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世界を変えた勇気

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版  あおぞら書房
無関心になったら、状況はいっそうひどくなる。変えようとする意思をもち、行動すれば世界は変わる。
本当にそのとおりだと思います。安倍首相が国会で平然として嘘をつきながら、学校では教師と子どもたちに道徳教育を押しつける。
過去に日本が侵略戦争をしかけて内外に無数の被害者をうみ出し、国土を荒廃させたことに目をつむり、「美しい日本をつくる」などと、ソラゾラしいことを臆面もなく言いつのる。自分の都合の悪いことは、ないものとするか、書きかえてしまう。アベ一強の政治は身内優先の汚れた政治でもあります。あまりのえげつなさに圧倒され、つい怒りを忘れて、あきらめてしまいそうになってしまいます。そんなときにカンフル栄養剤となるのが、この本です。
韓国で文在寅大統領が誕生する過程では、日本人が安保法制に反対して国会を包囲したニュースが韓国人を奮起させたそうです。
そうなんです。日本人だって、やってやれないことはないんです。もっと私たちは、自分たちの力に自信をもつ必要があります。どうせアベはこれからも首相に居すわり、悪政を続けるんでしょ・・・。そんなに簡単にあきらめてしまったら、それこそアベの思うツボです。
著者は私と同じ団塊世代のジャーナリスト。世界82ヶ国を歩いて取材したそうです。
アメリカに長く住んでいる日本人がこう言った。
日本人は文句を言うだけ。アメリカ人は文句を言う前に行動する。
そうです。文句を言い、行動することが必要です。行動のてはじめが投票所に行くこと。
いま、日本の若者は世界へ出かけようとしない。日本が一番でしょ・・・、そんな思いこみから。とんでもないことです。知ろうとするのをやめることは、知性をもった人間であることを放棄すること。
アルゼンチンでは、軍部が政権を握っていたとき、多くの市民を虐殺した。少なくとも3万人が犠牲となった。
まだ見ていませんが、最近、天(空)から遺体が降ってきたというアルゼンチン映画の上映が始まったようです。政府に楯ついた人をヘリコプターから突き落として殺していたことに結びついた実話です。そんな軍部独裁政権も、ついに打倒される日が来ます。子どもや夫を拉致・殺害された母親・妻たちが広場に集まって抗議行動したことが始まりの一つとなりました。
最近、軍政に手を貸して労働者の人権をふみにじったとして、アメリカの自動車会社フォードのアルゼンチン現地法人の当時の幹部2人が禁固10年と20年の判決を言い渡されたとのこと。すばらしい判決です。虐殺した人だけでなく、それに加担した人たちの責任が問われるのは当然のことです。
コスタリカでは、軍事費が国家予算の3割を占めていた。その軍事費をそっくり教育費に振り替えた。すると、医療や社会保障の予算も増え、国民生活の質が格段に向上した。
フィリピンでは、アメリカ軍の基地を廃止したら、経済は明らかに好転した。基地で働く人は4万2千人。基地なきあとに働く人は、6万人から10万人へ急増した。
著者は、この本の最後に次のように呼びかけています。まったく同感です。
行動の選択を迫られ、思いあまったとき、世界の人々がどんな行動をとったかを知れば、勇気も湧いてくる。自分のまわりだけを見ていても、展望は開けない。この本を読んで、一歩を踏み出してほしい。
モリモリ勇気の出る本として、強く一読をおすすめします。
(2019年4月刊。1500円+税)

電撃戦という幻(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 カール・ハインツ・フリーザー 、 出版  中央公論新社
世の中には、たくさんの思い込みというものがありますが、この本を読んで、その一つから自らを解き放つことができました。読書の楽しみがここにあります。
電撃戦というのは、ヒトラー・ドイツ軍が好んで用いた戦法とばかり思っていました。ところが、1941年11月、ヒトラー自身は次のように言ったそうです。
「私は、いまだかつて『電撃戦』などと言ったことはない。まったく愚にもつかない言葉だ」
ええっ、一体どういうことなんでしょう・・・。
電撃戦という言葉に明確な定義はなく、曖昧模糊としている。
1940年5月、「セダンの奇跡」がおこって、すべてがひっくりかえった。ドイツ国防軍の首脳は、その前は電撃戦のような軍事的冒険については懐疑的だった。この「セダンの奇跡」のあと、ドイツ国防軍の将軍たちは、恥も外聞もなく、180度の方向転換を行った。
ヒトラーが1939年9月1日に始めたポーランド侵攻のとき、ヒトラーは西側諸大国との戦いを想定した戦争計画、総合戦略について、何の用意もできていなかった。これは致命的な手抜かりだった。対ポーランド戦は、本格的な電撃戦ではなかった。
ポーランド軍はドイツ軍の敵ではなかった。装備・訓練が旧式だったし、用兵も時代遅れだった。ドイツ軍の戦車に対してポーランドの騎兵たちは白刀をふるって突撃していった。
ところが、ポーランド戦で弾薬をほとんど撃ち尽くしてしまったため、ドイツの陸海空三軍はその後しばらくは戦争を継続できる状態にはなかった。弾薬の在庫を確保しているのは全師団の3分の1にすぎず、しかもそれは2週間の戦闘で消費されてしまう。ドイツでは、このころ毎月60万トンの鉄鋼が不足していた。火薬については1941年になるまで急激な増産は見込めなかった。
当時、ドイツの自動車化部隊では車両の損失が50%に達していた。そして、軍を急激に大きくしたことから、指導的な立場の将校クラスの能力が全般的に低下していた。
「一枚岩」に見える第三帝国(ヒトラー・ドイツ)は実は外面(そとづら)だけで、戦争の最初の局面で国力を一点に集中させるだけの力強い指導性が欠けていた。
ドイツ陸軍は1940年の時点では、40歳代の兵士が全体の4分の1を占め、また、数週間の訓練しか受けていない兵士が半分を占めていた。そして、将校の絶対数の不足は深刻だった。正味3050人の将校が数百万の規模にふくれあがったドイツ陸軍の大世帯を切り回さなければならなかった。
軍需物資の面でのドイツ軍の最大の悩みは鉄鋼とゴムの慢性的欠乏だった。
ドイツ軍の90%は荷馬と徒歩で行軍した。つまり、ドイツ電撃戦のイメージは戦車と自動車だが、それは、単なるプロパガンダにすぎない。ドイツ陸軍の装備はみすぼらしいとはでは言えなくても、非常に質素だった。すぐに戦える部隊は全体の半分でしかなかった。
1940年のドイツ軍は戦車兵器の開発で、まだスタートラインに立ったばかりだった。ドイツ軍は軽戦車が全体の3分の2近くを占めていた。そして、技術的に未成熟だったことから、戦場で次々に故障によって頓挫した。さらに、ドイツ軍の軽戦車は、連合軍の軽戦車の甲板すら貫徹できなかった。
ドイツ軍のパイロットは、連合軍パイロットに比べて、良質で十分な訓練を受ける機会に恵まれていなかった。
ドイツ国防軍の将軍たちはヒトラーを、「底辺からはいあがってきた難民官ごとき」と見下していた。そして、ヒトラーのプロレタリアート的体質を激しく毛嫌いした。それに対して、ヒトラーもドイツ国防軍のエリートたちに敵愾心をむき出しにした。
1940年のドイツ軍によるアルデンヌ攻勢は、電撃戦の模範的な戦術例とされているが、実際には、ドイツ軍の追撃は、確固たるシステムによって行われたものではない。ありあわせのものですすめたところ勝利したので、あとから整理されたというものにすぎない。
いやはや、なんということでしょうか・・・。知らないことの恐ろしさすら私は感じてしまいました。
(2012年2月刊。3800円+税)

マルコムX(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マニング・マラブル 、 出版  白水社
ついにマルコムXが暗殺される瞬間が近づいてきます。
予兆はいくつもありました。マルコムXの信奉者たちがネイション・オブ・イスラムの信者たちから集団で襲撃され、あるいは殺害されます。そして、ついにマルコムXの自宅が焼き打ちされるのです。ところが、自宅焼き打ちについて、世間の注目をひくための自作自演だというデマを飛ばす人がいて、世間でもそれを信じる人が少なくなかったのです。それは、マルコムXが、いつも大ボラを吹いているという偏見にもとづく誤解でもありました。
警察はマルコムXの暗殺計画がすすんでいることを察知しながら、それを防ぐための手立てを何も講じませんでした。といっても、マルコムXの暗殺犯たちにFBIや警察が手を貸したということではないようです。
マルコムXは暗殺を恐れていなかったとのことです。それは考えが甘かったというより、殉教師になるのも一つの道ではないかという達観から来ていました。決してあきらめの境地にあったのではありません。
1965年初めには、マルコムXの側近たちは、そのほとんどが、このままでは、そのうちマルコムXは殺されると思っていた。だから、どうしたらマルコムXを救うことができるかと考えていた。
マルコムXは、当時、あらゆるものに追い詰められていたが、もともと心の内をなかなか明かさない人間だったので、このときも思っていることを話していない。
今から考えると、マルコムXは、死を避けたり逃れたりはしまいと決めていた。死を望んでいたわけではないが、それを自分の宿命から外すことのできないものとして、受け入れる覚悟があったようだ。
演説会場に入るとき、参加者が銃器をもっていないか調べることをマルコムXは禁じた。そして、自分の警備員(ガードマン)には一人を除いて武器をもたせなかった。銃撃戦になったとき、暗殺犯は、おそらく丸腰のガードマンを撃たないだろう。誰かが死ななければならないのなら、それは自分でいい。マルコムXはそんな結論に達していたのではないか・・・。
FBIもニューヨーク市警も、マルコムXの運命への介入について、同じくらい消極的でマルコムXの生命が脅かされても、捜査せずに身を引き、犯罪が起きるのを待っていた。結局、暗殺犯たちは演説会場に銃をもって立ち入り、ちょっとした騒動を起こして、演壇にいるマルコムXを銃撃し、殺害してしまったのです。それは、ネイション・オブ・イスラムの組織した暗殺集団でした。
暗殺班の構成員は、みなイライジャ・ムハマドの熱心な信奉者であり、マルコムXを殺すためには自分の命を犠牲にする用意があった。暗殺を企てる者が死をいとわないのなら、誰でも殺すことができる。これって、自爆犯と同じだということですよね。
こうやってマルコムXの暗殺の瞬間が解明されていますが、この本は同時に、マルコムXがメッカ巡礼し、アフリカ諸国をめぐったことによる思想的転換を具体的にあとづけています。そこが大変興味深いところでした。とはいっても、当時のアフリカは独立の英雄が独裁者に転化しつつあったり、各国とも政情は単純ではありませんでした。
本書の結論で書かれていることを紹介します。
黒人の人間性に対する深い尊敬と確信が、革命的な理想家マルコムXの信念の中心にあった。そして、マルコムXの思い描く理想の社会に異なる民族意識や人種意識をもつ人々も含まれていくにつれ、マルコムXの穏やかなヒューマニズムと反人種主義の姿勢は、新種のラディカルで世界規模の民族政治の基盤となっていたかもしれない。
マルコムXは希望、そして人間の尊厳の象徴になるべきである。
この最後のくだりを、なるほどと読んで思えるほど、マルコムXの思想的遍歴が忠実に再現できていて、改めて素晴らしい本だと思いました。
(2019年2月刊。4800円+税)

先生、アオダイショウがモモンガが家族に迫っています!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館
この先生シリーズも、ついに13冊。1年に1冊ですから、なんと13年もおつきあいしていることになります。いえいえ、実は番外編もあったりして、本書は15冊目になります。
鳥取環境大学に学ぶ学生は幸福です。とはいっても、学生のときにはそうは思わないかもしれません。大学生であることのありがたさは、社会の荒波にもまれて初めて実感できるものです。少なくとも、私は、そうでした。早く、この中途半端な大学生を卒業したいものだと焦っていました。いま思うと、とんでもない間違いです。
さて、この本には、ヘビを部屋のなかで放し飼いをしている学生、河原でカエル捕りに熱中している学生など、いろいろ登場します。
カエルにそっと近づき、素手で押さえこむ。そして、ピンセットでカエルに強制嘔吐させる。有害なものを誤食したときに、カエルは自ら胃を反転させて口から外に出し、有害物を吐き出す。この習性を利用してカエルが何を食べているのかを調べる。
ヘビ専用のヘビ部屋には幅7メートル、長さ1.5メートル、高さ4メートル、そこに4匹のアオダイショウと4匹のシマヘビを放し飼いにしている。エサとして与えるのはニワトリの骨つき肉。
先生は、アオダイショウを手で自由にあやつれるようです。モモンガ母子のヘビに対する反応を実験するため。アオダイショウの「アオ」に協力してもらっています。
アオダイショウは木登りが上手。気の幹にある小さな取っかかりを巧みに利用して、効率的に登っていく。幹にまったく基点となるようなものなければ、幹に体をぐるぐる巻きつけて締めつけ、締めつけた部分を基点として、そこから体を垂直上方へ伸長させて登っていく。
わが庭でも、スモークツリーの上のほうにヒヨドリがいつのまにか巣をつくって子育てしていましたが、それをアオダイショウが見事に登ってヒナを全滅させてしまったことがあります。地面を這っているアオダイショウが地上2メートル以上の高さにある巣と、そこにいるヒナの存在をどうやって知ったのか、今でも不思議でなりません。
先生シリーズの続編を期待しています。
(2019年4月刊。1600円+税)

緋い空の下で(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マーク・サリヴァン 、 出版  扶桑社文庫
ナチス・ドイツに抵抗したフランスのレジスタンス運動についてはいくつも本があり、読みましたが、この本はイタリア北部のレジスタンスの話です。実話をもとにしているようですが、大変スリリングな展開で、350頁の文庫本を2日間で読み通しました。下巻が待ち遠しい思いです。
上巻の前半は、ユダヤ人のアルプス越えを先導する話です。その行く先はスイスです。『サウンド・オブ・ミュージック』と同じく、ナチスの追及を逃れてスイスに駆け込むユダヤ人たちの案内人をイタリアの少年がつとめるのです。冬山を少年が先導し、慣れない山道、しかも絶壁の冬山を勇気を出させて乗り越えていくところは、まさしく手に汗を握ります。
後半は、そんな青年がイタリア軍に徴兵されてロシア戦線に送られて死ぬよりは、ドイツ軍に入って内地勤務を両親にすすめられてドイツ軍に志願入隊することになり、それからの意外な展開です。
事情を知らない知人からは裏切り者と呼ばれます。
そして、イタリアにいるドイツ軍の高級幹部の運転手となり、ドイツ軍の機密情報をもらすスパイになるのです。まさしく手に汗握るシーンの連続です。
イタリア北部は、ドイツ軍がムッソリーニを利用しながらも上陸してきたアメリカ軍などに必死に抵抗していて、そこでイタリアのパルチザンたちが活動していたのです。
アメリカで2017年のベストセラーとなり、映画化もされるそうです。ぜひ、映画もみてみましょう。
(2019年5月刊。980円+税)

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