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「若き医師たちのベトナム戦争とその後」

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 黒田 学 、 出版  クリエイツかもがわ
私は大学生のころ、「アメリカのベトナム侵略戦争に反対!」と何度も叫んだものです。それは学内だけでなく、東京・銀座で通り一面を占拠してすすむ夜のフランスデモのときにも、でした。ですから、私の書庫をベトナム戦争に関する本が200冊以上、今も4段を埋めています。
そのなかでも超おすすめの本は『トゥイーの日記』(経済界、2008年)です。
ハノイ医科大学を卒業して女性医師として志願して従軍し、1970年に南ベトナムで戦死したダン・トゥイー・チャムの日記を本にしたものです。戦死した彼女の遺体のそばから偶然に拾われ、アメリカに渡って英語に翻訳されたという本です。思い出すだけでも泣けてくるほどの率直な若き女医の日誌です。
この本には、トゥイーと同級生のチュン医師の回想記も紹介されています。
この当時の医学生たちは、こぞって戦地への赴任を希望し、その多くがトゥイーのように戦死したのでした。そんな人々が今のベトナムの繁栄を支えているのですよね・・・。
ベトナム戦争の後遺症であるベトちゃんドクちゃんという結合双生児分離手術に至る話も紹介されています。この分離手術は無事に成功し、ベトちゃんは分離手術後、植物状態のまま20年で亡くなったものの、ドクちゃん、38歳は結婚して2人の子ども(名前は富士と桜)がいます。日本もこの分離手術には深く関わっていて、手術の成功は、ベトナムと日本の保健医療分野の前進の成果だと評価されているのです。なにしろ、手術は15時間以上も続いたといいます。そして、テレビで生中継されたのでした。
『トゥイーの日記』を読んでいない人は、ぜひ手にとって読んでみてください。今を生きる勇気がモリモリ湧いてくる本ですよ。
(2019年6月刊。1500円+税)

奴隷労働、ベトナム人技能実習生の実態

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 巣内 尚子 、 出版  花伝社
私の身近な人が2人、ベトナム人技能実習生にかかわっています。1人は、土木建設業の社長で、何年も前からベトナム人を10人ほど雇っています。ベトナム人は頭がいいし、よく働くので、とても助かっていると言って、ベタ褒めです。会社の寮に入っていて、月10万円はベトナムの家族に仕送りしているといいます。
もう一人は、ベトナム人技能実習生の受け入れ機構を主宰しています。こちらはまだ始めてから日が浅いようですが、ベトナムに頻繁に通っています。
この本はベトナム語の出来る著者がベトナムと日本で技能実習生に直接あたって話を聞いたことをもとにしています。また、もと技能実習生として働いていたベトナム人が送り出す側で働いているのに取材もしています。
ベトナムから日本へ働きに来る人たちは、平均して100万円以上を負担(借金)している。
技能実習生の資格で日本にいる外国人は28万5千人をこえ、やがて30万人になろうとしている。中国出身者が減った分をベトナム人6万7千人が埋めている。
ベトナムは、「労働力輸出」と呼んで、日本への出稼ぎを奨励している。ベトナムにある労働輸出会社はあくまでも営利目的のビジネスをする会社の組織だ。ところが、技能実習生は3年で本国へ帰国するのが原則。なので、日本人は技術をまともに教えたがらない。
ベトナム人技能実習生が40平方メートルの室内に6人が暮らしていて、1人あたり月2万円を「家賃」として支払わされている。すると、日本に来る前には好印象だったのが、来てみたら悪印象のまま帰国するベトナム人が37%もいる。大変残念な現実です。
ベトナムの経済は海外から送金される巨額のお金が下支えしている。推定で123億米ドル(2015年)だ。
ベトナムで働くと月2万5千円ほどの収入。ところが、日本だと10万円は軽くこえる。しかし、日本側の監理団体があり、技能実習生1人あたり月に3~5万円を徴収している。
日本にいるベトナム人技能実習生が残業すると、時給400円の計算というのが多いとのこと。なんということでしょう。まったく違法です。
そして、職場では上司や同僚から「ベトナムへ帰れ」と怒鳴られたり(パワハラ)、お尻をさわられたり(セクハラ)という被害もあっているのです。
ベトナム人実習生の「逃走」が目立つ。ベトナム人は中国人の1500人に次いで多く、1000人をこえる(2015年)。
海外からの技能実習生を安くこきつかうのが許されている限り、日本人の労働条件が向上するはずもありません。ベトナム人技能実習生の実態を刻明にレポートしていて、大変勉強になりました。
(2019年5月刊。2000円+税)

調査・朝鮮人強制労働・炭鉱編

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 竹内 康人 、 出版  社会評論社
戦前・戦中に朝鮮人を日本へ強制連行し、炭鉱などで働かせて酷使・奴隷労働させていた史実を丹念に発掘した貴重な資料集です。今回の第1巻は炭鉱編です。
表紙にポスターの絵があります。「飛行機も軍艦も弾丸も、石炭からだ!たのむぞ石炭」とあります。まさしく炭鉱は日本の戦争を地底から支えたのです。
日本に労務のために強制連行された朝鮮人は70万人。そのうち炭鉱で33万人が働かされた。筑豊には、その半分の15万人が連行された。北海道は、石狩を中心に10万人。佐賀と長崎にも4万人、そして宇部にも1万人。
大牟田には朝鮮人が1万人以上も連行されてきた。三池炭鉱だけでなく、三池精練所、三池染料、電気化学工業、三池港湾など。
三池炭鉱では、日本人が1万5000人、朝鮮人が3900人、中国人640人、連合軍俘虜922人。中国人は総数2500人、俘虜は総数1700人だった。
三池染料の1945年3月の朝鮮人連行者135人の名簿が残っている。16歳から21歳の84人の朝鮮人が三池染料の職場に配置された。21歳の団長とされた朝鮮人のほかは、日本語が話せなかった。彼らは仕事着のみで、着換えはもたなかった。
徴用にいった労務係長からは、憲兵とともに朝鮮に行き、役に立ちそうな者を手当たり次第トラックに載せて連れてきた。徴用というより、人さらいだったと話した。
この労務係長というのは、私の亡父のことと思われます。生前、朝鮮に行って500人ほどの朝鮮人を列車で日本に連れてきたと語ってくれました。ところが、工場では炭鉱と違って、単純労務作業ではありませんので、日本語も読めないような労力のない人では役に立たず、1回きりだったと言っていました。
三池染料は平原町に朝鮮人収容所があったとのこと。職場のすぐ近くです。
炭鉱には市内各所に朝鮮人用の収容所があった。そのなかの一つ、馬渡町の5棟の収容所の一つには、朝鮮人による落書が残っていた。田舎に帰りたいという悲痛な叫びが描かれていた。
筑豊にあった麻生系の炭鉱では連行されてきた朝鮮人労働者を奴隷のように酷使し、虐待していた。そのひどい仕打ちに対して、朝鮮人労働者たちはたびたびストライキを起こすなどして反抗したのです。
ところが、麻生太郎は、今もって、朝鮮人労働者を虐待した事実を認めようとしません。まったく反省することなく、開き直っています。
貴重な資料集です。これをつくりあげた著者に対して心から敬意を表します。
(2013年8月刊。2800円+税)

東大闘争と原発事故

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 折原 浩、熊本 一規、三宅 弘ほか 、 出版  緑風出版
著者の一人である折原浩助教授(当時)は東大闘争において全共闘支持を公然と表明した数少ない教官の一人です。私もその授業を受けたようには思うのですが、記憶が定かではありません。城塚登教授だったかもしれませんが、マックス・ウェーバーの『プロテスタントの倫理・・・』の授業を受けて、大学ってこんなに深く物事をつき詰めて考えるところなんだな・・・と衝撃を受けたことは今でもよく覚えています。
でも、東大解体を叫び、民青のインテリゲンチャ論を鼻先でせせら笑っていた全共闘の論理に賛同しながら、東大助教授であることをやめないことには、当時も今も理解できなかったし、できません。
全共闘の活動家とシンパ層の多くは東大解体、自己否定を叫びながらも、東大卒として社会に出て行きました。私の知る限り、ごく一部の人が東大を中退したくらいです。
折原浩は、本書においても「実力行使」という言葉しか使っていませんが、東大全共闘は、暴力を賛美し、バリケード封鎖を狙って行動していました。それは暴力支配でしたし、バリケードの先にいる「敵」は「殺せ」と叫んでいたのです。今でも折原浩はそれを認めていないようなのが、残念です。
そして、1969年3月の「授業再開」闘争を非難しています。このころ、多くの(大半の)学生が授業再開を待ち望んでいました。もう暴力の日々にはうんざりしていたのです。大教室でもいい、ゼミ室でもいい、実験室でもいいから授業を受けたい、議論したい、学問の精髄に触れたいと学生が望んだことのどこが悪いというのでしょうか・・・。
全共闘シンパ層も、再開された授業には、なだれを打つように参加し、すぐに授業は軌道に乗りました。それまでつなぎでやられていた自主ゼミは、たちまち雲散霧消してしまいました。
この本には、「日共・民青系の暴力部隊導入(1968年11月12日夜半)という表現が出てきます。あたかも「日共・民青系」が外部から外人部隊(暴力部隊)を導入したため、東大闘争で全共闘が敗退したかのような表現です。しかし、宮崎学の『突破者』に登場してくる「あかつき戦闘隊」というのはたしかに存在していましたが、実際にはきわめて限られた役割しか果たしていないのを針小棒大に誇大宣伝しているだけのことです。実際には、全共闘の暴力に対して多くの東大生が反対して立ち上がり、身をもって全共闘の反対を乗りこえて東大当局と確認書を締結して、学内を正常化し、授業が再開されたのです。
東大闘争を全面的に語るためには、「暴力」(ゲバルト)の行使をどう考えるのか、という考察を抜きにしてはいけないと最近あらためて私は痛感しています。もちろん、暴力賛美ではなく、暴力否定の立場からの反省と総括が必要だという意味です。
それにしても、3.11原発事故のときに果たした東大の原子力学者たちの哀れさは、見るも無残でした。ところが、問題は、当の本人たちがそのような自覚と反省が今もないということです。私は、この点も本当に残念です。
この本は、情報公開分野で第一人者である三宅弘弁護士から贈呈されたものです。三宅弁護士の日頃の活動には大いに敬意を表しているのですが、単なる一学生として東大闘争にかかわった者として、率直に意見を申し述べました。
(2013年8月刊。2500円+税)

消費者教育学の地平

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 西村 隆男ほか 、 出版  慶應義塾大学出版会
これまで長年にわたって消費者教育の研究や実践にかかわってきた著者の到達点を集成した本です。著者は高校教育の現場に15年いたあと、大学教育の現場で25年間つとめています。私も監事として関わっている熊本の「お金の学校」にも、著者は創立以来、深く関与しています。
消費者教育推進法が議員立法として提案され、2012年8月に成立し、12月から施行されていますが、著者はこの立法過程にも深く関わりました。
この推進法では、消費者教育の推進を国の責任によって行うと明示されています。地方の消費者教育、消費者センターは、予算、人員ともに削減されてきたという現実がありますが、国はもっと予算措置を講じるべきです。有害無益なイージス・アショアやF35につかうお金の、ほんの一部をこちらにまわせばいいのです。
ところが、現実には、例の「なんでも自己責任論」という風潮が強まるなかで、消費者責任論、買い手注意論が今もってはばをきかしています。本当に残念です。
消費者教育は、もちろん子どもを対象とする学校教育だけでなく、社会人への生涯教育です。それにしても、インターネットの発達のなかで子どもたちは、いかにも保護されていない存在になっています。
子どもは不完全な判断能力をもつ消費弱者であるにもかかわらず、保護されていない存在となっている。子どもをターゲットとして発達した音楽、ファッション、ゲーム、漫画、アニメに関する情報はインターネットによって瞬時に提供されている。
子どもは、自らの生活を主体的に運営する能力を身につける前に、経済活動に参加する消費者となる。生きるための消費よりも先に、娯楽としての消費に直面する。その傾向をインターネットが加速させた。
金額によって勝敗が決まる、結果や見た目がすぐに反映され、相手に伝わるサービスとの接触が、お金を過剰に重視する拝金主義的な価値観の形成につながっているのではないか・・・。拝金主義的で、自分自身の生活や意思決定をかえりみる余裕のない子どもたちに消費者として現代のサービスにいかに関わるのかを考えさせる機会を与える必要がある。
クレサラ多重債務者に長らく関わってきた者として、「家計管理支援論」(石橋愛架・鹿児島大学准教授)に注目しました。最近、自己破産申立がじんわり増加傾向にあります。かつてのようなサラ金会社の過剰貸し付けは激減していますが、その穴を埋めるように銀行が貸し付けをすすめていますし、生活基盤がいかにも危ない人々が増えるなか、自らの家計状況や感情をコントロールできない人々が増え、結局高リスク、高コストの借入れに頼るというパターンだと分析されています。大いに説得力のある分析だと思いました。
350頁もの貴重な労作です。著者より贈呈されましたので、私の理解できた限りで紹介させていただきました。少々高価な本ではありますので、全国の図書館にせめて一冊は備えてほしい本だと思います。
(2017年3月刊。4500円+税)

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