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炎と怒り

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マイケル・ウォルフ 、 出版  早川書房
トランプ大統領って、本当に知性のカケラもない人間だということがよく分かる本でした。
わがニッポンのアベ首相と共通点がありすぎです。
トランプには良心のやましさという感覚がない。
トランプとクリントンのアウトローぶりは、二人とも女好きで、セクハラの常習犯だ。そして、二人とも、ためらいなく大胆な行動に出る。
トランプのスピーチは、だらだらと長く、支離滅裂で、すぐに脱線し、どう思われようがおかまいなしの主張の繰り返しだ。
これも、わがアベ首相の国会答弁そっくりです。答えをはぐらかし、質問とかけ離れた持論をだらだらと展開し、変なところで急に断定する。
トランプは、社交の形式的なルールを一切身につけていない。トランプは礼儀をわきまえているふりすらできない。
トランプの髪型は、頭頂部にある禿(はげ)を隠すために、周囲の髪をまとめて後ろになでつけ、ハードスプレーで固定して隠している。
トランプを相手に、本物の会話は成り立たない。情報を共有するという意味での会話はできないし、バランスよく言葉のキャッチボールをすることもできない。
トランプの率いる組織は軍隊式の規律からほど遠い。そこは、事実上、上下の指揮系統は存在しない。あるのは、一人のトップと彼の注意をひこうと奔走するその他全員という図式のみ。そこでは、各人の任務は明確ではなく、場当たり的な対処しかない。
トランプは文字を読まず、聞くこともしない。常に自分が語る側になることを好む。実際には、つまらない見当違いだとしても、自分の専門知識をほかの誰よりも信じている。
トランプは文字を読もうとしない。読み取る能力が乏しい。トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。話を聞くにしても、自分が知りたい話にしか耳を傾けない。トランプは、公式情報、データ、詳細情報、選択肢、分析結果を受けとることはない。トランプにはパワーポイントによる説明など何の役にも立たない。
トランプは集中力の持続時間が、きわめて短い。
トランプ政権の矛盾は、他の何よりもイデオロギーに突き動かされた政権であると同時に、ほとんどイデオロギーのない政権もあるということ。
トランプは驚くほど、アメリカの重要な政策をなにひとつ知らないし、知りたくない。
アメリカ・ファーストとは、アメリカさえ良ければ、あとはどうなってもかまわないという意味なのだ。
トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。
よくぞ、こんな低レベルの人物が偉大なアメリカの大統領になれたものですね。
トランプは、自分を律することが出来ない。政治的戦略と立てる能力も皆無だ。どんな組織のなかでも歯車の一つになれず、どんな計画や原則にも従うとは思えない。
不動産業界出身の大統領は、トランプの前には一人もいない。というのも、不動産市場は規制が緩く、多額の債務と激しい相場の変動に耐えなくてはならない。
ホワイトハウスに入ると、「完全に健康体の人間」でも、やがて老いぼれて不健康になっていく。
噂どおりの本で、面白く読みました。しかし、同時にこんな男が核ボタンをもっているかと思うと背筋が氷る思いです。
(2018年2月刊。1800円+税

日本の戦争、歴史認識と戦争責任

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 山田 朗 、 出版  新日本出版社
大変勉強になる本でした。司馬遼太郎の『坂の上の雲』がまず批判されています。なるほど、と思いました。日露戦争は、成功の頂点、アジア太平洋戦争は失敗の頂点と、司馬は単純に二分してとらえている。しかし、実のところ、近代日本の失敗の典型であるアジア太平洋戦争の種は、すべての日露戦争でまかれている。
日露戦争で日本が勝利したことによって、日本陸海軍が軍部として、つまり政治勢力として登場するようになった。軍の立場は、日露戦争を終わることで強められ、かつ一つの官僚制度として確立した。
日露戦争において、日英同盟の存在は、日本が日露戦争を遂行できた最大の前提だった。日露戦争の戦費は18億円。これは当時の国家予算の6倍にあたる。そしてその4割は外国からの借金で、これがなかったら日本は戦争できなかった。そのお金を貸してくれたのは、イギリスとアメリカだった。
日本海軍の主力戦艦6隻すべてがイギリス製だった。装甲巡洋艦8隻のうち4隻も、やはりイギリス製で、しかも最新鋭のものだった。このように、イギリスが全面的にテコ入れしたため、日本海軍は世界でもっとも水準の高い軍艦を保有していた。
日本軍は、大陸での戦いでロシア軍に徹底的な打撃を与えることが常にできなかった。その最大の要因は、日本軍の鉄砲弾の不足にあった。
「満州国」のかかげた「五族協和」でいう「五族」とは、漢・満・蒙・回・蔵の五族ではない。日・朝・漢・満・蒙の五族だった。
満州国には、憲法も国籍法も成立しなかった。日本は国籍法によって二重国籍を認めていない。満州国に国籍法ができると、満州国に居住する日本人は、満州国民となるのを恐れた。というのは、日本国籍を有しているのに、「満州国」に国籍法ができると、満州国に居住する日本人は「満州国民」になってしまう。
アベ首相がハワイの真珠湾を訪問したときのスピーチ(2016年12月27日)についても厳しく批判しています。日本軍が戦争を始めたのは、ハワイの真珠湾攻撃ではなかった。それより70分も前に、日本軍はマレーシアで戦争を始めていた。日本軍にとって、ハワイは主作戦ではなかった。つまり、マレーやフィリピンへの南方侵攻作戦が主作戦だった。ハワイ作戦は、あくまでも支作戦だった。
日本が韓国・朝鮮を植民地した当時に良いことをしたのは、あくまでも植民地支配のために必要だったから。統治を円滑におこなうためにすぎない。単なる弾圧と搾取だけでは支配・統治は成り立たない。地域振興とか住民福祉を目的とした政策ではない。そして、アジア「解放」のためという宣伝をやりすぎてはならないというしばりが同時に軍部当局から発せられていた。
戦後の日本と日本軍がアジアで何をしたのか、正確な歴史認識が必要だと、本書を読みながら改めて思ったことでした。
(2018年1月刊。1600円+税)

モノに心はあるのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 森山 徹 、 出版  新潮選書
心があるのは人間だけに決まっている。なんて変なタイトルの本なんだ。モノに心はない。心がないからこそ、人間とちがってモノなんだ・・・。
著者は、子どものころ、死ぬと決して生き返ることはない。死ぬと夢を見ないで寝ているのと同じ状態になることを確信した。人間は、死ぬと、まったくなくなってしまう。そして、世界は、自分の生まれる前から、そして自分が死んでからも存在するということを実感した。
この点は、私もまったく同じです。ですから、私は、この世に自分というものが存在したことを、たとえ小さなひっかきキズでいのでなんとかして残したいと考え苦闘してきました。こうやって文章を書いているのも、そのあがきのひとつなのです。
心とは、隠れた活動体、すなわち潜在行動決定機構群だ。それは、動物行動学の言葉を用いたら、自立的に抑制する複数の定型的行動の欲求だ。
石においても、隠れた活動体は存在している。つまり、石にも「心」が存在する。石器職人が石を割るとき、自分の力だけで石を思いどおりに割ったとは考えていない。職人は石の自律性を感じている。石の個性に気がついた職人は、石の内部でそれを生成する何者か、すなわち「隠れた活動体」の存在を知ることになる。
アメーバ動物である粘菌が迷路のスタートとゴールを結ぶ最短経路を探し出せること(知)、魚が恐怖や不安の反応を示すこと(情)、ザリガニの脳内には自発歩行の「数秒後に」活動しはじめる神経回路があること(意)が判明している。これらの研究報告は、無脊椎動物をふくむヒト以外の多くの動物に、知・情・意を代表とする精神作用が備わっていることを示唆している。したがって、心はヒトに特有なものではなく、あらゆる動物に備わるものだということになる。
この本は、「心」というものを平易で明瞭なコトバでもって語り尽くそうとしています。読んでいると、なるほど、なるほど、そういうことだったのかと思わずひとりつぶやいてしまいます。
(2017年12月刊。1200円+税)
 初夏と勘違いさせる陽気となり、ジャーマンアイリスが一斉に花を開いてくれました。ほとんどが青紫色で、いくつか黄色の花が混じっています。そのあでやかさは目を惹きつけます。チューリップは終わりました。庭の一区画からアスパラガスが次々に伸びて、春の香りを毎日のように味わっています。
 博多駅の映画館で韓国映画「タクシー運転手」をみてきました。1980年に起きた凄惨な光州事件がテーマです。軍隊が市民を守るものではないこと、当局はひたすら真相を隠してデマ宣伝をすることが描かれ、思わず鳥肌が立ちます。
 自衛隊がイラクのサマワに行ったとき、何が起きていたのか・・・。日報かくしは絶対に許せません。ぜひ時間をつくってみてください。

ルポ・川崎

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 磯部 淳 、 出版  サイゾー
私は大学生のころに川崎に住んでいました。セツルメントに入ってすぐ、川崎区桜本に住んでいた先輩セツラーの下宿に行きました。そこは、今でいうコリアン・タウンでした。いわゆる下町とも、ちょっと違った雰囲気だと感じました。そこで、セツルメントの学生集団(セツラーたち)が子ども会活動をしていたのです。とても、大変な活動だと分かって、勇気のない私は中部の労働者住宅街(幸区古市場)の若者サークルに入りました。
そして、弁護士になって川崎区にある法律事務所で活動するようになりました。しかし、弁護士としては、川崎区の地域問題というより、労働災害や労働運動にかかわることが多く、ほとんどコリアン・タウンに関わることはありませんでした。
いま、ヘイト・スピーチをすすめる差別主義者の集団は川崎区をターゲットにしています。彼らは諸民族が平和共存するのを許さないというのです。なんという愚かな言動でしょうか、信じられません。金子みすずの詩ではありませんが、みんな違って、みんないい、この精神に立たなければ世界と日本の平和はありえません。オレが一番という、トランプやアベ流の発想では戦争を招いてしまいます。「核」の時代に戦争だなんて、とんでもないことです。
この本は現代の川崎市川崎区の実情に足を踏み込んでレポートしています。
川崎区は、暴力団がいまもって深く根を張っている。性風俗の店と暴力団は、残念ながら、昔から切っても切れない関係にあります。
この川崎区にもアベノミクス効果は、まったく及んでいません。アベ首相の眼は、タワーマンションに住むような東京の超富裕層にしか向いていませんので、当然のことです。
暴力団予備軍が次々と再生産している現実があります。親が子どもをかまわない。放任された子どもは仲間とともに非行に走っていくのがあたりまえ・・・。寒々とした状況が明らかにされています。
私が40年前、川崎にいたころに既にあった、マンモス団地の河原町団地は今もあるようです。当然のことながら、その住人の高齢化はすすみ、デイケアの送迎車が目立ちます。
在日コリアンの集住地域だった川崎区桜本にもフィリピン人が転入してきている。仲間、家、仕事。この3点セットを求めて移動してきたのだ。今ではそれに加えて、南アメリカの人々もいる。
川崎区のひどい環境から抜け出すには、ヤクザになるか、職人になるか、はたまた警察に捕まるしかなかった。最近は、これにラッパーになるという選択肢が加わっている。
ヘイト・スピーチをしている人たちも、過去に差別されたり冷遇されたりして、自分を大切に扱われてこなかったという寂しい生育環境のもとで大人になったと思います。気の毒な人たちです。でも、かといって、他人まで、自分が味わったと同じ、みじめな境遇を味わせようなんて、心があまりにも狭すぎます。もっと大らかに、くったくなく、一度だけの人生を楽しみたいものです。川崎区の現実を断面として切り取った迫真のルポルタージュでした。
(2018年3月刊。1600円+税)

西南戦争、民衆の記

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 長野 浩典 、 出版  弦書房
この本を読むと、西南戦争って、いったい何だったんだろうかと改めて思わざるをえませんでした。
西郷隆盛たちは、陸路、東京まで何を目ざしていたのでしょうか・・・。
熊本城を攻略できないまま、熊本にずるずると居続けていたのは、なぜだったのでしょうか・・・。そこにどんな戦略があったのでしょうか・・・。
西郷隆盛が陣頭指揮をとった戦闘は2回だけのようです。では、あとは何をしていたのでしょうか・・・。
薩摩軍には戦略がなかったと指摘されていますが、まったく同感です。熊本城包囲戦に成功せず、田原坂の戦いで勝つことが出来ず、兵站(へいたん)に失敗してしまったのですから、戦争に勝てるはずもありません。それでも若者たちを率いて戦場に出向いて、あたら前途有為な青年を死に追いやったのです。西郷隆盛の責任は重大だと思います。
この本は民衆の視点で西南戦争が語られますので、民衆が被害者であったと同時に観客であり、また戦争で金もうけをしていたことも紹介しています。
残酷無比な戦場に、戦闘が終わるとすぐに民衆は出かけていき、戦死者から、その衣服をはぎとっていました。
民衆は軍属として徴用されましたが、戦場の最前線まで武器・弾薬や食糧を届けるのですから、とても危険でとてもペイしませんでした。無理に徴用しても逃亡者続出だったようです。
犬養毅が慶応大学の学生のとき、記者として戦場に出向いて戦場のレポートを新聞に書いていたというのには驚きました。新聞は戦場のことを書くと売れるのです。
西南戦争とあわせて、農民一揆も発生していたのですね。そして、山鹿には数日間だけでしたが、コンミューン自治が実現しました。
それにしても、参加者5万人という薩摩軍は何を目指してしたのでしょうか、さっぱり分かりません。当時の民衆の対応が手にとるように分かり、西南戦争の全体像を改めてつかむことができる本でした。
(2018年2月刊。2200円+税)

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