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学校の「当たり前」をやめた

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 勇一 、 出版  時事通信社
東京のド真ん中にある、あまりにも有名な名門中学校、麹町(こうじまち)中学校では、宿題をやめ、中間・期末テストを廃止し、クラス担任も置いていないというのです。驚きます。
それを率先してすすめている異色の校長による教育実践の記録です。
この本を読むと、画一的教育は子どもにとってよくないと、しみじみ私は思いました。
学校は、いったい何のためにあるのか・・・。
いま、日本の学校は、本来、学校がになうべき目的を見失っているのではないか・・・。
学校は、子どもたちが社会のなかでよりよく生きていけるようにするためにある。
そのためには、子どもたちには、自ら考え、自ら判断し、自ら決定し、自ら行動する資質、つまり自律する力を身につけさせる必要がある。
まず、夏休みの宿題をゼロにした。宿題をなしにしたことで、自分に重要でない非効率な作業から生徒たちが解放されて喜んだ。
次に、中間・期末テストなどの定期考査を全廃した。その代わり、単元テストをし、学習のまとまりごとに小テストを実施している。そのうえ、年に3回だった実力テストを年に5回に増やした。実力テストは出題範囲が事前に示されないため、生徒の本当の学力を測ることができる。
クラス担任は固定せず、学年の全教員で学年の全生徒をみる「全員担任制」をとっている。学級崩壊は、まとまりのあるクラスとないクラスとの格差が大きいときに起きやすい。これによって、「勝ち組」「負け組」の意識が薄まった。
運動会のクラス対抗も廃止した。1日限りのチームの対抗試合にした。運動会は、運動が苦手の生徒も楽しめるものにし、生徒会主催行事とした。
不登校の子がいたら、学校に来たくなかったら、「別に無理して来なくていいんだよ」と言う。もう自分を責めないでね。何も変わらなくていいんだよ、そう話しかける。
いやあ、まいりましたね。校長先生からこんなふうに、言われたら、心が安まりますよね・・・。
授業中、見返すことがないのならノートは取らなくていい。
模擬裁判も毎年やっているそうです。すごいです。台本がないものです。信じられません。すごすぎます。
公立中学校でも、こんな意欲的な取り組みをしているところがあるのを知り、心が驚きと喜びでうち震えてしまいました。ちなみに、私も公立中学校で学びましたし、県立高校に進学しました。いろんな生活・家族背景の生徒がいて、それなりにもまれましたが、本当に良かったと思います。
(2019年1月刊。1800円+税)

脳からみた自閉症

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大隅 典子 、 出版  講談社ブルーバックス新書
自閉症は、正式には自閉症スペクトラム障害という。スペクトラムとは、連続体のことで、症状が重いものから軽いものまで幅が広いことを意味している。
自閉症は、いわゆる発達障害の一つで、世界のどこの国でも80人から140人に1人は自閉症とされていて、珍しい障害ではない。
自閉症の三大特徴は、社会性の異常、コミュニケーションの障害、常同行動だ。
社会性の異常とは、親とも目をあわさない、人が指をさした方向を見ようとしない、まるで耳が聞こえないかのように名前を読んでも反応がないというもの。そして、自分が知っていること、他人が知っていることの区別ができない。
常同行動とは、同じ行動を繰り返すということ。同じコトバを何度も反復する、同じ動きをやり続ける、一定の場所にとどまって動かないなど、そのあらわれ方はさまざま。ただし、自閉症の常同行動は、極端な集中力のあらわれでもあり、あながち否定されるべきものではない。
ある種の音、光、匂い、触感などに過敏な自閉症児は少なくない。
アスペルガー症候群とは、知的障害をともなわないタイプの自閉症。
ニュートン、アインシュタイン、モーツァルト、ベートーベン、ビル・ゲイツも、みな高機能自閉症だ。
発達障害は、親の「育て方」によって生じるものではない。
自閉症とは、脳の器質的な障害である。すばやい神経伝達ができていないと思われる自閉症の症状には、シナプスの刈り込み不足や、刈り込みムラなどが関与している可能性がある。
自閉症といっても、それぞれの病態は、みな少しずつ違う。
自閉症の人は、脳の左右差が健常者よりも大きい。
親も子も自閉症になるケースは少ない。3%でしかない。
自閉症は、この40年間に、なんと70倍以上に患者数が増加した。その急増の原因は何か・・・。
「パルプロ酸」という抗てんかん薬は、自閉症につながる可能性がある。
父の加齢と子の自閉症のあいだには相関性が認められる。
自閉症をはじめとする発達障害において「親の育て方」が原因であることはない。基本は、脳の発生や発達に関するトラブルから起こる生物学的な障害。ただし、育つ環境が、症状のあらわれ方にまったく無関係だとは言い切れない。
人間と脳について、基礎的なところから深く追求している様(さま)がよく分かりました。
(2016年4月刊。900円+税)

古墳の被葬者を推理する

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 白石 太一郎 、 出版  中公叢書
天皇陵の発掘が許されていないのは、現代日本で生きる私たちにとって日本史の真実が分からない点で、大変困ることだと思います。天皇制をタブーにしてはいけません。
大王はいつから天皇と呼ばれるようになったのか、継体大王はどこから来たのか、万世一系というのは本当なのか、朝鮮半島からの渡来人と日本古来の人々との混住、混血はどのようにすすんでいったのか・・・。知りたいことはたくさんあります。天皇陵の学術的発掘がすすめば、これらの謎の解明も一歩すすむことになると思うのです。「倭の五王」とは誰を指すのか、その墓はどこにあるのか・・・、ぜひ知りたいですよね。
著者は、箸墓(はしはか)古墳は、奈良盆地東南部に営まれる初期の歴代倭国王墓の最初のものであり、その造営年代が3世紀中葉ないし中葉過ぎであることから、『魏志』倭人伝に記された倭国女王の卑弥呼が被葬者の有力候補であるとします。断定できないけれど、その蓋然性はきわめて大きいというのです。
ヤマタイ国九州説の私にとっては残念な結論です。
継体大王の墓が、高槻市にある今城古墳であることは、ほとんどの研究者の意見が一致している。継体が王位継承を主張しても、これを認めない勢力が畿内にも多くいて、即位の20年後にようやくヤマトの宮殿に入ることができた。
継体大王は、入婿の形でヤマト王権の王統につながることができた。
蘇我稲目の墓は明日香村平田の梅山古墳、蘇我馬子の墓は明日香村島庄の石舞台古墳と考えてよい。
私は残念なことに、明日香のこれらの古墳にまだ行っていません。ぜひ、現地に立って古墳現物をじっくり見てみたいと考えています。
(2018年11月刊。2000円+税)

あちらこちら文学散歩

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 井本 元義 、 出版  同人誌『海』抜刷
アルチュール・ランボーの足跡をたどった詩人による探訪記であり、随想集です。
19世紀末のフランスで活躍したランボーは、若き詩人として数々の傑作を発表したあと、突如として文壇から姿を消し、アフリカでは武器商人として行動します。そして、37歳で亡くなるのでした。
著者はランボ―に関する本を数十冊読み、フランスでランボーの生まれ育ち、活動した地を訪ね歩きました。ロッシュ村にあるランボーの墓石は何度も撫でたということです。
なぜ、ランボーは詩を書くのを止めたのか。書くことに何の意味も感じなくなったのか。書けなくなったのか。絶望したのか、それともふてぶてしく生きていたのか・・・。
パリのムフタール通りには、「バー・バトーイーヴル」がある。「酔いどれ小船」と訳される詩はランボーの最高傑作の一つ。このとき、ランボーは、まだ16歳だった。
著者は、会社経営を引退すると、年に3ヶ月ずつ、3年間をパンテオンの近くのアパルトマンに居を構えてパリをさまよい歩いたといいます。すばらしいことです。とても真似できません。
ランボーは、ヴェルレーヌと同世代、そして二人ともパリ・コンミューニのころに生きていました。
ランボーは彗星のように出現し、スキャンダルとともに消え去り、その後は居場所も分からない謎の詩人として名声を博しました。もちろん、本人はそんなことは知りません。
フランスを去ってアフリカで武器商人としてもうけようとしてランボーは失敗してしまいます。
著者は私のフランス語仲間です。2015年にはフランス政府観光局主催の「フランス語で俳句」というコンクールに応募して優勝し、フランス旅行に招待されました。すごいです。
著者のあくなき探究心と文筆活動に大いに刺激を受けています。
(2019年1月刊。非売品)

監視社会をどうする!

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日弁連人権擁護大会実行委員会 、 出版  日本評論社
先日、Tポイントの個人情報が警察に提供され、容疑者の日頃の生活パターンがつかまれて逮捕されたという報道がありました。Tポイントをつかって、ポイントを貯めるということは、そのお金で自分の個人情報を第三者に売り渡していることを意味していることが証明されたわけです。
私は、ホテル宿泊のときのクレジットカードと乗り物用のカードの2枚しか持っていません。どちらも私の行動パターンを察知できるものではありますが、これがないと、あまりにも日常生活に不便ですから、仕方がないと割り切っています。他のカードは一切持たないようにしています。スマホも持ちませんし、ガラケーですので、位置情報は与えていないつもりです。
個人情報の管理をとやかくうるさく言う人が多い割には、権力と金もうけのための利用には抵抗しない人が多いのには信じられない思いです。
この本は2017年10月に滋賀県大津市で開かれた日弁連人権擁護大会シンポジウムの内容を紹介したものです。エドワード・スノーデン氏もライブインタビューで大画面によって登場しました。
スノーデン氏は、まだ何か重要な情報をもっているのではないかと誤解する人が多いけれど、もう文書はもっていない、ジャーナリストに提供していると語りました。
インターネットの世界では、情報は実際に既に濫用されている。
アメリカが日本を経済的にスパイしていないか・・・。アメリカ政府は公式には否定している。しかし、本当のところ、アメリカは日本でスパイ活動をしている。今日では、数百万、数千万、数億の人々をスパイするのがあまりにも安価なコストで、できる。
スノーデン氏はCIAのエージェントとして東京の福生市に居住し、横田空軍基地につとめていたことがあります。そのとき、ペンタゴン日本代表部の部隊にいて、日本の防衛省の諜報機関である情報本部と密接に協力しながら仕事をしていた。
ナチスのゲッペルス宣伝大臣は、社会における人々の私生活と通信、さらには思考のすべてに対する管理を正当化しようとした。そうすることによって、ナチスが社会を支配することが容易になるからだ。
プライバシーとは、何かを隠すことではない。プライバシーとは守ること。プライバシーとは、開かれた社会を開かれたまま保ち、人間の自由な生き方を自由に保つこと。
パノプティコンとは、暴力を用いない暴力装置、目に見えない力による主体性抑圧装置である。
防犯カメラに映った歩く姿から特定の人物かを鑑定できるソフトウェアが開発されている。2歩分の映像があれば、高精度で鑑定できるというのが、ソフトを開発した企業のキャッチコピーです。本当に恐ろしい世の中になりました。
秘密保護法の運用が始まり、適性評価を受けた人は既に12万人に近い。不適正とされた人は1人のみ。評価を拒否した人は46人、同意を取り下げた人が3人いた。適性評価はプライバシー侵害の程度がひどいので、拒否や同意の取下げは当然ありうるもの。これによって不利益に扱われないよう監視しておく必要がある。
田村智明弁護士(青森県)からすすめられて読みました。大変勉強になりましたが、情報管理と情報操作の恐ろしさが身にしみました。それにしても政府統計のごまかしはひどすぎますよね。安倍内閣は総辞職すべきほどの重大なインチキですが、しれっと開き直っている首相と大臣の顔を見て、思わずスリッパで顔をはたいてやりたくなりました。
(2018年9月刊。2500円+税)

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