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歌う鳥のキモチ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 石塚 徹 、 出版  山と渓谷社
朝早くから澄んだ鳥の鳴き声を聞くと、心も洗われる爽快な気分に浸ることができます。
では、いったい鳴いている鳥たちは、いかなる気分なのでしょうか・・・。そんなの、分かるはずがない。そう決めつけてしまっては身も蓋(ふた)もありません。そこを追求して解明するのが学者なのです。ええっ、でも、どうやって鳥の気持ちを測るの・・・。
鳥は、一見すると夫婦仲良くけなげに子育てしているようだが、実は非常に浮気者。世界に1万種ほどいる鳥の9割は一夫一妻だが、調べると、鳥の浮気はすぐに発覚する。そうなんです。DNAを調べると、子の父親がいろいろ違っていることが判明するのです。
歌っているのは、ほとんどオスの鳥だ。
鳥の胸のなかには、人間にはない「鳴管」というのが呼吸器官とは別にあるので、呼吸とは別に、あるいは同時に、空気を震わせて音を出すことができる。
鳥は、命にかけてもパートナーが欲しい。だから、自分の居場所が分かるような声のトーンで歌う。タカなどが出現したときの警戒の地鳴きは「ヒー」とか「ツィー」とか、高周波の声で、それは居所がつかみにくい。
メスが産卵するのは、ふつう早朝であり、メスが出てくるのは産卵直後だ。そして、産卵直後に行う交尾が翌日に産む卵の受精にもっとも効果がある。
アオガラは、メスが夜明けになわばりを離れ、質の高いオスとの婚外交尾(浮気)を求めて出歩く。夜明けに早く歌いはじめ、長いこと歌うオスほど、多くのメスを射止め、婚外交尾にも成功する。歌いはじめの早いオスは、年長のオスに多い。
いかにも夫婦仲の良さそうなツバメやモズクでも、5,6羽の子どもたちのなかに1羽くらい父親の違う子がまじっている。
高山にすむイワヒバリやカヤクグリは、メスが積極的にオスを誘惑して交尾を誘う。メスがグループ内の複数のオスに交尾を迫るのは、オスの全員に、子の父親のような気にさせるという利点がある。つまり、オスたちから、より多くの労働力を引き出そうという、メスの戦略なのである。
箱根のクロツグミには、一羽ずつ、しっかりしたレパートリーがあり、それを順ぐりに歌っている。歌は数節からなり、その第一節は、一羽がせいぜい十数類のレパートリーだ。
そして、ツグミは、独身と既婚とでは、歌い方がまるで異なる。既婚者なのに、独身のふりをしたくなるのがオスの本音なのだ。
メスは、何日もかけて、しっかりオスの品定めをする。
複数のメスを同時に獲得した3羽のオスは、つぶやき声のレパートリーがずば抜けて多いオスだった。つぶやき声は、「勝負音」であり、オスの質のバロメーターになっている。目の前に来たメスに対して出す勝負音は、大声である必要はない。むしろ、小声にして、「あなただけに歌ってますよ」という情報に切り替えている。
鳥の鳴き声を録音して可視化し、個体識別に励んでいる学者の姿を想像すると、思わず拍手したくなります。
(2017年11月刊。1400円+税)

北斎漫画3

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 葛飾 北斎 、 出版  青幻舎
「奇想天外」編です。よくも、これだけの絵が描けたものです。まさしく北斎は天才画家というほかありません。
ところが、この本の解説によると、北斎は同時代の江戸の人々からは、それほど高い評価を受けていませんでした。日本では、北斎は「卑しい絵描きだ」と言われ続けてきた。「六大浮世絵師」のランクでは、上から鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東州斉写楽、歌川広重そして葛飾北斎だった。
浮世絵師が評価されていなかったって、意外ですよね。今では、北斎は、「東洋のレオナルド・ダ・ヴィンチ」だと評価されています・・・。
北斎は、75歳を過ぎてからは、いわゆる浮世絵師ではなくなっている。
北斎は、とにかくありとあらゆるものを描こうとしていた。目には見えない、幽霊や鬼や化け物も描いている。
北斎は、ある意味、日本人離れしている。
北斎は、模倣の天才だったし、真似ることそれ自体が創作活動だった。自分自身も模写している。
北斎は、90歳で死の床に就いたとき、神様に「あと10年ください」と命乞いをしている。「宇宙の真理をつかんで、真の画家になるために、もう少し長生きさせて下さい。10年が無理なら、せめて5年でもいいから・・・」
この3巻のテーマは「奇想天外」なので、宗教的画題、幽霊、妖怪などがふんだんに登場しています。そのひとつひとつに豊かな表情があるので、見ていて飽きることがありません。やはり北斎は天才としか言いようがないことを、ひしひしと実感するのです。
(2017年11月刊。500円+税)

松本零士、無限創造軌道

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  松本 零士  、 出版  小学館
私にとって、松本零士といえば、あのスリーナイン(999)の銀河鉄道より、男おいどんの四畳半の世界を描いたマンガのほうが強烈な印象を残しています。なにしろ、四畳半の押し入れには汚れたサルマタ(パンツ)の山が押し込まれていて、そこにサルマタケというきのこが生えてきて、それを食べるのです。それもゲテモノ喰いというのではなく、お金がなくて食べるものがないので、仕方なく生きのびるために食べるという生活を送っているのです。
この本を読むと、著者とほぼ同年齢のちばてつや(この人も私の大好きなマンガ家の一人です)に、そのきのこを食べさせたといい、実話にもとづいているのです。驚きました。
このきのこの正式名称はマグソタケといって、食べられないわけではない、毒性はないきのこだというのです。しかし、もちろん著者もこのきのこを食べていて、いい味だったなんて、信じられません・・・。
そんな「男おいどん」の世界を描くかと思うと、ヌード姿の美女を妖艶に描きあげるのですから、そのペン先の魔法には魅入られるばかりです。
そして、「銀河鉄道999(スリーナイン)」です。その底知れぬ発想力を絵に結実させる力をもつ恐るべき異才の人だと改めて感服しました。
手塚治虫もすごかったし、先日、境港まで行って見てきた水木しげるも恐ろしい才能をもつ人でしたが、著者の絵もまた負けず劣らずすごい、と思います。
永久保存版と銘打つだけの価値のある大判の本です。少し値が張りますので、ぜひ、あなたも、せめて図書館で手にとって眺めてください。
(2018年3月刊。2500円+税)

日報隠蔽

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 布施 祐仁 ・ 三浦 英之 、 出版  集英社
アフリカの南スーダンへ自衛隊が国連PKOとして派遣されていたときの日報が実際には存在するのに廃棄されたとして防衛省が隠蔽していた事件をたどった本です。
この隠蔽が明るみになったことで、防衛省は、稲田朋美大臣、岡部俊哉陸幕長、黒江哲郎事務次官というトップ3人がそろって辞任せざるをえませんでした。前代未聞の不祥事です。
ことの深刻さは、単なる贈収賄事件の比ではありません。要するに、戦前の日本軍と同じ体質、国民に真実を知らせず、嘘をつき通そうとする体質が暴露されたという恐ろしい事件です。では、いったい自衛隊が南スーダンで直面していた事態とは、どんなものだったのか、それが今も日本国民に十分に知らされているとは思えません。
すなわち、南スーダンでは、武力抗争、石油資源をめぐる利権争いから内戦状態だったのです。すぐ近く(100メートルとか200メートルしかありません)まで、戦闘が続いていた。戦車や戦闘ヘリまで出動していて、4日間で300人もの戦死者が出るほど激烈なものだった。
それで、野営地にいた自衛隊の派遣部隊の隊長は、女性隊員もふくめた400人の隊員、全員に武器と弾薬を携行させ、各自あるいは部隊の判断で、正当防衛や緊急避難に該当する場合には撃てと命令したのでした。つまり、2014年1月の時点で、自衛隊は南スーダンで発砲する直前までいっていたのです。ところが、このような深刻な事実(状況)は、日本国民にまったく知らされませんでした。
むしろ現場に派遣された自衛隊の幹部は真相を隠蔽したくなかった。真相を伝えたくなかったのは、日本にいるトップの指導部です。国会(国民)対策上、真実が知られたら困るという「大本営発表」と同じように考えたわけです。
ところで、自衛隊員が本当に現地で発砲できただろうかという問いかけもなされています。発砲する相手は、どんな「敵」なのか、それは、14歳から17歳の少年兵、軍服も着てなくてTシャツにサンダル姿の少年兵たちがカラシニコフ銃を連射しながら襲ってくる、そんな状況を目の前にして日本の自衛隊員が銃の引き金を引けるか疑わしいという指摘です。私も、その通りだと思いました。ただでさえ、人を殺すというのはハードルが高いのに、ましてや相手が子どもたちだったら、引き金を引けるとは、とても思えません。でも、そうやってためらっていると、殺されてしまいます。
このようなジレンマに陥った自衛隊員が日本に帰ってから精神のバランスを失って自死に至るというのは、ある意味で正常な反応、必然ではないでしょうか・・・。
安倍首相は国会で次のように放言しています。
「南スーダンは、我々が今いるこの永田町と比べればはるかに危険な場所であって、危険な場所であるからこそ、自衛隊が任務を負って、武器も携行して現地でPKO活動を行っているところです」
南スーダンを日本の「永田町」と比べるなんて、とんでもありません。見識を疑います。
憲法に自衛隊を明記するという安倍首相の改憲論は、このような自衛隊の隠蔽体質を温存し奨励する危険があると私は思います。「日報隠滅」問題の本質を考えさせてくれる本です。
(2018年4月刊。1700円+税)

琑尾録 (上)

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 呉 希文 、 出版  日朝協会愛知県連合会
秀吉の侵略を受けた朝鮮側の一文化人の記録です。
上巻だけで480頁ほどもある大部な日記なのですが、朝鮮半島で平和に暮らしていた人々が突然、日本の武装兵に襲われ逃げまどっている状況が刻明に記録されています。
1592年4月、日本軍(「倭賊」と表記されています)が侵入してきて、1601年2月末にソウルに戻るまでの9年間の日記です。山中の岩かげで風雨をしのぎながらも記し続けた日記です。著者は両班(やんばん)で男性なので、ハングルではなく漢文で書かれています。
日本軍は戦国時代に戦争に明け暮れていたので、いわば歴戦の勇士です。これに対して朝鮮のほうは、1392年に朝鮮王朝が成立して以来、200年続いた平和の国でしたから、日本軍の侵入は、まさに青天の霹靂、何の備えもありませんでした。ずるずると後退していったのも当然です。そして、明軍が入ってくるのですが、明軍の接待も食糧の供出など、朝鮮の人々にとっては大きな苦労を余儀なくされました。
著者はソウルに住む名門の両班。本人は科挙に合格できなかったので、在野にいて、高い人格と学問ある人として周囲から尊敬されていた。その息子の一人が科挙に極隠し、日本への訪問団の一人となるなど、活躍した。
タイトルの「琑尾」とは、中国の古典、四書五終のなかの詩経に出てくる言葉、「琑たり尾たり流離の子」(うらぶれおとろうたさすらい人よ)からきている。したがって、「流離記」という意味。
1592年4月16日。倭船数隻が釜山に現れたというしらせが届く。夕方には釜山が陥落したというしらせ。驚愕する。城主が堅く守らなかったのだろうか。
4月19日。賊(日本軍のこと)は兵を三路に分け、まっすぐ京城に向かい、山を超え、大河を渡り、無人の野を行くようだという。哀れな民衆は、ことごとく賊の槍の餌食になったという。王がはかりごとも立てず、まず自分から逃げるとは、深く深く残念なことだ。わかほうの軍務長官は、軍の威厳を示そうとして大きな枝をふるって、あちこちで厳刑を加えるので、ムチ打たれて倒れる者も多く、人々の怨みはつのり、いっそ敵に攻めこられる方がよいと考えるほどになっていた。
たのみとするところは、今は義兵の旗揚げだけだ。聞くところでは、倭賊侵入後、嶺南の人は投降し、敵の手引きをする者が非常に多く、また徒党を組んで倭賊の声をまねて村に侵入し、村人が逃げ散ったあと、財産を略奪していく者も多いという。噂では、倭賊は、嶺南で両班女性のみ麗しい者を選んで5隻の船に満船して先に自分の国に送り、厚化粧させて売り飛ばしたという。
デマも記録されています。
琉球国人が日本全国の軍備が空になっているのに乗じて、平秀吉(豊臣秀吉のことです)を刺殺した・・・。
8月、明軍が来て、平安道の士気が上がる。
8月。三国時代以来、戦火のわざわいは何度も受けたが、島夷によるこのように酷い侵略は未曾有のことだ。今は、八道すべてが賊に躁躙されるという。わが国はじまって以来の大変事だ。
11月。村内の若者たちが集まって、すごろくをしている。負けた者は、両眼のまわりに墨を塗られてみんなの大笑いのタネにされる。
戦火のなかでも、このような余裕はあったのでした。
12月。大臣たちは心を合わせて回復しようとするのではなく、いまも東西の派閥に分かれて攻撃しあっている。国王の政庁と王世子の政庁との間に不和をかもしだしている。
1593年7月。倭賊は、南部の海岸地帯に倭城を築いて居すわり、周辺で耕作したり略奪しながら、日明平和交渉というだましあいを続けている。
11月。することもないので、末娘と碁石遊びで日を過ごし、流浪の寂しさを紛らわす。
1594年4月。最近、乞食が減った。ここ数カ月でみな飢え死にしてしまったので、村の中を乞食して歩く者がなくなったのだ。嶺南や幾内では人肉を食っているとささやかれている。遠い親戚など殺して食うというのだ。倭賊の投降者が続々と上京していき、少しでも気に入らないことがあると怒鳴りつけ、剣を振りまわしたりする。
1596年7月。李夢鶴の乱が起きたときの状況も日記に詳しく記録されています。
慶長元年閏(うるう)7月に日本の幾内で大地震が起きたとことも9月2日の日記に登場しています。情報伝達の早さ、確実さにおどろかされます。
噂では、日本国で去る8月、和泉県で地震があり、家があっという間に倒壊し、関内の兵士数万人が圧死した。
いやはや、かくも詳細な日記を戦火に追われるなか漢語で書き続けていた知識人(両班)がいたとは、驚きです。当時の知的水準の高さを如実に示しています。
日本文にするのには大変な苦労があったと思いますが、貴重な労作です。多くの人に読まれることを願っています。下巻が楽しみです。
(2018年6月刊。3000円+税)

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