穫できました。

太王四神記(上)

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 安 秉道 、 出版  晩餐社
高句麗の広開大王の愛と戦いのドラマを描いた面白い本です。まだ、上巻のみですが、手に汗握る面白さなので、記録ファイルそっちのけで一日中よみふけってしまいました。
高句麗と百済が戦う時代です。のちの広開大王は、若き太王として談徳(タムドク)と呼ばれています。周辺国を連破して一大強国を打ち立てた英雄、征服王です。
日本にとって広開大王とは、その石碑で有名です。日本軍が朝鮮半島まで進出し、かなりの土地を支配していた証(あかし)とされていました。しかし、今では研究が進んで、日本(倭)が朝鮮半島(の一部)を支配していたのではなく、逆に朝鮮半島の勢力が九州の一部に上陸し、支配していたということのようです。「任那日本府」なるものも、日本の支配勢力の証明ではなかったとされています(私の理解です)。
ただし、朝鮮半島の南部と北部九州は相互に緊密な連携関係にあったことは事実で、そのため、太宰府には水城(みずき)があったりしたわけです。九州が朝鮮半島の勢力から攻めこまれたときののろし火の連携プレーなど、それなりの対策が確立していました。
この本では、朝鮮半島から中国の山東半島にかけての戦いが描かれています。
談徳(広開太王)は知恵と勇気ある若き太王として、雄々しく戦い、勝利をおさめていきます。城を立て籠って戦う将兵を攻城器が出動して攻めたてます。石や火炎球を投げ込むのです。守る側は石垣を補強して対抗します。
敗走するとみせかけて追いかけてきた敵軍を伏兵で取り囲んで全滅させるなど、知恵比べの戦いも展開します。
広開大王の人智を尽くした戦いをたっぷり堪能できる古代朝鮮史をめぐる小説です。下巻が楽しみです。
(2008年4月刊。1500円+税)

母の家がごみ屋敷

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 哲 、 出版  毎日新聞出版
いま全国各地で問題になっているゴミ屋敷について、その現状と対策が具体的に紹介されていて大変勉強になりました。
ゴミ屋敷を生み出している当の本人やその家族には既に問題解決能力を喪っている人が多いようです。ですから、行政的に解体・撤去すれば終わりということではなく、そのケアも大切だということです。なるほど、そうだろうなと思いました。
セルフネグレクトは、自己放任。自分自身による世話の放棄・放任だ。この状態が続けば、室内(家屋内)にゴミや物がたまって不衛生になり、何かのはずみで引火して火災を起こして本人ないし周囲に迷惑をかける。また、本人の健康も悪化していく。
本人が認知症にかかっていたりして、自覚がなく、ときに開き直るので、行政もうかつに手出しができないことも多い。
たまっているゴミが歩道を占拠しているときには、道路交通法違反として逮捕した例もある。また廃棄物処理法違反で摘発した例は少なくない。自治体が行政代執行で撤去することもある。放置されたゴミの撤去費用として200~300万円かかることがある。
地方自治体では、このための条例を政令したり、専門部署を設けて対応しているところも少なくない。埼玉県所沢市では、「ゴミ出し支援制度」をもうけていて、利用者が10年間で500世帯超と、3倍に増えた。
この本を読んで驚いたのは、実は、20代、30代の若い人でもゴミ屋敷のようになってしまう人が増えているということです。何らかのきっかけで、無気力、ひきこもり状態になってしまった結果なのです。
モノはあふれているけれど、住む人はますます孤立しているというのが、現代の日本社会だということです。直視すべき日本社会の現実のひとつだと思いました。
(2018年2月刊。1400円+税)

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