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江戸の古本屋

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 橋口 侯之介 、 出版  平凡社
日本人は昔から本が大好きだったことがよく分かります。
昔の日本人は、本を読むというのは、声を出して読む、音読するのか普通だったようですね。寺子屋で、「し、のたまわく・・・」と声をそろえて習っていたことの延長線にあったのでしょうか・・・。
寛永のころ(1624年から1644年)、収益を目的として本を刊行する商業出版が始まった。出版する本屋が京都だけで、享保年間(1716~1736)には200軒も存在していた。
大阪の本屋も享保11年に89人だったのが、享和1年(1801年)に130人、文化10年(1813年)には、343人に達した。江戸では、京保7年に本屋仲間が47軒で結成された。
江戸時代を通じて、大手の書林といえども出版だけで収益をあげることはできず、古本業務を基礎として、さまざまな本に関する仕事をこなしていた。
江戸には、文化5年(1808年)に貸本屋が656軒あり、販売網として組織化されていた。
江戸時代の本屋は現代の出版社のように間断なく新本を出し続けるということはなかった。新刊本は数年がかりで、数点が同時進行しながら製作されていた。本づくりは慎重にすすめられた。出版活動は、数多くの業務のひとつに過ぎなかった。江戸時代の本屋は、出版物を刊行するだけでなく、卸売りも小売りもすれば、古本のような再流通までを担う産業だった。きわめて特殊な商形態だった。
本屋は講をつくっていた。講は情報を収集する場であり、金融的側面ももっていた。古書の交換システムを機能させ、娯楽的側面もあった。
本屋の仲間同士の支払いは2ヶ月後の清算が慣行だった。
セドリとは、同業の本屋を回って本を仕入れる行為をいう。また、風呂敷包みを背負って江戸中を歩いて本を買い集め、それを売って商いする者のこともセドリと呼んだ。
本屋の古本業務が盛んになったのは、書物の収集に熱心な顧客が増大したことが背景にある。それまでの寺院や公家、大名家だけでなく、神社や民間の学者、医者、富裕な商人にも収集する層が広がっていった。そして、村々の役人、町役人や一般商人にまで収集の層が広がった。
本替(ほんがえ)とは、本屋が現金でなく、お互いに本を送るという実物による交換であって、これは、余計な資金の移動を避ける合理的な商習慣だった。
いま、小さな本屋がどんどん閉店しています。本当に残念です。ネットで注文するのは便利ですが、やはり神田の古本屋街のように手にとって眺める楽しさは格別なのです。アマゾンに負けるな、そう叫びたい気分です。
(2018年12月刊。3800円+税)

承久の乱

カテゴリー:日本史(鎌倉)

(霧山昴)
著者 坂井 孝一 、 出版  中公新書
承久の乱は、一般には後鳥羽上皇が鎌倉幕府を倒す目的で起こした兵乱とされています。しかし、この本によると、最近では、後鳥羽上皇は執権北条義時の追討を目指しただけで、倒幕ではなかったとされているとのこと。知りませんでした。
そして、後鳥羽上皇についての、時代の流れが読めない傲慢で情けない人物という人物は誤解であって、今では「新古今和歌集」を主導して編纂した優れた歌人であり、諸芸能や学問にも秀でた有能な帝王だったとされています。
同じことは、暗殺された三代将軍の源実朝(さねとも)にもあてはまる。実朝は「政治的には無力な将軍」のイメージが強いが、実は将軍として十分な権威と権力を保ち、幕政にも積極的に関与していた将軍だった。さらに、後鳥羽上皇の朝廷と源実朝の幕府は、対立どころか親密な協調関係を築いていた。実朝が暗殺されたことは、鎌倉幕府だけでなく、朝廷に衝撃を与え、乱の勃発に重大な影響を及ぼした。
このような序文を読んだら、いやおうにも本文を読みたくなるではありませんか・・・。
承元3年(1209年)、鎌倉幕府では18歳になった三代将軍実朝が将軍親裁を開始した。実朝は、主君としての穀然たる姿勢と気概をもち、統治者として次々に政策を打ち出して成果をあげていった。
実朝は、地道な努力を積み重ねて擁立された将軍から、御家人たちの上に君臨する将軍へと自立し、その権威と権力で御家人たちを従えていた。
将軍実朝のもとで、和田合戦が始まり、北条義時が和田義盛の一族を滅ぼした。この和田合戦のあと、将軍と執権とが直接対峙することになった。
北条政子、義時そして大江広元らの幕府首脳部にとっても、実朝暗殺による突然の将軍空位は想定外の危機だった。
実朝は、後鳥羽上皇の朝廷から支援を受け、頼朝をはるかに超える右大臣・左近衛大将という、武家ではとうてい考えられない高い地位に昇った大きな存在だった。
後鳥羽上皇の院宣は、問題が幕府の存続ではなく、北条義時の排除一点にしぼられているうえ、最大の関心事である恩賞に言及していて、御家人に受け入れやすい内容になっていた。後鳥羽上皇が目指したのは、北条義時を排除して鎌倉幕府をコントロール下に置くことであって、倒幕でも武士の否定でもなかった。
北条政子は、金倉幕府創設者の未亡人にして、二代、三代将軍の生母、従二位という高い位階をもち、幼き将軍予定者を後見する尼将軍として、聞く者の魂を揺さぶる名演説を行った。そして、そこには北条義時ひとりに対する追討を、三代にわたる将軍の遺産である「鎌倉」すなわち幕府そのものに対する攻撃にすり替える巧妙さがあった。幕府存亡の危機感を煽られ、御家人たちは異様な興奮の中で、「鎌倉方」について「京方」を攻めるという選択をした。
このとき「京方」を迎撃する戦術をとっていたら、幕府の基盤である東国武士が離反する恐れがあっただけでなく、長期戦となれば、畿内の近国や西国の武士たちが大量に朝廷側の追討軍として組織される可能性もあった。
「鎌倉方」は8年前の和田合戦で激闘を経験ずみであったから、戦況に応じた適格な指示を出すことができた。
「承久の乱」の敗北によって、「京方」は三人の院が流罪になる「三上皇配流」という前代未聞の結末を迎えた。後鳥羽上皇の流人生活は19年に及び、60歳で隠岐島で没した。あとの2人の上皇もそれぞれの配流地で死を迎えた。
歴史を学ぶことは、人間と社会を知ることだと、つくづく思わせる新書でした。
(2019年1月刊。900円+税)

神主と村の民俗誌

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 神崎 宣武 、 出版  講談社学術文庫
村のなかで神主が村人とどんな関わりをもっている(いた)のか、とても興味深く読んでいきました。途中で、これって、最近のことではないよね、いつのことだろうと疑問に思いました。
すると、この文庫本はごく最近(19年7月)に出たばかりなのですが、実は30年近くも前の1991年(平成3年)に出た復刻版でした。なるほど、30年前なら少しは分かる気がしました。
今では村の絶対人数が減って、神輿(みこし)かきをするだけの人数を確保できない。イノシシが出没して、農作物やタケノコ・クリなどの被害が増えている。
それでも、村祭りを復活させるところもあって、一路、消滅をたどっているわけではない。
平成の大合併は中央集権化をもたらし、葬祭場が出来て、葬儀や法要そして家祈祷までが個人の家から離れてしまった。
では、30年前はどうだったのか・・・。それが、ことこまかに嫌になるほど詳しく再現されているのが本書です。
著者は終戦直前の1944年生まれで、実家は代々、神主業を世襲してきて、著者も父親にたのまれて承継しました。東京から、新幹線で郷里・岡山の美星町まで通ったのです。
そこは、古くから自給自足の生活が営まれていて、集落の自治も古くから安定していた。
神主が太鼓を叩く技術は、一朝一夕に習得できるものではない。30歳になって習いはじめても難しい。幼いときから聞き慣れていて、若いときに叩きはじめないと、音に説得力が出てこない。
なーるほど、そういうものでしょうねえ・・・。分かる気がします。
世の中が好景気のときには、お神楽(祈祷料)が増大傾向にあり、また不景気のときには、神だのみから信心が盛んになる傾向がある。
仏教と神道は、日本では昔から両立してきた。神道と仏教は、その基本的な思想が似ている。基本的な思想としては、祖霊信仰である。
神道でも仏教でも、そのときどきに崇める神仏はその基本的な思想が似ている。
一神教ではなく、多神教であり、その中心に祖霊がある。
祭りとは、祖霊と現世とが交流する場でもある。
「神様、仏様、ご先祖様」とは、まさにいいえて妙である。現代日本人の信仰の形態は、果たして信仰といって良いのかどうなのか・・・。そもそも、日本人の信仰の形態は、はたして宗教といってよいのかどうか。
面白い本です。ほんの少し前までの村の生活がイメージできます。図書館で注文して読んでみてください。
(2019年7月刊。1070円+税)

三つ編み

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 レティシア・コロンバニ 、 出版  早川書房
すごい本です。圧倒されました。電車のなかで頁をめくっていきながら、この本に登場してくる女性たちは、いったい、このあとどうなるんだろう・・・と、もどかしい思いでした。
 フランス人の女性作家の本ですが、舞台は、なんと、インド、イタリアそしてカナダなのです。そして、主人公の女性は、いずれも深刻な悩み・問題を抱えて苦悩しています。でも、少しずつ行動に移していきます。それが、三つの大陸の全然別の世界で生きているにもかかわらず、たった一つだけ結びつくものがあるのです。それが何なのかは、この本を読んでのお楽しみにします。
インドの女性スミタはダリット、不可触民です。仕事は他人の便所の汲みとり。裸足で歩き、素手で便を扱う。ダリット以外の人とは話もしないし、触っても、見てもいけない。ところが、触っていけないはずなのに、強姦はされるのです。まったくいい加減な差別です。でも笑えません。強姦されたあと、殺されてしまう可能性も強いのです。被害者が被害を申告するなど考えられもしません。
ただ、この本にも触れられていますが、そんなダリットのなかから突出した経営者や政治家がたまに出てきます。これまた不思議です。
イタリアの女性ジュリアの一家は毛髪を生業(家業)としている。でも、ジュリアは図書館で本を静かに読むのが好き。そして、シク教徒の男性に心が惹かれるようになった。
サラは、カナダのローファームで働く女性弁護士。アソシエイトにのぼりつめた初めての女性だ。裁判所は闘争の場、縄張り、闘技場だ。そこにいるとサラは、女戦士、情け容赦のない女闘士となる。口頭弁論のときには、ふだんの声と微妙に異なる、低い厳かな声をつかう。表現は簡潔で鋭く、切れ味抜群のアッパーカットのよう。敵の論点のわずかな隙や弱みをすかさず、突いて、ノックアウトする。担当案件はすべて頭に入っていて、嘘をつかれたり、恥をかかされることはない。
ええっ、ウ、ウソでしょ・・・。つい、そう私は叫びたくなりました。
そんなサラが乳ガンだと宣告されるのです。それで抗ガン剤なんか投与されたら、せっかくのアソシエイトの地位が一瞬のうちにフイになってしまう・・・。
ダリットのスミタは、村を出る、娘を連れて村を出て都会に行くことにした。夫は懸命にとめようとするが、スミタの決意は揺るがない。娘にまで、こんな生活をさせたくない。学校に行かせて、ちゃんと勉強して、この境遇から抜け出せるようにするのが親のつとめだ。スミタは、来世まで待つ気なんかない。大事なのは、今のこの人生。自分と娘ラリータの人生なのだ。
サラは抗ガン剤をつかいはじめた。しかし、弁護士は、いつだって颯爽とし、有能で積極的でなければならない。弁護士は頼もしく、説得力があり、好意を味方につけなければならない。
難しいけれど、これは本当のこと、大切なことです。
3人とも不運や試練に見舞われながら、それを乗りこえようと奮闘します。本書は、たたかう女性を描くフェミニズム小説だと訳者は解説しています。
いやあ、すごい本でした。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2019年4月刊。1600円+税)

ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ブレディみかこ 、 出版  新潮社
面白い本です。イギリスに住む日本人女性の息子(11歳、中学生)をめぐる話です。
イギリスでは階級差が固定しているし、はっきり目に見えるようです。さすがに日本でも、「一億、総中流」なんてという幻想は聞こえなくなりましたが、階級差は見えにくいままです。
イギリスの中学校にはフリー・ミール制度があって、生活保護や失業保険など政府からの補助を受けているような低所得家庭は給食費が無料になる。小学校は給食制なので、同じ食事を食べるが、中学校は学食制なので、生徒が好きな食事やスナック、飲みものを選ぶ。現金は使わず、プリペイド方式で、フリー・ミール制度対象の子どもには使用限度額がある。
中学校の正門には校長が立っていて、登校している生徒一人ひとりと毎朝、握手する。
労働党政権は、イギリスから子どもの貧困をなくすと宣言し、実際、1998年度に340万人だった貧困層の子どもが2010年には230万人と、順調に減少していった。ところが、2010年に保守党政権になって緊縮財政を進めると、平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもが410万人に増えた。これはイギリスの子どもの総人口の3分の1にあたる。
制服が買えない子どもがいる。生理用品を大量に買って女生徒に配る女性教員がいる。私服を持っていないので、私服参加の学校行事のときには必ず休む生徒がいる。
イギリスでは、子どもが学校を欠席すると、親が地方自治体に罰金を払わされる制度がある。父母それぞれに60ポンドずつ請求される。21日以内に払わないと120ポンドに上がり、それでも払わないと最高2500ポンドの罰金、そして最長3ヶ月の禁固刑に処せられることがある。ひえーっ、これには驚きました。
イギリスの公立中学校には、さまざまな国から来た子どもたちがいて、子どもたちは、お互いに差別や貧困と格闘しなければいけないようです。日本より人種や貧困がはっきり見えるのです。
アイルランド人男性と日本人女性のあいだに生まれた著者の一人息子は、いかにもたくましく育っているようです。ヘイトスピーチを受けても母親がまったく動じないのが、思春期に差しかかった11歳の息子に何よりの精神安定剤になっているという印象を受けました。
イギリスの現実、そして厳しい社会環境のなかでのたくましい子育てを学ぶことができました。あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1350円+税)

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