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陰謀の日本中世史

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 呉座 勇一 、 出版  角川新書
陰謀論は日本史でも、しばしば登場し、よく本が売れているようです。その陰謀論のインチキについて、学者が真面目に解説しています。
まず、頼朝と義経です。頼朝は、義経を鎌倉に召喚しようとしていた。鎌倉に来れば、義経を詰問、拘束できる。来なければ親不孝者として糾弾できる。義経の武勇は頼朝にとって脅威であり、軍事的衝突を回避しつつ、義経を屈服させる道を頼朝は探っていた。
次は、信長暗殺とイエズス会の関わりです。イエズス会日本支部の財政は逼迫(ひっぱく)しており、信長の天下統一事業に資金援助するような余裕は、まったくなかった。
本能寺の変が起きたとき、明智光秀は55歳でなく、67歳であり、秀吉48歳、勝家56歳。
みながみな人間不信になって身動きできない状況で、がむしゃらに前に飛び出した秀吉こそ異常だった。
信長は、対人間関係の構築は、お世辞にも上手とは言えない。他人の心理を読みとる能力がそれほどあったようには思えない。信長は、決して万能の天才ではない。弱点があり、隙(スキ)もあった。
光秀がおのれの才覚で信長を討ったことを、ことさらにいぶかる必要はない。
教科書には書いていない「歴史の真実」を売りにする本は多く、自分こそ歴史の真実を知っているという自尊心を陰謀論は与えてくれる。しかし、それだけのこと。インテリ、高学歴の人ほど騙されやすい。
なるほどなるほどと、目の覚める思いで読みすすめました。
(2018年3月刊。880円+税)

空気の検閲

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 辻田 真佐憲 、 出版  光文社新書
現代日本では忖度(そんたく)があまりにも横行していて、マスコミの自粛がひどすぎます。もっと自由にのびのびとマスコミは嘘つきアベ首相を堂々と批判すべきです。少なくとも、批判的コメントなしで、首相や官房長官の開き直りの発言をタレ流してはいけません。
この本は、戦前の日本でやられていた検閲の実際を紹介しています。
本を発行するときには、発行日の3日前までに内務省に完成品2部を納めなければいけなかった。これに違反すると刑事責任を問われた。
当時の新聞記者は検閲に慣らされていた。世間が戦争を支持し、検閲官が言論規制を強化すると、新聞記者は、それに簡単に引きずられた。検閲官は100人をこえていた。
たとえば、1930年10月に台湾で霧社事件(現地の高山族が学校を襲撃して運動会に参加していた日本人134人を殺害)について、51件もの新聞記事が事前に抹消された。
石川達三が『中央公論』1938年3月号に南京戦直後の中国を訪問し、日本兵の婦女暴行、一般市民殺害のレポートを書いたところ、発禁処分とされた。そして、石川達三は、刑事裁判に付され、禁錮4ヶ月、執行猶予の有罪判決を受けた。新聞紙法違反だった。石川達三は、冒頭にわざわざ「自由な創作」、「仮想」と書いていたのに・・・。
言えるとき、言うべきときに、きちんとモノを言っておかないと、何も言えなくなるということを示した本だと思いました。
(2018年3月刊。880円+税)

武士の日本史

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 髙橋 昌明 、 出版  岩波新書
日本の武士とは、いかなる存在だったのか、興味深く読みすすめました。
中世の鳥帽子(えぼし)は、身分や着用の場面によって形状と塗り方を異にする。もとは薄い絹布や生糸をざっくり織った布で作ったが、後世は紙で作って、漆で塗り固めた。一般庶民に至るまで欠かせない、常用の被(かぶ)りもので、普通は家のなかでもかぶり、寝ているとき、男女が交わる時にもとらなかった。
そのため、被り物をかぶっていない無帽の状態(露頂)を他人の視線にさらしたり、髪をモトドリの部分から切り落とすことは、それぞれ、「もとどりを放つ」、「もとどりを切る」と言って、卑しい振る舞いや相手の名誉を否定する行為、あるいは、ヒトたることの自己否定(出家の意思)をあらわすものとされた。
理由なく他人のモトドリを切り放つ「本鳥切(もとどりぎり)」は、当時、強盗や夜付・放火・殺害と並ぶ犯罪だった。
髪は毎日のびるから、清潔な月代(さかやき)を維持するのは大変。髪は剃刀で剃るか、毛抜きで抜くかしかない。はじめは毛抜きが使われた。木で挟んで、頭髪を抜いた。
剃るのが普及したのは、天正年間(1573~93年)の中頃以降のこと。
古来、武士は「弓取」(ゆみとり)と呼ばれた。武士を象徴する武器は刀ではなく、長く、弓だったからだ。
武士が発生した、古代・中世において、武士とは芸能人だった。
武士は乗馬ができた。近代まで、庶民に乗馬は許されていなかった。
律令社会では、宮都とその周辺において自由に武器を携行して横行するなど、あってはいけない事態だった。
日本では、本来、刀は片手でつかうものだった。乗馬で突撃するのは、勝敗の帰因が決まったあと、算を乱して逃げる敵を追撃する場合に限られていた。
鉄砲伝来を、種子島だけとするのは根拠がない。実際には、当時、東アジアの海域に活動した中国人倭寇(わこう)の役割が大きいようだ。鉄砲(火砲)が日本各地に広まったのは、それを愛好した第12代将軍・足利義晴が贈答品として大名に贈与したこと、職業的な砲術(ほうじゅつ)師が全国各地を渡り歩いて鉄砲の運用技術を教授してまわったからだ。
鉄砲は、まずは狩猟の道具として広まった。
関ヶ原の戦いのとき、小早川秀秋の寝返りが遅れたが、家康が催促の鉄砲を撃ちかけられて、昼ころ、西軍を裏切ったとされているが、根拠がない。実際には、小早川は開戦と同時に裏切り、布陣しようとしていた。石田光成方は瞬時に総崩れとなった。
日本人が「武の国」であるという、確かめようもないプロパガンダに乗せられそうになりますが、とんでもないことです。足元をすくわれないようにしたいものです。
(2018年5月刊。880円+税)

レッド・プラトーン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クリントン・ロメシャ 、 出版  早川書房
Il doesn’t get better.
今よりマシにはならないぜ。
これがレッド小隊(レッド・プラトーン)の合言葉。
今から9年前のアフガニスタンでの出来事です。アメリカ軍がアフガニスタンの東部山中につくった前線基地がタリバン軍に強襲され、辛うじて撃退した経過を現地で指揮したロメシャ2等軍曹が詳しく語った本です。その戦闘場面の描写は大変な迫力です。
前線基地を戦闘前哨と呼ぶのですね。ともかく孤絶した山中にアメリカ兵50人あまりがいて、タリバン兵300人を迎え撃ち、強力な航空兵力の助けを得て、なんとか絶滅の危機を免れたのでした。
タリバン軍は、周囲の山頂からこの戦闘前哨をよく観察していて、きわめて効果的に強襲し、アメリカ軍に不意討ちをくらわせた。攻撃はアメリカ兵の大半がまだ眠っていた午前6時前に開始され、緒戦は防御側にとってきわめて不利に推移していった。航空支援を受けながら、アメリカ軍は14時間の死闘に耐え抜いた。
アメリカ軍の死者は8人、負傷者22人。つまり、50人のうち死傷者30人ですから、大変な損耗率です。対するタリバン側は150人の死者を出したと推定されています。
でも、そもそも、なぜこのすり鉢の底のような不利な地にアメリカ軍が戦闘前哨をつくり、50人もの兵がいたのか、それが根本的な疑問です。
近くに小さな村もあり、タリバン兵が戦闘前に占拠していましたが、アメリカ軍と村民とが交流していたような気配は感じられません。むしろ村民はアメリカ軍にとって非友好的存在だったように思われます。そんなところに軍隊を置いて、いったいアメリカ政府(軍を指揮するものとして)は、どうするつもりだったのでしょうか、まったく訳が分かりません。
アメリカ兵50人の救援に向かった航空兵力のなかでは、アパッチ攻撃ヘリコプターが活躍していますが、この近代兵器も悪天候と燃料切れには勝てないのですね。
そして、B1戦略爆撃機の投下する巨大な爆弾です。そして、それは精密誘導爆弾キット付きなのです。ベトナム戦争のときのような友軍を誤爆するようなことは避けなければいけません。
そして、アメリカ軍は戦死した兵士の遺体の回収に全力をあげる、そのために犠牲者がでても仕方がない。こういう考えでアメリカ軍は運用されているようです。
この戦闘で死んだタリバン兵士150人にも、それぞれの人生があったと思いますが、それが文章化されることは恐らくないでしょう。死んだアメリカ兵士8人については、著者が写真とともに、その人柄を紹介しています。
なぜ人の好きそうなアメリカの青年が、こんなアフガニスタンの山中で死ななくてはいけなかったのか、彼らの死に果たしてどれだけの意味があるのか、そのあどけない生前の笑顔を見ながら大いに考えさせられました。
『ブラックホーク・ダウン』、『アフガン、たった一人の生還』に続く本だと思います。
(2018年3月刊。2100円+税)

刑務所には時計がない

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 玉城 英彦、藤谷 和廣ほか 、 出版  人間と歴史社
北海道の大学生が札幌刑務所などを視察した感想文をもとにした本です。なるほど、世間には刑務所って、とんでもなく誤解されているよね・・・、そう思いました。
まずは刑務所をめぐる基本データを紹介します。
2016年12月末における日本全国の受刑者は4万9千人(男4万5千人、女4千人)。女性は、8・4%で、年々増加する傾向にある。
男女あわせて罪名をみると、窃盗(その多くは万引)が33・4%、次いで覚せい剤の27・3%。この2つで6割をこえる。窃盗(万引)は、女性の高齢者に多い。
この25年間に、受刑者の高齢化率は男性で1・7%(1990年)から16・5%(2015年)へと10倍も伸びている。女性も、3・9%から33・1%へと、ほぼ8・5倍になっている。女子受刑者の3人に1人は65歳以上。
刑務所への再入所率は2004年からずっと上昇しており、2015年は59・4%(男の61%、女の46%)だった。刑務所を出るときには、今度こそ「もうしないぞ」と思ったのに、実際には10年後内の再入所率は、総数で47・6%、満期釈放で60%、仮釈放では36・8%になる。再入者は、男女ともに無職者が72%、住居不定者が23%だった。
私は刑務所から満期出所してきた高齢者(60歳以上)が駅構内の立ち喰いウドン店で無銭飲食したというケースの弁護人になり、大いに矛盾を感じました。家族が協力してくれないため、借家を探すための保証人が得られなくアパートを借りられなかったのです。
初めて実際の刑務所のなかに足を踏み入れた大学生たちは、刑務所内がいたって静かで清潔であること、テレビを見るなどの「自由」があること、タダで医療を受けられることに驚いていました。一般社会には生活保護基準よりも低いレベルの生活を余儀なくされている人々が大勢いるのに、刑務所内にいる受刑者のほうが「自由」を満喫しているように見えたのでした。
日本人の再犯率の高さに刑務所の居心地の良さがあげらるのではないのか。それは、おかしいだろ。そんな率直な学生の声(感想)が初めに紹介されています。
イタリアの刑務所には、所定の工場で働くために通勤している受刑者がいる(10%)。所外での就労を認めると同時に所内での学習もすすめた。受刑者の大半がやがて実社会に出てくるわけですから、所外就労の機会を保障するのは大変いいことだと私は思います。おかげで、この刑務所の再犯率は18%でしかないとのこと。立派です。
日本でも、地域社会と受刑者とがもっと交流できるようにしたらいいと私は考えます。
刑務所の副食費は1日1人あたり430円。これでも、数が多いと、けっこう美味しい食事が食べられます。
刑務所の誤ったイメージを払拭するのに、とてもいい本だと思いました。
(2018年5月刊。2200円+税)

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