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踏み絵とガリバー

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 松尾 龍之介 、 出版  弦書房
イギリス人のスウィフトの『ガリバー旅行記』に日本が登場してくるなんて、初めて知りました。しかも、踏み絵のことが書かれているというのです。さらに、夏目漱石が、この『ガリバー旅行記』を絶賛しているというのです。世の中には、驚くことが多いですね。
『ガリバー旅行記』は、4篇から成っていて、第一篇は「小人国」、第二篇は「大人国」だけど、第三篇は、太平洋上の島々を訪問したもので、そのなかに日本が含まれている。
そして日本に上陸するときには、イギリス人のガリバーはオランダ人になりすます。そして、江戸で日本の皇帝(将軍)に会ったとき、オランダ人がしている踏み絵の儀式を免除してほしいと願った。
踏み絵は日本人だけで、オランダ人が出島でも踏み絵をさせられたことはない。
オランダ人は、キリスト教徒として恥ずべき行為(踏み絵)までして、日本との貿易を独占しているという噂が立っていた。それは、嫉妬ややっかみにもとづくものだった。
イギリスは、オランダに対して常にライバル意識をもっていて、ついには戦争までするようになった・・・。
スイフトが『ガリバー旅行記』を書いた(1726年)のは、59歳のときだった。デフォーの『ロビンソン・クルーソー』と同じころだ。
『ガリバー旅行記』は、皮肉やブラックユーモアに満ちた、大人のための文学である。
ガリバーが旅行する国々のなかで、唯一、日本だけが実在する。
ヨーロッパの人々は、マルコ・ポーロ以来、ずっと日本に熱い眼差しを向けてきた。ヨーロッパの人々は、現代日本人が想像する以上に、日本のことをよく知っていた。しかも、それがスキャンダラスなだけに強く印象が残った。
九州諸藩で踏み絵が続けられたのは、踏み絵が同時に戸籍制度として機能していたから・・・。うむむ、なるほど、そういう側面もあったのですか・・・。
(2018年10月刊。1900円+税)

わたしが「軽さ」を取り戻すまで

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 カトリーヌ・ムリス 、 出版  花伝社
2015年1月7日、パリで起きたテロ事件。雑誌「シャルリ・エブド」の編集部が襲撃され、12人の同僚を失った女性の話です。マンガになっています。
この日、著者は幸運にも遅刻したのでした。もっとも、犯人たちは女性は殺さないと叫んでいたようですので、遅刻しなかったとしても助かったのかもしれません・・・。
しかし、同僚12人を一挙に亡くした生存者にとって、当然のことながら、その心の痛手はいかにも深いものがあります。
しかも、1週間後の1月13日には、さらにパリ同時多発テロ事件が起きました。このときの死者はなんと130人です。劇場が襲撃されたのでした。
トラウマから解離が起きる。巨大なストレスに襲われると、多大なアドレナリンとコルチゾールを発生させ、そのために死に至らせることがある。それで脳は反射的に自分を解離させる。
あなたの脳が解離して、感情、感覚、記憶の麻痺を引き起こした。自分の中が壊れていることの傍観者になっている気がする。まさに、それが解離なのだ。
「シャルリ・エブド」は、フランスの有名な風刺新聞社だ。犯人2人は兄弟で、別のところも襲撃して、警察の特殊部隊によって射殺された。
著者も報道マンガ家でしたが、事件のあと退社して、現在なお、完全に仕事復帰ができていないとのことです。
マンガによって、視覚的に著者の苦しみが切々と伝わってきます。
(2019年2月刊。1800円+税)

大いなる聖戦(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 H.P.ウィルモット 、 出版  図書刊行会
第二次世界大戦の通史ですが、「英雄・悪玉史観」は意図的に排除されています。
戦争ではなく、国家間の抗争といった文脈のなかで、国家権力と軍との関係に焦点をあてている本です。
現代の戦争は、社会集団・組織機構間で戦われるものだ。
ダグラス・マッカーサーは、アジア・太平洋戦争で勝利を収めてはいない。
1942年秋のエル・アラメインの戦いは、バーナード・モントゴメリーとエルヴィン・ロンメルとの一騎打ちではない。
ドイツ軍は軍事上の成功にもかかわらず、国家としては粉砕された。ドイツ軍の事実上の天凛が発揮されたのは戦闘においてであって、戦争においてではなかった。ドイツは、その同盟国日本と同じく、大国の中で戦争の本質を理解していなかった国家なのである。
ソ連は、政治・経済・軍事面では、むしろ敗戦国としての側面を有していた。
太平洋戦争で最大の海上作戦であるレイテ沖海戦が展開されたのは、戦争の帰趨が決したあとだった。
日本が満州を征服した要因として、二つあげられる。第一に、日本を急速かつ急激に襲った大恐慌。不況に直面するなかで、日本の経済問題を解決するカギは満州占領にあるという考えが日本全般で幅広く受け入れられた。第二に、中国の内政に干渉し続けてきたため、日本陸軍に上層部の認可も行政府の撃肘も受けずに行動する体質が根付いていたことによる。
ヒトラーが最高権力者の地位にのぼりつめることができた理由の一端も大恐慌に求められる。ヒトラーの強みは、ドイツの伝統・文化・政治理念に深く根ざしたある種の価値観・信念を体現した存在であったことにある。自由主義に根ざした民主政治を否定し、合意よりも強権、理性よりも意志、個人よりも民族・社会、謙虚さよりも力を重んじるというような、現実離れしたドイツの価値観の集合体を代弁する者こそがヒトラーだった。
1940年当時、イタリア社会にファシズムは確固とした根をおろしていなかった。イタリアのファシズムは思想的基盤をもたず、民衆へのアピールに欠けるものだった。
ムッソリーニが政権を掌握して20年近くたっていても、イタリアの一般大衆は、ドゥーチェ(ムッソリーニ)とファシズムのために命を的にして戦うような心情を有していなかった。
イタリアのファシズムは、単にムッソリーニの狡猾さと機会主義的姿勢を推し進めるための隠れ蓑にすぎなかった。
ヒトラーが発動したバルバロッサ作戦は目標の選定と作戦指導の両面で欠陥を有していた。なぜなら、その作戦の大半の期間中、ドイツ軍が主導権を握っていたににもかかわらず、ドイツの敗北に終わったからである。その作戦が進展していくにつれて、目標間の優先順位を決めかねるのが常態となっていたというのは、バルバロッサ作戦の大きな失策を示すものだ。
ヒトラーが気まぐれであり、部下の判断と能力を信用せず、合議制や決められた指揮系統を通じて決定を下すことがまったく出来なかったことが、結果として、既定方針に従って作戦を遂行する妨げとなった。戦いが進むにつれて、この首尾一貫しないヒトラーの態度によって、時間との闘いを強いられていたドイツ軍は貴重な時間を失っていった。
また、ドイツ軍の残虐性は、ドイツ軍にとって有害無益で、東部戦線でのドイツ側の敗北を決定づけた最大の要因と考えられる。1941年夏の段階では、ソ連社会の相当部分が、スターリンの暴虐な支配からの解放者としてドイツ軍を歓迎したが、ドイツ軍が捕虜と民間人を野蛮に扱うのを目の当たりにすると、ソ連国民は即座に現実を悟った。外部からの侵入者は、ソ連市民が手許に有していたわずかなもの、とくに希望までをも奪い去ってしまうということを。
ここに皮肉な状況が現出した。スターリンが、自身では自らの支配の正当性を確立できていないなかで、ヒトラーは、ソ連の民衆を彼らが命をかけて戦わざるを得なくなるような状態に追い込むことによって、スターリンの支配を正当化することになり、最終的にはソ連における共産党の支配が持続することを確かなものとした。
なかなか鋭く、説得的な歴史分析がなされていて、圧倒される思いで読みすすめました。
(2018年9月刊。4600円+税)

見えない違い

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジュリー・ダシェ 、 出版  花伝社
アスペルガーとは、どういうことなのか、マンガによって日々の生活のなかで何が起きるのかがよく目に見えるように示されています。
マルグリットの生活は規則正しい。朝の7時に小鳥たちの優しい歌声で目を覚ます。目覚ましのけたたましいアラームで目を覚ましたら、その日は一日中、ストレスに悩まされてしまうことになる。
朝食のメニューは、いつも同じ。搾りたてのレモンジュースとはちみつを塗ったグルテンフリーのパンを植物性ミルクに浸して食べる。
マルグリットは単なる意味のない世間話が苦手。
マルグリットはお世辞が苦手で、思ったことをズケズケ言ってしまう。
アスペルガー症候群は自閉症の一種で、相互作用やコミュニケーションに困難を生じたり、特定の事柄に強いこだわりを示すという特徴がある。
マルグリットの話し方は、オウム返しと呼ばれるもの。最後に聞いた言葉をほぼ自動的に繰り返しているうちに自分の考えをまとめている。
2月18日は、アスペルガー症候群国際デーだ。
自閉症は病気ではない。神経発達の一障害だ。自閉症の人がみな「レインマン」ではない。自閉症は連続体を形成していて、症状も人のあり方も実に多様なのだ。
自閉症の子どもの構成比は、男子4人に、女子1人で、男子が女子の4倍。
アスペルガー症候群の人は、自分なりの「表現の辞書」をつくり、それを少しずつ充実させていく。
アスペルガー症候群の人は、自分が興味のあるものに対して非常に強い愛着を示し、寝食を忘れてのめり込んだり、それについて何時間も話しがちだ。
自閉症の人たちは、ひとりで過ごし、興味があることに没頭することでリラックスする。
アスペルガー症候群の人たちは感覚過敏だ。型にはまった行動をとりがちで、ウソがつけず、しばしば不器用だ。儀式やルーチン(習慣的行動)に執着しがちで、思いがけない出来事が苦痛。
マンガつきで解説されるので、とても分かりやすくなっています。
(2018年10月刊。2200円+税)

「共謀」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ルーク・ハーディング 、 出版  集英社
トランプとプーチンの古くからのつながりに迫った本です。
トランプ大統領のロシア疑惑とは何なのか、この本を読んで、ようやく少し理解できました。
トランプ大統領のロシア疑惑とは、二つ。一つは選挙妨害の可能性。2016年のアメリカ大統領選挙戦で、ロシアが介入した民主党全国本部などへのサイバー攻撃について、どれだけトランプ陣営が組織的に関わっていたか・・・。二つ目は、トランプが大統領になってから、ロシアの選挙介入疑惑に対する一連の捜査を妨害しようとしたのではないかという司法妨害である。
一連の捜査をしていたFBIのコミー長官に対して、トランプ大統領は、当時、大統領補佐官だったフリンに対する捜査を中止するよう要請したが、コミー長官は拒否して、その後も捜査を続けた。そこで、コミー長官はトランプ大統領から更迭された。このようなトランプ大統領の行動は司法妨害ではないのかというもの。
トランプはモスクワにもトランプタワーを建てようとした。この夢は結局のところ実現しませんでしたが、夢を具体化できるほどの基礎はあったのです。それは、ロシアがトランプを招待し、優遇したことから生まれた夢でした。
プーチンとトランプの関係は、まさしく強者と弱者の関係。どちらが強者か、それはプーチンであってトランプではない。トランプは強者のプーチンに対して弱者としての存在でしかない。
トランプ大統領が、前にフロリダ州にもっていた家をロシアのオリガルフ(大富豪・政商)が購入した。この売買によって、トランプは5000万ドルもの利益を得た。
ニューヨークのトランプ・タワーは、今や重大犯罪の巣窟になっている。トランプ・タワーは、ロシアン・マフィアの避難所にもなっている。
過去40年間にわたってトランプが築いた不動産の王国は、モスクワからのブラックマネーの洗濯場としての役割を果たしてきた。旧ソ連の資金が分譲マンションや邸宅に流れ込んでいただけでなく、トランプがアイオワやニューハンプシャーで選挙活動していたときですら、トランプの側近たちは念願のモスクワでのタワー建設に向けて、認可と資金援助を得るためにロシア政府と交渉していた。
トランプ大統領の支持率は、アメリカ全体でみたら40%でしかなく、政権発足時の45%から5%も下がった。これは歴代大統領として最低レベルだ。ところが、共和党支持者に限ってはトランプ大統領の支持率は何と86%。就任時の89%から3%しか低下しておらず、まさに鉄板。これに対して民主党支持率はわずか7%。この両者の差は、実に79ポイントもある。
そもそも、トランプ大統領そのものが分極化の象徴的存在なのだ。
この本によると、トランプはロシアに弱みを握られてでもいるかのようにプーチン大統領にひたすら恭順の意を示しているとのことです。であるなら、ロシア疑惑も十分にありうるわけですよね・・・。
(2018年3月刊。2300円+税)

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