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キッチンの悪魔

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マルコ・ピエール・ホワイト 、 出版  みすず書房
33歳のイギリス人シェフがミシュランの3つ星レストランを誕生させる苦労話が語られています。
祖父も父も、兄弟もみんなシェフ。イギリス労働者階級の出身からはいあがったのでした。
気にいらない客がいたら追い出してしまいます。お金はいらないから、とっとと出ていけというのです。それも無言でテーブルセッティングを片付け、しまいにはテーブルクロスまではがします。
三ツ星を獲得したあと、著者は目標を見失い、しばらく茫然自失としたあと、別の料理店で再起していくのでした。
三ツ星レストランにミスは許されない。一貫性がなければ、一つ星から二つ星、二つ星から三つ星には消してなれない。毎日毎日、毎食毎食、とても高い基準を保つというのは、極限中の極限の状況だ。
昔はシェフに想像力は求められなかった。シェフがレシピを逸脱して冒険するなんてことはめったになかった。
一流のシェフは自然に敬意を払う。
350人規模のパーティーが開かれることがあった。それでしばやくてきぱきと料理をつくる要領を学んだ。手に働きをインプットし、超高速でナイフを扱えるようになった。
料理人の世界でいじめられたが、子ども時代に厳しく育てられていたおかげで、ある男性中心のいじめ社会から別の男性中心のいじめ社会に飛び移ったにすぎないと思えば、なんとかなる。叱責されるのは、痛くも痒くもなかった。
一流のレストランをつくるためには、皿に乗せるものだけでなく、壁にかけるものにもこだわらなければならない。
何をするにしても、目の前の作業に集中し、完璧にこなさなければならない。
料理は自己表現の手段だ。味覚は、人それぞれだ。なので、テーブルには塩もコショウも置いておく。
さすがに、食べる前からウースターソースをどぼどぼかける人、マヨネーズを何にでも書ける人がいますが、それはやめてほしいとシェフでない私は思います・・・。
不安を振り払い、ほかのシェフたちを押しつけて、ストーブを自分のものにするには自信がいる。料理をするためには、みんなを押しつけて進むくらいのずうずうしさが必要だ。
著者の厨房では私語厳禁。生きた厨房が奏でる音は、どことなく美しい。食材を切る音、金属どうしの当たる音、肉の焼ける音、そのことに気づかせてくれる。
この本には、優秀なシェフとして日本人が登場し、また経営の相談にも乗ってくれる著者に忠実な日本人(イシイ)も登場し、なんとなくうれしくなります。
私は一つ星レストランで食事をしたことはありますが、まだ三つ星はありません。いつかはきっとと思っているのですが・・・。
(2019年11月刊。3000円+税)

天草島原一揆後を治めた代官、鈴木重成

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 田中 孝雄 、 出版  弦書房
天草島原一揆のあと無人状態になった村々へ周辺から人々が移住させられました。そして、統治困難な天草の地を江戸幕府の代官として見事に治めた鈴木重成の生涯をたどった本です。地元民から今に至るまで慕われている代官がいただなんて、ちっとも知りませんでした。
鈴木重成は大坂で代官職・奉行職をつとめているころ、島原・天草でキリシタンを主力とする大がかりな一揆が起きたことから鉄砲奉行として征討軍に加わった。
そして、天草・島原一揆の鎮圧後、幕府代官として戦後復興にあたった。移民の誘致、年貢の大幅減免、社寺の再興につとめた。一揆で亡くなったキリシタンを仏式で弔うこともした。
鈴木重成が亡くなると、地元の人々は、供養碑を建立し、社を築いて「すずきさま」と呼び、敬慕の念を今に至るまで抱いている。
島原の乱は1637年(寛永14年)に発生した。
征討軍として幕府は板倉重昌と石谷定清を派遣し、重ねて、老中・松平信綱と戸田氏鉄の派遣を決めた。このときには、まだ板倉たちは現地に到着さえしていなかった。
板倉と石谷が現地・有島に着陣したのは12月6日のこと。その前の11月27日に、幕府は重ねての上使として松平信綱と戸田氏鉄の派遣を決定した。
松平・戸田が島原に到着したのが1月3日で、1月1日に原城総攻撃で板倉は戦死した。
「総大将板倉が戦死したので、幕府はあわてて老中松平信綱を差向けた」
という俗説は間違い。
比較的早い段階で松平と戸田を重ねて追討使としたのは、一揆を鎮圧したあとの始末が目的だった。鈴木重成は老中松平とともに鉄砲奉行として大坂城内の大砲数門と多くの玉薬を持って、板倉の戦死の3日後に有馬に到着した。
キリシタン一揆鎮圧後の仕置きという老中松平の負った本来の使命は具体的には鈴木重成の手に委ねられた。こうして、天領天草の初代代官となった鈴木重成は天草の復興を一身に負うことになった。
重成のかかえた課題は二つ。領民のくらしをどう向上させるか。宗教間対立が生んだ悲劇をどう克服するか。全体の年貢率は平均で田が23%、畑が18%に抑えられた。
重成は、貢租は二義的とし、復興を第一と決断した。
天草の庄屋の文書によって、重成時代の年貢率は15%から25%で推移していたことが判明している。
そして、重成は島原の代官まで兼務したのです。重成は天草の復興のためには神仏信仰への回帰が重要課題だと考えた。寺々が焼かれ、仏像をなくした村の無残な現実を見ていた。そこで、一般に新寺の建立を幕府が禁止していたなかで、重成は天草で社寺を復興させた。そして、一揆終結から10年間に再興した寺々で、亡くなったキリシタンについても亡魂供養を行った。 
歴史的事実をいろいろ発掘している貴重な本だと思いました。
(2019年6月刊。2200円+税)

イージス・アショアの争点

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 荻野 晃也・前田 哲男ほか 、 出版  緑風出版
イージス・アショアって、そもそも何なの…、どうしてそんな高価なものを秋田と山口・萩の二ヶ所に置くの…、それって本当に日本を守るために必要なものなの…、誰から攻撃されるっていうの…。そんな疑問に多面的に答えた本です。
秋田市と山口県の萩市・阿武町の2ヶ所にイージス・アショア基地を設置するという話は2017年に突如として降って湧いた。安倍首相の選挙区は山口県、菅官房長官は秋田県出身。これって本当に偶然のことだろうか…。
イージス戦闘システムは、その本質は強力な攻撃兵器である。
海上にイージス艦を8隻も浮かべておきながら、地上配備型のイージス・アショアを秋田と山口の2ヶ所に置くという。
防衛省は、1990年代後半まで、日本に向けて発射された北朝鮮の弾道ミサイルに対して海上のイージス艦が対処し、次にパトリオットミサイルPAC・3が対応する二段構えで、「万全の構え」をとっていると説明してきた。だったら、さらに地上型は不要のはずなのに…。
2017年8月、日本政府はトランプ政権の要請にこたえてイージス・アショアの導入を決めて発表した。このときは1基800億円とされた。ところが、12月の閣議決定の時点では1基1000億円と修正され、さらに翌18年7月に1基1340億円と再修正された。
なぜ、秋田と山口の萩なのか…。
実はアメリカ軍の軍事拠点であるグアムとハワイを防衛するためであることが地図の上で明らかになった。秋田と山口は、アメリカ本土を北朝鮮のミサイル攻撃から防衛するための人身御供(ひとみごくう)なのだ。
そうすると、北朝鮮からも中国・ロシアからも攻撃目標(標的)にされる危険がある。標的にならなくても、イージス基地から迎撃ミサイルを発射したとき、爆炎が周辺に及び、またブースター(補助推進ロケット)が周辺に落下する。
そして、イージス・アショアからは強力な電磁波がふりまかれる、電磁波は人間の生殖への悪影響を及ぼす心配がある。生殖だけでなく、人間の脳にも悪い影響を与えることも最近心配されている。さらに、発ガン性も心配されはじめた。
結局、イージス・アショアを日本の地上に2基も設置すると、8429億円の費用がかかると見込まれている。どんどんふくらんでいる。
アベ政治は、こんなアメリカと軍事産業だけを利する、不要不急の軍事には惜しみなくお金をつぎこむ一方、コロナ新型ウィルスにはわずかなお金しかつぎこもうとしません。まさしく本末転倒の政治です。もう、そろそろやめましょうよ…、こんなデタラメ政治は。
(2019年11月刊。2000円+税)

天皇と戸籍

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 遠藤 正敬 、 出版  筑摩書房
戸籍があるのは、日本だけ。日本と似た戸籍制度が続いてきた韓国は2008年に廃止した。中国と台湾は今では居住登録の意味が強く、日本とはかなり異なる。
中国では7世紀の唐の時代に体系的な戸籍制度が整備され、日本でも唐にならって7世紀後半から全国統一の戸籍を実施した。つまり、日本の戸籍制度は、いくらかの変遷を重ねながらも、今日まで1300年以上にわたって存続してきた。
皇族には、氏がない。元皇族には、離婚したときに復帰すべき氏がない。
天皇家の人々には氏も姓もない。なぜなのか・・・。
天皇・皇族に対して陛下とか殿下といった敬称、また最上級の敬語は、それを義務づける法的根拠はない。
なので、私は「天皇陛下」とは決して言いません。天皇夫妻と言います。そして、必要な時にはフツーの敬語表現は使います。私と何の縁もない、見知らぬ人たちだからです。
日本の戸籍は、天皇からみた「臣民簿」であることを歴史的な本質としている。
「公地公民」というのは、豪族が全国に割拠して治めていた土地と領民は、すべて天皇の所有物であるという考え方にもとづくもの。
戸籍は、あくまで「下々(しもじも)」を登録するものであって、「上御一人(かみごいちにん)」たる天皇を別格とすることを法制の上で明示するうえで、格別の役割を担った。
戸籍は「臣民簿」という国家的意義をもつもので、「一君万民」という形での国民統合が、戸籍という装置を介して具現化された。
古代日本国家において、「氏(ウジ)」と「姓(カバネ)」は天皇からの「賜(たまわ)りもの」だった。だから、その「御威光」にあずかろうとして、氏姓を捏造(ねつぞう)する豪族が絶えなかった。
天皇家は他の王家との区別を示すための「姓」をもつ必要がなかった。日本では、天皇家は「万世一系」であって、単一の王家が続いてきたことになっていて、これに競合するような他の王家は存在しない。日本は中国から「易姓(えきせい)革命」の考えは受け入れなかった。
天皇家は、すべての氏族に対して超然としてそびえたつ存在でなければならなかった。臣民の称する氏や姓は、それぞれの家の標識であり、いわば「私」の表徴である。それらすべての氏姓(家)をたばねる唯一無二の「宗室」として天皇家は「公」を表徴するものであるからこそ、氏姓を必要としないのだ。
明治以来、一般の日本国民は満20歳が成年とされてきた(今は18歳)。ところが、天皇・皇太子・皇子孫の成年は満18歳とされている(皇室典範22条)。
天皇も皇族も住民票をもっていない。
一般国民の本籍地を千代田区千代田一番、すなわち皇居におくことが認められている。1975年の時点で235人いた(今は公表されていない)。
三笠宮寛仁(ともひと)は、戸籍がないのに住民税を支払わされることに公開の場で不満をもらした。「われわれは、ある意味で無国籍者なんだ」とも発言している。
皇族が結婚するについては戦前は天皇の許可を必要としたが、今でも「皇室会議」の承認として残っている。
大正天皇の皇統譜には、生母が「権典侍(ごんてんじ)柳原愛子」であることが明記されている。
天皇家の人々は、「一般国民」としての権利をもたない「非一般国民」であり、いわば観念的な「日本国民」として理解するのが妥当だ。
天皇と皇族の置かれている法的地位(立場)を正確に理解することのできる本です。大変勉強になりました。
(2019年11月刊。1600円+税)

CIA裏面史

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 スティーブン・キンザー 、 出版  原書房
アメリカンのCIAで「毒殺部長」を長くつとめたゴットリーブのやっていたことを詳細に明らかにした本です。思わず寒気のするほど悪逆非道な行為を世界各地でしていたCIA工作員の親玉です。
ところが、ゴットリーブはユダヤ人移民の子で、大学生のころは社会主義者でもありました。
CIAに入ってからは、目的達成のためにはユダヤ人大虐殺をしていたナチスの科学者とも平気で手を組むのでした。また、ゴットリーブは脚を悪くしてびっこをひき、話すときにはどもってしまう(吃音)のです。そして、自家菜園を楽しみ、自然を愛する生活のなかで、子どもたちを暮らすのを楽しみにもしていたようなのです。ジキルとハイドではありませんが、残虐さと自然愛好家とを両立させていたといいます。映画『シンドラーのリスト』で、ナチスの所長たちが一方で平気で虐殺しながら、家庭では家族と一緒に音楽を楽しんでいた場面を思い出します。人間のもつ二面性ですね・・・。
ゴットリーブはCIAで20年間、史上類をみない組織的なマインド・コントロール研究を指揮した。そして、CIAの毒物製造主任でもあった。CIAを退職する前にすべての記録を破棄し、それを認めた以外、議会ではほとんど何も認めなかった。免責特権を行使し、どの裁判でも有罪にはならなかった。
54歳でCIAを引退し、ボランティア活動などをしたあと、80歳まで長生きした。
1969年代、ゴットリーブは、CIAの諜報員が使う道具をつくる技術支援部の部長に昇進した。ゴットリーブは、ワシントンで活気あるスパイ工房を運営し、世界中に散らばる数百人の科学者や技術者の仕事を監督した。
CIAはナチスの犯罪者が裁判で有罪にならないようにし、日本の七三一部隊の責任者だった石井四郎を確保してCIAに協力させた。
CIAのトップは、1950年代にマインド・コントロールは将来の決定的武器になると考えた。
人間の思考を操る方法を見つけた国こそが世界を支配すると信じた。
ゴットリーブは、ブロンクスの移民の子で、跛行と吃音のある32歳のユダヤ人だった。アメリカの上流階級の人々とはあまり交流しなかった。
CIAは、共産主義者が「洗脳」術を獲得したと大衆に信じ込ませているうちに、自らも、そのプロパガンダの虜になっていた。ということは、共産主義者による「洗脳」というのは幻だったということのようです・・・。
大麻もコカインも、そしてヘロインも「特殊な尋問」にはあまり役に立たないことが判明した。
ゴットリーブはLSDに注目した。
1951年、ソ連の協力者だと疑われた4人の日本人がCIAの医師によって覚醒剤その他を注射され、過酷な尋問のなかで「自白」した。4人は東京湾沖で撃ち殺され、遺体は船から投げ捨てられた。うひゃあ、怖いですね・・・。
CIAのトップは、ゴットリーブたちのやっていることをソ連がやっていることだと巧みに言い換えて発表して、世論を誘導した。
CIAのマインド・コントロール実験は過激になり、犠牲者が増えていった。そして、中国人もきっと自分たちと同じことをしているに違いないと誤った推測をした。ところが、朝鮮戦争で捕虜になっていた元アメリカ兵たちで、残留していたもと脱走兵たちがアメリカに帰国してきて判明したのは、「洗脳」はなかったということ。しかし、「洗脳」というコトバは、なんでも説明できる素晴らしく便利な概念だった。CIAは、すっかりこの幻想にとりつかれていた。CIA元局員は、CIAは自白を強要し、洗脳する。ありとあらゆる薬物をつかう。そして、ありとあらゆる拷問を用いる、と語った。
CIAの局員の多くは、祖国アメリカを破滅から防いでいるのは自分たちだと信じていた。
CIAはインドネシアを訪問する中国の周恩来を暗殺する計画を立て、実行した。周が乗るはずの飛行機は空中爆発したが、周は予定を変更していた。次に、バンドン滞在中の周を毒殺しようとした。
1960年にソ連上空を飛んでいたスパイ偵察機U2がソ連のミサイルで撃墜された。パイロットのパワーズは自殺用の毒物を使わなかった。
CIAはアフリカのルムンバ首相を暗殺しようとして失敗し、キューバのカストロ暗殺にも失敗した。ゴットリーブの役割は、殺害の手段をチームに伝達することにあった。
人間は、どこまでも他人に対して残酷になれるし、それを拒否してたちあがる人もいることがよくよく分かります。読みたくなんかありませんが、CIAの実態を知るには欠かせない本です。
(2020年1月刊。2700円+税)

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