法律相談センター検索 弁護士検索

孔丘

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 宮城谷 昌光 、 出版 文芸春秋
人間、孔子の生きざまを丹念にたどった小説です。
孔子は妻との折りあいが悪く、また長男とも疎遠だったようです。まさしく決して聖人ではなかったのですね。そして、弟子たちと何度も流浪の旅に出かけざるをえませんでした。
群雄割拠の中国の各地を、時の権力者とまじわりながらも、ときにはねたみを買って追い出されてしまうのです。
孔丘が、自分の子に教えたのは、二つだけ。
「詩を学んだか。詩を学ばなければ、ものが言えない」
「礼を学んだか。礼を学ばなければ、人として立つことができない」
詩と礼は、精神の自立と正しい秩序との調和を目ざす孔丘の思想の根幹をなす。
中都の長官となった孔丘は善政を目ざした。善政の基本は、司法が公平であること、課税が過酷でないこと。この二つ。
政治とは率先すること。ねぎらうこと。孔丘もそれを実践した。
60歳は耳順。天命をより強く意識するようになったことから来るもの。どんないやなことでも、天が命ずることであれば順(したが)っておこなうこと。
孔丘は弟子に公こう言った。
「努力しなければ成就しない。苦労しなければ功はない。衷心がなければ親交はない。信用がなければ履行されない。恭(つつし)まなければ礼を失う。この五つを心がけること」
弟子の顔回が師の孔丘について、次のように語った。
「先生は、仰げば仰ぐほど、いよいよ高い。鑚(き)ろうとすればするほど、いよいよ堅い。まえにいたとみえたのに、忽然とうしろにいる。先生は順序よく、うまく人を導く。文学でわたしを博(ひろ)くし、礼でわたしをひきしめる。もうやめようとおもっても、それができない。すでにわたしの才能は竭(つ)きていて、高い所に立っている先生に従ってゆきたくても、手段がない」
これが孔丘の実像である。
15歳で学に志(こころざ)した孔丘は、休んだことがない。73歳で亡くなって、生涯で初めて休息した。
孔丘は妻との離別のとき、人から、次のようになじられた。
「自分よがりの礼をかかげて、教師面(づら)をしている。あきれた人だ。家庭内を治められなかったあなたに、人を導く資格があるのか」
孔丘はこれに対しては、ひとことも抗弁しなかった。夫婦間の機微に理屈をもちこんだところで、他人を納得させる説明ができるはずもない。
孔子も、やはり人の子だったわけなんですよね…。この本は、たくさん勉強になりました。
(2020年10月刊。2000円+税)

元彼の遺言状

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 新川 帆立 、 出版 宝島社
女性弁護士がミステリー大賞を受賞というので、早速よんでみました。
超大金持ちの遺産相続の話なので、田舎弁護士の私にはまったく無縁の世界ですし、「報酬150億円」なんて金額が出てくると鼻白むばかりなのですが、ともかく、日本一大きな法律事務所につとめているという女性弁護士の話が、あまりにも現実離れしている割には、ちょっと目が離せないストーリー展開なのです。つまり、発想力、キャラクター造形力のすごさに引き寄せられたのでした。
ミステリーなので、内容の紹介はしません。ぜひ、最後まで読んで、なるほど、そういうことだったのかという驚きの謎解きにつきあってほしいと思います。まあ、小説の世界としては、ギリギリありうる展開になっていると思いました。最後まで、ええっ、このあと、どうなるの…、という伏線がたくさん張られていて、飽きせず最後までひっぱっていく文章力には思わず脱帽しました。モノカキを自称する私には、とても出来ないことです。残念なことに…。
著者はプロのマージャン士(師?)の資格も有するというギャンブラーですが、だったら弁護士なんてバカバカしくてやってられんよね…、ということになるのでしょうか。
主人公の女性弁護士はボーナスを去年は400万円もらったのに、今年は250万円だと言い渡された。それを聞いた女性弁護士は怒って、「250万円ぽっち」と言いつつ、「お金がもらえないなら、働きたくありません。こんな事務所、辞めてやる」と言って、日本一の法律事務所から飛び出してしまうのです。いやはや…。250万円のボーナスを、「これっぽっち」と言ってのける弁護士なわけです。私も、そんなセリフ、一度くらい言ってみたいものです…。
ともかく、この28歳の独身女性弁護士は、年収2千万円近いというのです。それなのに、サラリーマンの彼が婚約指輪としてプレゼントしようとしたのは、なんと、「わずか40万円の小さなダイヤの指輪」。たちまち、「みじめな気持ち」になったという。なんという別世界…。
こんなとてつもない別世界の話なんですが、ついつい悪趣味のように話の続きが知りたくなって、ひき続き読んでいったのでした。
「私なら、10億円くらい、コツコツ働いていれば、手に入れられるのだ」
ええっ、東京の女性弁護士で、そんな人が実際にいるのでしょうか…。いえ、きっと、いるのでしょうね、東京には…。
弁護士って、そんなにいい仕事だろうか。弁護士になってみて分かったことは、忙しさのわりには儲からないということ。
著者がつとめている日本一の法律事務所は24時間勤務体制で、カップラーメンをすすりながらパソコンに向かう弁護士がいるのです。
日弁連の機関誌『自由と正義』も登場します。いつもは、つまらないと飛ばし読みしていた記事を読むしかないといって…。
最後の50頁ほどは、いつもの喫茶店に入り、ホットのカフェラテを飲みながら、ようやく読了しました。結末を知らなければ、次の会議に集中できませんからね。実は、この本を昼間のうちに読んでしまおうと思って、早めに事務所を抜け出して電車に乗ったのでしたが、まったく正解でした。よく出来たミステリー小説です。
(2021年1月刊。1400円+税)

ロッキード疑獄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 春名 幹男 、 出版 KADOKAWA
ロッキード疑獄で田中角栄が逮捕されたのは1976年7月27日、私は弁護士になって2年目で、ちょうど、その日は東京地裁に行っていました。連行された場面を目撃したわけではありませんが、東京地裁と東京地検あたりに大勢の人だかりがしていて、マスコミ陣で一杯でした。田中角栄を逮捕し連行した東京地検特捜部の松田昇検事は、横浜修習のときの指導検事でした。それほどキレる検察官とは思っていませんでした(私に人を見る目がなかったということです、はい)。このあと、順調に出世されました。
なぜ、田中角栄が逮捕されたのかをアメリカと日本の関係からアプローチしている興味深い本です。600頁近い大作ですが、刑事裁判の法廷の前後、とても車中では足りずに喫茶店にしけこんで必死で一日のうちに読了しました。
田中角栄は受託収賄罪と外為法違反で起訴され、懲役4年の実刑判決を受けた。最高裁に上告中に75歳で死亡した。一貫して完全否認し通し、裁判は17年間かかった。
アメリカで、ロッキード社が保管していた秘密文書は5万2千頁。
アメリカは日本より書類がよく保存されているようですね。アメリカの弁護士は文書開示が有力な裁判戦術として駆使しているようです。日本では、すぐにシュレッダーにかけられ、それを誰もとがめることがありません。肝心の真相がヤミに葬り去られるというのは、残念ながら日常茶飯事です。
そして、この5万2千頁の資料のうち、東京地検特捜部が入手したのは、全体の5%ほどの2860頁のみ。これには驚きました。まあ、それでも、日本の検察は、なんとか大切な書類を入手していたわけです。
著者は、田中角栄の無罪を主張しているわけではなく、ロッキード事件の本当の主役は、日米安保関係の根幹に巣くう人脈であり、彼らこそが「巨悪」として糾弾しなければならないのだと強調しています。うむむ、なるほど、そうだったのか…と思いました。
田中角栄の金脈疑惑は、アメリカでウォーターゲート事件が問題になっていたころのこと。結局、ニクソン大統領は辞任することになったが、その4か月後に田中角栄も首相を辞任した。1974年11月のこと。私は、この年の4月に弁護士になりました。
田中角栄は政治家としての完全復活をなすべく動き出していたところに、ロッキード事件が勃発した。
ロッキード事件は、ニクソンが大統領を辞任したあとに発覚して大問題になったのだから、「ニクソンの陰謀」で事件が大きくなったというのではないことは明らか。
ロッキード事件では、田中角栄のお抱え運転手が自殺したが、アメリカでもロッキード社の財務担当副社長が、猟銃の銃口をこめかみに当て、引き金をひいて壮絶な自殺をとげている。
ロッキード社は「不正なカネの支払い」ではなく、キックバック(割戻金)だと嘘をついた。
アメリカ政府(国務省)内部では、田中角栄の名前が入った文書を日本政府(東京地検特捜部)に引き渡していいものか、真剣に議論した。キッシンジャーは開示積極派だった。
ピーナツもビーンズも、100個で1億円もする。なので、田中角栄に入ったのは5億円。
キッシンジャー(今も97歳で、死なずに健在のようです)は、「密使外交」の名手だった。キッシンジャーは、田中角栄について侮っていた。首相にはなれないだろうと、タカを括っていた。また、首相になったとしても官僚主導で大したことはできないと予測していた。もちろん、その予測は外れたわけです。
キッシンジャーは、田中角栄と話すたびに好感度を下げていった。
キッシンジャーは、田中角栄がすすめた「日中国交正常化」を「裏切り」だと怒った。日本側は、そんなことを夢にも考えていなかった。アメリカは、ホンネのところで、日本と中国の国交正常化に反対だった。日中国交正常化を先送りにしてほしかったけれど、アメリカの意向がマスコミにもらされたりして大きな話題になれば、アメリカにとって、かえって不利になるので黙っていた。
ニクソンとキッシンジャーは、田中角栄による日中国交正常化にいらだち、いろいろ言うようになった。しかし、日本側は、アメリカの強い不満をまったく理解していなかった。
ニクソンは、田中角栄について、「非常に生意気で、強硬だ」と言った。さらに、「日中に関していえば、日本は良き同盟国ではない」とまで言った。
ニクソンは、田中角栄と一緒にゴルフするはずだったのを、理由もなく止めた。
また、「日本は、経済大国ながら、軍事的かつ政治的には「ピグミーとして裸で立っている」とも言った。田中角栄は、ニクソンから「ピグミー」などと侮辱されたことに反発すらしなかった。これじゃあ、まったく日本はアメリカの植民地そのものです。
戦後の日本外交で、日本側が「ノー」と言って自主外交を貫いた側はきわめて少ない。吉田茂以来のこと。
田中角栄が首相を辞めたとき、キッシンジャーは喜んだ。
キッシンジャーは、中曽根についても、美化しなかった。「あいつは畜生だ。日本を軍国主義化する」と、評価するどころか、警戒していた。
ロッキード事件の本当の主役は児玉誉士夫、ダグラス・グラマン事件では岸信介。岸信介は、アメリカのCIAから潤沢の資金をもらっていたが、1987年に90歳で亡くなった。
岸信介に関する情報は、情報公開のすすんでいるアメリカのなかでも、今なおまったく資料が公表されていない。
当時のニクソン大統領とキッシンジャーは田中角栄のことが嫌いで、日中国交回復をアメリカの了解なしですすめたことから田中角栄には怒っていて、許せないと考えていた。
アメリカの戦略に「ノー」と言った田中角栄をアメリカは嫌うようになっていた。
要するに、自分の頭で考え、アメリカの言いなりにならないようなら、首をすげかえさせられるわけなんですね…。鳩山由紀夫元首相もそうでした。
キシンジャーは、田中角栄が検察から逮捕されてもかまわないと考えて、秘密文書を日本側に提供した。これは、間違いない。
ロッキード疑獄の謎が今一枚だけ晴れた気分です。児玉誉士夫や岸信介のような「黒幕」たち(その後継者たち)は、今ものさばっているのがくやしい限りです。その主要な原因の一つに低投票率があると思います。みんなもっと政治に関心をもち、不正について怒りの声を上げるべきではないでしょうか。
(2021年1月刊。2400円+税)

命の砦

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  五十嵐 貴久 、 出版  祥伝社
 新宿の地下街で自殺志願者たちをネットで集めてガソリンで同時多発自爆テロが仕掛けられた。みるみるうちに地下街に大規模火災が広がり、あちこちに爆発まで発生し、大勢の人々が右往左往しながら焼死していく。まさしくノンストップ・パニック小説です。
そこに消防士たちがプロフェッショナルとして自らの生命を賭して焔のなかに飛び込み、人々を何とか救い出そうと活躍する。なるほど、地下街に大量のガソリンを持ち込み、自爆テロのようにして自らガソリンをかぶって火をつけたら、恐ろしいことになってしまうでしょう…。
 そのうえ、今ではパソコンやゲーム機などに大量にマグネシウムがふくまれていて、そこに水をかけると、かえって爆発してしまって大災害をひきおこす。いやあ、これまた恐ろしいことです。そんな状況が刻明に描写されていきますので、地下街の恐ろしさって、大水害のときだけじゃないということがよく分かりました。脱出口を日頃から気をつけておかなくてはいけませんね‥‥。この本を読んで、消防士集団のプロ意識の高さも再認識させられました。
 増強特命出場。異常事態に際しては、特別命令が発せられる。消防は地方自治体の管轄下にあり、それぞれ独立した機関。しかし、大規模災害時などでは、消防庁長官が長官命令を発令した場合に限って、全国の消防局の消防隊を現場まで人員派遣させることができる。火災発生のとき、警察の役割は避難誘導、人命救助が主。被害状況を把握するのも重要な任務だ。
 逃げるとき、一番危険なのはパニックに巻き込まれること。そして、まず顔を守る。視覚を失ったら、逃げることはできない。できるかぎり水を飲んでおく。やけどしても治りが早くなる。そして、絶対に炎を吸い込まない。気道火傷(やけど)は命にかかわる。姿勢を低くして、水に浸したハンカチで鼻と口を覆って煙を吸わないようにする。
水では消せない。そして水を使ってはならない炎がある。それがマグネシウム火災だ。マグネシウム火災に対する放水消火は厳重に禁止されている。マグネシウム専用消火剤を使う。パソコンは強度と軽量化のためマグネシウムが10%も使われている。スマートフォン・ゲーム機にも、だ。恐ろしい世の中なんですね…。
(2020年10月刊。1700円+税)

誰にも相談できません

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  高橋 源一郎 、 出版  毎日新聞出版
 著者の人生相談は本当に味わい深いものがあり、いつ読んでも、なるほど、なるほど、そうか…、そうなんだよな…と考えを深めることができます。毎日新聞の「人生相談」で大友響と書かれていますが、ウソではないと思います。
 弁護士としての私が男女関係、親族関係の争いについて相談を受けるとき、著者だったら、どう答えるだろうか…と自問自答することがあります。弁護士にとっても、回答する側に立ったとき著者の回答は大いに参考になるのです。
 著者は団塊世代の少し下の世代ですが、いわゆる全共闘の活動家でした。逮捕歴もあるそうです。私はアンチ全芸闘でした。だって、あの野蛮で残虐な暴力を賛美するなんて、当時も今も、まっぴらごめんです。かつての全共闘の活動家とシンパ層が、自分たちが学内でふるってきた暴力問題について黙して語らず、思想的にああだ、こうだとキレイゴトしか言わないのを許すわけにはいきません。
 著者は、その暴力の点も大いに反省しているようですし、その後の人生での苦労、そして私生活で4度も5度も結婚・離婚して、今なお思春期の子どもたちをかかえて苦労しているようです。そんな苦労が回答にいい意味でにじみ出ていますので、説得力が半端(はんぱ)ではありません。
 子どもというのは、遅かれ早かれ、家を出て、「外」の世界に旅立つもの。ところが、親は、子どもに愛情も注ぐけれど、「呪い(のろい)」もかける。つまり、親から子どもはマイナスの部分も受け継ぐ。いやはや、本当に、そうなんですよね…。
どんな「家庭」にも共通点がある。それは、結局、みんな「他人」だということ。
 著者の知るかぎり、人間はほとんど成長しないもの…。うひゃあ、そ、そうなんですか、やっぱり、そうなんですよね…。
 「今」から逃げる者は、「次」も逃げるに決まっている。家族を暴力で支配しようとする人間は、いつの時代にも存在する。暴力で支配される人間は、反抗する意思を失う。暴力で支配しようとする人間がいちばん恐れるのは、膝を屈しない相手。そして、暴力で支配しようとする人間は、みんな見かけ倒し。子どもにとって最後の仕事は、子どもに戻った自分の親に対して、その親になること…。いやあ、そういうことなんですか…。
知人から借金を申し込まれたとき、その額の2倍を渡して、こう言う。「これは友人から借金したお金です。今回だけです。返さなくてもいいです」と。
 占いは信じる必要がない。運命は変えられるもの。生きていくうえで大切なもの。
経済的な余裕というより以上に人とのつながり。あなたが人に優しくしたら、周囲もあなたに優しくしてくれる…。そうなんです。それを信じて明日も元気に生きていきましょう。いい本です。生きる勇気が湧いてきます。
(2020年12月刊。1400円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.