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カムイの世界

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 堀内 みき、堀内 昭彦 、 出版 新潮社
語り継がれるアイヌの心というサブ・タイトルのついた、写真集のような本です。オビには、アイヌ文化の深層に迫る初のビジュアル人門書とありますが、なるほど、素晴らしい出来ばえの写真のオンパレードになっています。
アイヌは少数民族ではない。先住民族だ。
まさしく、そのとおりですよね。よく日本は単一民族という人がいますが、それはアイヌの存在を無視しています。
アイヌには祭りなんてない。あるのは、カムイノミと先祖供養だけ。
平取町二風谷(にぷうだに)は人口400人で、住民の8割近くをアイヌの人々が占める。
文字をもたないアイヌ民族は、ユカラに限らず、子どもに大切なことを伝えるのにも、何度も繰り返し言い聞かせ、徹底的に覚え込ませるという方法をとった。
ユカラの語源も「まねる」。最初はまねから始めて、口から口へと語り継がれてきた。節をつけるのは、語るほうも聞くほうも、頭に入りやすいから。夕飯のあとなどに、毎晩、囲炉裏を囲んで語られた。
アイヌの先祖供養では、宅配便と同じで、届け先と送り主を明確にすることが大切だ。供物を捧げる前に、自分の名前とご先祖さんの名前をきちんと言う。そうしないと届かない。
アイヌは、どんなものでも分けあって食べる。みんなで等分に分ける。それがアイヌの精神だ。これは、アイヌの人々が狩猟採集民族であることにも関わっている。狩猟で得た熊や鹿などの大きな動物は、一家族では食べきれない量がある。そのうえ、コタンには、働き手を喪った未亡人家族や一人暮らしの老人もいる。分けあう行為は、ある意味でごく自然なことだった。
アイヌの人々は和人(日本人)の横暴と戦ってきた。
1457年のコミヤマインの戦い。
1669年のシャクシャインの蜂起。
1789年のクナシリ・メナシの戦い。このとき蜂起の中心人物37人が処刑された。
アイヌの人々の心と歴史が、くっきり鮮明で素敵な写真とともに語られています。
(2020年3月刊。2000円+税)

甲賀忍者の真実

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 渡辺 俊経 、 出版 サンライズ出版
甲賀市は滋賀県、伊賀市は三重県に、それぞれ属するのですね。そして、この両市は2017年4月に「忍びの里、伊賀、甲賀―リアル忍者を求めて」として文化庁から日本遺産として認定されました。
著者は尾張藩忍者の子孫であり、蔵のなかに古文書が残されていたとのこと。
著者の曽祖父・渡辺平右衛門俊恒は、幕末の尾張藩最後の忍者の一人だった。
関ヶ原の戦い(1600年)で西軍に属して敗戦した島津義弘の軍が関ヶ原を中央突破して鹿児島になんとか帰還したとき、島津軍が最初の夜を明かしたのは甲賀の飯道山上だった。これは、飯道山山伏と薩摩山伏たちの全国ネットが活かされた成果だった。
これって、ホントですか。初めて知りました。
甲賀武士たちは、絶対的な指揮官がいなくても、甲賀武士全員に分かるように目標設定さえできたら、甲賀武士同士が自主的に行動して目標を達成できた。すなわち、甲賀武士たちは、お互い横の関係で対等であり、それぞれが互いに信頼でき、的確に判断でき、的確に決断し、行動できた。
戦国時代の甲賀における識字率は高かった。それは、飯道山が山伏の修行の場として一般人を受け入れたので、格好の教育機関の役割を果たしたから。リテラシーの高さ、各種知識の豊富さ、武術の強さが、甲賀の自治を育み、甲賀の若者を飛躍させた。甲賀忍者の基礎の一つがここにあった。
本能寺の変のあと家康が「伊賀国」を通過したのは、服部半蔵の働きによるという説を著者は間違いだと強調しています。家康一行の窮地を救うために全力で支援したのは、甲賀武士であって、服部半蔵は、「岡崎生まれの岡崎育ち」なので、役に立ったはずがないとしています。
甲賀武士のおかげで助かったことから、家康は甲賀武士たちを厚遇したというわけです。
そして、石田三成と徳川家康が戦った関ヶ原の戦いの前哨戦となった伏見城の戦いで、十数人の甲賀忍者が裏切りはしたものの、残る80人の甲賀忍者は討ち死にしたので(数人のみ生き残った)、彼らの遺族は甲賀武士として家康は然るべく処遇した。それが「甲賀百人組」の起源なのだ。
なるほど、そういうことだったのかと思うところが多々ありました。
150頁ほどの冊子ですが、よく調べてあると感嘆しました。
(2020年2月刊。2400円+税)

山岳捜査

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 笹本 稜平 、 出版 小学館
先日、たまたまテレビを見ていたら、若いころ登山に熱中していたという老年の社長が、一緒に山に登った仲間が何人も山で死んでいったという話をしていました。
十分な準備をして、訓練もしっかりしていても、落石や雪崩にあって生命を落としたり、ほんのちょっとの慢心から転落したりして、大勢の若者たちが生命を失っています。
本人がその危険を承知で登山しているのですから、誰も責めるわけにはいきませんが、他からみていると、あたら生命をそんなに「粗末に」扱わなくてもいいのに…、と思ってしまいます。
私は冬なら、ぬくぬくとした布団で、ぐっすり眠っていたいです。
この本は、冬山で遭難している登山客の山岳遭難救助隊が主人公です。ご苦労さまとしか言いようがありません。
ヘリコプターを飛ばせたら簡単なんでしょうが、冬山の吹雪のなかではヘリコプターによる救出もできないのです。結局は地上をはって進むしかありません。でも、ホワイトアウト、周囲がまっ白になって何も見えなくなったら、どうしますか…。
この本には、たくさんの耳慣れない登山用語が出てきます。
セルフビレイ……自己確保。
プロテクション……墜落距離を短くし、墜落のショックをやわらげるために登攀者と確保者とのあいだにとる支点。
落ちることを恐れていては、大胆なムーブ(体重移動)を試みられない。壁を登るとき、体や気持ちが萎縮すれば、かえって危険を招きやすい。
ワカンをつけてもラッセルは腰くらいまであるが、下りは登りと比べてはるかに楽だ。
怖いのは、乱暴な動作で雪崩を引き起こすことだ。
テントが押し潰されたら耐寒性は低下する。そして、雪に埋没したら酸欠に陥る恐れがある。
テントには保温性と通性という二律背反する機能が要求される。あらゆる条件で、この二つの要素を満たす製品はない。
救難の現場では、心拍停止後、おおむね20分が蘇生可能な限界だと言われている。
山岳遭難救助隊は自らが遭難しないことを第一義として考え救助に向かっているという当然のことがよく理解できました。現場は遭難するのも当然という状況にあったりするわけですので、それはやむをえない発想だと実感しました。
殺人事件の謎解きのほうは、今ひとつピンと来ませんでしたが、山岳遭難救助隊の大変さのほうは、ひしひしと迫ってきて、よく分かりました。
(2020年1月刊。1700円+税)

経済学を味わう

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 市村 英彦・岡崎 哲二ほか 、 出版 日本評論社
東大の教養学部(駒場)で経済学がどのように教えられているのかを本として紹介している本です。
東大生(1年生と2年生)に大人気で、教室に入りきれず、立見の学生まで出ているようです。私のときはサムエルソン『経済学』がテキストでしたが、さっぱり理解できませんでした。
この本でも計量経済学とか難しい数式が羅列しているところは読み飛ばしてしまいました。この本は、現代の経済学は何を、どのように扱っているのかを教えてくれます。
現代の経済学では、「市場に任せるだけでは十分ではない」と考えられている。
まことにそのとおりです。市場にまかせていればいいというのであれば、政府は不要です。
経済学では、すべての個人が自分の利益を追求して行動すると、結果的に社会全体が望ましい状態に落ち着く。これを厚生経済学の基本定理という。
市場は効率的である。ただし、市場は万能ではない。所得と資産は、一見すると似ているが、内面的な性質は大きく異なっている。資産はストックであり、所得はフロ―である。
各人の効用にもとづき、各人の幸福を最大限実現できる社会にしようと考えるのが経済学である。
実社会のなかの人々の行動の結果として得られたのは観察データ。
何らかの人為的介入のもとに作成されたのが実験データ。
開発経済学とは、経済的にも独立を果たすためにはどうしたらよいかという課題を解決するためのもの。この開発経済学は1990年代まで衰退していたが、この15年間で一気に復活した。2019年には、この分野でノーベル経済学賞を受賞した。
この流れの記述のなかで、バングラデシュの貧困地域で、公文(くもん)式学習法が子どもの算数能力を改善するのに抜群の効果を示したことが紹介されています。そして、アメリカでも、アジア系の人々のなかに公文式学習法は高く評価され、人気があるというのを別の本で読みました。
経済学といっても、いろんな対象を扱い、いろんな手法があることがざっと分かりました。なるほど、これなら大学1年生とか2年生に人気のある授業だと思います。
(2020年4月刊。1800円+税)
 大雨が降って大洪水となって大変でした。人吉ほどではありませんが、福岡県南部も被災者がたくさん出ました。2階にある私の法律事務所も雨漏りのため天井の一部が崩落するという被害が発生しました。
 いま、庭のあちこちにピンクのリコリスがすっくと立って咲いています。ヒガンバナ系統です。いつも夏到来を告げる花なのです。晴れ間のうちに、サツマイモの苗の手入れをしました。
 ヒマワリが少しずつ伸びています。炎暑の夏がやってきそうで、熱中症を本気で心配しています。

イラン現代史

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 吉村 慎太郎 、 出版 有志舎
コロナ禍のおかげですっかりヒマとなり、読書と整理・整頓そしてモノカキがすすみます。
イランという国は、私にとってとてもイメージのつかみにくい国ですので、その現代史を語った本を読んでみようと思いました。といっても、奈良の正倉院には今から1200年以上も前の奈良時代にシルクロードを通じてペルシア(ササン朝)の産物が御物として奉納されています。溙胡瓶、白瑠璃碗、金銅八曲長杯、狩猟紋や花喰鳥の紋様などです。
イラン現代史とは、一言でいうと「従属と抵抗」に彩られた歴史だということ、だそうです。
著者の「あとがき」によれば、イランは、「何がおきても不思議ではない国」と言われてきたが、今は、アメリカも同じだとのこと。残念ながら、まったく同感です。
大国政治にふりまわされる国際社会の脆弱(ぜいじゃく)性と法治主義の形骸(けいがい)化の現実は容易に変わりそうにない。これまた著者に同感と言うしかありません。
そして、著者は現在のイランについて、こう結論づけています。現在の「イスラーム法学者の統治」体制を熱烈に支持する人々、それに激しい反感を抱く人々、今ある体制に関心がなく、日々の生活に汲々とする人々、欧米の価値観に憧れ、移住さえ夢見る人々など、多様多様な人々がイランにはいる。それに応じて、対政府観や対欧米観も一様ではなく、またそれは時代の移り変わりとともに微妙に、ときにドラスティックに変化を遂げる。
なーるほど、ですね…。
私はイラン・イラク戦争(1980年~1988年)って、いったい何だったのか、関心がありました。人口規模でイラン(3700万人)の半分以下(1700万人)であり、国土面積でも4分の1位のイラクが戦争にふみ切ったのは、サダム・フセイン政権の「生き残り」をかけた「防衛的革命干渉戦争」という性格があった。サダム・フセイン政権は開戦によってホメイニ新体制の崩壊をもくろんだが、それはまったくの誤算だった。
イランは、シャーの残した正規軍(兵力35万)より兵力30万に達した革命防衛隊、その傘下で100万人まで動員可能だった義勇兵を主力として、イランは「人海戦術」を多用した。
イランもイラクも兵器製造脳力は皆無に等しく、両国は、諸外国からの兵器輸入に依存した。ソ連はイラクに兵器を大量に売却したが、中国はイラン・イラクの双方に売却した。ヨーロッパ各国はイラクにやや多いくらいで、ほぼ同等に売却した。アメリカは表向きはどちらにも売却していないが、イスラエルなど秘密ルートがあったようだ。
要するに、国連安保常任理事国は、イラン・イラク双方に停戦を呼びかけていたものの、実は、戦争の継続によって利益をあげていた事実を忘れてはいけない。
アメリカのトランプ大統領は、イラン政権を「ならず者政権」、「独裁政権」、「新テロ国家」と呼び捨て、対イラン経済・金融制裁を再開しましたが、私はこれは間違っていると思います。
おかげさまでイランについて、少しだけ知ることはできました。ありがとうございます。
(2020年4月刊。2400円+税)

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