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愛と分子

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 菊水 健史 、 出版  化学同人
面白い本のつくりです。まずは写真。なかなか見事な、そして意味ありげな写真が続きます。その次に、文章で解説されると、なるほど、そういうことなのか・・・、と。
鳥のウズラの場合。オスは、大きな声でよく鳴き、メスにアピールする。オスの鳴き声にひきつけられたメスが、オスの目の前にひょっこり現れると、オスは瞬時に鳴きやんでメスに近づき、交尾を試みる。このとき、オスは、目の前にあらわれたメスの頭部と首を見て、その見た目の美しさに見ほれ、交尾行動を開始する。
男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる。
ショウジョウバエの場合。メスはオスに出会ったときは逃げまわるが、オスの熱心な求愛歌を聞くと、うっとりしたかのようにゆっくり歩く。これはメスがオスを受け入れつつあるサインだ。
ハツカネズミの場合。オスはメスに出会うと、ヒトには聞こえない高い周波数の超音波で、鳥のさえずりのような歌をうたっている。そしてメスは、自分とは遺伝的に異なる系統のオスがうたう音声を好む。
メダカの場合。メスは、長くそばに寄り添ってくれたオスをパートナーとして選ぶ。以前からよく見かけていたオスを記憶し、視覚的に識別して、恋のパートナーとして選んでいる。
プレーリーハタネズミの場合。オスもメスも、親元から離れて巣立つと、一人で草原の探検を始める。そこで、見知らぬ異性と出会い、そこで交尾すると、そのまま妊娠し、夫婦としての絆を形成する。絆をつくった夫婦は、ともに食事に、ともに子育てし、パートナーが死ぬまで添いとげる。オスは、たとえ若いメスが縄張りに入ってきても、求愛するどころか、攻撃して追い払ってしまう。
ええっ、そうなのか、そうなんだ・・・と、思わず納得してしまった小冊子みたいな本でした。
(2018年3月刊。1500円+税)

星夜航行(下巻)

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 飯嶋 和一 、 出版  新潮社
秀吉の朝鮮侵略戦争に主人公が従事しているところから下巻は始まります。
咸鏡道は、朝鮮八道で唯一、秀吉軍による検地が執行された。その一部では、租税帳まで作成された。
朝鮮社会の内部矛盾を秀吉軍がうまく利用したということもあったようです。
朝鮮水軍は、李瞬臣によって見事によみがえり、秀吉水軍を撃破するようになった。加えて、各地で朝鮮義兵が蜂起し、秀吉軍は物資補給が思うようにならなくなっていった。
そして、ついに明国軍が4万3千の大軍として朝鮮に入ってきた。明と朝鮮の連合軍は8万をこえる大軍となり、小西行長の守る平壌を攻撃した。ついに、小西行長は平壌を捨てて南に撤退することにしたが、そのときには、1万8千の兵員が6千6百にまで減っていた。
朝鮮侵略軍としての秀吉軍にいた日本人将兵のなかに朝鮮軍の捕虜となった人々が少なくありませんでしたが、そのときには彼らは降倭と呼ばれ、やがて降倭だけで部隊が組織されて秀吉軍と真正面から戦うようになります。これは史実です。
本書では阿蘇神官の重臣だった岡本越後が降倭の主だった武将として登場します。
降倭は戦いに慣れ、鉄砲も扱える貴重な戦力として秀吉軍の脅威になっていきます。
そして、主人公のほうは、フィリピンに渡って、その地の日本人たちとまじわったうえで、日本に舞い戻ってきます。
降倭軍は、日本人ながら秀吉軍を相手として奮戦し、朝鮮王国軍の一翼を担ってきた。朝鮮王国軍の将兵ばかりか朝鮮民衆までも降倭軍を頼りにした。そして降倭軍は、その依頼を一度も裏切らなかった。
そして、主人公は、家康の前に朝鮮使節団の一員としてあらわれるのです。
なんとスケールの大きい展開でしょうか。秀吉の朝鮮出兵についても、よく調べてあり、驚嘆するばかりでした。下巻だけで、572頁もある大作です。読み通すのには骨が折れますが、努力するだけのことはある歴史小説です。
(2018年6月刊。2000円+税)

島原の乱

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 神田 千里 、 出版  講談社学術文庫
九州で見るべき古戦場跡と言えば、原城と田原(たばる)坂ですよね。ちょっと違いますが名護屋城も欠かせません。もちろん私はいずれも行ったことがあります。行っていないのは龍造寺隆信が討ち取られた沖田畷(おきたなわて)という島原半島の古戦場です。今、どうなっているのでしょうか。きちんと保存・表示されているのでしょうか。ご存知の方はお教えください。
さて、島原の乱です。この本にも参考文献として紹介されている吉村豊雄の三部作はその詳細な記述に驚嘆しました。小説としては飯嶋和一の『出雲前夜』が読ませますよね。市川森一の『幻日』にもぐいぐい惹かれてしまいました。
この本は、2005年に中公新書から刊行されたものを、その後の批判を受けて「あとがき」で反論も加えたものです。
原城の戦いで、幕府側の鎮圧軍は総勢12万人。その1割の1万2千人の死傷者を出した。これに対して籠城軍3万7千人は山田右衛門作を除いて皆殺しになったとされています。ところが、著者は捕虜も籠城軍には逃亡した者もいるという説を肯定しています。最終決戦の前までに1万人が城から抜け出したとも書いています。
籠城していた3万人もの人々が本当に皆殺しになったのかどうか、知りたいところです。また、山田右衛門作は天草四郎の側に支えていた重臣の一人なわけです。幕府軍と通報していたことがバレて裏切り者として処刑されようとしたところ、一人だけ助かったというのですが、その救出の過程も具体的に知りたいところです。激戦が続いているなか、重臣の一人だけが助かるなんて、嘘みたいな話ではありませんか・・・。
著者は、一揆の目的はキリシタン信仰の容認であり、飢饉も重税も、こうした要求を先鋭化されるきっかけに過ぎなかったと考えています。
一揆の参加者はキリシタンといっても、いったんはキリシタンを棄教し、再びキリシタンに復帰した人々が大半です。つまり、「転びキリシタン」が主体なのです。ところが、同じ「転びキリシタン」であっても、天草の一部の地域の人々は一揆に加わらなかったというのです。それは、当時の日本に存在したキリシタンが一枚岩ではなかったことを反映していると言います。
キリスト教宣教師内部での派閥争いが、島原の乱に対するキリシタンの帰趨に影響を与えたと考えられる。
一揆の指導部は有馬家旧臣たち、合戦に習熟した武士身分の牢人たちだった。
当時は、藩の軍隊といっても、少数の武士に多数の「百姓」が従うという構成をとっていた。このような藩の軍勢と対峙するキリシタン一揆側も、天草四郎を大将とし、これを擁立した少数の牢人たちを中村として村の百姓たちを大量に動員したものであった。つまり、身分的な構成内容は同様のものだった。
秋月の郷土資料館に秋月藩の原城合戦絵巻があります。これは一見の価値があるものです。そこには「百姓」の軍隊というイメージは描かれていないように思いましたが、私が見落してしまったのでしょうか・・・。
文庫本ですが、島原の乱に関する本格的な研究書で、大変知的刺激を受けました。
(2018年8月刊。1090円+税)

弁護士の情報戦略

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙井 伸夫 、 出版  民事法研究会
弁護士にとっての情報戦略とは、「新説」を創造し、発表し続けること。そのためには、新説をつくった弁護士に対して法律事務所は評価を高くしなければいけない。
イノベーションは、法律事務所の生命線と言ってよいもの。
リーダーに求められる強い精神力の中身は、判断力、実行力、人間的掌握力に集約される。
弁護士に要求されるリーダーシップとは、反対派や相手方の弱点を明確に見抜き、拡大させ、えぐり出し、白目の下にさらすこと。
現代社会においては、称賛による励まし、勇気づけがもっとも大切なこと。そうやってリーダーシップの基盤となる自立心・連帯心・向上心を正しく伸ばしていく。
早めの準備が迅速な判断に通じる。拙速は巧遅に勝る。迅速で歯切れよい判断力は、非常に重要な能力である。
依頼者に決して偽証させない。そして、裁判官の共感・信頼を得るように最大限努める。
弁護士は依頼者のために尽くす。そして、弁護士として依頼者のために尽くすべく、業務に誠心誠意取り組んでいる。このことを依頼者に納得してもらう必要がある。
AIは考えぬくことができない。だから、弁護士の仕事をAIが完全に行うことはできない。
考えぬいた末に得られる知性を身につけることは、人間にとってきわめて重要なことである。
前例や過去の裁判例にばかり気をとられて、新しい概念を生み出すチャレンジもせず、一種の思考停止に陥ってしまい、考え抜く努力を怠る者は真っ先にAIやロボットにとって代わられるだろう。
新説を生み出す読み方は、視野を広げよう、深めよう、というたたかいでもある。それには、まさしく不屈の魂が必要なのだ。
著者の本はかなり読んでいます。その多くをこのコーナーで紹介しました。いつも大変勉強になっています。
(2018年10月刊。1700円+税)

「検証。自衛隊、南スーダンPKO」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版  岩波書店
福岡県弁護士会は去る11月半ばに著者を招いて天神で講演会を開催しました。
著者の話は自らの現地取材を踏まえていますし、防衛省・自衛隊トップから直接話を聞いていますので、大変詳しく、かつ説得力があります。上から目線の話ではなく、実感がこもった平易な語り口に、ときに軽いジョークも入って、耳にすっと入ってきます。といっても、その話は実はとても怖いことだらけなのです。
著者は2012年にアフリカの南スーダンとジブチに現地取材しています。
ジブチには自衛隊の拠点基地があり、拡張されています。初めは、アデン湾に出没する海賊対処が任務でした。ところが、実は海賊が出なくなって久しいのです。でも、自衛隊は撤退しない。それどころか基地を拡張している。なぜか・・・。
いま、アフリカ大陸にアメリカ軍は存在しない。ソマリアでの大失敗にこりてアメリカ軍はアフリカに派兵できない。そこを狙って、中国がアフリカに続々と入りこんでいる。一帯一路の政策で、人もカネもアフリカにつぎ込んでいる。中国はアフリカに対して、貿易・投資・ODAの三本柱で貢献し、援助額の9割を占めている。アフリカ全体で100万人の中国人がいるという。日本は、そんな中国に対して、アメリカの先兵としてアフリカで活動することが期待されている。だから、ジブチから日本の自衛隊は撤退することができない。
2016年10月、稲田朋美防衛大臣が南スーダンを視察した。実は、このとき、現地の南スーダンに稲田大臣がいたのは正味7時間のみ。現地で武力衝突が起きた地域を見事に回避して行動した。そして、稲田大臣は日本に帰国して、現地の情勢は比較的落ち着いていると発表した。ところが、国連の専門家たちは、3ヶ月の調査結果、スーダンの治安悪化は著しいと判断した。
なぜ、こんなにまでして自衛隊のスーダン派遣に安倍政権がこだわるのか・・・。
それは、安保法制下の実績づくりだった。なにがなんでも安保法制を有名無実の法としないため、安倍政権は現地の情勢などおかまいなしに自衛隊を南スーダンに派遣したのだった。
だから、日報を「戦闘」から「衝突」に書き換えるのに、防衛省のトップには抵抗がなかった。
自衛隊員の士気をあげるため、安倍首相は憲法に自衛隊を明記したいと言います。大規模災害のときに重機を駆使する自衛隊員の姿を見て拍手している国民が多いと思います。もちろん、私もその一人です。でもでも、自衛隊員がアフリカや中近東で戦争に巻き込まれ、殺し、殺されるのを見たい人は誰もいないと思います。
著者は自衛隊を憲法に明記したら、日本は完全な軍事優先国家になり、人権も自由も尊重されなくなると訴えています。まったく同感です。
タイムリーな本です。ぜひとも多くの人に読んでほしいものです。
(2018年8月刊。1900円+税)

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