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アインシュタインの影

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 セス・フレッチャー 、 出版 三省堂
見えないブラックホールの撮影についに成功した天文学者たちの苦闘を紹介しています。地上の浮き世(憂き世)のゴミゴミした紛争から一時のがれて、宇宙の彼方に飛んでいってみましょう。
地球は天の川銀河の中心から2万6千光年ほど離れている。なので、銀河の中心を目指して光速ロケットに乗ってすすむとおよそ2万光年で銀河中央の膨らみ(ドルジ)に出会う。ここは、宇宙誕生の直後にできたような古い星が集まる場所で、ピーナツの形をしている。そして、さらに何千光年か進むと、いて座のB2がある。これは、私たちの太陽系の1千倍ほどはある黒雲で、そこには、シリコンやアンモニア、シアン化水素、ラズベリーみたいな香りの蟻酸エチル、そして誰にも飲み干せない量のアルコールが満ちている。
そこからさらに390光年ほど行くと、恐怖の内部領域に入る。銀河の中心までは、あと3光年ほどだが、そこでは、コズミック・フィラメントと呼ばれる雷光が空を引き裂き、遠い昔に爆発した星の名残りのガスが漂い、中心へと吸い込まれていくガス流が不気味に輝く。動力は巨大な渦潮のように何でも呑み込む。太陽よりもはるかに巨大な星が猛スピードで飛びかう。空間には放射線が満ち、原子は引き裂かれてもっと小さな粒子の霧となる。さらに近づく、この霧が光り輝く超特大の円盤と化して、ほとんど光と同じ速さで飛びまわっている。その中心にある真っ暗な領域こそ、巨大ブラックホール、わが銀河の中心にある不動の点だ。これをいて座スターAと呼ぶ。
宇宙の果てに、太陽の何億倍もの質量をもつブラックホールがあることは知られている。
いて座スターA(ブラックホール)の質量は、太陽の400万倍。このブラックホールには太陽400万個分の物質が詰め込まれている。ところが、アインシュタインの方程式によれば、ブラックホールの中は空っぽであり、そこに落ち込んだすべての物質は、ブラックホールの中心にあって、無限大の密度をもつ一点(特異点)に吸いこまれているはず…。では、この特異点では、何が起きているのか…。
まだ誰も一度も見たことがないのに、科学者たちは、ブラックホールの存在を信じ、その様子について長年にわたって議論してきた。
この本は、ブラックホールの写真を撮るという難題に挑んだ天文学者たちの物語です。
アインシュタインは、動力は力ではなく、時空のゆがみだと考えた。1960年代の後半、パラボラアンテナを使って、太陽のすぐ近くを通るタイミングで金星と火星に電波を送り、それが戻ってくるのに要する時間を測定した。すると、太陽の動力のせいで、曲げられた電波は千分の1秒の10分の2だけ遅れて戻ってきた。これはアインシュタインの予言どおりだった。
ブラックホールは、物質ではなく、純粋な動力だ。モノではなく、一連のプロセスと考えたほうがいい。ブラックホールの温度は絶対零度だ。そして、ブラックホールは、完全に真っ暗だ。ほとんどのブラックホールは、光速に近いスピードで回転している。
およそ銀河と呼ばれるものの中心には、巨大ブラックホールが必ずある…。
2017年4月、ついに天文学舎のチームは、ブラックホールを囲むような明るい星々の真ん中に黒いもの(ブラックホール)の存在を認め、写真に残した。どの写真にも、オレンジ色の輪がうつっていて、輪のなかは真っ黒い巨大な穴。穴の下に見える明るいレモン色の三日月型は、ブラックホールのまわりを猛スピードで周回する物質から放たれた光だろう。
アインシュタインの一般相対性理論は、ブラックホールには真っ黒な影があるという予想の正しさを証明した写真だった。
地球規模で天体観察していることもよく分かる本です。地上でコロナ対策をめぐって、ケンカなんかしているときじゃないですよね。コロナ対策が不十分なまま、GO TOトラベルなんて、経済対策に走っているスガ君を叱ってやりたいです。
(2020年4月刊。2000円+税)

森繁久彌コレクション

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 森繁 久彌 、 出版 藤原書店
森繁久彌の映画なら、いくつかみていますし、テレビでもみています(映画だったかな…)。残念ながら、生の舞台をみたことはありません。というか、本格的な劇というのは司法修習生のとき『秦山木の木の下で』という劇を東京でみたくらいです。もっとも、子ども劇場のほうは、子どもたちと一緒に何回かみましたが…。
全5巻あるうちの第1回配本というのですが、なんと、600頁をこす部厚さです。役者としてだけでなく、モノカキとしてもすごいんですね。すっかり見直しました。
そして、著者は戦前の満州に行って、そこで放送局のアナウンサーとして活動しています。大杉栄を虐殺したことで悪名高い甘粕正彦とも親しかったようで、「甘粕さん」と呼んで敬意を払っています。
満州ではノモンハン事件のとき、現地取材に出かける寸前だったのでしたが、日本軍がソ連軍に敗退して、行かずじまい。そして、ソ連軍が進駐してくると、軍人ではないのでシベリア送りは免れるものの、食うや食わず、夫が戦死した日本人女性を「性奉仕」に送り出して、安全を確保するという役割も果たしたのでした。それでも、日本に帰国するとき、7歳、5歳、3歳と3人の子どもと奥さん、そして母親ともども一家全員が無事だったというのは、奇跡のようなことです。
著者は、子どものころからクラスの人気者で、歌も活弁も詩の朗読もうまかったようです。これが、一貫して役に立ち、生きのびることにつながったのでした。
もともと、役者根性ほど小心でいまわしく、しかもひがみっぽいものはない。だから普通の神経ではとても太刀打ちはできない。よほど図太く装うか、さもなければ最後までツッパネて高飛車に出るか、あるいは節を曲げて幇間よろしぺこぺこと頭を下げ、「先生、先輩」と相手をたてまつるか、そのどれかに徹しないかぎり、何もせぬうちにハジき出されてしまうこと必定なのだ。
著者は、満州7年の生活と、いくども死線をこえてきた辛酸は無駄ではなかったと思うのでした。著者が世に出るまでの苦労話も面白いものがあります。
30を過ぎ、さして美男でもなく、唄がうまいかというと、明治か大正のかびの生えたような唄を、艶歌師もどきに口ずさむ程だ…。
そこで、著者は作戦を考えた。毎日、二流とか三流の映画館をのぞき、画面のなかの役者について、考現学的に統計をとった。そして館内の人間を分類大別し、年齢、嗜好、そして、どこで泣き、どこで笑い、どこで手を叩くかをノートに詳しく書きとめた。
おおっ、これは偉い、すごいですよね、これって…。さすが、です。
すぐに結果の見える演技ほど、つまらないものはない。次にどう出るか分からないという、未来を予測できない演技が、観客をそこにとどまらせ、アバンチュールをかきたてるのだ。
著者は満州でNHKのアナウンサーとして取材にまわったとき、蒙古語で挨拶し、歌もうたったとのこと。これまた、すごいことですね。これが出来たから、すっと現地に溶け込めたのでした。
著者が満州にいたとき、一番にがにがしく、日本民族の悲しい性(さが)を見たのが、集団のときの日本人の劣悪さ。軍服を着せて日本軍という大集団のなかにおいておく、この善良なる国民は、酒乱になった虎みたいに豹変し、横暴無礼。列車のなかに満人が座を占めていると、足で蹴って立たせたり、ツバをひっかけたりする。見ていて寒気がする。ところが、その一人ひとりを野山において野良着でも着せたら、なんと親切な良識のある村の青年にかえってしまう…。
著者の父親は、関西実業界の大立者だった菅沼達吉で、子どものころは、ずいぶん裕福な生活を送っていたようです。そして、著者の長兄(馬詰弘)は、高校生のころに左傾化して「プチブル共産党」の見本だったとのこと。著者自身も、早稲田に在学中のとき、周囲に共産党の影響が強かったようです。いやはや、本当に苦労していたことがよく分かった本でした。
著者は、2009年11月に死去、89歳でした。
(2019年11月刊。2800円+税)

分子レベルで見た薬の働き

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 平山 令明 、 出版 講談社ブルーバックス新書
私は、なるべく薬を飲まないように心がけています。いえ、かゆいと皮膚科でもらった軟膏はすぐ塗りますし、花粉症で目がかゆいと目薬はさします。
幸い、高血圧でも糖尿病でもないため、毎日、薬を飲まないといけないということはありません。なので、椎間板ヘルニアになったとき、痛み止めの薬をのんだら、すぐに効果がありました。ありがたいことです。
この本は、カラー図版で、人間の細胞がどうなっているのか、薬が分子レベルでどのように作用しているのか図解していますので、門外漢の私も分かった気にさせてくれます。
ペニシリンは、バクテリアの生産する毒性物質であり、ペニシリンを生産するバクテリアが他のバクテリアに打ち勝って生存していくための、自己防衛手段の一つである。
徳川家康は、秀吉と戦って勝った小牧・長久手の戦いのとき、背中に大きな腫れ物ができて、非常に危険な状態になった。このとき、摂津の国の笠森稲荷の土団子に生えた青カビをその腫れ物に塗ったところ、腫れ物は完治し、九死に一生を得た。この話が本当だとすると、家康もペニシリンによって命を救われたことになる。そんなことがあったなんて知りませんでした。いったい、どんな本にこんなことが書いてあるのでしょうか…。
院内感染で話題のMRSAは、バクテリア自体は弱く、健康な人はまったく問題ない。ところが、高齢者や病気の人、外科手術をした直後で免疫力が低くなっている人が感染すると、抗菌薬が動きにくいため、深刻な結果を招くことになる。
耐性菌による死亡者は世界で年に70万人であり、これからますます増えると予測されている。
オプジーボは、薬価3800万円だったのが、今では年に1090万円まで低下した。
ウィルスは、バクテリアよりさらに簡単な構造なので、生物なのか無生物なのか難しい問題だ。ウィルスは、自身が分裂して増殖することはできない。
ウィルスが、その遺伝情報を宿主の染色体の中にまぎれこませる。ウィルス本体は、情報そのものと言える。情報処理中枢に入り込んだ情報の削除はきわめて難しい。
いったんウィルスが染色体に感染すると、それを取り除くのは困難だ。
人間の身体の免疫反応はすばらしい。本来、このように臨機応変で、確実に問題を解決する方法が身についているはずなのだ。
人類は、インフルエンザ・ウィルスに決して勝利したのではなく、むしろインフルエンザ・ウィルスとの本格的な闘いは、やっと始まったところなのだ。
一般に、科学者とは、実験して、その結果を論理的にまとめている人のように思われているが、実際には、実験で分かるのは、たいてい求めるべきもののごく一部でしかない。あとは、想像力、空想力の世界なのだ。
ということは、何ものにもしばられない自由な飛翔する豊かな発想が大切だということなんですよね…。日本の押しつけ教育は、根本的に改められる必要があります。国定教科書なんて、おさらばですよ…。
自己免疫力をパワーアップする薬も紹介されていますが、免疫力をアップさせるためには、規則正しい生活、ほどほどのストレスのある生活、よく食べよく出し、ぐっすり眠って、やりたいことがある毎日を過ごすことではないでしょうか…。
私と同世代の著者によるカラー図版満載の、分かった気にさせてくれる薬と人体の相互作用を解説してくれる新書でした。
(2020年2月刊。1700円+税)

塀の中の事情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 清田 浩司 、 出版 平凡社新書
日本全国の刑務所の実情をつぶさに歩いて調査した結果を知らせてくれる本です。
現在(2019年4月)、全国に61人の刑務所、6の少年刑務所がある。入所者は男性4万156人、女性3564人。ここ数年は4万人台で推移している。8万人台になるのでは…と心配されたこともあったが、半減した。ただ、男性は減ったものの、女性はそれほど減ってはいないため、男性用が女性用に切り替えられたところもある。
窃盗(万引きなど…)と薬物事犯(覚せい剤など…)は、再犯率が高い。また、60歳以上の受刑者がすでに2割をこえている。
外国人受刑者は増えたが、現在は増加傾向はストップした。
収容者の高齢化がすすみ、いまや刑務所は介護施設状態にある。
収容者2600人という日本最大の府中刑務所の受刑者の平均年齢は49歳、4人に1人が60歳以上。刑務所のなかでも「老老介護」がすすんでいる。70代の認知症受刑者を同室の受刑者が介護している。
高齢の受刑者の「癒し」のためにカメが飼われている刑務所(尾道)もある。
LB級と呼ばれる受刑者は、長期刑(L)であり、再犯の可能性が高い(B)ということ。
いま、無期懲役は、事実上、終身刑に近い。無期懲役囚のなかに「マル特無期」というのは、死刑が求刑され、判決で無期懲役が宣告されたというケース。たとえば、オウム真理教の林郁夫元被告。
日本にも塀のない先進的な刑務所があるのですね…。四国・今治市にある大井造船作業場がその一つです。ここには30人ほどの受刑者が一般社会人である行員とともに働いている。カギも縄も何もないので、逃亡者が出てしまう(2018年4月)のは、仕方がないのです。そして、責任まかされて働いているうちに実社会でもフツーに生きていけるようになりました。しかも、再犯率は12%ほどに低下した。
網走刑務所には、「二見ヶ岡農場」という解放的な農場があります。その広さは、東京ドームの76個分というのです。すごいですね…。
刑務所内の処遇改善は法の求めるところでもあります。刑務所の職員も大変でしょうが、再犯をなるべく減らすためにも人間らしい処遇が保障されるべきだと、読みながら、つくづく思いました。
(2020年5月刊。1200円+税)

「あたりまえ」からズレても

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 藤本 文明、 森下 博 、 出版 日本機関誌出版センター
ひきこもりの体験者が書きつづった本ですので、実感が伝わってきます。
ひきこもり人口は、日本で少なくとも100万人。これは人口の1%。その家族などの関係者は300万人。
「ひきこもり」というと、外からは何もしていないように見えるかもしれない。しかし、そのなかでの本人の精神活動は、ひきこもる必要がなく生活している人以上に活発になり、そこで人間性が研(みが)かれている。なので、真面目に人生を考え、優しく細やかな気づかいのできる青年たちとなる。なーるほど、そうことなんですね。
学校は行かなければならないもの…。学校を卒業したら、会社に就職して働くもの、収入を得るもの、いずれ自立して生活していくもの…。でも、それが出来なかったら…。
中学2年生の夏に優等生を維持できなくなって、それから7年半のあいだ引きこもった。現在は、ひきこもり支援の資格を得て、自助グループを運営している。
大学を卒業して、就職を失敗して3年間ひきこもった。27歳のとき、個別指導の塾をはじめ、今は、「どんな子でも楽しく学べる塾」を営んでいる。
ひきこもりの体験者にも、いろんな人がいるのですね…。
ひきこもりの人は、自分のせいで家族に迷惑をかけてしまったという罪悪感がある。
ひきこもりから脱出するため、まず一番に、毎日、家を出る習慣を身につけるようにした。小さい挑戦をし、その成功体験を積み重ねた。
引きこもりを克服する三つのステップ。初めのゼロ・ステップは、親の心を休めるステップ。第一のステップは、子どもに興味をもつステップ。第二ステップは、社会的常識を捨てて、子どもの求めているものに目を向ける。第三ステップは、子どもに何か書いてもらって、子のニーズを引き出す。
ひきこもっている人は、自分自身に対する価値を信じていない。自己肯定感が欠如している。自分のことですら、自分で決定できなくなり、基準のすべてが想像上の他者か社会になっている。
ひきこもり対策に、マニュアルは存在しない。親といえども、子育てについては、みんな初心者なのだ…。
母親が酔って泣きわめいているのを見て、「しんどい」って吐き出せる余地が、自分の周りになかった。泣きわめく母親に、「助けて」と頼めるわけには行かない…。自分のせいで、母親が、こんなに泣いて苦しんでいるのが分かって辛かった。
不登校経験者で、教員になった人が周囲にいた。それで、やってもいいかなと思ってはじめた。
私の依頼者の家族にひきこもりの男性が数人いて、毎月、法律事務所に来ていただいています。外に出れること自体がいいことなので、私は何か変わったことはないかとたずねます。法律事務をしているというより、カウンセリングしている感じです。
それにしても、体験者の手記には重みがありますね…。
(2020年3月刊。1300円+税)

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