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承久の乱

カテゴリー:日本史(鎌倉)

(霧山昴)
著者 本郷 和人 、 出版  文春新書
承久3年(1221年)、後鳥羽上皇が鎌倉幕府の実権を握る北条義時の追討を命じた。承久(じょうきゅう)の乱のはじまりだ。
この承久の乱について、大変面白い、というか刺激的で勉強になる指摘の連続で、ふむふむ、そうだったのか、そうなのかと、思わず頭を深く上下させながら一気に読みすすめていきました。
承久の乱こそが日本史最大の転回点のひとつだ。ヤマト王朝以来、朝廷を中心として展開してきた日本の政治を、この乱以後、明治維新に至るまで、実に650年にわたって武士が支配する世の中になった。
そして、地理的にいうと、近畿以西が常に東方を支配してきた構図がこの承久の乱で逆転し、東国が初めて西を制することになった。
これは、田舎=地方の在地勢力が、都=朝廷を圧倒した最初のケースでもあった。
幕府と呼ぶようになったのは、明治時代からのこと。江戸時代、徳川家の支配体制は幕府ではなく、「柳営」(りゅうえい)と呼ばれていた。
鎌倉幕府の本質は、源頼朝を棟梁と仰ぎ、そこに集結することで、自分たちの権益、とくに土地の保障(安堵、あんど)を得ることにあった。その頼朝による土地安堵が「御恩」、それに報いるために、頼朝の命令のもとに戦うことが「奉公」だった。それを受け入れた武士たちは、頼朝の直属の子分として「御家人」と呼ばれた。この御家人の総数は千数百人ほど。将軍家に直属する人々で、鎌倉武士のなかのエリート中のエリートだった。
頼朝のつくった鎌倉幕府の最重要課題は、御家人たちの土地問題を解決することだった。そして、源頼朝は、東国武士たちが朝廷に接近することを警戒した。朝廷と距離をとるのは、頼朝の政権にとって最重要課題のひとつだった。
ところが、弟の源義経は兄の頼朝に無断で、検非違使(けびいし)に就任し、さらに後白河上皇から左衛門少尉の官位をもらった。これは頼朝にとって許せるものではなかった。
後鳥羽上皇は、非常に実力をもった上皇だった。歌人として超一流であるだけでなく、当代きっての音楽家であり、武士としても名がとどろいていた。
後鳥羽上皇は、自分の力を疑うことなく、幕府の組織系統に手を突っ込み、自分の味方となる武士を次々に増やしていった。
北条義時の最高官位は、従四位。その後も、このまま続けた。
日本史の承久の乱について、なるほど、複眼的思考が必要だということが、よく分かる本でした。
(2019年2月刊。820円+税)

江戸暮らしの内側

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 森田 健司 、 出版  中公新書ラクレ
江戸時代の庶民の暮らしぶりがよく分かる本です。
「大坂夏の陣」以降、日本国内で大きな戦争が絶えたのは、支配層たる武士より、多くの庶民による「不断の努力」があってのことと理解すべき。平和が、強大な江戸幕府の恐怖政治によって実現したなどと考えると、江戸時代の真の姿はまるで見えなくなってしまう。
著者のこの指摘は大切だと私は心をこめて共感します。
江戸時代の庶民からもっとも学ばなければならないのは、生活文化、暮らしの文化だ。
江戸時代は楽園ではないし、そこで生きていた庶民は、現代以上に大きな困難に直面していた。しかし、当時の人々の多くが見せた生き様(ざま)は、疑念の余地もないほどに真摯なものだった。それは、当時において、いわゆる道徳教育がきわめて重視されていたためでもある。この道徳教育の究極の目標は、常に平和の維持だった。
長屋の小さな家は、1月あたり500文(もん)で借りられた。500文は現代の1万2500円にあたる。家賃は意外に安価だった。
江戸は上水道だけでなく、下水道も整備されていた。排泄物は一切下水には流れ出なかった。
地主と大家は違う人物で、長屋の住人を管理させるために雇っていたのが大家だった。
江戸はよそ者の集まりであり、長屋を「終(つい)の棲家(すみか)」とするつもりだった者は、ほとんどいなかった。
江戸の食事は朝夕の2回。米を炊くのは朝で、1日1回。夕食の白飯は、茶漬けにして食べるのが普通だった。昼食は元禄年間に定着した。そして、三食すべて白飯(お米)を食べていた。
棒手振り(ぼてふり)とは、行商人のこと。免許制だった。
江戸の庶民は現代日本人と体型がまったく違っている。足が短く、重心が低かった。60キロの米俵1俵を1人で持って歩けるのは普通のこと。
江戸の庶民は、「さっぱり」を何より好んだ。そのため、とにかく入浴が大好きだった。毎日、入浴する。料金は銭6文。
江戸の男性労働者は、数日おきに髪結床の世話になった。髪結床は、江戸に1800軒の内床があり、そのほか出床をあわせると2400軒以上もあった。料金は20文、500円ほど。
就学率は、江戸後期に男子が50%、女子が20%。全国に寺子屋が1万以上、江戸だけで1200以上あった。寺子屋は、まったく自主的な教育施設であり、幕府や藩がつくらせたものは全然ない。ここで朝8時から午後2時まで勉強した。基本は独習で、習字の時間がもっとも多かった。
江戸時代の人々は、人間の幸福を人生の後半に置き、若年の時代は晩年のための準備の時代と考えていた。
まだ若手の学者による江戸時代の暮らしぶりの明快な解説です。一読の価値ある新書だと思います。
(2019年1月刊。820円+税)

ケイレブ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェラルディン・ブルックス 、 出版  平凡社
初期ハーバード大学に、ネイティブ・アメリカンの学生がいたのでした。
この本は史実をもとに、白人キリスト教少女の目を通してアメリカ社会を描いた小説です。
ケイレブは、1646年ころに生まれたワンパノアグ族であり、アメリカ先住民として最初にハーバード大学を卒業した。
ケイレブの書いたラテン語の手紙が写真で紹介されています。
ハーバード大学の前身である「ニュータウンの大学」が設立されたのは1636年。マサチューセッツ湾植民地の設立から6年後のこと。17世紀末までの卒業生は総数465人。ケイレブ・チェーシャトゥーモークは、そんなエリートの一人。
先住民のケイレブと白人女性のベサイアは、抑圧された立場にあるという共通点をもつ。この二人が文化の違いを乗り越えて共生を目ざすという展開です。
ケイレブは知識を手に入れることにより、先住民とイギリス人との架け橋になろうとする。誰の奴隷にもならない二人は、知識を活かして他者に仕えようとする。
史実のケイレブは1665年に学友たちと行進してハーバード大学の卒業式に出席する。しかし、残念なことに、1年後に肺結核のため亡くなった。
アメリカ先住民の一人がキリスト教と接触し、異なった世界のなかで学び目覚め、葛藤する状況がよく分かる小説です。
(2018年12月刊。2800円+税)

アンダークラス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 橋本 健二 、 出版  ちくま新書
現代日本社会の実態を正確に認識する必要があると痛感します。
非正規労働者のうち、家計補助的に働いているパート主婦と、非常勤の役員や管理職、資格や技能をもった専門職を除いた残りの人々を「アンダークラス」と呼ぶ。
その数は930万人、就業人口の15%を占め、急速に拡大しつつある。平均年収は186万円、貧困率は38.7%(女性は5割に達する)。男性の66%が未婚者で、配偶者がいるのは26%に達しない。女性でも未婚者が過半数を占め、44%近くが離死別を経験している。
アンダークラスが増えはじめたのは、1980年代末のバブル経済期から。
日本の貧困率は、1985年(昭和60年)に12.0%だった。それから30年後の2015年には15.6%となった。30年間で3.6%も上昇した。
ちなみに、日本の資本家階級は254万人ほど。これは、就業人口の4.1%を占める。
アンダークラスの若い男性は、絶望と隣りあわせに住んでいる。
アンダークラスの男性は、社会的に孤立していて、協力行動にふみ出しにくい。他者からサポートを受ける機会も少ない。
老後の生活の経済的基盤は、きわめて脆弱だ。金融資産は平均948万円。
「自分は幸せではない」と考える人の比率は、実に55.7%である。
アンダークラスと失業者は格差の解消と所得の再分布を支持する。ところが、自民党支持を拒否するにもかかわらず、その他の政党を支持するわけでもない。どの政党も支持しない。また政党への無関心をきめこむ。したがって、アンダークラスの意思は、政治には反映されない。
投票率の低下がアベ一強政権を黙って支えている現実を深刻に真剣に考えるべきだと私は考えています。
(2018年12月刊。820円+税)

キャッシュレス覇権戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岩田 昭男 、 出版  NHK出版新書
日本は今も現金が大手を振って通用している。キャッシュレス決済比率は18.4%でしかない(2015年)。韓国は89.1%、中国は60.0%、そしてアメリカは45.0%というのとは大きな開きがある。
日本の銀行券の製造コストは年に517億円。そして全国20万台あるATMから現金を引き出している、このATMの維持管理コストは現金運搬の人件費を加えると年間に2兆円。
キャッシュレス化を進めたい国の立場は、徴税を徹底したいということ。現金は匿名性が高くて、その流れを把握しにくい。
キャッシュレス化は便利だが、資産やお金の使い方が企業そして国に筒抜けになる。そのうえ、蓄積された個人情報を分析して、その人の信用度を数値化してランク付けする「信用スコア」ビジネスが始まっている。
ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であるペイペイが2018年12月から、「100億円あげちゃう」キャンペーンを始めた。そして、実際に、10日間で100億円を使い切った。1日10億円である。
個人商店のキャッシュレス化が進まない理由の一つは、手数料の高さ。3%から7%の手数料をとられてしまうことにある。ラーメン店の多くは、カードお断りだ。
中国では、スマホ決済は日本のGDP546兆円をはるかに上回る660兆円(2016年)に達している。そして、中国では顔写真つきの身分証がなければスマホを買えない。逆にいうと、スマホがID(身分証明)の役割を果たしている。
アリペイのゴマ信用は、返済履歴や買い物履歴だけでなく、個人の生活情報(暮らしぶり)も取り込み、AI(人工知能)によって点数化したもの。このゴマ信用は、一企業の信用情報というより、人々をランク付けする半ば公的な基準となりつつある。中国政府のブラックリストに載った人間は、実際に飛行機や高速鉄道の切符が買えないという制裁を受けている。
いま、中国政府は、無料の健康診断を実施し、指紋、血液、DNAなどの生体情報の収集をすすめている。
アメリカでは、警察署の多くが、犯罪予測システムを運用している。過去に発生した管轄内の犯罪データをAIが分析し、犯罪が起きる「時間帯」と「場所」を予測し、このデータをもとに、重点的にパトロールする。
キャッシュレス社会とは、誰が、いつ、どこで、何を、いくらでどれだけ買ったかという情報が、私たちの知らないところで集められ、分析される社会でもある。個人は「丸裸」にされてしまう。
ポイントカードによって顧客を囲いこみ、年齢・性別・職業などの属性と購買動向をひも付けて記録して、自社のマーケティングに役立てようという狙いがある。
私はなるべくカードを使わないようにしています。自分の足跡を誰がずっと監視しているなんて、恐ろしすぎます。やはり、便利なものには裏があるのですよね・・・。
(2019年2月刊。780円+税)

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