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アメリカ侵略全史

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ウィリアム・ブルム 、 出版  作品社
著者は1933年生まれのアメリカのジャーナリストです。1960年代にはアメリカ国務省に勤務していたこともあり、反共派でしたが、その後はCIAの内幕をあばく本を出したり、チリに滞在してアジェンデ政権に対するアメリカの転覆作業を現地から告発しました。
そして、アメリカが日本の政治にいかに干渉してきたかも明らかにしています。CIAは日本の左派勢力の弱体化のために莫大な秘密資金を投入したのでした。
2段組みで700頁をこえる大書です。アメリカが支配・介入した国もアフリカ、南アメリカ、東南アジアだけでなく、ヨーロッパも含まれています。
たとえばイラクです。最後にはイラクへ攻め込んでフセインを絞首刑に追い込んだアメリカですが、イラン・イラク戦争のときには、フセインに膨大な量の武器と軍事訓練、衛星写真情報そして何十億ドルもの援助金を提供していた。そのころだって、フセインは残念な独裁者だった。
イランのホメイニにもアメリカ製の武器とイラクに関する情報を提供していた。
これは、イランとイラクが互いに最大限の打撃を与えあうよう、そして、その結果、どちらも中東の強国にならないようにするためだった。
アメリカはイラクを打撃するとき、スマート爆弾やレーザー誘導爆弾をつかって軍事的標的だけを狙って細心の注意を払ったと宣伝した。しかし、これは単なるプロパガンダであって、実際には非軍事的施設も標的にしていたし、イラクの敗残兵が投降しようとするのを大量虐殺し続けた。
アメリカは、拷問のテクニックを世界中からアメリカにやって来たエリート軍人たちに伝授した。その拷問のすさまじさは想像を絶するものです。
尋問哲学は芸術である。相手を軟化させるために、普通に殴りつけ侮辱する時間をもうける。その目的は、囚人を侮辱し、自分が救いようのない状況にあることを認識させ、現実から遮断することにある。質問はせず、殴打と侮辱だけを加える。それから黙って殴り続ける。尋問するのは、そのあと。拷問のあいだ、対象が希望を完全に失ってしまうことのないよう注意する。希望をすべて失うと、頑固な抵抗が始まる可能性がある。
つねに、相手に多少の希望を残しておく。遠くに見える光を・・・。
拷問法の一つとして、殺虫剤を注入したフードを対象の頭にかぶせる方法があった。電気ショックも使われた。性器に加えるのが、もっとも効果的だった。対象者の鼻と耳と性器を切り落とし、それから皮膚を一片一片そぎとる拷問、ゆっくりとした苦痛をともなう死を与える。
このような残忍な拷問を世界中に広めたのもアメリカ流民主主義だったことを改めて認識させられました。
読みたくない本、一読をおすすめしたくなんかない本です。ましてや3800円もする本を買って読んでほしいとは私も思いません。でも、少なくとも日本中の図書館に常備し、広く私たち日本人も読むべき本だと私は思いました。
(2018年12月刊。3800円+税)

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジェームズ・ブラッドワース 、 出版  光文社
イギリスでは、階級差が日本と違って、はっきりと目に見えるようです。
そして、サッチャーが炭鉱労働者の戦闘的な組合を壊滅させたことにより、労働者は頼るべき拠りどころをなくしてしまったようです。それは、日本でスト権ストの敗北後に労働組合の力が衰退していったのと同じだと思えます。
著者は実際にアマゾンの倉庫で働き、ウーバーのタクシー運転手、そしてコールセンターでも働いていて、その体験レポートでもあります。
イギリスで労働者になるということは、軽蔑されるか、あるいは生きることがぎりぎり許されるレベルの人間になるということ。現代のイギリスで貧困に陥るのは、いとも簡単であり、どんな選択をしたとしも誰にでも起こりえることだ。
アマゾンの倉庫は4つのフロアに分れ、従業員も4つのグループに分かれている。運ばれてきた商品を受けとって確認し、開封するグループ、商品を棚に補充するグループ、注文された商品をピックアップするグループ、商品を箱に詰めて発送するグループ。
アマゾンは、イギリス国内だけで8000人を雇用する巨大企業だ。一人の従業員は、国際物流のための大きな機械の小さな歯車でしかない。従業員の7割は1日に16キロ以上歩いている。
アマゾンの倉庫での仕事は、肉体的にきついだけでなく、精神的にもうんざりするものだ。この仕事には、感情のための緩和剤が必要だ。そのため脂っこいポテトチップスを買う。
労働者は、ジャンクフードと油と砂糖をたらふく食べる。単純労働による身体感情的な消耗を何かで補う必要に迫られる。それが、タバコ、酒、ジャンクフードなのだ。これが残された数少ない喜びになっている。そのため、肥満率が圧倒的に高い。
現在、イギリス全土で100万人以上がコールセンターで働いている。ウェールズには、200ヶ所以上のコールセンターがあり、3万人の雇用そして6億5千万ポンドの経済効果を生み出ている。
しかし、コールセンターの仕事は、退屈だ。そして雇用は常に不安定だ。コールセンターでは、従業員の監視システムがすすんでいて、従業員のすべての行動が監視・追跡・記録されている。
ロンドンの民間タクシーの運転手は過去7年間で倍増し、11万7千人となった。ウーバーを利用する乗客は2012年に5千人だったのが、今や170万人に増えた。ウーバーの運転手は、ピーという通知音が鳴ったら、15秒以内に仕事を受けるか、ほかのドライバーに任せるかを判断しなければならない。運転手が3回連続で乗車リクエストを拒否すると、外されてしまう。
運転手は、受けた仕事の件数、種類、キャンセルの有無が厳重に監視されている。
利用する料金が安いことから、乗客は運転手に対して敬意を払わない。
サッチャーが炭鉱夫の労働組合を攻撃したとき、多くの人は自分に関係ないことと、屁とも思わなかった。けれども、結局、この国で働くすべての人にその影響が及んだ。そして、その影響は今日までずっと続いている。
先日、イギリス労働党のコービン党首への圧倒的支持の高まりを分析した本を読みましたが、この本と通底するところがありました。要するに、希望を失ってはいけないということです。
(2019年4月刊。1800円+税)

ふたつの日本

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 望月 優大 、 出版  講談社現代新書
いつのまにか私たちのまわりにはたくさんの外国人がいるのに、私たちの認識はその現実にきちんと対応していないように思います。
いま、日本には264万人の外国人が存在している。これは全人口の2%。「永住権」をもつ外国人だけでも100万人をこえている(109万人)。そして、1980年代半ばまでは韓国・朝鮮籍の人が8割以上を占めていたが、今では2割にみたない。
世界的にも日本は世界第7位の「移民大国」となっている。日本の人口が1億2千万人なので、日本人はそんなに「移民大国」となっている実感をもっていない。
いまの安倍政権は「移民」の定義をごまかしています。そして「永住権を増やさず、出稼ぎ労働者を増やす」政策をとっている(ローテーション政策)。これは、外国人を「人」として扱わず、「モノ」としてみている。「人」として扱うのには、相応のコストがかかる。
たとえば、コトバの問題。外国人2世の子どもたちが日本語をうまく話せない、ましてや1世である親は十分でない。それを国として放置していいはずはない。教育システムをつくって運営するには相応の費用がかかる。医療・年金そして社会保障システムのなかで外国人をどう位置づけるのか、きちんとした対策を日本政府はとっていない。
外国人の1位は中国で74万人(28%)。2位が韓国で45万人(17%)。3位はベトナム(11%)、そして4位がフィリピン26万人(10%)、5位のブラジル20万人(7%)と続く。
日本には109万人の「永住移民」がいて、155万人の「非永住移民」、131万人の「移民背景の国民」がいる。合計すると400万人だ。このほかに、「非正規移民」(超過滞在者)が7万人いる。
技能実習生が29万人近くいて、その1位はベトナム13万人。2位は中国7万人、3位フィリピン3万人、4位インドネシア2万人、5位タイ1万人と続く。ベトナムだけで、全体の47%を占めている。
「移民」を否認する国は、「人間」を否認する国である。排除ではなく、連帯する方向へすすむべきだ。これは「彼ら」の問題ではない。「私たち」の問題なのである。
コンパクトに問題点が整理されていて、改めて問題がどこにあるのか、認識することができました。
(2019年3月刊。840円+税)

日本を愛した人類学者

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 田中 一彦 、 出版  忘羊社
私は弁護士として、毎日毎日、男女間の不倫にともなうトラブルを扱っています。浮気するのは決して男性だけということはありません。その相手は女性ですし、女性がリードしている不倫だって少ないとは言えません。
まことに日本は太古の昔から性に関してはおおらかな国なのです。
それは神話の時代にさかのぼっても言えますし、戦前もそうでした。夜這(よば)いの習慣が戦後まで続いていた地方もあったのです。
そんなおおらかな性習慣をふくめて、戦前の農村地帯の生活の実際をあますところなく伝えてくれる画期的な本が、若きアメリカ人学者夫妻の手になる『須恵村の女性たち』です。まだ、読んでいない人には、ぜひぜひ図書館から借りてでも一読されることを強くおすすめします。
この本は、最近、その須恵村(今は、あさぎり町須恵)に定住してまで調査・研究した元新聞記者の著者による労作です。
エンブリー夫妻は、戦前の1935年(昭和10年)11月から1年間にわたって須恵村に定住して調査・研究を重ねた。函館に育ったエラ夫人は日本語が達者で、須恵村の女性たちの話を中心に日記1005頁を残した。
エンブリーは、有能な通訳2人(いずれも若くして交通事故死ないし戦死)によって記録していった。
エンブリーはアメリカに戻って42歳のとき娘とともに交通事故で亡くなったが、エラ夫人のほうは再婚したあと、2005年にホノルルにおいて96歳で亡くなった。
当時の須恵村の人口は1663人。軍事施設はなく、純農村地帯で、大地主もいなかった。エンブリー夫妻は、毎日のように開かれる酒宴に参加し、いつも酔っ払っていたので、それが調査の障害になっていた。
プライバシーがまったくない、何でも自由に話す村人たちのなかに入って、仰天させるような話題までエンブリー夫妻、とりわけエラ夫人は聞くことができた。
須恵村の女性たちは、お互いの性器を比べあい、夫以外の男性とも関係をもち、酒宴では卑猥な歌をうたって踊る。甘い子育て。村外から嫁いだ女性たちは、女だけの協同のネットワークをもった。
須恵村の女たちは、結婚そして離婚においても、予想できないほど著しく自立していた。
詳細はぜひ『須恵村の女たち』を読んで下さい。仰天することまちがいなしのオンパレードです。
須恵村の女たちは、エラ夫人が2歳の娘クレアに対する厳しいしつけを「異例」と見て、理解できなかった。須恵村では子どもは寛大に扱われていた。
そして、須恵村の人々は、天皇について、「神様のようにしとりますが、本当の神様ではなかとです。天皇陛下は人間で、とても偉か人です」と語った。
ええっ、そんなことを外人(アメリカ人)に話していただなんて・・・。
GHQによる日本の農地改革はエンブリーの『須恵村』を参考書として始まった。
明仁天皇が皇太子だったときの家庭教師だったヴァイニング夫人も須恵村まで足を運んでいる。もちろん、エンブリーの本を読んでいたからだ。
この本が『須恵村の女たち』を読んだ人に大変な便益をもたらすのは、エンブリー夫妻がとった写真がたくさん紹介されていることです。これによって、須恵村の人たちが、どんな顔と表情をしていたのか、具体的なイメージをつかめます。
ぜひ、この本も手にとってお読みください。
(2018年12月刊。2200円+税)

南極ではたらく

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 渡貫 淳子 、 出版  平凡社
今ではコンビニでも売られている(らしい)悪魔のおにぎりを南極の昭和基地で考案した著者による面白い調理隊員体験記です。
女性が昭和基地で1年間も生活するなんて、大丈夫かしらんと心配しますが、ちゃんと風呂・トイレは男女別になっていて、トイレはいち早くウォッシュレットです。そして、野外活動に出て見渡かぎり何もないところでは、「ちょっと大地と交信してきます」と言うと、男性が察してくれるとのこと。それにしても勇気があります。
調理員は2人。交代で厨房に入る。1人で30人分をつくる。
夕食は、メインの料理に小鉢ものが2~3品。ご飯と味噌汁はセルフサービス。
1年間、途中の補給はなく、1年間分の食糧を1回で仕入れ、それでやり切る。したがって、ありとあらゆる料理をつくれるスキルが求められる。
常に生野菜が不足している。1年間も保存がきくのは、長いもと玉ねぎくらい。
南極にもち込んだものはすべて日本に持ち帰る。生ごみは処理機で減容して焼却し、灰はドラム缶に入れて日本に持ち帰る。スープ類が残ってもシンクに流さず、生ごみとして処理する。
水は、雪を水槽に投げこんでつくる。
人間1人が1年間に消費する食糧は1トン。30人の隊員のため30トンを持ち込む。
観測隊は海上自衛隊にならって、金曜日はカレー。カレーは料理をムダにしないというメニューでもある。
メニューは日替わり1種類のみ。隊員は勝手につくって食べることは出来ない。調理隊員が用意したものを食べるだけ。
アルコールはあるけれど、無料(実は食費のなかに含まれている)で、飲み放題だけど、隊員はあまり飲んでいない(ようです)。
空気が乾燥しているので、洗濯物はすぐに乾き、枚数は必要ない。ところが、20足もっていった靴下は、みな穴が開いた。極度の乾燥で足の裏がゴワゴワになって、擦れて靴下に穴が開く。
南極から日本に戻ると、しばらくは「南極廃人」になって、ぼおっとして過ごす人が多い・・・。
子もちの40代の主婦が、夫と子を日本に残して、1年間、南極で調理隊員として過ごしたというのです。大変なその勇気にただただ感服しました。
(2019年1月刊。1400円+税)

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