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ベルリン1993(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 クラウス・コルドン 、 出版 岩波少年文庫
ヒトラーが政権を握るまでのベルリンの労働者街の日々が描かれた小説です。主人公は、もうすぐ15歳になる14歳の少年。姉と屋根裏部屋で生活しています。
父親は元共産党員として活動していたが党と意見が合わなくなって脱党。兄は共産党員として活動している。一緒に生活している姉は、なんとナチ党の突撃隊員と婚約し、それを合理化する。怒った父と兄は、もう姉とは絶好だと宣言する。
では、なぜ姉はヒトラーのナチスに惹かれるのか…。
「社会民主党は口先ばかりだし、共産党は世界革命だとか、全人類の幸福だとか、できっこないご託(たく)を並べているばかり。私の望んでいるのは、そんな大きな幸福じゃなくて、個人のささやかな幸福なの…」
「きのう、共産党を選んだ600万人のほうが、ナチ党を選んだ1400万人より賢いって、どうして言えるのよ」
「あたしたちは、馬車に便乗して、すいすい行くことにしたの。乗らなければ、置いてけぼりをくうわ」
ドイツ共産党の党員の多くは知識階級を好まない。労働運動に真剣に取り組むのは労働者だけ、知識階級は偏向しやすいと考えている。
共産党だって世の中の不正に反対している。ただ、やり方を間違えている。ドイツの良心を忘れ、モスクワの言いなりになっている。
姉の婚約者は次のように言う。
「ヒトラーは、経済を立て直す方法を知っているんだ。国会議員は、おしゃべりばかりだ。しゃべるだけでしゃべって、なんの行動もとらない。民主主義なんて、役に立つものが今は強い男が必要なんだ。
おれたちは世の中を変えたいんだ。平和とパンが望み。そして、みんなが仕事をもてること。これを、ヒトラーは約束している。突撃隊のホームに行けば、毎日、スープが飲めるんだ。ここは、ちゃんと話しかけてくれるし、話も聞いてくれる。ヒトラーが政権につきさえすれば、みんな仕事がもらえるんだ…」
主人公はヒトラーの『我が闘争』を読んだ。退屈な本だった。ヒトラーの言葉は、ふやけていて、おおげさだ。読み通すのに苦労した。
ヒトラーは、いざとなればフランスと戦争するつもりだ。そして、ユダヤ人を排斥しようとしている。どちらも信じられないことで、あまりにリスクを伴う…。
この本ではナチ党の脅威を前にして、なぜ共産党と社民党が統一行動をとらなかった、とれなかったかの事情を明らかにしています。
要するに、共産党は社民党について、真っ先に打倒すべきものとしている。社民党は、今の国家体制を維持したがっている。共産党は転覆させたがっている。この両党には、長い歴史がある。政治的対立というのは、ウサギをオオカミに変えてしまうもの。
ナチ党の突撃隊員は主人公の職場にもいて、「ハイル・ヒトラー」の敬礼を唱えないと、ボコボコにされてしまいます。工場内では孤立無援になるかと心配していると、助っ人も登場します。
街頭でも職場でも、むき出しの暴力が横行しています。ナチス突撃隊の集団的暴力に対抗して、共産党の側も暴力で立ち向かうのですが、警察はナチスの側につきますし、共産党の側は不利になるばかりです。
むき出しの暴力に暴力で対抗しても、本質的な解決にはならないことを、私は東大闘争の過程で全共闘の「敵は殺せ」の暴力を目のあたりにして、身をもって考え、体験させられました。
そして、当時のドイツ共産党については、スターリンの狡猾なヒトラー接近策のなかで踊らされてしまったという側面は大きかったと思います。
「少年文庫」ではなく、大人向けレベルの本です。
(2020年4月刊。1200円+税)

その犬の名前を誰も知らない

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 嘉悦 洋、北村 泰一 、 出版 小学館集英社
圧倒的な面白さです。ページをめくる手がもどかしく感じられました。
日本が初めて南極で越冬したのは1957年から翌58年にかけての1年間のこと。1958年2月、第一次越冬隊は無事に全員が南極観測船「宗谷」に収容された。引き続き第二次越冬隊が昭和基地で越冬するはずだった。ところが、悪天候のため急に中止となり、第二次隊も「宋谷」にひき戻された。すると、第二次隊のため昭和基地に残された15頭のカラフト犬は見殺しにされる…。
日本の国民世論は怒りに沸騰した。カラフト犬たちは、第二次隊員のため、逃げないよう鎖につながれたままなので、餓死するに決まっている。そして、大半はそうなった。
ところが、北大の犬飼教授は、1頭か2頭は生き延びる可能性があると予言した。
そして、1年後の1959年1月14日、第三次観測隊が昭和基地に到着すると、なんと、タロとジロという2頭が生きていたのです。
私も小学生でしたので、この感激ははっきりとした記憶があります。日本中が震えました。
捨てられた恨みからかみついてくるのを心配し、犬の世話係は恐る恐る近づいたのでした。そして、タロもジロも自分の名前を呼びかけられて、やっと安心して近寄ってきたといいます。恨んではいなかったのでした。顔をペロペロなめて、とても喜んだのです。
そして、この本は、実はタロとジロが生きのびたのには、この2頭をリードした先輩犬がいたのだということを解き明かしています。それは、1968年2月に昭和基地の近くで1頭のカラフト犬の遺体が発見された事実にもとづく推測です。この事実は、同時に行方不明になっていた福島隊員の遺体が見つかった報道のかげにひっそりと隠れてしまい、報道されることがなかった。
タロとジロは発見されたとき、やせおとろえていたのではなく、丸々と肥え太っていた。いったい、何を食べていたのか・・・。それは、昭和基地にあった貯蔵庫の食糧品などをリーダー犬とともに掘り出して食べていたのだろうと推測されています。そして、タロもジロも、昭和基地に着いたときには幼犬だったのでした。これも生きのびた理由のようです。
なーるほど、と思いました。
ペンギンとかアザラシを襲って食べて生きのびたという説もありましたが、それは、あまり現実的ではないようです。
この本の面白さは、このような謎解きもさることながら、カラフト犬を犬ゾリ用に訓練し仕立て上げていく過程、南極での犬ゾリ旅行の大変さは、まさに手に汗握る迫真の状況描写の連続だからです。
カラフト犬にも、本当にいろいろ性格の違いがあること、極限状態に置かれたら、ヒトもイヌも一緒になって困難を乗りこえようと心を通わせる必要があるというところに、心打たれました。犬にも感情があり、プライドがあり、根性があるのです。あとは、それを人間がどうやって奮い立たせるか、これは信頼なくしてはやれないことです。
5月の連休最後の日曜日、寝食を忘れて(ウソです。でも、おかげで昼寝しそびれてしまいました)一心不乱に読み通しました。
少しでも犬に関心のある人には絶対におすすめの本です。犬って、やはりすごいですね…。
(2020年4月刊。1500円+税)
 土曜日の夜、うす暗くなったので、孫たちとホタルを見に行きました。歩いて5分のところに小川があり、まさにホタルが乱舞していました。これまでになく、たくさんのホタルがフワリフワリと明滅しながら漂っていました。ときどき手のひらに乗せてホタルの光を手でも感じました。孫の手のひらにも乗せてやると喜びます。
 土曜日の午後は、梅の実をちぎりました。バケツに2杯とれ、早速、梅ジュースを味わうことができました。
 日曜日の午後はジャガイモ掘りです。池中から大小さまざまなジャガイモが姿を見せ、孫も大喜びで、夕食のとき小さなジャガイモをバタジャガでいただきました。
 田舎に住む良さをしっかり味わっています。

リープ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ハワード・ユー 、 出版  プレジデント社
優位性が揺るがないような、独自のポジショニングを追及しても、それは幻想にすぎない。どんな価値提案も、それにどれほど独自性があっても、脅かされないことはない。よいデザインや優れたアイデアも、それを企業秘密にしても、特許があっても、結局はまねされる。
こうした状況の下で、長期にわたって成功するための唯一の方法はリープ(跳躍)すること。先行企業は、それまでとは異なる知識分野に跳躍して、製品の製造やサービスの提供に関して、新たな知識を活用するか、創造しなければならない。そうした努力が行われなければ、後発企業が必ず追い付いてくる。
「模倣の国」と呼ばれたスイスでは、化学会社は自由に海外企業のまねができた。それどころか、模倣が推奨されていた。模倣は大成功し、チバは1900年にパリで開かれた万国博覧会で大賞を受賞している。
企業の経営者は、複雑で、変化する環境を相手にしている。数年前にうまくいったことが、永遠にうまくいくとは限らない。企業は、まだ時間があるうちにリープすればよい。
正しいシグナルに耳を傾けるためには、忍耐力と規律が必要だ。チャンスをつかむためには、必ずしも最初に動くのではなく、最初に正しく理解することが求められる。そのためには、勇気と決断力が必要だ。リープを成功させることとは、一見すると矛盾するこの二つの能力をマスターすることである。この待つための鍛錬と、飛び込むための決断力をバランスよく組み合わせることができれば、その見返りは大きい。
自らが置かれた状況を理解しようと頭を悩ませ続けられる能力こそが、知的なマシンの時代に人間がもち得る最大の強みだ。
大規模で複雑な企業の生活を脅かす最大のリスクは、内部の政治的な争いと、誰も率先して行動を起こさないこと。
企業の寿命は、1920年代には67年だった。今日ではわずか15年だ。アメリカの大企業のCEOの平均在籍期間も、この30年のあいだに短縮している。
いま、私たちは変化が加速している世界に生きている。
そうなんですよね…。でも、昨日と同じ今日があり、明日があると、ついつい思ってしまうのです。その点も大いに反省させられるビジネス書です。
(2019年12月刊。2200円+税)

旅人の表現術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 角幡 唯介 、 出版 集英社文庫
著者の旅行体験記である『空白の五マイル』そして『極夜行』には、ため息を吐くのも忘れてしまうほどに圧倒されてしまいました。もちろん、その旅行から無事に生還して体験したことを文章化しているわけですが、その旅行では極限の窮地に置かれ、どうやってこの死地から脱出するのか、つい手に汗を握ってしまいます。
著者は初めから文章や本を書くことを前提に探検や冒険に出かけている。
はじめのころは、行動者としての自分、表現者としての自分が分裂し、自己矛盾をきたしているのではないかというジレンマにかなり悩まされた。しかし、今では、このジレンマに苦悩することは、ほとんどなくなった。それは探検家としての行動者的側面と、書き手としての表現者的側面が自分のなかで無理なく一つにまとまっていると感じることができるようになったからだ。
なーるほど、ですね。なんだか悟りの境地にある仙人みたいです。
冒険とは、死を自らの生の中に取り組むための作法である。
経験とは、想像力を働かせることができるようになることだ。自分だけの言葉で語ることのできる事柄を、自分の中に抱えこむということだ。冒険のあいだ、死にたいする想像力をもつことができる。
探検は冒険の一種だ。冒険というのは、個人的な行為だ。主体性があって、生命の危機にかかわる行為であれば、それは冒険だ。探検は、それに未知の部分が加わる。
探検はアウトプットを必要とする。冒険はアウトプットを最終的な目的としない。
本多勝一、開高健の作品もすごいと思って読みましたが、著者の探検記も、生と死の極限状態をギリギリのところまで究めようとしている壮絶さがあります。
この本は、そんな著者がいろんな人と対談しているので、さっと読めますし、ああ、そういうことだったのか…と、いろいろ教えてくれました。
(2020年2月刊。700円+税)

国策・不捜査―森友事件の全貌

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 籠池 寿典、赤澤 竜也 、 出版 文芸春秋
森友事件で籠池夫妻のみが強制捜査の対象となり、刑事裁判になっているのは、どう考えても納得できません。巨悪を逃れしてはいけないのです。
森友事件の本質は、9億円の土地が1億円に大幅値引きされたこと、この8億円の値引きは地下3メートルより深い地点に「新たなゴミ」が発見されたからという理由から。しかし、実は、そんな「新たなゴミ」なんてなかったし、8億円もの値引きにつながるものではなかったのです。
では、何があったのか。それこそ、ズバリ安倍首相案件だったからです。昭恵夫人が前面に出てきますが、その裏には首相本人がいたのです。そのことを当事者として関与した近畿財閥局の担当官A氏(赤木氏)は、苦悩したあげく、ついに自死されました。
いったい、誰がそこまで追い込んだのか…。ところが、財務省の上司たちは、その後、実は、順調に昇進していき、現在に至っています。信じられません。昭恵夫人の秘書役だった谷氏もイタリアの駐日大使館へご栄転の身です。
私は、つくづくこんなキャリア官僚のみちに足を踏み入れなくて良かったと思いました(いえ、大蔵省なんて望んでも入れない成績でしたけど…)。
稲田朋美氏は弁護士として古くから籠池氏と関わりがあるのに、国会では、「ここ10年ほど会っていない。かすかに覚えてほどで、はっきりした記憶はない」、「籠池氏の事件を受任したこともなければ裁判をしたことも法律相談を受けたこともない」などと答えていた。
ところが、籠池氏は、この本のなかで稲田朋美・龍示夫妻(いずれも弁護士)に森友学園の顧問弁護士になってもらい、担保権抹消の裁判を依頼したりして、深く関わっていたことを明らかにしています。
ということは、稲田朋美弁護士(議員)は、とんでもないウソをついていたことになります。そんな人物が自民党を代表してテレビ討論会に堂々と登場してくるのです…。
「安倍晋三記念小学校」という名称は、実は、安倍首相の自民党が野党のときのことで、首相になったあと、昭恵夫人が、現役の首相になったので、この名前を辞退したいと申し入れたとのこと。
なーるほど、と思いました。それほど、籠池夫妻は安倍晋三という議員に思い入れがあったわけです。
ところが、安倍首相は、そんな籠池氏を国会という公の場でバッサリ切り捨てたのでした。
「非常にしつこい人物」
「名誉校長になることを頼まれて、妻は、そこで断ったそうです」
「この籠池さん、これは真っ赤なウソ、ウソハ百…」
すべては、安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということをはっきり申し上げておきたい」と、2018年2月17日の国会で答弁したことに端を発している。
これだけ「関係していた」ことが明らかになっているのだから、今なお安倍晋三が首相どころか、国会議員であることが不思議でなりません。世の中、ウソが通れば、マコトがひっこむというのを地で行っています。
しかも、このような人が「道徳教育」に熱心なのだから、世の中はますます狂ってきますよね…。プンプンプン。
堂々480頁もある本です。籠池氏の怒りがびんびんと伝わってきます。保守主義者、天皇主義者そして生長の家信者というところは何ら変わっていないとのこと。それでも安倍首相を支持する側から、反対する側にまわったことは明確です。いわば、日本人として良識を取り戻したということなのでしょう…。
(2020年2月刊。1700円+税)

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