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ヴィオラ母さん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ヤマザキ マリ 、 出版  文芸春秋
生きていると、きっとなんだかいいことにめぐりあえる、そんな気がしてくる不思議に楽しい本です。私は残念ながら、「テルマエ・ロマエ」はマンガ本も映画もみていません。
女手ひとつ、たくましい音楽家の母親のもとで、けなげに生き抜く幼い姉妹の話は涙が出てきそうになってしまいます。でも、最後はなんだかほっとする話でしめくくられます。
なにしろ音楽ひとすじ、自分のやりたいように生きている、アッケラカンの母親にならって娘たちも生きる度胸をつけて、野生児さながらのたくましさを身につけていくのです。そのあたりの心理描写が見事です。
母親とは少し距離を置きつつ、実は知らず識らずのうちに、似たような人生を歩いていく娘の様子が手にとるように分かります。母は音楽家で、娘はマンガ家です。
著者の母リョウコは黒柳徹子と同じ年(1933年)に生まれ、今年(2019年)で86歳になる。良家のお嬢様としてばあやの送り迎えのあるように大切に育てられたが、27歳のときに勤めていた会計事務所を辞め、まったく縁のない北海道でオーケストラに入ってビオラ奏者として生活を始める。良き伴侶を得て娘2人をもうけたものの、夫は早く病死してしまって、シングルマザーとして幼い娘たちを育てながら音楽家として生き抜いていく。
若いころのリョウコの写真がありますが、きりりと引き締まった、いかにも意思の強そうな美人です。なよなよ感がまったくありません。
幼い娘たちを置いて演奏に明け暮れ、娘たちは寂しい思いをしていた。しかし、小学生のころ、娘は不満も不服も母親に感じていなかったというのです。
アップルパイやドーナツをつくってくれるという、おやつの演出もあり、毎日、娘たちのためにつくっておいてくれる、手作りの丸くて少し固いおにぎり、留守を詫びる手紙には似顔絵が描かれていて、いつも自分たちを気にかけてくれる感触をしっかり得ていた。
家族の愛情は、接触時間が短くても、ちゃんと通じる。やむを得ない距離感を強いられても、愛情はその力を必ず発揮する。リョウコは、それを教えてくれた。
リョウコは、自分が生き甲斐だと思うことを職業としてやってきた人間だ。リョウコが仕事でストレスをためている状態はあまり見たことがなかった。なんだかガサツで、いい加減だし、とにかく日々忙しそうだけど、トラブルがあってもそれを話しているうちに笑いに出してしまうなど、いつも楽しそうに見えた。
本当に、この人は音楽に支えられて生きているんだなと、娘として自然に感じとっていた。だから、著者も子どものころから本当に自分にできること、ずっと続けていけそうなこと、やりがいのあることを職業に選んで当然だと思っていた。自分が選んだことに熱意を注ぎ、これなら続けていけると思えることであれば、何でもいいのだと思えた。
やりたいことに全身全霊を注いで生きるリョウコには、うしろめたさはなかった。だから、娘である著者のなかにもくよくよする性質がはぐくまれることはなかった。
親というものは、子どもにとって、まず強く生きる人間の手本であるべきだと思うし、手放しでも、子どもがしっかり育っていけること、生きていけることを信じてあげるべきだと思う。
そして、小学校の担任がすばらしかったのです。娘に、こう語りかけました。
「この社会でいきいきと生きること、たとえいつも一緒にいられなくても、一生懸命に働き、満足していること、それを知ってもらうことも、素晴らしい母親のあり方です」
大いに変わった母親を教師がしっかり支えてくれて、著者は安心して伸び伸びと育つことができたのでした。
リョウコは新聞大好き人間。朝日新聞、北海道新聞、しんぶん赤旗の3紙を読み比べ、娘たちとも社会で起きたさまざまなことを話すのが楽しい団らんだった。
娘に対しては、「悩むだけ時間のムダ。楽しいことしてりゃ、すぐに気にならなくなる」と話す。
「大人になってもふさわしい男性に出会えなかったら、無理に結婚なんかしなくていい。本当に尊敬できる相手でもないのに、自分の面倒をみてもらうだけのために結婚するのはどうかと思う。そういう人に出会えなかったら、むしろ独りでバリバリやったほうが良い人生を過ごせるはず」
このように思春期を迎えようとしている娘たちに言っていた。す、すげえ・・・。腰を抜かしそうになります。あまりのド迫力に圧倒されながら、一気読みしてしまいました。すばらしい本です。このごろ少し元気をなくした、そんなあなたにぴったりですよ、どうぞ読んでみてください。
(2019年1月刊。1300円+税)

独楽の科学

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山崎 詩郎 、 出版  講談社ブルーバックス
世界コマ大戦なるものがあるそうですね。初めて知りました。
形もサイズも重さも、さまざまなコマが紹介されています。
そう言えば、地球だって大きなコマなんですよね・・・。
地球は半径6400キロメートル、重さは6×10の24乗キログラムという巨大なコマ。日本に美しい四季があるのは、回転軸が変わらないコマの性質による。我々は、まさに巨大なコマの上で一生を過ごしている。
通常、コマは1秒間に30回転ほどの高速回転をしている。
全日本製造業コマ大戦のルールは、直径は2センチ以下で、高さは6センチ以下。これだけ。サイズの制限があるだけで、材質や重さ、形状はすべて自由。
そして、コマは片手の指で回します。勝負は、コマが倒れたら負け、コマが土俵の外に出たら負け。ただし、相手が存在するけんかゴマ。倒れにくいコマ、土俵のなかで倒れずに回り続けるコマが勝つ。
高すぎるコマは、重心が高くて回転が遅く、すぐに倒れてしまう。
低すぎるコマは回転の勢いが得られず、相手のコマに止められて倒れてしまう。
高さ1センチ以下のコマが生き残りやすい。
人間の手の動きの早さには限界があるので、太すぎる軸は高速で回せない。少し太いと感じるほどの5~7ミリの軸が良い。
軽量型コマには、決定的な弱点がある。常に相手のコマの回転方向の逆をとらないと勝てない。
逆回転するコマは、同じ回転速度になる。
軽量型コマが勝つ理由は、低速回転時の安定性による最後の粘りにある。より軽量で、かつ、より低重心である必要がある。
生卵をまわしても、中身が動くので重心が不安定なため、うまく回転しない。ゆで卵は、思いっきり高速で回転させると、自ら縦に立ち上がる。
回転によるジャイロ効果を利用したジャイロコンパスの発明によって、方角を正しく知ることができるようになった。小型化されたジャイロセンサーが、ケータイやドローンに搭載されている。
大きな世界の銀河系から、小さな世界のスピンまで、世の中には回転しているものや、回転に関係するもので、みちあふれている。すなわち、世界はコマからできていると言っても過言ではない。
私も小学生のころは、よくケンカゴマをしていました。ひょいと放りなげて、相手のコマの上に乗せるのです。どちらが長く回転するのかを競うゲームです。
面白いコマの世界を少しだけのぞいてみた気分に浸りました。
(2018年11月刊。1000円+税)

責任とって自決した陸軍将官26人列伝

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 伊藤 禎 、 出版  展望社
第二次世界大戦(太平洋戦争)で戦没した将官は陸軍188人、海軍82人。なんだか少ない気がしますが、将官の定義によります。要するに少将以上の高級幹部です。
陸軍で自決したのは26人、海軍は5人です。本書は、この陸軍26人について詳細を紹介しています。
大将6人(うち1人が元帥)、中将17人(軍医1人、法務1人)、少将3人(法務1人)。自決者は進級していません。
元帥であり大将だった杉山元は、ボケ元、グズ元、昼行灯(あんどん)、果ては「便所の扉」とまで評されたほど酷評されています。日露戦争にも従軍した軍人です。陸軍大臣、参謀総長、教育総監のすべてを歴任した大将だというのに、これほど評価が低いというのですから、「精強なる帝国軍人」の実体が知れます。こんな人の下で無数の前途ある青年たちが人命をあたら失ったかと思うと、涙がとまりません。
 富永恭次中将(自決はしていません)は、特攻隊員を見送るとき、「諸官だけを死なせはしない。最後の一機で、この富永も突入する。あとのことは心配なく、従容として神の座についていただきたい」と言って、軍刀を振りかざした。 ところが、自分は特攻することもなく、フィリピンから台湾へ出張名目で逃亡した。いやはや、無責任きわまりないです。
敗戦後自決した軍人のなかには、責任をとるべき立場になかった者が多数いた。その反面、当然、周囲が責任をとって自決するだろうとみていた者で、自決しなかった者も多い。
これが世の中の現実なんですよね・・・。
この本を読んだのは、中村次喜蔵中将が掲載されていることからです。満州の112師団長をしていて、敗戦直後の8月18日に自決しました。56歳でした。
この本では、自決の理由や状況は不明とされていますが、私は偕行社に照会して教えてもらいました。というのも、私の母の異母姉の夫だったからです。
「大東亜戦争はついに終わった。諸君はぜひ内地に帰還し、新しい日本の建設につとめられたい。ここの戦闘の責任はひとり指揮官たる小官にあり、諸君らに責任はない」
このように師団長として最後に訓示した。
副官たちを天幕の外に出して拳銃で自決した。
この師団の300人ほどの司令部要員はシベリア送りとなった。
いま、久留米市藤山町には「中村次喜蔵生家」と書いた石碑が建っています。そして、その孫(中村薫氏)は、偶然にも私と同じ年に東大に入学したのでした。同じように法学部を出て、司法試験に受かった(中村氏は公務員上級職試験もパスしています)というのに、まったく面識がなかったのです。
(2018年8月刊。1800円+税)

シリア拘束40か月

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 安田 純平 、 出版  ハーバー・ビジネス・オンライン
シリアに40ヶ月も拘束されていたジャーナリストの体験報告記です。
著者を「自己責任」と称してバッシングする人がいることを私はとても理解できません。著者のような勇気あるジャーナリストのおかげで、私たちはシリアの実際の状況を居ながらにして知ることができるわけです。危険だから行ってはいけないという安倍政権の統制にみんなが従順にしたがっていたら、私たちは知るべき必要な情報を何も入手できず、嘘つき政権の思うままに操られてしまうばかりではないでしょうか・・・。
著者は、シリア情勢を見ることは、現在の世界とこれからの世界を見るうえで参考になると言いますが、まったく同感です。
著者を40ヶ月も拘束していたのは、イスラム系ではなく世俗の組織ではないかということです。この組織は、最後まで名前を明らかにしていません。したがって、著者を殺害しても何の意味もないのです。
この組織は、イスラム法廷から受刑者を受け入れるビジネスをしていたと思われる。
著者は拘束されているあいだに、イスラム教の聖典クルアーン(コーラン)と預言者ムハンマド(モハメッド)の伝記を何度も読み返してイスラム教について学び、拘束していた組織のメンバーと話していたとのこと。
イスラム教は、平和的な面を非常にもっている宗教である。よく勉強しないと誤解してしまうところがある。
著者が解放されるについて、日本政府をふくめて誰かが身代金を支払ったのではないかという点について、著者はそれを否定しています。ただし、日本政府が3年4ヶ月間、可能な限りの努力をしてくれたと著者は謝意を表明しています。
要するに、日本人が外国で何者かに拘束されたとき、その日本人がどういう人物であるか、つまり日本政府にとって好ましいかどうかにかかわらず、救出すべきは日本政府としての当然の責務だということです。
邦人保護は必ずする。身代金を支払うことは絶対にしない。
この2つが大原則だと著者は強調しています。2番目は難しいけれど、そのとおりだと私も思います。
3年あまりも狭いところに閉じ込められていたのに、まともな精神状態で語れるというのは素晴らしいことだと思います。身体のあちこちにガタが来たりして大変なようですが、再び元気を回復して、ジャーナリストとして活躍されんことをこころから期待します。
わずか100頁あまりのブックレットですので、ぜひ手にとって読んでみてください。
(2018年11月刊。800円+税)

キンモクセイ

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 今野 敏 、 出版  朝日新聞出版
日米関係の闇に挑む、著者初の警察インテリジェンス小説。
これがオビのキャッチコピーです。ネタバラシをするつもりはありませんが、この本で重要なポイントになっているのは、アメリカ軍基地を出入りしたら、日本の入管手続なしで済ませますので、誰がいつ日本に来て、いつ日本から出ていったのか、まったく分からない闇の世界があるということです。アメリカの大統領が成田や羽田空港ではなく、横田基地に入ったときも、もちろん同じです。日本は大統領もその随行者もまったくチェックできません。いわば治外法権です。まともな独立国ではありえないことでしょう。本当に日本は独立国なのか、疑ってしまいます。もちろん、安倍政権はアメリカべったりなので、このことを問題にする気はさらさらありません。
米軍関係者は米軍基地を経由すると、日本を自由に出入りできる、米軍関係者は出入国管理を通らないで、日本に出入国できる。
公安警察から尾行されないためにはケータイを利用しないこと。ケータイは、電源を切っていても微弱電波を察知されて位置情報が分かると言われているが、それは正確ではない。電源が入っていたときに送った微弱電波の記録が基地局に残るので、電源を切っても、その残った情報から位置を割り出されることがあるということ。
逃亡するときのケータイは、家電量販店で、プリペイドSIMカードと、型落ちの安価なSIMフリーのスマートフォンを購入してつかう。
盗聴しようと思えば、ケータイからも固定電話からも同じく可能だ。しかし、端末から電波を飛ばしているケータイのほうが傍受される危険は桁違いに高い。
スイカを使って地下鉄やJRに乗るのも要注意だ。電子マネーから居場所をつかまれる恐れがある。クレジットカードほど分かりやすくはないが、痕跡をたどれなくはない。交通系電子マネーから瞬時に居場所を割り出すのは難しい。
逃亡するときには現金に限る。
アメリカのCIAに相当するインテリジェンスの実働部隊は、警察庁警備企画課が統括する日本全国の公安警察だ。その中心は、警視庁の公安部である。
CIAやSIS(イギリス)に相当するのは内閣情報調査室で、シギント(電子的諜報活動)は、ほぼ防衛省が担っている。ヒューミント(人的諜報活動、スパイ活動ですね・・・)は、公安警察が担当している。
この本は、私立大学出身でキャリア官僚になった同期生が定期的に集まっているという設定でスタートします。外務省に警察庁に防衛省に経産省、そして厚労省です。お互いに、マル秘の話をふくめて情報交換しあうのです。私も東大法学部出身のキャリア官僚から直接そんな話を聞いたことがあります。相互に面識を深めていくのが身の処し方を語らない一番の対策なのです。
キンモクセイとは、我が家の庭にもある植物のことではなく、禁止の禁、沈黙の黙そして制圧。つまり禁黙制なのでした。ここから先は紹介できません。よく情報を握るものが権力を握るというのは真理なのでしょうね・・・。
(2018年12月刊。1600円+税)

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