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欺す衆生

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 月村 了衛 、 出版  新潮社
本当は、こんな本は読みたくないし、すすめたくもありません。思わず目をそむけたくなる話のオンパレードなのです。
欺(だま)す側の心理と論理が実によく描写されています。私も商品先物取引の加害者(刑事被告人)の供述調書をもとに一冊の本をまとめたことがあります。
この本は加害者(だます側)の家族生活にまで踏み込んでいますから、まさしく身につまされるストーリー展開です。ある面では切ないというところも感じます。でもでも、主人公は、結局のところ、一線を踏み越えて、悪の道を突っ走っていきます。そして、その家族はそれを受け入れて裕福な生活にどっぷり浸るのでした。
出発は豊田商事のだましの商法になっています。同じようなことが商品先物取引の世界でもありました。国内の先物取引会社で素人騙しの手口(テクニック)を身につけた連中が当局の規制が及ばない香港やロンドンなどの海外取引所を舞台とした先物取引に素人を引きずり込んで大金をだましとっていったのです。
本書では、豊田商事の残党たちが、原野商法、和牛商法そして、証券投資、さらにはアフリカを舞台とするインチキ商法を展開していく様子が見事に活写されています。そのときは、舞台装置として、公務員や大使館員を抱き込むのです。
そして、暴力団が登場します。もちつもたれつで、企業舎弟たちとだまし稼業に狂奔し、ついには大物政治家まで登場します。それは、「桜を見る会」でジャパンライフが首相枠で姿をあらわし、実は、この豊田商事に匹敵する大がかりなインチキ商法が、実は安倍首相とはその父親の代から親密な関係にあったわけですが、それと同じ本質だったのでした・・・。
だますときには、相手の資産状況だけでなく、本人の性格や経歴、さらには家族構成まで調べあげる。
「人を欺すためなら、自分を欺すことなんて簡単にできる。そういうもんだろ、人ってさ・・・」
「人を欺す仕事は最低だと思う。でも、その一方で、人を欺す快感は捨てられない。強欲な輩を欺すのは痛快だ。その一方で、そんな輩を欺す自分はなんだ・・・と考える」
だます男がだまされ、またいいようにあしらわれる。そして、暴力団にしゃぶられる。けれども、暴力団内部でも利害が一枚岩ではない。
そんな実情が、これでもか、これでもかと畳みかけられると、こんな世界に足をつっこまなくてよかった・・・と思えてきます。いくら大金があっても、心の平穏はどこにもないのです。
主人公が迷い、悩んでいたのがウソのように悪に徹していくのに、膚寒い思いがしてしまいました。見たくないけれど、直視しなくてはいけない現実だと思って、500頁もの大作を週末の土曜日に一日で読み切りました。
(2019年11月刊。1900円+税)
 11月に受けたフランス語検定試験(準1級)の結果を知らせるハガキが届きました。71点(12点満点)で合格でした。自己採点で73点、合格基準点は67点ですので、いつものように低空飛行でスレスレ合格です(合格率24%)。 1月末に口述試験を受けます。これが大変なんです。今から仏作文の練習をはじめるつもりです。
 ちなみに、準1級の合格証書は7枚もらっています。レベルアップは望むべくもなく、低下せず維持するのが精一杯です。

ふたりの桃源郷

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 佐々木 總 、 出版  文芸春秋
電気も水道もない山奥で暮らしている老夫婦を30年にわたってテレビで紹介していった番組について、裏話をふくめて活字にしたものです。似たような話があったような・・・、と私は映画のパンフレットを探し出しました。
2014年の韓国映画「あなた、その川を渡らないで」です。こちらは30年間ではなく1年3ヶ月間でしかありませんが、老夫婦はなんと98歳のおじいさんと89歳のおばあさんです。山奥の一軒家ではありませんが、小川の流れる小さな村に住んでいます。毎日、ふたりはおそろいの服(上着は、白で、チマはライトブルー)を着て、手をつないで歩いていきます。枯れ木や山菜をとりに山へ、市場へ買い物に出かけます。春には花を折って互いに飾り、秋には落葉を投げあってほほえみ、冬には雪合戦をしてはしゃぐ。そんな老夫婦の日々が淡々と紹介されます。韓国では480万人もの観客を動員していますが、その半数を20歳台の若者が占めたといいます。私も福岡・天神の映画館でみましたが、心が震えました。まだみていない方はぜひみてください。
日本のほうは、たびたびテレビのドキュメンタリー番組となり、全国放送もされています。2016年には映画(『ふたりの桃源郷』)化されたそうですが、残念ながら私はみていません。今も各地で上映されているそうなので、ぜひ、みてみたいものです。
寅夫じいちゃんは大正3年生まれ、2007年(平成19年)6月に93歳で亡くなった。フサコばあちゃんは大正9年生まれ、2013年(平成25年)1月に同じく93歳で亡くなった。
この二人が初めてテレビに登場したのは今から28年も前の1991年(平成3年)のこと。
地元の山口放送は1993年に30分番組で紹介した。それから2018年まで、実に27年間にわたって紹介したというのですから、中途半端な話ではありません。
桃源郷の山小屋には、電気も水道も通っていない。でも、四季を通じて山から水が湧き、切り拓いた土地をぐるっと囲むように2本の水流があるため、1年を通して水には困らない。何十メートルもホースをつなぎ、湧き水を山小屋のすぐ脇まで引いている。小屋の表にある水がめには、いつだってきれいな水があふれていた。
夜、明かりを灯したり、洗濯機をつかうときには発電機を回す。暖をとり、煮炊きするのには、もっぱら薪だ。毎日のように山の木々を切り出し、斧を振りおろして薪をつくるのは、70代も半ばを過ぎると、重労働だ。
1979年(昭和54年)秋、夫婦そろって18年ぶりに山に戻った。二人は、人生を山で再スタートしたのだ。
山口放送が取材して放送したのは27年間で100回にもなる。全国放送されたことも12回ある。
山には電話がないので、取材は事前にアポイントの取りようがなかった。テレビ取材は、アポなしの突撃取材だった。
風呂は五右衛門風呂。87歳のじいちゃん、82歳のばあちゃんの老夫婦二人だけの山での生活。「夫婦円満の秘訣は何ですか?」と訊くと、答えは、「そりゃあ、セックスじゃのう・・・」。これでは放送できない。東京から全国放送するとき、同じ質問があった。どうなるか・・・。答えは、「そりゃあ、『夜』じゃのう・・・」。
えがった、えがった・・・。なにしろナマ放送だったのです。
23年間続けた山での暮らしを寅夫じいちゃんとフサコばあちゃんは自分の意思で終わらせて、ふもとの町の老人ホームに入って生活するようになった。
こんな人生のすごし方も魅力的ですよね・・・。でも、山に住むということは、蛇だって、虫だって、すぐ身近な存在なんですよ。怖くもあります。都会生活に慣れていたら、やはり山に住むのは無理だと思います。窓にヤモリがくっつくのは可愛いものですが、ゴキブリが出てきて、ナメクジが台所あたりをはいまわるのが耐えられますか・・・。
(2019年10月刊。1500円+税)

ノモンハン、責任なき戦い

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 田中 雄一 、 出版  講談社現代新書
1939年5月に起きたノモンハン事件は、「事件」というより戦争そのものでした。
日本軍は歩兵を中心として1万5000の軍を投入し、ソ連軍は5万の兵員と、最新型の快速戦車や装甲車を大量投入し、物量と火力で日本の歩兵部隊を圧倒した。4ヶ月間で、日本側は2万人、ソ連側は2万5000人という膨大な死傷者を出した。ソ連でのジェーコフ将軍は人命軽視で督励していたようです。日本軍は主力の第23師団の8割が死傷するという壊滅的な打撃を受けて、主戦場となった国境エリアから締め出された。しかし、日本の国内ではこの敗北は一切隠され、国民は知ることがなかった。
関東軍の若き作戦参謀が事件を起こした。関東軍作戦主任の服部卓四郎中佐(当時38歳)、作戦参謀の辻正信少佐(当時36歳)が事件を引っぱっていった張本人だ。
辻参謀は少佐でしかないのに過激な言動によって関東軍内部で強い影響力をもち、陸軍中央まで引きずり回した。辻がいなければノモンハン事件は起きなかった。辻はノモンハン事件のあと責任をとらされ、ほんのしばらく鳴りを潜めていただけで、まもなく復活した。そして戦後は国会議員になり、タイの密林で消息を絶った。
辻ら若手参謀は、参謀本部に何ら知らせることもなく、モンゴル領内のソ連軍空軍基地の爆撃を決行した。これについては、昭和天皇も怒った。
ソ連軍はスターリンが42歳のジューコフ将軍を現地に派遣して態勢を立て直した。5万人をこえる兵員、時速40キロをこえるBTという快速戦車などを最前線に投入する。日本軍も満州全土から虎の子の戦車70両をノモンハン現地に終結させた。
ところが、日本の歩兵部隊を300両をこえるソ連軍の戦車部隊が襲った。日本軍のまったく予期しない事態だった。ただし、ソ連軍は、戦車50両、装甲車40両を喪うという大損害を蒙った。
日本の戦車は、ソ連軍の仕掛けたピアノ線にキャタピラがからまり身動きがとれなくなり、そこをソ連軍が砲撃して70両の戦車の半数が破壊・消耗した。
ノモンハン事件全体を通じて、日本側のうった砲弾は6万6千発、ソ連側は43万発。圧倒的な物量差が勝敗を決めた。
ソ連軍は日本側の甘い予測をはるかに上回る兵站(へいたん)線を構築していた。9000台をこえる貨物運搬自動車を終結させ、前線部隊を強力に下支えした。
死傷者数ではソ連軍の被害のほうが甚大だが、作戦目的を達したのはソ連だった。
日本軍が回収した日本兵の遺体は4386体にのぼった。そして、戦後、日本軍は現場の中下級指揮官にすべての責任を押し付け、自決(自殺)を強要し、免官、停職し、汚名を被せた。その反面、軍トップは辻参謀たちをふくめて温存、非を問われることはなかった。
今に通じる日本軍の無責任体質について、呆れるというより怒りすら覚えます。
(2019年9月刊。900円+税)

人体、なんでそうなった

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ネイサン・レンツ 、 出版  化学同人
人間の身体についての貴重な指摘、知らなかった驚くべき事実が満載の本です。
人体の解剖学的構造は、適応と不適応とが不格好に入りまじっている。
欠点があるからこそ、人間には人間らしさが表れる。
進化は絶え間なく続く交換ゲームだ。進化の大半には犠牲がともなう。
私は本年(2019年)3月、椎間板ヘルニアで苦しみました。なにしろ、駅のホームでまっすぐ歩けず、しばらく立ち止まって休んでいたほどです。この本は、なぜ椎間板ヘルニアが起きるのかについても解説しています。
人間の椎間板は、直立歩行者ではなく、ゴリラのようなナックル歩行者に最適の状態に調整されている。時間の経過とともに、アンバランスな圧力のせいで、軟骨の一部がはみ出てくる。この椎間板ヘルニアは、ヒト以外の霊長類には、ほとんどみられない。
ヒトの身体は、体内で必要な栄養素をつくり出すことができないので、食事としてとる必要がある。人間は、必要な栄養素をすべて取り入れるためには、やたら変化に富んだ食事をとらなければならない。
ビタミンCがなければ、コラーゲンがつくれない。犬は自分でビタミンCをつくることができる。地球上のほとんどの動物は必要なビタミンCを自分の肝臓でたっぷりつくっているので、食べ物からとる必要がない。
飢饉のときの最大の死亡原因は、カロリー不足ではなく、タンパク質と必須アミノ酸の不足にある。
ヒトがカルシウムを吸収するには、ビタミンDが必要。乳児は摂取したカルシウムの60%を吸収できる。成人はせいぜい20%ほど、引退する年代だと10%未満となる。
絶えずカルシウムとビタミンDを補充していないと、骨粗鬆症になって、骨がもろくなる。
野生では肥満した動物が見あたらないのは、大半の野生動物は、いつだって餓死の一歩手前にいるからだ・・・。
犬や猫がテレビにあまり興味を示さないのは、その網膜のニューロンは、人間よりずっとすばやく働くので、断片的な写真として見えていて、人間のように動画としてみれないからだ。
人間の身体の不思議さは尽きないところがあります。それをとても分かりやすく解説してくれています。
(2019年10月刊。2400円+税)

刑務所しか居場所がない人たち

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 山本 譲司 、 出版  大月書店
日本の刑務所が福祉施設と化しているという点は、私も事件を通して大いに推測できるところです。ところが、逆に今日の日本では福祉施設が刑務所化しているとの指摘があり、ドキッとしてしまいました。
著者は元国会議員で実刑判決を受けて刑務所生活をしたことがあります。そのとき、刑務所内の福祉施設化を自ら体験したのでした。
2016年に新しく刑務所に入った受刑者2万500人のうち、4200人は、知能指数が69以下だった。つまり、受刑者10人のうち、2人は知的障害をもっている可能性がある。
同じく、2016年の「新人」2万500人のうち、殺人犯は218人。少年犯罪は激減していて、10年前の4分の1。全国の少年鑑別所はガラガラの状態。
殺人事件で被害にあった人は、1955年(昭和30年)に年2119人だったのが、1985年に年1017人、そして2016年には289人にまで減った。
犯罪の認知件数は、2002年に日本に285万件だったが、2017年には91万件となり、この15年間で、3分の1以下に減った。
2016年に刑法犯として検挙された人のうち65歳以上の人は4万7000人。これは全体の2割をこえている。20年前の5倍以上。
高齢受刑者は何度も犯罪を繰り返すことが多く、70%が累犯者。高齢者の犯罪は、窃盗が7割(女性だけだと9割)。
刑務所が1年間に使う医療費は7万人の受刑者で32億円(2006年)だったのが、今では5万人いないのに2倍近い60億円となっている。・
日本の障害者福祉予算は年1兆円。これはスウェーデンの9分の1、ドイツの5分の1、フランスやイギリスの4分の1。アメリカと比べても2分の1以下。
福祉の刑務所化とは、お金が目当ての福祉施設では、効率よく入所者を管理すべく、刑務所並みの厳しいルールで利用者の勝手な行動を止めさせているということ。
府中刑務所への1800人の収容者の内訳をみると、日本人受刑者の700人以上が精神か知的障害のある人で、600人が身体に障害をもっていた。
著者の本は、いま日本の刑務所がどんな実情にあるのかを知ることができて、その役割の尊さをふくめて頭が下がります。
(2018年5月刊。1500円+税)

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