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宇宙(そら)を編む

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 井上 榛香 、 出版 小学館
 宇宙ライターを業とする著者は福岡県小郡(おごおり)市の出身です。
 小郡市には「七夕(たなばた)の里」、こんなキャッチコピーがついているというのです。私は初めて知りました。そして、中心部には「七夕会館」があり、天体ドームが併設されていて、天体望遠鏡で星空を眺めることができるそうです。
 著者は、大学では法学部でした。宇宙法を勉強したいというので選んだそうです。うひゃあ、そんな法律があったんですかね…。
 ロシアが人工衛星を破壊して、その破片が宇宙空間をさまよっていて、宇宙船に衝突する危険もあるそうなので、宇宙空間の規制もたしかに必要でしょうね。今や、軍事偵察衛星が北朝鮮の動向を毎日詳細に観察しているそうです(どうやら、日本は情報を共有してもらえていないようなんですが…)。
 九州にも鹿児島の内之浦と種子島だけではなく、大分空港を人工衛星の打ち上げ基地にする計画がすすんでいるそうです。
 そして、北九州の九州工業大学は、小型・超小型衛星の運用数が、世界の大学、学術機関のなかで世界1位を7年連続で占めているとのこと。これまた知りませんでした。
 宇宙旅行について、ZOZO創業者の前澤友作は数百億円かけて12日間、ISS(国際宇宙ステーション)に滞在した。今や4時間のフライトで成層圏への遊覧サービスが1人2400万円で利用できるようになりそうだとのこと。恐らくスーパーリッチ層の楽しみになるのでしょうね。
 著者の宇宙ライターというのは、まったくフリーでの取材。宇宙船ならロシア語が必須なので、著者もウクライナに留学し、ロシア語をマスターしたそうです。
 それで、ロシアのウクライナ侵略戦争に心を痛め、避難のお手伝いもしているとのこと。
それにしても、北海道の牧場で発生する牛の糞尿からのガスをロケットエンジンの燃料として利用するというのには驚きました。実際にやられているのです…。
 宇宙業界には、日本でもベンチャー企業がいくつもあって、それなりに活躍していることも知りました。でも、かかるお金が桁(ケタ)違いです。
 「ロケット開発の会社をつくりたいので、50億円を集めてほしい」
 びっくり驚天の金額です。
著者の宇宙ライターとしてのますますの活躍を大いに期待しています。
(2025年2月刊。1870円)

フロントランナー、いのちを支える

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 朝日新聞be編集部 、 出版 岩崎書店
 フロントランナーとは、自ら道を切り拓く人。10人のフロントランナーが本書に登場します。
 若者を孤独の淵(ふち)から救い出すサービスを提供するNPO法人。24時間365日体制で、チャットで相談に乗る。大学生のときに始めた大空幸星さん。
 カルト宗教の被害者を救済にいち早く取り組んできた紀藤正樹弁護士。
 野宿者支援、賃貸物件に入るとき保証人を300人分も引き受けた「反貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠さん。
 大牟田市の不知火病院の徳永雄一郎医師も登場します。全国に先駆けて1989年、うつ病専門病棟「海の病棟」を開設したのです。川に面して、陽光が降り注ぐ開放的な病棟です。私も見学したことがありますが、なるほど、こういう施設だと気が安まると思いました。
 天井は雨の音が聞こえる設計、天井には川のゆらぎが映り、潮の満ち引きが感じられる。部屋に入る光の角度や風向きも綿密に計算。徹底的に五感を刺激するため。
 4人部屋だが、座ると本棚の陰になって互いに見られない。プライバシーを保ちつつ、寂しくはない、安心できる空間。38床の病棟を建てるのに4億円かけた。
 海の病棟に入院すると、同じようにうつ病に悩んでいる人に出会って、良くなっていくケースを見ることで、自分も回復するというイメージができ、治療効果が上がることが多い。
うつ病にかかる職種は変化している。開設して初めの数年間は、公務員や教師といった「きまじめタイプ」、バブル末期の90年代初めは接待漬けの商社員、働き過ぎのIT系社員、そして最近は、超高齢社会となっている関係で看護師や介護職員が多い。
 実は徳永医師は私と中学校で一緒だったのです。二代目の医師ですが、時代の要請にこたえて意欲的に取り組んでいることにいつも刺激を受けています。
 徳永医師から贈呈を受けました。ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。
(2024年10月刊。1900円+税)

韓国、男子

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 チェ・テソプ 、 出版 みすず書房
 日本の若者の多くが非正規雇用ばかりの労働環境のなか、低賃金・長時間労働で結婚難に直面し、先の将来展望が見えないという大変な状況に置かれています。この本によると、韓国でも似た状況があるとのこと。
21世紀の若者には希望を抱けるだけの客観的な拠りどころがひとつもない。まともな職業に就くことが難しく、だから稼ぎを手に入れるのも難しい。学んだこととは違って、現実はもどかしくてうっとうしい。生き残るために競争せざるをえないのは当たり前のことではあるが、戦う前から既に敗北している。
 いやあ、これはまったく同じですよね…。実は、私には韓国に住む孫(男の子)がいるのです。祖父として心配なのは兵役です。この本を読んで、ますます心配になりました。
 軍での経験は、韓国男子がもっとも大きく、広く共有する一種の集団的トラウマだ。なぜなら、韓国の徴兵制度は、人格を剥奪(はくだつ)することを前提に設計されているから。入隊後の新兵訓練プログラムには、新兵を着実に一般社会から切り離そうという意図が強い。
 単に独立させるのではなく、ある種の人間工学にもとづいた「人間改造」に近い。
 訓練兵たちは、それまでの話し方、歩き方、食べ方といった人間のもっとも基本的な動作をガラリと変えることを求められる。それに早く適応できないと、処罰と不利益を受けることになるが、それは、所属集団全体にまで影響を及ぼす。
 聞き覚えが悪い人、ミスを犯す人を軍隊では「顧問官」と呼ばれ、怒りを向けることを学習させられる。
 韓国の軍隊では、2000年以降、毎年最大182人から最低でも75人が死亡していて、その死因の第一位は自殺。
 1948年に軍が創設されてから、軍で死亡したけれど国家から何の礼遇もされていない死亡者は累計で3万9千人もいる。
 軍隊では、軍の主張どおりの安保・反共イデオロギーを徹底して叩きこまれる。
軍隊では、上司によって、すべてがひっくりかえってしまうことが少なくない。非体系的、恣意的に物事が運用されている。
 いやあ、いかに効率良く人殺しするかという訓練をさせられるうえに、上司の理不尽な仕打ちについてもひたすら耐え忍ばなければいけないというわけです。耐えられません。
 今なお英雄視する人もいる朴正熙は、任期芸能人や若い女性を呼びつけて手当たり次第に弄(もてあそ)び、国家機関を遊興のために動員し、国庫を自分の小遣いのように使う、典型的な独裁者だった。
 韓国の男は、家庭で、尊敬され、愛される家族の一員ではなかった。韓国の男たちは、長い間、そうなる必要がなく、そうなってはいけないと教え込まれてきた。
 韓国の若い男たちの一部(多くか…)が、女性にも兵役の義務を課すことを求めたりしているようです。とても私には理解できません。むしろ、男性にも徴兵義務をはずし、アメリカのように志願兵制度にしたらどうかと考えています。大いに考えさせられる本でした。
(2025年1月刊。3300円)

大本営発表

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 辻田 真佐憲 、 出版 幻冬舎新書
 「大本営発表」というコトバは、今でもデタラメなことを公然と言って恥じないという意味で使われることがあります。この本では、「あてにならない当局の発表」とされています。
3.11福島第一原発事故は、危く東日本全滅という超重大事故になるところでしたが、政府(原子力安全・保安院)と東京電力はあたかも重大事故ではないかのような発表を繰り返しましたので、これこそまさしく現代の「大本営発表」だと批判されたのは当然のことです。
 大本営発表とは、1937年11月から、1945年8月まで、大本営による戦況の発表のこと。大本営とは、日本軍の最高司令部。
 ところが、当初の大本営発表は事実にかなり忠実だった。なぜなら、緒戦で日本軍は次々に勝利していたからです。嘘をつく必要なんてありませんでした。
 問題は、日本軍が次々に重大な敗退をきたすようになってからです。本当は敗北したのに、それを隠そうとして、「大戦果」を華々しく報道しはじめました。
 大本営発表によれば、日本は連合軍(その内実はアメリカ軍)の戦艦を43隻も沈め、空母に至っては戦艦の2倍、84隻も沈めたとする。ところが、実際に喪失したのは、戦艦4隻、空母は11隻でしかなかった。ひとケタ違います。これに対して、日本軍の喪失は戦艦8隻か3隻、空母19隻が4隻に圧縮された。そして、撤退は「転進」、全滅は「玉砕」。本土空襲はいつだって「軽微」なものだった。
 大本営のなかで、作戦部はエリート中のエリートが集まる中枢部署で、傲岸(ごうがん)不遜であり、発言力がきわめて強かった。報道部は、作戦部に逆らうのが難しかった。
 新聞は、部数拡大をめぐってし烈な競争をしていた。そこで新聞は前線に従軍記者を送り込み、「従軍記」を連載し、世間の耳目を集めることによって販売部数を伸ばしていった。
 新聞は結局、便乗ビジネスに乗ったわけで、それは毒まんじゅうだった。事態を批判し検証するというメディアの使命を忘れ、死に至る病にむしばまれてしまった。
 しかも、大本営は新聞用紙の配分権を握っていたので、報道機関をコントロールできた。こうして、日本の新聞は、完全に大本営報道部の拡声器になってしまった。
 戦果の誇張は、現地部隊の報告をうのみにすることに始まった。ミッドウェー海戦で、日本の海軍は徹底的に敗北した。アメリカ軍は日本軍の暗号を解読していた。日本軍には情報の軽視があった。日本軍は、そもそも情報収集と分析力が不足していたので、戦果を誤認しがちだった。
 「転進」発表が相次ぐなかで、国民のなかに大本営発表を疑う人々が出てきた。決して大本営発表のいいなりばかりではなかった。
 山本五十六・連合艦隊司令長官が戦死したことを知り、海軍報道部の平出課長はショックで卒倒した。さらに、山本の次の古賀峯一司令長官も殉職してしまった。
海軍は敗北の事実を国民に伝えなかっただけでなく、陸軍にも真実を告げなかった。その結果、陸軍はフィリピンで悲惨な戦いを余儀なくされた。
 特攻隊に関する華々しい大本営発表によって、地上戦の餓死や戦病死という現実は、国民の視界から巧みに消し去られた。
 アメリカ海軍の空母は1942年10月以来、1隻も沈んでいない。それほどまでに頑丈だった。逆にいうと、日本海軍はアメリカ海軍にほどんど太刀打ちできなかった。
 大本営発表は、確たる方針もなく、その時々の状況に流されやすい性質をもっていた。とりわけ損害の隠蔽は、これに大きく影響を受けた。
 今のマスコミが、かつての大本営発表のように、当局の意のままに流されないことを切に願います。と同時に、SNSにおけるフェイクニュースの横行を同じく大変心配しています。
(2016年8月刊。860円+税)

異端

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 河原 仁志 、 出版 旬報社
 本のタイトルからは、何をテーマとする本なのか、見当もつきません。
 新聞記者たちが有力者や社上層部の意向に従わず、思ったことを、事実にもとづいてニュースにして報道する。これが異端。でも、読まれるし、ついには社会を動かしていく。
 昨今のSNSで、オールドメディアと決めつけられ、軽く馬鹿にされている風潮があるのは、活字大好き人間の私にはとても残念です。ただ、NHKが典型的ですが、権力の言い分をそのまま垂れ流しているとしか思えない記事があまりに多いというのも情けない現実ではあります。
 西日本新聞の傍示(かたみ)文昭記者の名前を久しぶりに見ました。弁護士会が大変お世話になった記者です。当番弁護士や被疑者の言い分を知らせる報道に大いに力を入れてくれました。
 1992年2月、2人の小学女児が殺された事件の報道では、久間(くま)三千年(みちとし)被告を犯人と決めつける報道ばかりでした。ところが、本人は一貫して否認していて、当時、始まったばかりのDNA鑑定もきわめて杜撰なものだったのです。
 久間被告は、それでも死刑判決となり、刑が確定すると2年後には執行されてしまいました。異例のスピードです。傍示記者は、自らがスクープを放った身でありながら、事件を再検討する企画を立て、社内の異論を抑えて連載記事を始めました。たいしたものです。
 次は、沖縄防衛局長が記者たちとの懇談の場で、オフレコとされているなかで、「犯す前に犯すと言いますか」などと、いかにも下品なたとえで、辺野古埋立の環境アセスメントについて語ったことを報道した琉球新報の内間健友記者の話です。
オフレコと断った場での発言であっても報道することが許されることがあることを私は改めて認識しました。政治家などの公人が「オフレコ発言」をしたとき、市民の知る権利が損なわれると判断させる場合には、報道してもかまわないのです。
 オフレコ発言であっても、公共・公益性があると判断した場合、メディアは報道する原則に戻るべきなのです。なるほど、そうですよね…。
 オフレコ発言だとあらかじめ宣言されていたとしても、無条件で何を言っても書かないとメディアが約束しているのではないということです。
 中国新聞は週刊文春の記事と張りあいました。自民党の河井克行・元法務大臣と妻の河井案里の選挙違反報道です。このとき、広島の議員、首長に対して、広く現金がバラまかれました。自民党の県議に対して1人50万円の現金が「当選祝い」として手渡されました。やがて、その出所は首相官邸つまり安倍晋三首相のもとであることが疑われはじめました。例の内閣官房機密費から1億5千万円が出たとみられています。
 前に、このコーナーで河井克行元法相が出獄後に刊行した本を紹介しましたが、河井元法相は、今なお事件の全貌を明らかにせず、深く反省している様子もありません。そして、中国新聞を左翼の新聞とばかりに非難しています。呆れたものです。
 この本を読みながら、やはりジャーナリズムに求められるのは権力の腐敗を暴き、それによって庶民の目を大きく見開かすことにある、そう確信しました。
(2024年11月刊。1870円)

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