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アーニャは、きっと来る

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マイケル・モーパーゴ 、 出版 評論社
ナチス支配下のフランス。スペインとの国境に接するピレネー山脈のふもとの山村が舞台です。主人公はヒツジ飼いの13歳の少年ジョーです。
ジョーの父親はフランス軍に招集され、今ではドイツで捕虜生活をしています。一緒に住むのは母親とおじいちゃん、そして小さな妹という一家4人の暮らしです。
12月初めに天神の映画館でみていましたので、スト―リー展開は無理なく理解できます。
ヒツジたちを山へ追いまた帰ってこさせる風景がすばらしい。空にはワシやタカが飛び、ヒツジの番犬とともにヒツジの世話をしますが、どうしても眠たくなります。そんななか、ヒツジたちがクマに襲われます。あわててジョーは逃げだし、不思議な男性と山中で出会うのです。ユダヤ人でした。ピレネー山脈をこえてスペインに逃げ込もうというのです。しかも、子どもたちを連れて…。ところが、村にやってきたナチスの兵士たちは山中を見まわり、容易なことではありません。子どもたちは次第に増え、10人をこします。食料の確保が大変です。
ナチス兵の伍長が怪しみます。でもベルリン空襲で娘を亡くした伍長は自分たちは、ここで何をしているのか、何を目的としているのか、自問自答し、ジョーたちの行動を見て見ぬふりをしてくれたのです。
ついに子どもたちを全員ピレネー山脈からスペインへ逃がす行動が始まります。でも、いったい、どうやって…。
ここで謎ときはしません。
娘のアーニャがきっと来ると確信していた父親は逃亡に成功した…、かと思うと…。
戦後、ついにアーニャが村にやってきます。実話をもとに組み立てられた小説です。
同じ著者の『戦火の馬』はスピルバーグで映画化され、私も映画館でみました。本作と同じファンタジックなストーリーでした。
コロナ禍で息が詰まりそうな毎日です。たまには、こんな息抜きもしないとやっていけません。といっても主題は重たいのですが、村人が力をあわせてユダヤの少年少女たちをスペインへ送り出すのに成功するというストーリーは、心を癒してくれます。フランスが舞台ですからフランス語の勉強になるつもりで行ったら、英語だったので、残念でした。
(2020年3月刊。1400円+税)

日本語を学ぶ中国八路軍

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 酒井 順一郎 、 出版 ひつじ書房
八路(はちろ)軍といっても、今どれだけの日本人が知っているのでしょうか…。実は、私の叔父(父の弟)は、応召して中国戦線へ引っぱられ、敗戦後、八路軍の求めに応じて技術者として残留し、国共内戦下の満州で八路軍と行動を共にしていたのです。1953年6月に帰国しましたが、たちまち郷土の保守的風土に溶け込み、長生きしました。八路軍は偉かった、「三大規律、八項注意」を守る人民の軍隊だったと胸を張って私に教えてくれました。
中国共産党(中共)の対日工作は、日本語と日本文化を積極的に学び分析している。中共は、積極的にプロパガンダの一つである抗日工作を行った。中国人将校に対して日本語教育を行い、学んだ日本語で対日宣伝や捕虜投降の呼びかけ工作をすすめた。
そして、獲得した日本兵を優遇しながら、反戦教育を施した。
中共は日本人捕虜から日本軍の情報収集だけでなく、日本語教師としても活用した。日本軍兵士のなかで中国語教室を開いただなんて聞いたこともありません。
同じように、アメリカでもアメリカ兵に日本語教室を開いていました。「菊と刀」などをテキストにして、日本文化の研究もしていたのですが、それは早くも戦後の日本占領政策のすすめ方を考えていたということです。
中共の八路軍内に、敵軍工作訓練隊が設置され、そのとき活用されたのが日本留学組の中国人、そして日本人捕虜、軍内で育成された高度な日本語人材だった。
中国では、1930年代に空前の日本語ブームが到来した。日本語ができるのは、新しい出世の近道だった。上海に会った有名な内山書店における日本語本の売り上げの6割は中国人だった。1926年から30年にかけて、中国から日本へ留学する学生が1.7倍に増えた。その一人が有名な魯迅(ろじん)です。ただし、職業キャリア・アップの日本語学習熱は、日中戦争がはじまると、たちまちしぼんでしまいました。
八路軍は中国軍(八路軍)との戦闘に勝利して千人以上の日本兵を獲得する自信があったけれど、できなかった。日本兵は死んでも捕虜にならないと戦い続けようとしたからだ。
しかし、日本兵の残した日記等を解説すると、日本兵も死を恐れるフツーの人間だということを知り、そこに働きかけることにした。毛沢東も、戦略的に日本語が重要であることを理解していた。
1938年11月、八路軍は延安に敵軍工作の中心を担う日本語人材育成のため、敵軍工作訓練隊を設立した。1040年、敵軍工作幹部学校に改編された。そして、日本留学組が活躍した。そして、日本人捕虜も助教として採用された。
訓練隊では、日本語の発音が重視された。教える側の日本人の放言が問題になったこともある。多くの日本人捕虜は庶民であり、共産主義の知識もなかった。八路軍で初めて小林多喜二の「カニ工船」に接した。
日本軍は、八路軍の働きかけによる捕虜と投降の増加を問題視し、八路軍の抗日工作を警戒した。日本人捕虜たちは、八路軍の将兵が酒をくみ交わし、日本語の歌を一緒にうたう日中歌合戦をしていた。うひゃあ、そうだったんですか…。
それに対して、日本陸軍内では中国班は出世コースに乗ることすらできなかった。
こりゃあ、ダメですよね、まったく…。国としての総合力でまるで劣りますね、日本っていう国は…。こんなことでは、偉そうなことを言えるはずもありません。
(2020年3月刊。2600円+税)

善と悪のパラドックス

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 リチャード・ランガム 、 出版 NTT出版
ヒトラーもスターリンも、そしてポル・ポトも何百万人もの人々の処刑を命じたが、親しい人には愛想が良く、いつも温和な態度を示していたという。つまり、ひどく邪悪な人間も穏やかな一面をもつことはありうるのだ。
人間は生まれつき性善か性悪か、単純な議論に意味はない。人間は生まれつき善良であり、同時に生まれつき利己的だ。すべての人が善にも悪にもなりうる。
生物学的な条件が人間のもつ矛盾する性質を決定し、社会が両方の性に影響を及ぼすのだ。善良さは、強化されることもあれば堕落することもある。同じく、利己心には強まることも、弱まることもる。人間が特異なのは、ふだんの社会生活ではいたって穏やかなのに、ある状況では、すぐに相手を殺すほど攻撃的になるという組み合わせだ。
チンパンジーは、オスがメスより優位で、比較的凶暴だ。ボノボは、概してメスがオスより優位に立ち、平和的で、攻撃の代わりに性行動をとることが多い。
そして、人間は、ボノボのように非常に忍耐強いものの、同時にチンパンジーのように非常に凶暴だ。ボノボは人間によって家畜化されたのではない。ということは、ボノボは「自己家畜化」したのだ。
ニューギニアの隔絶された高地に住むダニ族は、他部落との領地(ナワ張り)をめぐる争いは深刻で、死因の3分の1は、その争いに起因する。しかし、村のなかでの暴力は厳しく統制されている。敵を威嚇しても、自分の村のなかでは、決して暴力をふるわない。
これは、文明国の兵士が戦場と母国とで行動がまったく異なることと同じ(共通している)ことだ。
日本軍の兵士が中国大陸で残虐行為を繰り広げていたのは事実としてあるわけですが、今やその体験者がごくごく少なくなっていっています。
オオカミは犬とは違う。どれほどオオカミを飼い慣らしても、家畜されることはない。
おとなの類人猿は安全ではない。どんなに慣れたチンパンジーでも、人を攻撃しないという保証はない。
家畜化された動物と野生種との違いが四つある。その一は、家畜は野生種より小型になる。その二は、家畜は顔が平面的で、前方への突出が小さくなる。その三は、オスとメスの違いが家畜では野生動物より小さい。その四は、家畜は野生より脳が明らかに小さい。ただし、能力が劣化するというのではない。
チンパンジーのオスがメスにしばしば暴力をふるのは、目につけたメスをおびえさせて交尾要求を容易に受け入れさせるのが目的だ。そして、このメスをおびえさせるだけ多くの子孫を残す、オスの戦略の重要な要素になっている。
ところが、ボノボは、食べ物をすすんで分かちあい、他者が自分の食べ物を食べることに寛容だ。ボノボにとって食べ物より仲間のほうが重要なのだ。
チンパンジーとボノボは、90万年前から210万年前に共通の祖先から分かれた。ボノボの頭蓋骨は、子どものもののように見えて、実は大人なのだ。ボノボの発情期は長く、メスがオスに対して主導権を握っている。ボノボは、おとなになっても同性愛的な行為(ホカホカ)を続ける。交尾と遊びは一体となっている。ボノボの群れの中心には常にメスの集団があり、オスよりメスの数が多い傾向にある。メスのほとんどは近い血縁関係になく、メスは安定した結びつきを築くことで、防衛的な協力体制をつくりあげている。オスは、それによって、攻撃を無効化され、おとなしくなっている。
ボノボは人間の手が加わらなくても家畜化している(自己家畜化)が、人間も同じように自己家畜化している。
カンボジアやルワンダで大量虐殺の実行者(犯)たちは、狂信者というのではなく、家族や同胞をふつうに愛する平凡な人々だった。恐怖と凡庸は、お決まりの組み合わせだ。
人間に近いチンパンジーとボノボの違いというのは何度読んでも大変興味深いものがあります。そして、人間の自己家畜化のきっかけは「言語」を操る能力だったということに大いに注目しました。
人間が本来善であり、悪であるという認識に立ち、いかにして世界の平和を守り、戦争にならにようにするか、その努力が大切だと痛感しました。
(2020年10月刊。4900円+税)

邦人奪還

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊藤 祐靖 、 出版 新潮社
自衛隊の特殊部隊が尖閣諸島の魚釣(うおつり)島に上陸し、日の丸の旗を中国国旗に入れ替えた中国の特殊部隊(5人)を撃退した話をマクラとして、本番は、北朝鮮でクーデターが勃発したとき、その混乱に乗じて日本人の拉致被害者6人と強引に日本に連れて帰る作戦が語られています。
著者は海上自衛隊の特別警備隊の創設にも関わった特殊部隊出身者ですので、作戦の軍事的展開については詳細をきわめています。
日の出前に空が明るくなる薄明には、3つの段階がある。一番早いのが天文(てんもん)薄明(はくめい)で、日の出のおおむね1時間半前、5等星が見えなくなる明るさのころをいう。次が、航海薄明で、日の出のおおむね1時間前、空を海の区別がつき、水平線が見えてくる。外洋に出る船乗りにとって、この時間帯は特別だ。前は、いくつかの星の高さ(水平線から星までの角度)を測り、自分の位置を割り出していた。これができるのは、星と水平線が同時に見える航海薄明の時間帯だけだ。三つめが市民薄明。日の出のおおむね30分前で野外作業をするのに支障がない明るさだ。
まともな特殊部隊員になるには、正規の隊員になってから5年はかかる。23歳で挑戦し、2年間の教育期間を終えて、25歳で特殊部隊員になっても、本当の働き盛りは30歳から40歳。
そのあとに問題がある。陸上自衛隊なら、最高の技術とたぐいまれな経験と理想的な肉体をもった人間として重用されるだろう。しかし、海上自衛隊では、それがない。海の特警隊出身者は、いろんな意味で役立たずだ。特殊部隊での知識・技術・経験を生かす場所が他にはまったくない。
魚釣島には野生化したヤギが数千頭もいて、それを捕まえたら、食料には困らない。また、水を確保するための井戸を掘らなければいけない。
中国の特殊部隊員(5人)を日本の特殊部隊員(3人)が、こてんぱんにやっつけたという話です。この本では、双方の特殊部隊員はお互いに殺しあわないように自制しているのですが、そんな理性的な対応が防衛省・自衛隊のトップが出来るとは、とても思えません。
続いて、北朝鮮で軍部がクーデターを起こして大混乱が発生しているなかに日本の自衛隊の特殊部隊が派遣され、無事に拉致被害者を日本に連れ帰ったというのも、想定が日本に甘すぎ、北朝鮮軍の戦闘能力を馬鹿にしている気がしてなりませんでした。日本の特殊部隊員は、モヌークとブラックホークに乗っていた自衛隊員21人がやられてしまった…。この本では、日本側は合計31人の死者を出しています。
ところで、なぜ日本の自衛隊の特殊部隊が北朝鮮に殴り込みしたのか、アメリカ軍はどうしたのか…という疑問があります。
ちなみに、アメリカの軍人は将軍から一兵卒まで、日本に入国し、出国するのはまったく別ルートをつかいます。日本の入国管理局を通らずに自由に入出国していますし、それを日本に教えませんので、コロナ禍対策も尻抜けです。
アメリカ軍が史上最強である理由は2つある。圧倒的な軍事予算と組織力。レベルの高くない人間10人で、ちゃんと10の力を発揮する組織をつくる能力。これでアメリカは世界の人々に君臨している。
こんな本が売れて読まれるということは、日本が戦争する国に近づいているということですよね。大いに心配になります。
(2020年7月刊。1600円+税)

イスラエル諜報機関暗殺作戦全史(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ロネン・バーグマン 、 出版 早川書房
暗殺は敵の士気を削(そ)ぐだけでなく、実際的な効果がある。暗殺という手段は、全面戦争よりも、はるかに道徳的だ。
これが暗殺を遂行する側の論理ですが、私は同意できません。アメリカはビン・ラディンを暗殺しました。これで報復の目的は達したかもしれませんが、平和の回復にはほど遠いのが現状です。
国家による暗殺には二つの難問がつきまとう。一つは、果たして効果があるのか。二つ目は、法的にも倫理的にも正当化できるものなのか。
アメリカによるビン・ラディンの暗殺は、この二つの疑問に答えられません。
イスラエルは、アメリカ以上に国による暗殺をすすめてきた。イスラエルは、2000年までに500件の暗殺作戦を実行しているし、その後も1000件以上の暗殺をしている。
アメリカは、オバマ大統領の下で353件の暗殺作戦を実行した。ノーベル平和賞も暗殺の歯止めにならなかったのは残念です。
イスラエルには、三つの機関が活動している。国防軍の情報局アマン。国内で対テロ・隊スパイ活動にあたるシン・ベト。国境をこえて秘密作戦を担当するモサド。モサドはアイヒマンを拉致した実行機関です。
イスラエルの法律では、実は死刑は認められていない。ところが、裁判なしに処刑を命じる権限を自らに与えた。
イスラエルは、敵対する「標的」国に住む現地のユダヤ人を工作員にしてはならないという教訓を学んだ。捕まえれば、ほぼ確実に殺され、しかもユダヤ人コミュニティ全体に波紋を広げる。現地にすでに住んでいる人間を利用したら、虚偽の経歴を作成する手間は省けるが、その反動のデメリットはあまりに大きいのだ。
イスラエル軍は、PLO議長のアラファトの暗殺を何回も試みたが、そのたびに失敗してしまった。
暗殺する方法の一つとして、歯磨き粉に独特の毒を入れることがある。ターゲットが、この歯磨き粉をつかって歯を磨くたびに、微量の猛毒が口内の粘膜を通り抜けて毛細血管に入り込んでいく。徐々に毒が体内に蓄積されていき、やがて臨界量に達したらターゲットは死に至る。
イスラエルは、自国の工作員が逮捕される恐れがあるときには、いかなる作戦も断念した。これは鉄の掟になっていた。
イスラエルがアブー・ジハードの暗殺に成功したとき(1988年4月14日)、イスラエル国民は大喜びした。しかし、この暗殺は、むしろ逆効果だった。アブー・ジハードが死んでPLOの指導力は弱まったが、占領地域で暴動を指揮していた人民委員会の力は強化され、人々の抗議運動は盛り上がった。そのため、イスラエル側の人間の多くが作戦を実行したことを後悔しはじめた。
暗殺を仕事とする人たちがいるなんて、信じられません。どうやって精神の平安を保っているのでしょうか…。
(2020年6月刊。3200円+税)

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