法律相談センター検索 弁護士検索

舌を抜かれる女たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 メアリー・ビアード 、 出版 晶文社
出だしがホメロスの『オデュッセイア』です。
ペネロペイアはオデュッセウスの妻であり、テレマコスの母。
ペネロペイアが吟唱詩人にもっと楽しい別の歌をうたってくれないかと頼んだとき、息子のテレマコスが次のように言って待ったをかけるのです。
「母上、今は部屋に戻って、糸巻きと機織り(はたおり)というご自分の仕事をなさってください。人前で話をするのは、男たちの仕事。とりわけ私の仕事です。私が、この王宮の主なのですから…」
3千年前のギリシアで、女性の公的発言が封じられる様子が語られていますが、これは今に通用するのではないか…。これが、この本の一貫した主張です。なるほど、かなりあたっていますよね。
古代ローマの『変身物語』では、若き王女ピロメラがレイプされる話があり、レイプ犯はルクレティアが強姦者を糾弾したことを知っていたので、その二の舞になることを恐れて、ピロメラの舌を切ってしまう。シェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』でも、同じようにレイプされたラヴィニアが舌を切断される話が登場する。
古典文学では、女性の声に比べて低い男性の声の権威がくり返し強調されている。低い声は男らしい勇敢さを。女性の甲高い声は臆病さを表した。
おおやけの場で声をあげる女性は、古代ローマのマエシアのように、両性具有の変人と扱われるが、みずからそうふるまっている。たとえば、エリザベス1世がそうだ。
イギリスでは、女性が財務大臣になったことは、これまで一度もない。
あまり受けのよくない議論を呼ぶような意見、人と異なる意見を言うだけでも、それを女性が口にすると、お馬鹿な証拠だととられる。
マーガレット・サッチャーは、声を低くするボイストレーニングを受け、甲高い声に「足りない」威厳を加えようとした。
イギリスの国会議員のうちの女性は、1970年代には4%にすぎなかったが、今は30%。いったい日本はどうでしょうか…。それでも、女性の大臣でもぱっとしない人が目立つのが残念です。今の森まさ子法務大臣、稲田朋美、片山さつきなどなど、そのレベルのあまりのひどさに嫌になってしまいます。
イギリスでは、ロンドン警視庁の総監もロンドン大主教も女性。あとなっていないのはBBCの会長だけ…。日本とは、まるで大違いですね。
わずか100頁あまりの本ですが、ずしりと重たい本でした。
(2020年1月刊。1600円+税)

40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 デイヴィッド・J・リンデン 、 出版 河出書房新社
この本を読んで、私たちの脳についてさらに新しい知見を得ることができました。
たとえば、味覚です。いま、労災事故でアゴを負傷したため味覚を喪ってしまったという労災事故案件を扱っていますが、味覚を喪失するというのは、人生の最大の楽しみの一つである食事の喜びがないということです。なんという悲劇でしょうか…。
そして、この本によると味覚は消化にも関連しているというのです。
健康的で適切な消化を行うためには、食物と栄養素の摂取が予期され、身体が十分に準備を整えていなければならない。たとえば、胃の攪拌運動、腸の律動的な収縮、口内の唾液の分泌、血中への早めのインシュリン放出などの内分泌、栄養素を腸を通して血中に運ぶたんぱく質を増加させる分子反応など……。
脳とコンピューターを比較すると、脳の動作速度は最大で毎秒1000回の基本動作ができる程度なので、コンピューターの1000万分の1でしかない。精度の面でも、コンピューターのほうが脳より100万倍も優れている。
しかし、脳は大規模な並列処理ができるし、している。ひとつのニューロンが1000個のニューロンから入力を受け、また1000個のニューロンに出力する。こんなことはコンピューターには出来ない。さらに、脳のニューロンは、アナログの信号も使う。
他者を助けるというのは、哺乳類の基本行動だ。アカゲザルを10年間にわたって研究した結果、正常な社会的発達には、とくに同世代の仲間との社会的な触れあいが決定的に重要であることが判明した。
哺乳類であるというのは、単に身体的な問題ではなく、社会化により脳回路が形成されていなければならない。
恋愛と愛着は、私たちにとって非常に基本的なもので、生存にも非常に重要である。私たちは互いを必要とする。この世界で守ってもらうため、そして楽しみのために私たちは互いを必要とする。
人間とは何か、脳はどんな働きをしているのか、私の最大関心事です。
面白くて、一気読みしましたし、できました。
(2019年12月刊。2100円+税)

任侠シネマ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 今野 敏 、 出版 中央公論新社
ヤクザの世界をあまりに美化しすぎているとは思いつつ、高倉健の映画のイメージで、読みものとしては面白く読みすすめていきました。
世の中の諸悪の根源は竹中平蔵とか電通のような、人の不幸で金もうけをたくらむ連中が大手を振るっていて、マスコミが彼らを持ち上げ美化していることだと弁護士生活も46年になる私はつくづく思います。
この本でも、竹中平蔵のような人物が本当の黒幕として登場してきますが、彼らは決して自分の手を汚すことなく、濡れ手に粟のもうけだけをかっさらっていきます。そして、それをアベ首相が支え、マスコミが現代の成功者ともてはやすのです。ほとほと嫌になってしまいます。
この本は、映画館が倒産・閉館寸前になっているのを、なんとか立て直せないかというのが、メイン・テーマです。この本をこのコーナーで紹介したいと思ったのは二つあります。その一つは、映画館でみる映画の魅力。そして、二つ目は刑事司法の実際です。
「映画はな、いろいろなことを教えてくれるし、人生を豊かにしてくれるんだ」
「スクリーンに向かっているあいだは、現実を忘れさせてくれる」
「写真と写真のあいだに暗闇があり、目をつむっているのと同じだ。人間、目をつむっているときには夢を見ている。だから、映画は夢のメディアなんだ…」
昔のフィルムは、ニトロセルロースという材料で出来ていて、とても燃えやすかった。しかも、映写機のライトはものすごく熱を発したので、専門の技術がないと、フィルムが燃えてしまう。1950年代にアセチルセルロースのフィルムに変わった。でも、これは、すごく劣化するのが早かった。1990年代にポリエステル製に変わった。これは燃えにくく、安全。
今は、デジタルで上映する。データで配給されたものを入力してやり、ボタンをポンで上映可能だ。
誰も、自分が犯罪者にされたときのことを想像しない。だが、犯罪者とそうでない者を分ける垣根は普通に考えるよりも、ずいぶんと低い。言いかえると、人はいつ犯罪者になるか分からない。さらに、警察によって犯罪者されるのは、実際に犯罪者になるよりも、ずっと簡単だ。
身柄をとってしまえば、あとは人質司法と呼ばれる勾留、さらに勾留延長――くり返しだ。こんなことされたら、たいていの人は精神的に参って、嘘の自白をしてしまう。検察が何よりほしいのは、この自白なのだ。自白があれば、起訴にもちこめる。
裁判官は無罪か有罪かの判断など、しない。有罪を前提として、量刑のことしか考えないのだ。無罪かどうかなどを考えていては、いつまでたっても仕事は終わらない。
警察と暴力団の癒着の構造。今や、寿司の出前(配達)までも暴力団の事務所へは禁止されていることの問題点の指摘も登場し、詳しく解説されます。
軽く読めて、刑事司法の問題をもつかめる本になっています。
(2020年6月刊。1500円+税)

未来のアラブ人(2)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 リアド・サトゥフ 、 出版 花伝社
フランス人の母、シリア人の父をもつ6歳の子どもの目を通した1984年から1985年ころの中東の子どもたちの生活がよく描かれています。
シリアで6歳になったので、学校に行きはじめます。ところが、学校は男の子ばっかり、女の先生は容赦なく生徒の手を手にした棒で叩きます。体罰なんて平気なのです。
フランス人の母親をもつ6歳の男の子(著者)は、ユダヤ人とみなされ、ことあるごとにいじめの対象になります(何人かは著者を守ってくれるのですが…)。
アラブ人のなかで、著者はいつまでたっても浮き上がった存在です。
父親はフランスで博士号をとった学者なのですが、よりよい仕事を求めて、有力者に売り込むのに必死。
父親の夢は、自分の土地に宮殿のような豪華な建物をたてること。ところが、父親から土地を取り戻されてしまった身内の人間からは、早くフランスに帰れと言わんばかりの扱いを受けるのです。
たまに母親の実家のあるフランスに戻ると、まるで別世界。スーパーには、いろんなものが、それこそ、よりどりみどり…。何もないシリアの生活とは落差が大きすぎます。
6歳当時の子ども時代をこんなに思い出せるとは、とてもとても信じられません。でも、話の展開にはリアリティがありすぎて、すごいんです。
いやはや、シリアの小学生って、本当に大変なんだな…、つい、そう思ってしまったことでした。中東・アラブの生活に少しでも関心があったら必読(必見)の本です。
(2020年4月刊。1800円+税)

タルピオット

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 石倉 洋子とナアマ・ルベンチック 、 出版 日本経済新聞出版社
イスラエルの人口は900万人で、大阪府と同じくらい。面積は四国くらい。
イスラエルの成長をけん引しているのは、ハイテク産業。イスラエルの輸出に占めるIT製品の割合は、10.8%(2017年)。
日本企業71社がイスラエルに拠点を置いている(2018年10月現在)。5年間で3倍に増えた。
イスラエルの食糧自給率は9割超。砂漠で食料を自給するための技術開発も進んでいる。
天然資源のないイスラエルにとって、唯一の資源は、人であり、頭脳だ。
ユダヤ人は、既存の枠組みや前提条件を疑うところから始めて、新しいアイデアを出そうとする。ルールは絶対ではない。なぜダメなのかと問いかけ、議論するのがユダヤ人だ。
イスラエル人は、非常によく質問する。質問することで、お互いの視点の違いを知ることができるし、思考が刺激されて内容が発展し、新しいものが生まれることが多い。
イスラエル人の「質問好き」は、常識や前提条件を疑い、新しい発想での課題解決がイノベーションを生むことにつながっている。
イスラエルでは、正解、不正解がはっきりとした試験は少ない。正解、不正解が明確な試験だと、選ばれる人が画一化してしまうからだ。
イスラエル国民は、18歳(高校卒業)から男子3年、女子2年の兵役義務がある。
タルピオットの選抜プロセスは、高校生の早い段階から始まる。成績、健康状態などの一般的な試験で1万人が選ばれる。そして、物理、数学、コンピューターサイエンスや歴史などの科目について、クリエイティピティを測る試験があって数百人にしぼりこまれる。次に3日間の合宿があり、グループに分けられて、複数回の面接で最終的に50人が選ばれる。このこき、学業成績がトップというだけでは選ばれない。リーダーシップ、チームワーク、創造性が重視される。
タルピオットは、3年間(40ヶ月)のトレーニングプログラム。受講生の4分の1が途中でドロップアウトしてしまう。
過去40年間でタルピオットの卒業生は1000人のみ。卒業生はタルピオンと呼ばれ、イスラエル国防軍のさまざまな部隊に配属される。そして最低でも6年間は従軍し、現場で力を発揮する。
イスラエルにあって、日本にないものは、失敗を許容する文化だ。
スタートアップ(起業)でも失敗を恐れない、これは大切なことだと私も思います。
人材重視のイスラエルで成績優秀な若者を確保し、育成していくシステムがあるというのを初めて知りました。道理で強いわけです。
日本では「教育重視」のかけ声だけで、アベ流の教育改革は一部のエリート層の育成にのみ目を向け、一般ピープルを見事に切り捨てています。これでは日本はますます世界から置いていかれるだけではないでしょうか…。
(2020年3月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.