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古墳の被葬者を推理する

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 白石 太一郎 、 出版  中公叢書
天皇陵の発掘が許されていないのは、現代日本で生きる私たちにとって日本史の真実が分からない点で、大変困ることだと思います。天皇制をタブーにしてはいけません。
大王はいつから天皇と呼ばれるようになったのか、継体大王はどこから来たのか、万世一系というのは本当なのか、朝鮮半島からの渡来人と日本古来の人々との混住、混血はどのようにすすんでいったのか・・・。知りたいことはたくさんあります。天皇陵の学術的発掘がすすめば、これらの謎の解明も一歩すすむことになると思うのです。「倭の五王」とは誰を指すのか、その墓はどこにあるのか・・・、ぜひ知りたいですよね。
著者は、箸墓(はしはか)古墳は、奈良盆地東南部に営まれる初期の歴代倭国王墓の最初のものであり、その造営年代が3世紀中葉ないし中葉過ぎであることから、『魏志』倭人伝に記された倭国女王の卑弥呼が被葬者の有力候補であるとします。断定できないけれど、その蓋然性はきわめて大きいというのです。
ヤマタイ国九州説の私にとっては残念な結論です。
継体大王の墓が、高槻市にある今城古墳であることは、ほとんどの研究者の意見が一致している。継体が王位継承を主張しても、これを認めない勢力が畿内にも多くいて、即位の20年後にようやくヤマトの宮殿に入ることができた。
継体大王は、入婿の形でヤマト王権の王統につながることができた。
蘇我稲目の墓は明日香村平田の梅山古墳、蘇我馬子の墓は明日香村島庄の石舞台古墳と考えてよい。
私は残念なことに、明日香のこれらの古墳にまだ行っていません。ぜひ、現地に立って古墳現物をじっくり見てみたいと考えています。
(2018年11月刊。2000円+税)

あちらこちら文学散歩

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 井本 元義 、 出版  同人誌『海』抜刷
アルチュール・ランボーの足跡をたどった詩人による探訪記であり、随想集です。
19世紀末のフランスで活躍したランボーは、若き詩人として数々の傑作を発表したあと、突如として文壇から姿を消し、アフリカでは武器商人として行動します。そして、37歳で亡くなるのでした。
著者はランボ―に関する本を数十冊読み、フランスでランボーの生まれ育ち、活動した地を訪ね歩きました。ロッシュ村にあるランボーの墓石は何度も撫でたということです。
なぜ、ランボーは詩を書くのを止めたのか。書くことに何の意味も感じなくなったのか。書けなくなったのか。絶望したのか、それともふてぶてしく生きていたのか・・・。
パリのムフタール通りには、「バー・バトーイーヴル」がある。「酔いどれ小船」と訳される詩はランボーの最高傑作の一つ。このとき、ランボーは、まだ16歳だった。
著者は、会社経営を引退すると、年に3ヶ月ずつ、3年間をパンテオンの近くのアパルトマンに居を構えてパリをさまよい歩いたといいます。すばらしいことです。とても真似できません。
ランボーは、ヴェルレーヌと同世代、そして二人ともパリ・コンミューニのころに生きていました。
ランボーは彗星のように出現し、スキャンダルとともに消え去り、その後は居場所も分からない謎の詩人として名声を博しました。もちろん、本人はそんなことは知りません。
フランスを去ってアフリカで武器商人としてもうけようとしてランボーは失敗してしまいます。
著者は私のフランス語仲間です。2015年にはフランス政府観光局主催の「フランス語で俳句」というコンクールに応募して優勝し、フランス旅行に招待されました。すごいです。
著者のあくなき探究心と文筆活動に大いに刺激を受けています。
(2019年1月刊。非売品)

監視社会をどうする!

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日弁連人権擁護大会実行委員会 、 出版  日本評論社
先日、Tポイントの個人情報が警察に提供され、容疑者の日頃の生活パターンがつかまれて逮捕されたという報道がありました。Tポイントをつかって、ポイントを貯めるということは、そのお金で自分の個人情報を第三者に売り渡していることを意味していることが証明されたわけです。
私は、ホテル宿泊のときのクレジットカードと乗り物用のカードの2枚しか持っていません。どちらも私の行動パターンを察知できるものではありますが、これがないと、あまりにも日常生活に不便ですから、仕方がないと割り切っています。他のカードは一切持たないようにしています。スマホも持ちませんし、ガラケーですので、位置情報は与えていないつもりです。
個人情報の管理をとやかくうるさく言う人が多い割には、権力と金もうけのための利用には抵抗しない人が多いのには信じられない思いです。
この本は2017年10月に滋賀県大津市で開かれた日弁連人権擁護大会シンポジウムの内容を紹介したものです。エドワード・スノーデン氏もライブインタビューで大画面によって登場しました。
スノーデン氏は、まだ何か重要な情報をもっているのではないかと誤解する人が多いけれど、もう文書はもっていない、ジャーナリストに提供していると語りました。
インターネットの世界では、情報は実際に既に濫用されている。
アメリカが日本を経済的にスパイしていないか・・・。アメリカ政府は公式には否定している。しかし、本当のところ、アメリカは日本でスパイ活動をしている。今日では、数百万、数千万、数億の人々をスパイするのがあまりにも安価なコストで、できる。
スノーデン氏はCIAのエージェントとして東京の福生市に居住し、横田空軍基地につとめていたことがあります。そのとき、ペンタゴン日本代表部の部隊にいて、日本の防衛省の諜報機関である情報本部と密接に協力しながら仕事をしていた。
ナチスのゲッペルス宣伝大臣は、社会における人々の私生活と通信、さらには思考のすべてに対する管理を正当化しようとした。そうすることによって、ナチスが社会を支配することが容易になるからだ。
プライバシーとは、何かを隠すことではない。プライバシーとは守ること。プライバシーとは、開かれた社会を開かれたまま保ち、人間の自由な生き方を自由に保つこと。
パノプティコンとは、暴力を用いない暴力装置、目に見えない力による主体性抑圧装置である。
防犯カメラに映った歩く姿から特定の人物かを鑑定できるソフトウェアが開発されている。2歩分の映像があれば、高精度で鑑定できるというのが、ソフトを開発した企業のキャッチコピーです。本当に恐ろしい世の中になりました。
秘密保護法の運用が始まり、適性評価を受けた人は既に12万人に近い。不適正とされた人は1人のみ。評価を拒否した人は46人、同意を取り下げた人が3人いた。適性評価はプライバシー侵害の程度がひどいので、拒否や同意の取下げは当然ありうるもの。これによって不利益に扱われないよう監視しておく必要がある。
田村智明弁護士(青森県)からすすめられて読みました。大変勉強になりましたが、情報管理と情報操作の恐ろしさが身にしみました。それにしても政府統計のごまかしはひどすぎますよね。安倍内閣は総辞職すべきほどの重大なインチキですが、しれっと開き直っている首相と大臣の顔を見て、思わずスリッパで顔をはたいてやりたくなりました。
(2018年9月刊。2500円+税)

目の眩んだ者たちの国家

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 キム・エラン、キム・ヘンスク その他 、 出版  新泉社
あまりのむごさに、この事件を思い出すたびに胸が詰まります。
今から5年前、2014年4月16日、修学旅行中の高校生を中心に304人もの犠牲者を出したセウォル号の惨事について、韓国の文学者たちが語っています。読みすすめるにつれ、本当に切なくて、胸がつぶれる思いです。
368人と言ったかと思うと164人だと言う。何日か後には174人と言い、またすぐに今度は172人だと言う。船が傾いてから、7回以上も訂正が繰り返された。
事故当日、外国のマスコミが遭難者の水温別の生存可能時間について報じているときに、韓国では死亡保険金の計算をしていた。
船会社も政府もセウォル号に乗船していた人数さえも正確に把握できず、数字にすらあらわれない彼らは、いまも海の底で冷たく、固くなっている。
沈没するセウォル号の巻き添えを食って船が転覆しないように、遠くへ離れていたという海洋警察123艇が、ただ一度だけ船に近づいて直接救助したのは、その船の運航に責任のある船長をはじめとした乗務員たちだった。
自分の判断で船から脱出した人たちを除いて、じっとしていなさいという船内放送にしたがって客室で待っていた乗客はただの一人も救助されなかった。
修学旅行の壇園高校の生徒たちをはじめ乗客の大部分は、船内放送の指示どおり「じっと」していた。冷静で落ち着いて協力的な人は無惨に死ぬしかない、というこの真実は、経済成長という化粧の下に隠された韓国社会の素顔なのかもしれない。
日本で18年も運航していた古い船で、無分別な規制緩和のおかげで輸入された船だった。修理はいつでも応急措置だったし、無理な改造と増築で船の重心は高くなっていた。より多くの貨物を積むために、船体の安定に絶対的な影響を及ぼすバラスト水は大量に抜かれていた。
船長は契約社員で、一等航海士と操機長は出航前日に採用された職員だった。
出航直前、船員たちは出航を拒否したが、船会社が平身低頭で頼み込んで出航したという。
霧が深く立ち込める夜だった。他の旅客船はすべて出港を中止したので、その夜、仁川港を出港した船はセウォル号だけだった。翌日、船は沈没した。
政府は全力をあげて救助活動を行っているとの速報がゴールデンタイムの時間に流れた。全部嘘だった。救助隊員726人と艦艇261隻、航空機35機を集中投入した史上最大規模の捜索作戦を繰り広げるという記事もあった。史上最大規模の嘘だった。
国家が国民を救助しなかった「事件」なのだ。国家が国民を守るという義務を怠ったとき、国家はどんな処罰を受けるべきなのか?
何か間違っているとは思っていたけれど、まさかこれほどまでとんでもなく壊れていたとは・・・。この国の民主主義は、すでに遠くに流され、いまはもう、民主主義とは似て非なる体制に移行しつつあるとは思っていたが、国家の基本的な機能さえ果たせないほど無能になっているとは、ついぞ知らなかった。
どうですか、これは隣の韓国の話ではなく、私たち日本の国についての指摘ではありませんか。国の行政の基礎をなす統計がインチキしてごまかされ、それをまったく不問に付してしまう。
韓国に対しては「間違っている」と根拠なく声高に決めつけておきながら、ロシアのプーチン大統領に対しては「日本固有の領土」とも言えない。アメリカのトランプ大統領にたいしては、もみ手ですり寄って、必要もない有害でしかない欠陥ステルス型戦闘機を147機も購入(爆買い)する。そして、奨学金は有利子にし、年金は減らし、介護保険料は値上げする。とんでもない間違った政策が続いていて、ストップがかからない。
国民を守るための(はずの)政府が、国民を戦場に追い込み、殺し、殺されるように追いやっていながら、それに反対の声が上がらぬようマスコミ統制を強化する。
背筋に詰めたいものが流れていきます。今後はぐっすり眠れそうもありません。日本の現実にも思い至らせる、すばらしい、目のさめるような本です。
(2018年5月刊。1900円+税)

村役人のお仕事

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山﨑 善弘 、 出版  東京堂出版
徳川社会は、村を基盤とした兵農分離の社会であり、村の運営は村役人らによって支えられる傾向が非常に強かった。
徳川社会を構成している最大の要素は村だった。その構成員の大半が百姓で、全人口の8割前後。支配者である武士は1割以下。
全国の村の数は、元禄10年(1697年)の時点で6万3千ほど。
領主は名主を中心とした村役人を通じて間接的に百姓を支配する方法をとった。幕藩領主は、村役人に村政を代行させることで、全国6万3千の村々を掌握し、百姓を支配した。
村の総括責任者は名主(なぬし)。地域によっては、庄屋あるいは肝煎(きもいり)。
名主は家格にもとづき領主によって任命されることが多く、百姓たちの推薦があるときでも、領主の許可が必要だった。
組頭(くみがしら)は、百姓の推薦や入札(いれふだ)で選任されるのが一般的だったが、この場合も領主による許可を必要とした。百姓代の選任方法は、百姓の推薦が一般的だった。
村は自治の単位であり、村役人がその先頭に立っていたことは事実だったが、村は幕藩領主によって支配の単位とされ、村役人はその内部で領主支配を実現する任にあたっていた。
村役人のうち、ときに重要な立場にあったのは名主で、名主は村の政治と自治の両方を担う存在だった。つまり、名主は村の行政官であるとともに村の代表者でもあった。
庄屋は村民の一員として公認され、村政を委任されていた。
村民は庄屋を、あくまで彼らの一員として公認し、村政を委任する形をとることによって、自分たちの代表者としてとらえ返した。
名主を中心として不断に働く村の自治に依拠することで、幕藩領主は村の支配も円滑に行うことができた。前者(村の自治)が後者(村の支配)を補完していた。
一般百姓が選挙によって名主を選んだことから、名主が村の代表者として位置づけられていたことは明らかだ。
年貢の徴集と上納は、名主の仕事のなかで、もっとも重視されていた。年貢や諸役などを村に上納させる制度を「村請(むらうけ)制」と呼び、その中心的役割は名主が担った。
名主は、ほとんど名誉職のようなものだった。
江戸時代、百姓はきちんと休んでいた。ただし、百姓の休日は全国共通ではなかった。徳川時代の百姓の休日は村ごとに決められていた。
徳川時代の後期には、商品・貨幣経済の進展によって農村内にも華美な風俗が浸透していった。そして、貧富の差が拡大した。
名主の仕事は、税務・警察・裁判などに及ぶ幅広いもの。徴税を行い、治安の維持に携わり、裁判権がなくても村の紛争解決にあたった。
大庄屋は、庄屋の上意に位置する村役人だった。大庄屋は村役人であり、百姓から任命された。自治を行うような性格(惣代性)はもたず、もっぱら藩権力の領内支配を担う藩役人的存在だった。
村の構成そして自治の実際を知ることが出来る、面白い本でした。
(2018年11月刊。2200円+税)

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