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労働弁護士50年

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 高木 輝雄 、 出版  かもがわ出版
名古屋に生まれ育ち、大学も名古屋、そして弁護士としても一貫して名古屋で活動してきた高木輝雄弁護士に後輩の弁護士がインタビューしたものが一冊の本にまとめられています。話し言葉ですし、インタビュアーの解説もあって大変読みやすく、私は機中で一気に読み終えました。
司法修習は20期で、同期には江田五月、横路孝弘そして菊池紘・自由法曹団元団長などがいる。当時は青法協が非常に活発で、修習生の半分以上が青法協の会員だった。
弁護士になってすぐ弾圧事件にとりくみ、打合せして帰宅するのは午前2時。それから尋問の準備をしたあと、4時に寝て、朝6時には起きる。
うひゃあ、す、すごいです。とても私にはマネできません。すべての時間を仕事に注入したのでした。
次は、四日市公害訴訟。このとき、疫学的因果関係が認められました。
次の全港湾事件は、日韓条約反対のストやデモをして、業務命令違反で組合役員8人が解雇された。裁判所は、政治的な問題がからむと非常に弱い。司法の独立は大切なものだと考えて司法の世界に入ったけれど、結局のところ、司法は立法や行政に頭が上がらないことを実感した。
レストランのコックに対して営業職への出向が命じられて拒否したところ、業務命令に反したというので解雇された。このとき就労請求を求めたら、裁判所が認容した。コックは業務をやっていくなかでコックとしての能力を向上させるものという特別性を訴えた。このころは解雇の事前差し止めの仮処分申請をして、認められることがあった。
東海道新幹線が開通したのは1964年(昭和39年)、私が高校1年生のときです。大学生のときは新幹線は高値の花で、寝台特急みずほや急行などを利用して九州へ帰っていました。
沿線住民があまりの騒音・振動に耐えかねて裁判を起こした。一審だけでも3回ほど現地で検証した。そして、国労が現場で減速走行してみせるというように協力してくれた。沿線の住民がワァーって歓声をあげると、運転士がパッパッパッーと汽笛を鳴らして応じる。
いやはや、すごいことですよね、これって・・・。今では、まったく考えもしません。
法廷に緊張感があり、傍聴席から裁判長に対して意見をいうと、強く受けとめている気配があった。このころ、著者は「喧嘩太郎」とか「瞬間湯沸かし器」と言われていた。
この裁判のあと、JR東海とは1年に1回協議をしているが、もう30年以上は続いている。これってすごいこと、すごすぎますね・・・。
新幹線訴訟のときも午前2時まで作業していて、毎日2時間ほどしか眠れなかった。
こうなると、過労死寸前ですね・・・、笑いごとではありません。よく身体がもちました。
運動は楽しくなきゃいけない。義務だけではダメ。本当にそのとおりです。
著者は今76歳。ますますお元気にご活躍し、お過ごしください。
(2019年1月刊。1600円+税)

ツバメのくらし写真百科

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 大田 眞也 、 出版  弦書房
ツバメを見かけることも少なくなった気がします。スズメにいたっては明らかに激減しています。暖冬だったことと関係があるのかが分かりませんが、この冬は、ジョウビタキの姿をたまにしか見かけることがなく、寂しい思いをしました。と書いたら、3月半ばの朝、姿を見かけました。旅立ちの挨拶に来てくれたようです。
さて、ツバメです。人の目に目立つところに巣をつくるのは、天敵対策として人間の目を利用しているということです。
ツバメは、平均気温9度の等温線とともに北上するという説が有名。熊本には毎年、ヒナ祭りの3月3日ころに姿をあらわす。先に日本にやって来るのはオスで、メスに呼びかけます。そのラブコールは「土食って虫食って渋ーい」というもの。
つがいの相手を選ぶのはメス。オスを見分けるポイントは、尾羽の長さ、白斑の大きさ、喉の赤さ。これらはオスらしさの象徴であるだけでなく、ヒナの生育を阻害する寄生虫の少なさを示す指標でもある。
巣づくりを始めてから4日目ころから、巣の近くで交尾する。オスはクチュクチュジュクジーなどと早口で鳴きながらメスに接近し、ころあいをみて、さっとメスの背に乗って交尾する。精子は新しいものほど受精しやすいので、メスが一腹卵数を産み終えるまで、オスはメスにつきまとって、毎日数回、交尾を繰り返す。これには、メスの不倫を防止して、自分の遺伝子だけを確実に伝えようとする意図がある。
抱卵は主としてメスがし、オスは手伝う程度。夜間はメスだけでする。抱卵して2週間ちょっとでヒナがかえる。丸裸同然なので、5日間くらいは卵のときと同じく温め続ける。ヒナは親鳥の発するクイッという鳴き声で一斉に口を開ける。口内は赤くて縁取りは黄色。もっとも大きく開いた口のヒナがもっとも空腹で、親鳥はいちばん大きい口にエサを入れ与える。きわめて合理的。エサをもらったヒナは、すぐ後ろ向きになって糞をする。親鳥はそれをくわえて外に捨てに行く。
口を大きく開けさえできれば、羽色には関係なくエサをもらえて育つ。ツバメの巣にスズメのヒナが入って立派に育ったこともある。ええっ、驚きます。
親鳥は雨が降ると、雨を受けて雨浴びをして、寄生虫を駆除し清潔につとめる。雨浴びしたあとは、電線にとまってくちばしで、丁寧に羽毛を整える。
ヒナは卵からかえって3週間後に巣立つ。巣立ちはだいたい午前中。当日になると、親鳥の態度が一変し、エサをヒナに与えず、巣の近くにとまって見せびらかして、誘う。
親鳥は、ヒナを巣立たせて2週間もすると、2回目の繁殖に取りかかる。巣立ってからも10日間くらいは、親鳥からエサをもらいながら、エサのとり方、天敵、危険なものは何か、生きていくうえに必要なことを学ぶ。子どもたちは、巣立ちして1ヶ月くらいは巣に戻ってきて休んだりする。
越冬ツバメは、留鳥になったのではなく、日本の北方の寒いところのツバメたちが冬の厳しい寒さを避けてやって来ているのだろう・・・。
身近なツバメの百態を写真と文で詳しくできる楽しい本(写真集)です。
(2019年1月刊。1900円+税)

酔十夢(第1巻)

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 手塚 英男 、 出版  同時代社
1957年に著者は東大に入学し、まもなく大学から3キロほどの距離にある北町に通ってセツルメント活動を始めました。
私が大学にはいったのが1967年ですから、ちょうど10年先輩ということになります。そして、私は北町ではなく、川崎市幸区古市場でのセツルメント活動でした。
北町は、敗残時までは連隊兵舎だったという巨大な木造アパートが十数棟も建ち並ぶ貧民の街だった。そこには社会の底辺の人々が集まり、肩を寄せあって暮らしていた。
著者は、放課後の子どもたちと一緒に遊び、ときに勉強をみてやり、紙芝居や絵本を読んだ。休日には遠足やプール通い、冬休みにはクリスマス子ども会をした。
いっしょに夕方の銭湯に行き、背中の流しっくらをやった。
子どもの親たちとも交わり、料理講習会、教育懇談会、青年たちとは読書会もした。
私が古市場でセツルメント活動していたときは青年サークルに入って、「グラフわかもの」の読者会をいていました。もちろん子ども会もあり、法相部のほか栄養部や保健部などの専門部がありました。セツルメント診療所がその中心に位置していたのです。
貧民のために何かやってやるなんていうのは、とんでもなく生意気で尊大な発想だった。むしろ、何かしてくれたのは北町の住民だった。セツラーの地域活動を受け入れるように見せかけて、実は生意気な学生たちを育ててくれていた。
この点は、私も今になって、本当にそう思います。なにしろ大学生のころの私は、自分がひとりで育ち勉強して大学に入ったなんて、とんでもない勘違いをしていましたから・・・。その間違いを地域の人たち、そしてセツラー集団にもまれてよくよく理解し認識していくことができました。ところが、観念論にとらわれやすい学生集団ですから、こんな議論もありました。
「地域転換論」です。これは、学生セツラーがいくら活動しても北町は変えられない、変わらない。組織労働者の居住地に地域転換して、労働者に働きかければ、地域は変れる。地域が変われば、居住者である労働者が変わる。労働者が変われば、社会が変わる。地域活動を本気でやるなら、労働者になって労働者の寮に住め。
著者は60年安保闘争をたたかい、卒学後は郷里の長野県で公民館などの社会教育活動に取り組みました。
同じ川崎セツルメントの先輩セツラーであり、弁護士としては同期同クラスの大門嗣二弁護士(長野市)より2009年8月に贈られた本を、今ごろ読んだのでした。ありがとうございました。
(2009年8月刊。2800円+税)

骨まで愛して

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小泉 武夫 、 出版  新潮社
思わずヨダレがわき出てくる美味しい料理のオンパレードです。
築地(つきじ)がなくなったのは残念ですが、この本はまだ築地が健在なころに、日本初の粗(あら)料理専門店を開店して繁盛していく様子を活写しています。
これまで見捨てられていた魚の粗が、あれよあれよと魅惑の一皿に大変身していきます。
皮からジュルジュル、コラーゲン。
骨酒グビグビ、コピリンコ。
目玉の周りは、トロットロ。
読めば涎(よだれ)がピュルピュル出てくる絶品人情小説。
この本は、魚好きな人なら誰だって、読まないと損をしてしまいますよ。
新鮮なイカから腸(わた)、あるいはコロと呼ばれる肝臓を、袋をつぶさないように取り出し、身は頭の先から脚の先までぶつ切りにしておく。鍋にバターの塊を入れて溶かし、ニンニク数片を粗つぶしにして加え、そこにイカの身を入れて、その上から腸(わた)を袋からしぼり出し、炒めながら全体にからめて、塩と胡麻で味をととのえる。一度食べたら忘れられなくなるほどの魔性を秘めた味で、イカの上品なうま味と優雅な甘み、肝臓からの濃厚なうま味、バターのコクなどがからみあって絶妙だ。
カツオの腹皮料理の二種。腹皮とは、カツオの砂ずりの部分を皮ことに切り取ったもので、脂肪やゼラチンがたっぷり乗って、まことに美味だが、一般的な料理では、ほとんど使われない。
腹皮料理の一つは、「腹皮の生姜焼き」で、腹皮を、おろした生姜の搾り汁に漬け込んでから、塩を振って焼いたもの。腹皮の身の大半は、脂肪とゼラチンなので、口の中でコリコリとしながらトロトロと溶けていく感覚は絶妙である。もう一つの腹皮料理は、衣をつけて油で揚げた腹皮の天プラで、辛口の日本酒や焼酎にピタリとあう。
いやあ、すごいすごい。魚料理をこんなにも美味しそうに文章表現できるとは、さすがです。ぜひ、味わってみたいです、粗料理のホンモノを・・・。
(2018年12月刊。1300円+税)

60歳の壁

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 植田 統 、 出版  朝日新書
すごい人です。大学を出て長くサラリーマン生活をしていた人が、50歳を間近にして、夜間ロースクールに通って司法試験に合格し、54歳で弁護士を開業したのです。
東大医学部在学中の医学生が司法試験に合格したと聞いて、すごい、天才的だなと思いました。新潟県知事だった人も同じ経歴でしたね。若いってすばらしいと思いましたが、この本の著者は50歳で司法試験にチャレンジして合格したというのですから、その大変さが想像を絶します。
著者は弁護士になって良かったといいます。
自分の性格にあっている。自分ひとりで判断できる。案件ごとに特殊性があり、そのたびに勉強しなければいけないけれど、それが面白い。
そして、60差になって考えたのです。60歳の壁がある。この60歳の壁を打ち破れる人は少ない。でも、打ち破れる人がいる。どんな人なのか・・・。
人とのつながりがあるかどうか、社会に必要とされていると感じているかどうか、これが幸福感を左右する。このポイントは、お金もうけを続けることではなく、人や社会との関わりを保っていくこと。お金は、その結果だと考えたほうがいい。
60歳の壁を越えた人は・・・。
一、組織に頼らず、自分ひとりで生きる覚悟をもっている。今やらなくて、あとで後悔したらどうしよう。だから、今やる。
二、人とのつながりを大切にして、人生を切り開いている。
三、決断力があり、実行力がある。
四、勉強熱心で、毎日、新聞を読み、本を買って読む。
五、明るく健康で、いかにも元気そう。
いやあ、私もだいたい合格点もらえそうです・・・。
年齢(とし)をとっても、知能や記憶力は低下しない。要は、意欲があるかどうかの問題なのだ。
うんうん、そうなんだ。よくぞ、言ってくれましたよ・・・。
新しい人脈をつくる。ただ、名刺交換するだけでは何の役にも立たない。じっと待つ必要がある。商売は信頼関係がないとできない。
ふむふむ、なるほど、そうだよね・・・。
新しいものに挑戦していく。ガラケーをもっているようではダメ。
トホホ・・・です。こればかりは仕方ありません。
得意分野をしぼりこんで、専門分野を決めること。どこかの分野でナンバーワンの人は、他の仕事の依頼も来る。特徴がないのが一番ダメ。
ふむふむ、私も、いちおう特徴はあるんですけど・・・。
きっちり勉強している人は、見た目もきっちりしている。
うーん、これは、これから、気をつけましょ・・・。
あせると逃げられる。ゆったりしていると、なぜかうまくいく。
うむうむ、たしかにそうなんですよね・・・。
早い、安い、うまい。弁護士にとって、「安い」は避けたい。でも「早い」と「うまい」は必要。「早い」のはクライアントから一番評価される。
著者は、とても合理的な生き方で貫いてきたようです。大いに見習いたいものです。私も、80歳まで現役の弁護士として、なんとかがんばるつもりです。
(2018年11月刊。790円+税)

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