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ちひろ、らいてう、戦没画学生の命を受け継ぐ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小森 陽一 ・ 松本 猛 ・ 窪島 誠一郎、  出版 かもがわ出版
2020年の秋、「信州安曇野・上田、文学美術紀行」というツアー旅行が企画され、そのときの対談が本になっています。
私は日本全国、すべての県に行ったことが自慢の一つなのですが、まだ信州・安曇野にある「ちひろ美術館」をはじめとする美術館めぐりをしていません。実は昨秋、行くつもりだったのですが、コロナ禍によって流されてしまいました。そこで、今回はツアーの記録を読んで追体験しようと思ったのです。
この本で語られているのは、予想以上に深いものがありました。びっくりしました。
まずは、ちひろの絵です。「枯葉のなかの少年」で、男の子の服装が白いのは、秋の空気の色合いを見せるため。そして、足元に赤がないと絵が締まらないので、靴下は赤。なーるほど、ですね…。
ちひろが丹下左膳など剣豪を描くのが好きだという話には腰を抜かしてしまいました。ちひろのかれんな絵と剣豪の絵のイメージとのミスマッチからです。ところが、剣豪が瞬間的にピッと斬るときの気合がちひろには分かったという。いわさきちひろの絵は気合の勝負の絵なのです。
ちひろは、画用紙に向かって描き始めるまでの時間が長い。しかし、筆をおろしてからは早い。多くの場は、いっきに描いてしまう。そして、締め切りが必要だった。
ちひろは、「見せない」、「隠す」ところがあって、みる人の創造力をかきたてる。ふむふむ、すべては書き尽くさないのですね…。
少女の微妙な心理を連続した絵で描いたり(「あめのひのおるすばん」)、男の子の悲しみを表現するために、紙がむけるほど消しゴムで消しては描いている(「たたずむ少年」)。いやあ、こんな解説を聞かされると、ちひろの絵の深さにしびれてしまいますよね…。
らいてうの本名は平塚明子(はるこ)。夏目漱石の教え子だった森田草平と駆け落ちし、心中未遂事件を起こした。そして、漱石は森田草平をひきとって、自宅に2週間かくまった。さらに、漱石はらいてうの親に対して、草平が小説を書くことを了承しろと迫ったというのです。教え子の草平の苦境を救うためでした。
ところで、漱石の「草枕」に出てくる女性(那美)は、らいてうをモデルにしていたというのです。みんな同時代に生きていたのですね…。
この本の最後は、「無言館」の窪島誠一郎と小森陽一の対談です。これがまた読ませます。窪島の実父は水上勉。35年たって実父と面会し、また実母とも再会した。しかし、実母とは2回しか会わなかったというのです。いろいろあるものなんですね…。
窪島誠一郎の実父が水上勉だと分かってまもなく朝日新聞が大スクープとして紙面に紹介したいきさつは、不思議な人間社会の縁を感じさせます。要するに、このとき朝日新聞のデスクをしていた田代という人が、水上勉と同じ東京のアパートの隣室に暮らしていて、窪島のおシメを取り替えたこともあったというのです。こんな偶然も、世の中にはあるのですね…。
コロナ禍のせいで、思うように旅行できませんが、ますます信州の美術館めぐりをゆっくりしたいと思いました。このツアーに参加した元セツラー仲間から贈ってもらった本です。ありがとう。いいツアーでしたね。うらやましい。
(2021年3月刊。税込1870円)

私は八路軍の少年兵だった

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 藤後 博巳 、 出版 岡本企画
著者は1929(昭和4)年生まれですから、1945年の終戦時は15歳。
関東軍の兵士とともにシベリア送りにされようとしたところを少年だからとして免れたのに、今度は八路軍に協力させられ、いつのまにか、その兵士となって中国各地を転戦し、ついには朝鮮戦争にまで従軍させられそうになったという経歴の持ち主です。
幸い、1955(昭和3)年に日本へ帰国し、その後は、日本で日中友好運動に従事してきました。実は、私の叔父(父の弟)も同じように終戦後、八路軍と一緒に何年間か行動していました。
八路軍は「パーロ」と呼ばれた、今の中国人民解軍のこと。第二次国共合作(国民闘争と中共軍の合体)によって、国民党政権が、赤軍を「国民革命軍第八路軍」と呼ぶようにした。第八番目の部隊という意味。そして、日本敗戦後、八路軍は「連軍」に編成された。連軍(八路軍)は、中国内でアメリカの支援を受けた国民党軍と内戦を始めた。
このとき、八路軍は、「三大規律、八項注意」ということで、高い規律を守り、中国の民衆から絶大な支持を得て、武器に優れ、人員も多い国民党軍を圧倒していった。
著者たち元訓練生たちは、中国の革命戦争のために「留用」ということで参加させられた。連軍(八路軍)は人材不足のなかで国民党軍との戦いで苦戦を強いられていたので、日本人技術者の協力が必要だった。分野別では医療関係が際だって多く、続いて鉄道・電気技術者。医師やエンジニアが不足していた。衛生人員だけで3千人をこえた。
日本人の「参軍」は受動的・後向きで、進歩的・積極的なものではなかった。著者も、生活のためには連軍に従うほかなかった。そして、連軍担架兵として100人ほどの日本人と一緒に八路軍に組み込まれた。16歳のとき。少年兵としての好奇心は強かったが、内心では八路軍・中共への反発心も非常に強かった。
著者は第四野戦軍に配属されたが、司令官はかの有名な林彪だった(1971年にモンゴルへ逃亡しようとして失敗し、死亡)。
当初は、日本人たちは八路軍の兵士たちとよくケンカしていたとのこと。やがて、分散配置されて、兵士に溶けこんでいったようです。
著者は、凍傷でやられてハルピン近くの病院に入院したところ、そこの医師・看護婦のほとんどが日本人だったとのこと。
1万人ほどの日本人が中国の内戦に深く関わっていたようです。そう言えば、国民党軍に組み込まれた日本軍の部隊もありましたよね…。
そして、朝鮮戦争が始まってから、中国人民志願軍のなかに日本人兵士が少なくとも300人、1000人近い人数だったと推定されているとのこと。これは知りませんでした。
著者は1955年に12年ぶりに日本に帰国しました。26歳になっていました。
著者は92歳。お元気のようです。叔父も90歳をはるかに超えて、長生きしました。中国では粗食だったようですが、それがためにかえって頑健になるのでしょうか…。
(2020年1月刊。1000円)

「弁護士の平成」(会報30号)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
福岡県弁護士会の国際的活動の取り組み状況と課題が詳しく紹介されています。その読みどころを独断と偏見をもって紹介します。
まず、韓国の釜山弁護士会、中国の大連弁護士会との定期的交流です。
1990年3月23日、福岡のホテルニューオータニにおいて双方会員80名と多くの来賓も招いたなかで「交流に関する合意書」が署名された。全国で2番目の先進的なことであったため、メディアにも大きく報道された。その後、両会は毎年の相互訪問を現在まで継続してきた。1999年から2005年までは、毎年それぞれが相手会を訪問するという年2回の交流だったが、それ以降は、毎年交代で一方のみが相手会を訪問するという、年1回の交流となった。裁判所、検察庁、法律事務所、司法関係機関、民間企業等を訪問したあと、テーマを決めて発表と討論を行い、夜は晩餐会。翌日は、公式観光。討論会のテーマは、法曹人口問題や法科大学院制度といった政策的な問題から、裁判員裁判や取り調べの可視化といった実務的問題まで、幅広い分野にわたっている。友好協定締結記念式典で近江会長が「交流のキーワードは人権」と述べたとおり、人権問題に関するテーマも多い。
2010年2月、大連市律師協会から18名を迎えて、福岡ニューオータニにて盛大に調印式が行われた。そして、毎年交代で一方が相手会を訪問するという、年1回の交流が現在まで続いている。
続いて、留学生を受け入れていること。1994年度、九州大学大学院法学研究科は、すべての授業を英語で教える「国際経済ビジネス法コース」(LLMコース)を開設した。それ以来、毎年10名から15名のLLMコースの留学生を、2月下旬から3月上旬の2週間にわたって受け入れてきた。ところが、2001(平成13)年度、九州大学大学院法学研究科は、日本政府(文部科学省)の国費外国人留学生制度である「ヤング・リーダーズ・プログラム」(YLP)法律コースの留学生を受け入れることとなった。この法律コースは日本で唯一九州大学のみが受け入れている。このコースに在籍している留学生は、アジア各国の将来のリーダーとして活躍が期待されている若手の法律家(弁護士、裁判官、検察官、官僚等)である。そこで当会は、この年度以降は、YLPプログラムの学生を対象とすることとした。
次は、通訳人協力会を発足させ、それを維持運営していること。当会は1992年7月に、「通訳協力会」を発足させた。発足当初から、対応言語40ヶ国にのぼる合計100人以上の通訳人の登録を得た。2020年10月の対応言語は36ヶ国、登録通訳人数はちょうど300人にのぼっている。
そして、外国人法律相談。福岡市は、1989年4月にオープンした天神イムズビルの8階に事務所「レインボープラザ」を開設して、外国人に対する情報提供事業を行うようになった。ここに当会は弁護士を派遣して法律相談に応じている。毎月2回3枠ずつの相談なので、年間で約70枠。まだまだ年間相談件数が少ない。
また、最近、収容された外国人への援助として、2016年6月から、「入管相談弁護士制度」を発足させた。被収容者が、福岡入管職員に弁護士に相談したい旨を申し出ると、福岡入管が氏名などの必要事項を記載した相談申込書を弁護士会天神センターにファックスし、当会職員が、対応弁護士名簿にしたがって事件を配点する。担当することになった弁護士は、原則として48時間以内に福岡入管へ面会に行くというシステムだ。
2011年4月に「国際取引プロジェクトチーム」を発足させた。2012年4月からは、中小企業支援センター委員会の有志も加わり、名称を「中小企業海外展開法的支援プロジェクトチーム」と改め、対外的活動にも力を入れている。
課題としては、現在まで、国際人権・人道問題に関するシンポジウムを単発的にいくつか開催しただけで、継続的取組みが出来ているとはいえない。国際人権・人道法は、さまざまな分野にわたっており、今後、「国際人権法・人道法に関する活動」をどうするのかが課題となっている。

ブラック霞が関

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 千正 康裕 、 出版 新潮新書
慶応義塾大学法学部を卒業して厚生労働省に入り、18年半ものあいだキャリア官僚(総合職)として働いてきた体験にもとづいた本です。
つい先日、厚労省の官僚たちが送別会で23人も夜中まで銀座の居酒屋で飲食していた事実が暴露され、世間のひんしゅくを買いました。しかも、クラスター発生とは…。開いた口がふさがりません。官僚の厳密なチェックを経て国会に提出された法案に多数の誤字等の誤りが判明したのも強い衝撃を与えました。
いずれも内閣人事局も官庁全体の人事を手中にして統制をきかせているはずなのに、いかにもタガがゆるんでしまっている状況です。いったい、官僚たちのホコリはどこに行ってしまったのでしょうか…。かつて、ほんのちょっぴりだけ官僚志向だったこともある私としては、情けないというか、腹立たしい思いに駆られます。
厚労省時代、著者は週の半分は終電過ぎまで働いていて、深夜のタクシーで帰宅していた。残業時間は、月に150時間から、国会審議のときには300時間…。信じられません。霞が関ではサービス残業が横行していて、本当の労働時間は公表できない。これまた、異常です。
幹部公務員は、土日にも国会議員からケータイに電話がかかってくるので、気の休まる時間がない。上から下まで余裕がなくなっている。
パワハラするような職員(公務員)には、仕事ができる人が多い。そして、パワハラする人に限って、先輩には丁寧だったりするので、上からは見えてこない。
最近の若手女性職員は、自分のライフデザインと合わないことを理由として離職するケースが多い。職員全体の働き方が変わらないかぎり、女性活躍など、実現できるわけがない。
公務員の定年を延長すると、現実には若手・中堅にしわ寄せが来て、いま以上に疲弊し、離職者が増加するだろう。それは、鉱務崩壊を招く。
うむむ、そういう視点をもたないといけないのですね…。
キャリア官僚の1割は体調を崩して休んだ経験がある。いやはや、これはひどい職場です。いつまでも、そんな職場であっていいわけがありません。
キャリア官僚の志願者はどんどん減っている。志願者は1998年度に5万5千人、2020年度は1万7千人弱。この20年間に3分の1になってしまった。これはこれは…。
キャリア官僚がやりがいのある仕事だと学生に見えなくなったことに原因がある。
それはそうでしょうよ。国会で平然と苦しいウソの答弁をさせられる。そのうえ、残業ばっかりで、給料は高くない。こんな仕事を誰が希望しますか…。
私は、官僚を全否定するつもりはまったくありません。そうではなくて、内閣人事局で人事を一元管理して、シロをクロに、クロをシロに言い換えさせられ、上にゴマをする人だけが出世するようなキャリアシステムをすぐにやめて、官僚は国民に対してのみ責任をもつという、本来の姿に戻るべきだと言いたいのです。
(2021年1月刊。税込858円)

忖度しません

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 斎藤 美奈子 、 出版 筑摩書房
反知性主義なるコトバは、私には、まったくピンとこないものです。いったい、誰が何を批判しているのか、さっぱり予測できません。
創価学会支持を高言している佐藤優は、結局、自公政権つまり与党支持者と考えるしかないと思うのですが、アベ政権を批判しているようでもありました(佐藤優の本をちゃんと読んでいるわけではないので、あくまで印象です)。
安倍晋三を批判する人を反知性主義の人たちと決めつけられると、違和感があります。いえ、ありすぎます。だって、安倍首相のやったことは、黒を白といい、「丁寧に説明する」と言いながら何も説明せずに時の過ぎるのをひたすら待つだけだったではありませんか。そこに知性のカケラもないことは明らかです。それを、なんだかこむずかしく「反知性主義」なんてコトバにしてしまうと、かえって、多くの国民は戸惑うだけなんじゃないでしょうか…。
やはり、物事はズバリ言えるときにはもってまわった言い方をせず、ズバリ、「ウソをついたらいけない」、「説明になっていない」と批判すべきです。
佐藤優のコトバは、もってまわった表現で、結局のところアベ政治の本質を擁護しているとしか私には思えませんが、どうなんでしょうか…。
この本の著者は、いつも歯切れよく時評をコメントしていますので、いつもいつも目を大きく見開かされる思いです。
コロナ禍は、おさまるどころか、急激に広がり、医療崩壊に日本中が直面している。ところが、政府のやっていることは相も変わらず「自粛」一辺倒。PCR検査はやらない、ワクチンの接種はいつになるか分からない。だけど、オリンピックはやる。「ムダ」な医療機関の整理・統合は既定方針どおり進める。
本当に日本の政治はまちがっています。アベ・スガ政権による大々的「人災」が進行中としか言いようがありません。
マスコミは、飲食店の「自粛」が徹底しているか「見守り隊」が点検してまわっているのを、さも行政が何かやっているかのように報道します。とんでもない報道です。その前に政府がやるべきことがあることを、なぜ厳しく追及しないのでしょうか、摩訶不思議としか言いようがありません。PCR検査を徹底させる、ワクチンをきちんと確保、病院で治療を受けられるようにする。これが政府の当然の使命です。ところが、どれもやられていません。なぜマスコミは厳しく糾弾しないのでしょうか。オリンピックにしても、聖火リレーの報道なんか止めて、オリンピックそのものを中止せよとなぜ言わないのでしょうか…。
「反中」、「反韓」、「反野党」。これをやっていると売れるとマスコミ経営陣はみているというコメントを読みました(本書ではありません)。戦前の大本営発表を無批判にたれ流していたマスコミの愚行を繰り返してほしくありません。マスコミに働く人々に、もっと現実を直視して、スガ政権に忖度しない報道をしてほしいと切に願うばかりです。
(2020年9月刊。税込1760円)

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