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中国戦線従軍記

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 藤原 彰 、 出版  岩波現代文庫
著者は日本軍事史を専門とする歴史家ですが、実際に戦争を体験した元将校でもありました。陸軍士官学校を卒業して、少尉に任官し、中国大陸で中隊長として最前線で実戦を指揮していたのです。そして、本土決戦に備えて本土に呼び戻されて、大隊長として出動しようとしているところで敗戦を迎えました。このとき、まだ、22歳の若さでしたから東京大学に入り、文学部史学科を卒業して一橋大学の教員になります。そこでは大学紛争の渦中にいて、大学当局側として学生と対峙しました。
著者は、第二次世界大戦における日本軍人の戦没者230万人の過半数が戦死ではなく戦病死であり、その大部分が補給途絶による栄養失調症が原因の餓死であることを厳しく指弾しています。
著者は中国戦線に従軍していた4年間についてメモを残していて、それにもとづいて最前線の実情を詳しく紹介しています。
中国大陸の最前線に行ってみると、信じていた「聖戦」とはあまりにかけ離れた現実があった。部落を焼き払ったり、住民を捕えて拷問にかけたりしていて、まるで民衆の愛護とか解放という言葉とはどうしても結びつかないことを日本軍はしていると思わざるをえなかった。
著者たち陸士55期生は、下級指揮官として損耗率が高かった。2400人の同期生のうち陸上と航空あわせて戦没は973人、4割をこえている。
中国大陸での三光(さんこう)作戦として無人地帯化政策は、中国民衆の離反を決定的にし、治安状況は最悪となった。
1942年12月18日、浅葉隊(48人)が全員、中国・八路軍の待ち伏せ攻撃にあって戦死・全滅した。
無理な強行軍が日本軍の特質だった。日本陸軍は、馬と人間の脚と基本的な移動手段としていた。 行軍による兵の消耗は、直接、戦力に影響する。日中は炎熱で、そのため日射病が出るほどなのに、夜の豪雨とぬかるみのなか凍死者は166人にのぼった。
中国大陸での日本軍の最大の欠陥は、制空権を奪われていることだった。在中国のアメリカ空軍は1943年初めに戦闘機と爆撃機の合計300機だったが、次第に増強していった。日本軍のほうは、これにまったく対抗できない状況だった。
そして、日本軍は、肉体的疲労と栄養不足に悩まされていた。著者が中隊長として一番気をつかっていたのは、兵の体力を温存し、むだな消耗を避けることだった。そのため、食糧の確保に努力した。
中国軍は、士気が旺盛であり、火力装備もすぐれていて、精強な軍隊になっていた。
大陸打通作戦(一号作戦)は、50万の日本軍が中国大陸を縦断しながら、掠奪を重ねていったものだった。しかし、食糧の確保は難しく、栄養失調のため日本軍兵士は体力を低下させていった。
大陸打通作戦の実態は、補給の途絶から給養が悪化して多数の戦争栄養失調症を発生させ、戦病死者すなわち広義の餓死者を出していた。
最大の課題は食糧の確保で、栄養失調との戦いが中隊長としての最大の関心事だった。主食はともかく、副食、とくに動物性タンパクが不足していた。全員が栄養失調に陥り、マラリア、脚気、栄養失調症による戦病死が激増した。
本土決戦に備えるといっても、人の動員だけは一枚の招集令状でできるが、兵器・弾薬・資材などの膨大な軍需動員をするためには、それを可能とする工業力を中心とする国力が必要になる。しかし、それは、すべて間に合わなかった。それでも、人を集める部隊の編成だけは先行していた。
刻明に最前線の悲惨な実情が明らかにされていて、日本軍の実体がよく分かって、つくづく嫌になります。これが「輝ける皇軍」の実際なのですよね・・・。そんな軍隊を率いた軍人に偉い顔をしてほしくはありません。
2002年に発刊されたものを別の論文も取り入れて復刊したものです。大変勉強になりました。
(2019年7月刊。1080円+税)

原城発掘

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 石井 進、服部 英雄 、 出版  新人物往来社
久しぶりに原城へ行ってきました。今回は初めてのガイド付きでした。有馬キリシタン資料館でビデオを見て展示物・年表で島原の乱の経緯をざっと勉強して、いざ原城へ出発します。今では原城内へは車の乗り入れが禁止されていて、近くの観光拠点に車を停めて、そこからマイクロバスで本丸近くまで向かいます。
ガイドは地元の女性でしたので、昔は(戦後まもなくは)原城の海岸(浜辺)には古い弾丸があちこち落ちていて、子どもたちが拾っていたという昔話も聞くことができました。ついでに、イルカウォッチングも出来ると聞いて、驚きました。イルカウォッチングは天草だけだと思い込んでいました。原城と天草はまるで対岸という関係なのですね。原城の発掘は、まだまだ進行中のようです。いくたびに少しずつ整備がすすんでいます。
島原半島の口之津(くちのつ)に修道士アルメイダが上陸したのは1563年(永禄6年)。口之津は九州管区内におけるキリスト教布教の中心となった。
口之津港は天然の良港で、1567年(永禄10年)から南蛮船の入港地となった。やがて貿易港は長崎に移るが、有馬領内にはキリスト教が深く根付き、1580年(天正8年)、セミナリヨも建てられた。
島原の乱が始まったのは1637年(寛永14年)10月25日。島原城をまず襲ったが、落とせず、一揆軍は原城にたて籠もった。3万人の一揆軍は12月から翌年2月までの3ヶ月間、12万人の幕府軍と戦い抜いた。
2回の大きな戦闘があった。1回目は1月1日の総大将・板倉重昌が戦死した戦闘。2回目は、総攻撃・落城した2月29日。焼け跡が検出されることから、総攻撃の日は、本丸一帯は一面、火の海となり、激しい戦闘となったと推測される。
原城にたて籠った人々はキリシタンが多かったが、みんなキリシタンではなかった。はじめに農民一揆だった。
夜、原城から海のそよ風に乗って流れてくる信者の歌が幕府軍の陣営まで聞こえた。
幕府軍のなかにも、元キリシタンの人々がたくさんいただろう。どんな思いで、その歌を聞いたのだろうか・・・。
籠城していた2万3000人(あるいは3万7000人)が1人(絵師の山田右衛門左)を除いて、全員が殺害されたというのは本当なのか・・・。
服部英雄教授は異論を唱えています。
生き残った人々を、一人一人、尋問(査問)して、どこの誰で、なぜ参加したのかを問いただしたということがあった。また、女子や子どもには手出しをするなという軍律が当時はあったはずだ。
薩摩で一揆の首謀者たちが2ヶ月後に捕まり、大阪に送られたという記録もある。さらに、小型の船があったのではないか・・・。
私は、今回、原城跡の現地で、3万人もの骨は見つかっていないという話を聞きました。まだまだ地中に眠っているのかもしれませんが、一揆の参加者3万人近くを全員殺してはいないのではないかという気がします。
なお、オランダ船が原城の一揆軍を砲撃したという事実がありますが、これには、オランダが当時、ポルトガルと戦争をしていたことが背景にあることも知りました。オランダがプロテスタントで、ポルトガルがローマ教(カトリック)の国であるということから、宗教戦争であり、国の独立をかけた戦争でもあったのです。
広い広い原城跡の現地に立ち、ここに3万人もの人々が3ヶ月間も生活し、周囲を埋める12万人の幕府軍と戦ったのかと、感無量でした。
(2000年3月刊。2200円+税)

あなたを支配し、社会を破壊するAI・ビッグデータの罠

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  キャシー・オニール、 出版  インターシフト
特権階級の人は対面で評価され、庶民は機械的に評価される。
数学破壊兵器の三大要素は、不透明であること、規模拡大が可能であること、有害であること。
大学ランキングが登場してから、大学の授業料は急騰している。ところが、この大学ランキングは操作できるもの。犠牲になるのは、アメリカ人の大多数を占める低所得層と中流階級の人々。彼らは受験コースやコンサルタントに大金を支払うことができない。内部事情に通じる人間のみが知りえる貴重な情報を得られない。
結果的に、特権階級が優遇される教育システムができあがる。貧困層の学生は厳しい現実を突きつけられ、教育の場から締め出され、貧困に向かう道へと追いやられる。社会を分断する溝は深まるばかりだ。
上昇志向を餌として、貧困層の人々をおびき寄せる大学がある。
大量のデータを高速に処理できるマシンは、徐々に私たちのデータを自力で選別するようになり、私たちの趣味、望み、不安そして欲望を検索するようになる。
広告プログラムは、数週間、数ヶ月もすると、自分が標的とすべき人々のパターンを学習しはじめ、対象者の次の行動を予測するようになる。広告プログラムは、彼らのことを知っているのだ。
有害なフィードバックが生まれるのは、次のようなメカニズムだ。警察が巡回すればするほど、新たなデータが発生し、その場所を重点的に巡回することが正当化される。すると、「犠牲者なき犯罪」で有罪となった大勢の人で刑務所はあふれる。そのほとんどは貧しい地区の住人であり、黒人とヒスパニックが大半を占める。貧しい人々ばかりが職務質問され、逮捕され、刑務所に送られる。
警察は、単に犯罪を撲滅しようとするのではなく、地域住民との信頼関係を築くために努力すべきだ。それこそが「割れ心理論」の本来の指針の一つなのだから、警察官は地域を歩いてまわり人々に話しかけ、その地域に特有の秩序基準が維持されるように力を貸せばいい。ところが、逮捕と安全とを同一視するようなモデルに押し切られると、そのような本来の目的は見失われがちとなる。
コールセンターでもっとも仕事が速く、もっとも効率の良いチームは、もっとも社交的なチームであることが分かった。そのチームのメンバーは、社内ルールを軽んじ、ほかのチームよりも多くおしゃべりをしていた。そこで、全チームにおしゃべりを激励したところ、コールセンターの生産性ははね上がった。
アメリカの10州では、雇用のとき、クレジットスコアをつかうのを禁止させていた。というのは、カードやスマホに頼り切りになっていると、とんだしっぺ返しをくらうことになるからだ。
手塚治虫のアニメにもあるように、ロボットやAIに頼りきっていると、とんでもないことになりうるのは間違いない。これには私もまったく同感です。人間の失敗を前提として世の中が動き、紛争解決のために弁護士が存在するわけです。このような泥臭いドロドロとした感情の対立についてAIが対応できるはずもありません。
(2018年7月刊。1850円+税)

精霊の踊る森

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 嶋田 忠 、 出版  講談社
私は『ダーウィンが来た』を欠かさずみています。ふだんテレビはまったくみませんが、この番組だけは録画したものを週1回、寝る前にみています。世界各地の生き物たちの驚くべき映像に接して、大自然の営みの豊かさを実感させられます。
この写真集も『ダーウィンが来た』で紹介された鳥たちを見事に切り取っていて感動そのものです。
極楽鳥と庭師鳥について、「進化しすぎた鳥たち」と評されていますが、なるほどすごい色と形、そして求愛ダンスと愛の巣づくりのすばらしさに、ただただ圧倒されて声も出ません。
タンビカンザシフウチョウの求愛ダンスで示す色と形は神秘そのものです。誰が一体こんなデザインを考えついたのでしょうか、不思議でなりません。
カンムリニクシドリは、高さ2メートルにもなる求愛用のアズマヤのタワーを森の中に築き上げます。
オウゴンチョウモドキでは、若鳥たちは成鳥オスに見習って踊りを練習します。成鳥になるのに5年もかかり、その間、一生けん命に成長オスの踊りを見て学ぶのです。
真紅の円形の頭に白い目に黒い瞳がじっとこちらを見すえている写真が表紙を飾ります。ド迫力です。
写真をとった人は、私と同じ団塊世代(1949年生)。ニューギニア島に通い続けているのです。パプアニューギニアでは、今も昔ながらの原始的な生活をしている人々がいるようです。祭りのときには極彩色に顔と身体を飾りたてます。まるで鳥たちと競いあうようです。
極楽鳥の求愛ダンスは日の出前後にあるので、日の出前の暗いうちに機材をかついて森の中に入り、撮影用の特製テント(ブラインド)に入って、じっと待つのです。なんと5日目に決定的瞬間の撮影に成功したといいます。テントのなかに隠れてじっと音も立てずに待ち続けるのです。大変な根気のいる仕事です。おかげで居ながらにして、こんな素晴らしい写真を拝むことができます。ありがたいことです。
手にとって一見する価値が十分にある写真集です。3600円が高いと思う人は、ぜひ図書館に注文して手にしてみて下さい。世界観が大きく変わること間違いありません。
世界は生命の神秘にみちみちていることを実感させられます。ぜひぜひ後世にそのまま残したいものです。
(2019年7月刊。3600円+税)

フクロウの家

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 トニー・エンジェル 、 出版  白水社
フクロウのことが、なんでもよく分かる本です。
フクロウは、南極以外のすべての大陸に分布している。サボテンフクロウは砂漠に棲み、アナホリフクロウは地下に穴を掘って巣をつくり、シマフクロウはシベリアの極寒の地にも耐えられる。フクロウは、その生息する環境にあわせて生態が多様化し、今日では世界に217種ものフクロウが存在している。
『ハリー・ポッター』にもフクロウが登場している。シロフクロウのヘドウィグは、ハリー・ポッターが信頼を寄せる友人だ。配達をまかされているフクロウもいる。
メンフクロウは、人間と共生している。1年目までに75%が死亡するものの、34年も生きた個体がいる。
フクロウは場所に関する記憶力に優れ、ほとんど真っ暗な中でも木々の枝をすり抜けるように巧みに飛翔する。探究的にで、情熱的で、攻撃的で、欺瞞的、そしてときにきわめて勇敢な生き物だ。喜びや恐怖を感じ、ひとたび雌雄の関係を築いたら離れることがない。
カップルは歌を鳴きかわし、互いの羽づくろいをする。そして、そのあと交尾する。交尾瞬間は短いが、何回もする。また、雄は雌に贈り物をする。
卵を抱卵中の雌は、あまりにお腹がすいてくると、洞の中から勢いよく飛び出してきて雄に体当たりして、止まり木から突き飛ばし、餌を取りに行くよう求める。
フクロウは、タカやワシ、ハヤブサとは類縁関係にない。しかし、身体面や行動面でよく似た特徴を発達させてきた。
フクロウの聴覚は鋭い。しかし、やはり目が何より重要である。頭を素早く270度も回転できるため、音や動きに即座に反応して獲物を見つけることができる。
フクロウは獲物をかみ砕くための歯はなく、代わりにくちばしでつぶす。少し柔らかくなったところで、一気に呑み込み、あとは消化過程で栄養物と不要な部分とを選り分ける。
フクロウはネズミが好物なので、果樹園などのネズミ退治にはもってこいの存在である。
270頁ほどの、フクロウ全書とも言える楽しい本でした。
(2019年2月刊。3000円+税)

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