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進化のからくり

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 千葉 聡 、 出版 講談社ブルーバックス新書
私はスマホを持たず、いつまでたってもガラケーだけ。それも、いつもカバンの中に入っていて、着信履歴を自宅に戻って充電するときに気がつくほど。
そのガラケーの由来であるガラパゴスについて、「ダーウィンによって発見されたガラパゴスフィンチのくちばしの形状の違い」というのが、実は伝説にすぎなかったというのです。この出だしの指摘には驚いてしまいました。
フィンチ類のくちばしの形状は、わずか40年ほどに変わる。エルニーニョにともなう気候変化によってくちばしの大きさと形は変化するのが認められた。これはダーウィンの発見のことではありません。1970年代からガラパゴス諸島で研究していたグラント夫妻によるもの。
ガラパゴス諸島には年間20万人もの観光客がやってきて、エクアドル経済を大きく支えている。
実は、ダーウィンは、ガラパゴス諸島に滞在中、ダーウィンフィンチにはまったく関心をもたなかった。ガラパゴスがダーウィンの訪れた特別な場所として人々に意識されるようになったのは1930年ころからのこと。
カタツムリのジェレミーの話は大いに受けます。2016年秋、イギリスのノッティン・ガム大学の広報室が市民に向けて呼びかけた。
「孤独な左巻きのカタツムリが、愛と遺伝学のため、お相手を探しています」
ジェレミーとは、ヒメリンゴマイマイというヨーロッパに普通にみられるカタツムリ。ただし、ふつうは右巻きなのに、ジェレミーは100万匹に1匹の確率で生まれる左巻き。左巻きのジェレミーは、右巻きのカタツムリとは交尾ができず、子どもをつくれない。そこで、このジェレミーの相手となる左巻きのカタツムリを市民に捕まえてもらおうという呼びかけだった。
これには各国のメディアが飛びつき、世界中で19億人がニュースを見た。すると、まもなく左巻きのカタツムリが市民から寄せられたのです。イギリスから、スペインのマヨルカ島から…。そして、ついに、ジェレミーの子どもが誕生したのでした。カタツムリって、オスでもありメスでもあるという不思議な生き物なんですね…。
次は、カワニナの話。100万年前、日本列島は大陸と一体だった。そのころ、日本から韓国にカワニナが移住していた。これは常識に反する事実です。DNA解析で判明した事実でした…。
著者は小笠原にもたびたび出かけているようです。
東京から父島まで船で1日。そこから船で2時間以上かけて母島にたどり着く。人口450人の村。今も昔も住民は若い。生活が厳しいので高齢者は少ない。そこでカタツムリを探してまわる生活。それが生態学者なのです。
ちょっとどころか、大いに変わった生態学者たちが次々に登場し、常識をくつがえすような発見をするのです。大自然の厳しさとたたかいながら…。
「むっちゃおもろい」という評言は、決してウソではありません。
(2020年7月刊。1000円+税)

モニカとポーランド語の小さな辞書

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 足達 和子 、 出版 書肆アルス
ポーランドという国には行ったことがありません。「連帯」のワレサ大統領、アウシュヴィッツ、アンジェイ・ワイダ監督、ワルシャワ蜂起などを連想しますが…。
そのポーランドに留学し、生活して、ついには日本語とポーランド語の辞書をつくった日本人女性の心温まる話が展開します。
モニカは、ポーランドの少女の名前です。モニカは、両親を失って2歳になる前に、ワルシャワ大学に留学していた著者の下宿にやってきたのです。
著者がつくった『日ポ・ポ日小辞典』は、なんと初版3万部だったとのこと。すごい部数です。それは、当時(1982年2月)のポーランド軍の将校の指示によるものでした。その後も増刷されて、なんと5万部ほどになったというのです。見出し語1万2千の小さな辞書が、ポーランドで28年間、唯一の日本語の辞書だったというのですから、たいしたものです。その功績から、遅ればせながら2015年に著者はポーランドの大統領よりカバレルスキ十字勲章を授与されています。
さらに、著者は、日本の詩をポーランド語で紹介しています。
この本は、2歳になる前に両親から「捨てられた」モニカが著者を母親のように慕い、しがみついて離れなかったこと、日本に戻った著者がモニカとはずっと交流していたこと、そして、モニカは立派な「親」にひきとられて小学校から大学に行き、社会人となり、ついに結婚して、二人の子をもうけたこと、夫と別れたモニカのその後がずっと紹介されているのが、心に響きます。子どもたちを愛情もって育てたら、本当に無限の可能性が生まれてくるんだなと思わせてくれ、心が温まる本でした。
ところで、著者はいくつなのかなと思って、うしろの略歴をみると、なんと私より年長でした。50代までは、ずい分若くみられていて、いやだったとのこと。私も同じですが、今ではいつまでも若く見られたいという気持ちで一杯です。
(2020年10月刊。1300円+税)

南極ダイアリー

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 水口 博也 、 出版 講談社選書メチエ
南極大陸にすむ生物の話が中心です。
今から6600万年前までの中生代のころ、南極大陸は緑が茂っていて、森林には恐竜たちが闊歩していたというのです。首長竜エラスモサウルスの化石が発見されているそうです。地球はそれほど温かかったのでした。暖流が南極大陸の沿岸にもやってきていたのです。今では、南極大陸は切り離されて、寒冷化しています。ところが、再び地球温暖化の影響を受けて、少しずつ生態系に変化が起きているようです。
南極大陸でペンギンたちが広大なコロニーをつくって営巣していますが、これはホッキョクギツネのような捕食獣が生息していないから。
ちなみに、ペンギンって、すべて南半球にいて、北極圏にはいないとのこと。うひゃあ、そ、そうだったんですか…。
南極は、この50年間で平均気温で3度も上昇した。南極に近づくと船は海洋投棄は一切しないことになっている。南極大陸に上陸するときには、靴の底を消毒液で洗浄する。また、外で用を足してはいけない。すべて携帯用のものに入れて持ち帰るルールだ。なーるほど、ですね。なにしろ、年間5万人もの観光客が南極に来るそうですから…。コロナ禍の今は、もちろん違うでしょうが…。
氷山の裏側に珪藻類がはりついていて、これをナンキョクオキアミが食べる。このオキアミは、5億トンと見積もられるほど大量に存在するので、アザラシなどが生息できる。カニクイアザラシは1500~2000万頭が生息している。ザトウクジラもオキアミを食べて生活している。
南極大陸では温暖化がすすむ一方で、降雪も増えている。すると、アデリーペンギンが子育てのための場所を確保できずに困ってしまう。
ザトウクジラは、激減して1万数千頭しかいない状況になったが、完全保護の下で回復し、今では12万頭はいると見込まれている。
ヒョウアザラシと海中で遭遇すると、威嚇するポーズをとるが、何もしないでいると、やがて離れていくとのことです。でも、ちょっと怖いですよね。
ペンギンは、年に1回、新しい羽毛につけ替える。そのときは、じっと動かずエネルギーを消費しないようにしている。
コウテイペンギンの寿命は20年とみられている。体高1メートル、体重は30数キロ。海に入るときも、海から出るときも、全員がタイミングをあわせて一気にやってしまう。恐らく、ヒョウアザラシ対策だ。
南極近くのキャンベル島には、シロアホウドリが1万5000羽いる。
読んで楽しい南極の本です。
(2020年11月刊。1800円+税)

孔丘

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 宮城谷 昌光 、 出版 文芸春秋
人間、孔子の生きざまを丹念にたどった小説です。
孔子は妻との折りあいが悪く、また長男とも疎遠だったようです。まさしく決して聖人ではなかったのですね。そして、弟子たちと何度も流浪の旅に出かけざるをえませんでした。
群雄割拠の中国の各地を、時の権力者とまじわりながらも、ときにはねたみを買って追い出されてしまうのです。
孔丘が、自分の子に教えたのは、二つだけ。
「詩を学んだか。詩を学ばなければ、ものが言えない」
「礼を学んだか。礼を学ばなければ、人として立つことができない」
詩と礼は、精神の自立と正しい秩序との調和を目ざす孔丘の思想の根幹をなす。
中都の長官となった孔丘は善政を目ざした。善政の基本は、司法が公平であること、課税が過酷でないこと。この二つ。
政治とは率先すること。ねぎらうこと。孔丘もそれを実践した。
60歳は耳順。天命をより強く意識するようになったことから来るもの。どんないやなことでも、天が命ずることであれば順(したが)っておこなうこと。
孔丘は弟子に公こう言った。
「努力しなければ成就しない。苦労しなければ功はない。衷心がなければ親交はない。信用がなければ履行されない。恭(つつし)まなければ礼を失う。この五つを心がけること」
弟子の顔回が師の孔丘について、次のように語った。
「先生は、仰げば仰ぐほど、いよいよ高い。鑚(き)ろうとすればするほど、いよいよ堅い。まえにいたとみえたのに、忽然とうしろにいる。先生は順序よく、うまく人を導く。文学でわたしを博(ひろ)くし、礼でわたしをひきしめる。もうやめようとおもっても、それができない。すでにわたしの才能は竭(つ)きていて、高い所に立っている先生に従ってゆきたくても、手段がない」
これが孔丘の実像である。
15歳で学に志(こころざ)した孔丘は、休んだことがない。73歳で亡くなって、生涯で初めて休息した。
孔丘は妻との離別のとき、人から、次のようになじられた。
「自分よがりの礼をかかげて、教師面(づら)をしている。あきれた人だ。家庭内を治められなかったあなたに、人を導く資格があるのか」
孔丘はこれに対しては、ひとことも抗弁しなかった。夫婦間の機微に理屈をもちこんだところで、他人を納得させる説明ができるはずもない。
孔子も、やはり人の子だったわけなんですよね…。この本は、たくさん勉強になりました。
(2020年10月刊。2000円+税)

元彼の遺言状

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 新川 帆立 、 出版 宝島社
女性弁護士がミステリー大賞を受賞というので、早速よんでみました。
超大金持ちの遺産相続の話なので、田舎弁護士の私にはまったく無縁の世界ですし、「報酬150億円」なんて金額が出てくると鼻白むばかりなのですが、ともかく、日本一大きな法律事務所につとめているという女性弁護士の話が、あまりにも現実離れしている割には、ちょっと目が離せないストーリー展開なのです。つまり、発想力、キャラクター造形力のすごさに引き寄せられたのでした。
ミステリーなので、内容の紹介はしません。ぜひ、最後まで読んで、なるほど、そういうことだったのかという驚きの謎解きにつきあってほしいと思います。まあ、小説の世界としては、ギリギリありうる展開になっていると思いました。最後まで、ええっ、このあと、どうなるの…、という伏線がたくさん張られていて、飽きせず最後までひっぱっていく文章力には思わず脱帽しました。モノカキを自称する私には、とても出来ないことです。残念なことに…。
著者はプロのマージャン士(師?)の資格も有するというギャンブラーですが、だったら弁護士なんてバカバカしくてやってられんよね…、ということになるのでしょうか。
主人公の女性弁護士はボーナスを去年は400万円もらったのに、今年は250万円だと言い渡された。それを聞いた女性弁護士は怒って、「250万円ぽっち」と言いつつ、「お金がもらえないなら、働きたくありません。こんな事務所、辞めてやる」と言って、日本一の法律事務所から飛び出してしまうのです。いやはや…。250万円のボーナスを、「これっぽっち」と言ってのける弁護士なわけです。私も、そんなセリフ、一度くらい言ってみたいものです…。
ともかく、この28歳の独身女性弁護士は、年収2千万円近いというのです。それなのに、サラリーマンの彼が婚約指輪としてプレゼントしようとしたのは、なんと、「わずか40万円の小さなダイヤの指輪」。たちまち、「みじめな気持ち」になったという。なんという別世界…。
こんなとてつもない別世界の話なんですが、ついつい悪趣味のように話の続きが知りたくなって、ひき続き読んでいったのでした。
「私なら、10億円くらい、コツコツ働いていれば、手に入れられるのだ」
ええっ、東京の女性弁護士で、そんな人が実際にいるのでしょうか…。いえ、きっと、いるのでしょうね、東京には…。
弁護士って、そんなにいい仕事だろうか。弁護士になってみて分かったことは、忙しさのわりには儲からないということ。
著者がつとめている日本一の法律事務所は24時間勤務体制で、カップラーメンをすすりながらパソコンに向かう弁護士がいるのです。
日弁連の機関誌『自由と正義』も登場します。いつもは、つまらないと飛ばし読みしていた記事を読むしかないといって…。
最後の50頁ほどは、いつもの喫茶店に入り、ホットのカフェラテを飲みながら、ようやく読了しました。結末を知らなければ、次の会議に集中できませんからね。実は、この本を昼間のうちに読んでしまおうと思って、早めに事務所を抜け出して電車に乗ったのでしたが、まったく正解でした。よく出来たミステリー小説です。
(2021年1月刊。1400円+税)

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