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囚人(黄晳暎自伝)

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 黄 晳暎 、 出版 明石書店
現代韓国を代表する作家です。ノーベル文学賞候補と言われているとのこと。
私は韓国軍がベトナム戦争に参戦した状況を描いた『武器の影』(上・下)を1989年に読んで圧倒されたことを記憶しています。アメリカの要請を受けて韓国軍はアメリカ軍によるベトナム侵略戦争に加担したのでした。そのおかげで韓国経済は立ち直ったと言われていますが、ベトナムの罪なき人々を残虐に殺したことで韓国軍の悪名が高かったのも事実ですし、韓国人兵士もかなり戦死しています。心身に故障を抱いた元兵士が今も存在するようです。
このように著者は韓国内で名前の売れた作家なのですが、なんと北朝鮮に何回も行っていて、金日成とも会食をともにしたり親しかったとのことです。もちろん、フツーの韓国人がそんなことをしたら反共法違反で逮捕され、有罪なるのは間違いありません。
この本では韓国に帰国して南企部で肉体的な拷問こそ受けなかったものの、眠れないようにされたうえで、延々と尋問が続くという、一種の拷問は受けています。
そして有罪(実刑)となり、教導所と呼ばれる刑務所生活を余儀なくされました。その囚人としての生活が具体的に紹介されているところも興味深いものがあります。
著者は共産主義者ではなく、北朝鮮に何回も行ったからといって北朝鮮を美化することもない。北朝鮮のような社会体制を思想的に支持することはできないと明言しています。平和主義者として、統一を願って行動してきました。韓国が真に民主化されたら、その力で北朝鮮を変えられると信じています。
眠らせずに尋問する程度のことは、拷問のうちには入らない。
ソウル市長として実績をあげていた人権派弁護士の朴元淳も著者の弁護人(3人)の1人でした。セクハラ事件が明るみに出たあと自殺したのはショックでしたし、残念でした。
刑務所(矯導所)には当時、驚くべき肩書の人がたくさんいました。国会議員、高検の検事長、前国防長官、前・現の参謀総長、海兵隊司令官、銀行頭取など…。
食パンを水に着けて、カビを生やさせて、マッコリ(焼酎)をつくっていたというのも初耳でした。そして、隠れてタバコも房内で吸っていたそうですので、こちらも少しばかり驚きました。
著者は、国家保安法上の罪で逮捕され有罪となって下獄したわけですが、この国家保安法は本当にひどい法律です。戦前の日本の治安維持法をそっくりまねて導入した悪法です。広く知られている事実であっても、北朝鮮を利するなら「機密」にあたるという判決が出たのでした。
金日成からプレゼントとしてもらった白頭山産の朝鮮人参を3本も一度に食べたというエピソードが紹介されています。要するに、当局から没収されてしまうくらいなら、食べてしまえと思ったとのことでした。大変読みごたえのある自伝です。
(2020年10月刊。税込3960円)

舞台上の青春

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 相田 冬二 、 出版 辰巳出版
高校演劇の世界を紹介した面白い本です。
北海道の富良野高校から四国の徳島市立高校まで、6校の舞台が紹介されています。
福岡にも八女市の西日本短大付属高校に演劇部があります。本があり、このコーナーでも紹介しました。残念ながら私はみていませんが映画にまでなっています。
北海道の富良野には倉本聰の率いる「富良野塾」があり、公設民営の劇場「富良野演劇工場」もあります。市民劇団「へそ家族」があって、「ふらの演劇祭」まであるそうです。
この富良野高校には実は演劇部はなく、演劇同好会ができたばかり。それなのに全国大会に出場し、見事に最優秀賞に選ばれたというのです。実にすばらしいことです。
演劇大会は上演時間が60分以内と決まっている。主役は高校生。高校生が高校生役をする。おじいちゃんやおばあちゃん役ならプロに負ける。でも、高校生が高校生の役をやるのだから、負けない。高校演劇というたった2年間しか使えない時間の中で、高校生が高校生を演じる。すばらしいですね。
富良野高校の劇のタイトルは「へその町から」。女子高校生3人が、さびれたホームで汽車を待っている。この3人のディスカッションだが、後ろのほうで、別の3人が劇中劇を演じる。誇りをもてる環境にあるのに誇りをもちづらいシチュエーション。親と分かりあいたいのに、親と分かりあえない劇中劇。「高校生の現在」がダイレクトに伝わってくる…。
いやあ、こんな紹介をされたら、ぜひ本物の舞台をみてみたいものです。
高専ロボコンに、このところはまっていますが、高校生演劇もなんだか面白そうですね…。
上演時間1時間について、濃厚、いや特濃。練乳のような濃さがあると著者は評価しています。役者を演じる高校生の言葉がいいですよ…。
感情が、喜怒哀楽がちゃんとあるから、面白いところでは面白いって笑って、怒るところは怒る。頭の中でも感情をつくるので、ちゃんと集中してやらないとできない。ひとつひとつの行動に対して、ちゃんと考えて、セリフを言う。
演劇やってると、周りの目が恥ずかしいとか、そういうことを思わなくなっちゃう。いい意味で、自分もバカになれる。
指導する教師の話もまたすばらしいです。
胃が口から出るくらい緊張して、人前に立っても、良い芝居をすれば終演後に、ちゃんと拍手がもらえる。それが素晴らしいし、このことでずいぶん、高校生は救われているんじゃないかと思う。
演劇は、役に立つ。すぐに役に立つ。もう、ありえないくらい、高校生が別人になる。演劇を体験することで、目の前の若者が、めきめきとうまくなり、変化していく。
コロナ禍のなか、集まっての全国大会が中止となり、代わってオンラインの大会になった。ところが、無観客なのに舞台で演劇できないという会場も出ているそうです。でもでも、ぜひ演劇部は続けていってほしい、存続してほしいと思いました。
弁護士も、とりわけ裁判員裁判では役者を演じるように裁判員の市民に語りかけることが大切だと強調されていますので、決して他人事(ひとごと)ではありません。
(2020年11月刊。税込1760円)

パパの電話を待ちながら

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジャンニ・ロダーリ 、 出版 講談社文庫
イタリアの宮沢賢治と言われているロダーリの物語世界です。こんな作家がイタリアにいただなんて、ちっとも知りませんでした。オビの言葉がイメージを伝えてくれます。
おてんばな小指サイズの女の子、バター人に宇宙ヒヨコ。虹をつくる機械、そして壊すために作られた建物。びっくりキャラクターや場所がいくつも登場。シュールな展開に吹き出し、平和の尊さに涙する。珠玉のショートショート。
そうなんです。SF作家の星新一のショートショートを思わず連想してしまいます。
父親はイタリア中を動きまわって薬を売るセールスマン。月曜の朝に自宅を出て、日曜日に戻ります。家には幼い娘がいます。そこで毎晩9時になると、自宅に電話をかけて、娘にひとつ話を聞かせるのです。そんな父親が娘に語った話が紹介されている本なのです。
クリスタルのジャコモの話を紹介します。あるとき透明な男の子が生まれた。男の子が嘘をつくと、頭に火の玉のようなものが現れた。正直に本当のことを言うと、火の玉は消えた。それから男の子は決して嘘をつかなかった。男の子が大人になってもそれは変わらなかった。冷酷な独裁者が国を治めるようになった。ジャコモはどうにもガマンできなかった。独裁者はジャコモを一番暗い牢獄に放り込むよう命じた。
ところが、ジャコモの入れられた独房の壁が透明に変わった。それどころか、刑務所全体が透けて見えるようになり、ジャコモが椅子に座っているのが人々から見えた。夜になると、刑務所からは光がこうこうと放たれた。独裁者は明かりをさえぎろうとしてカーテンを全部閉めた。それでも明るすぎて、眠れなかった。ジャコモは、鎖でつながれても、考えることをやめなかった。真実は何より強い。昼間の光よりも明るいのだ。
イタリアの学校の図書室には、ロダーリの本が必ずあるとのこと。子どもが初めて自力で一冊読破する本。
腕まくりして、一生懸命に働く。
戦争は、ひどく愚劣なこと。未来をたとえば宇宙を見つめよう。
間違いや、人と違うということをとがめない。
奇想天外なショート・ストーリーの連続です。
私も息子が保育園児のころ、「長靴をはいたネコ」をアレンジして適当な物語をデッチ上げて毎晩かたり聞かせていました。「それから、それから」とせがまれるので必死で、ない頭をしぼりました。そんな子育ての楽しさを思いださせてくれるショート・ショートです。
(2020年3月刊。税込880円)

フランス人の私が日本のアニメで育ったらこうなった

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 エルザ・ブランツ 、 出版 Du Books
久しくフランに行っていませんが、10年前までは、毎年夏になるとフランスに1~2週間は行っていました。最大40日間(40代初め)、そして還暦前祝いで2週間、南仏めぐりをしました。そのとき驚いたのは、パリではなく地方の都市にマンガ本専門の店があることです。マンガ本というのは、まさしく日本のマンガ本です。もちろんセリフはフランス語です。ワインのうんちくを傾けた有名なマンガ本(名前をド忘れしてしまいました)は、私にとってフランス語の勉強になりますので、すぐに購入しました。
最近、NHKラジオのフランス語教室(応用編)でドロテという女性が日本のマンガ、アニメを紹介していると放送していましたが、この本にもドロテが登場するのです。
この本の著者はフランス人女性のマンガ家です。なるほど絵はまったく日本のマンガそのもので、何の違和感もありません。著者の夫もマンガ家だそうです。とてもカッコ良く描かれています(もちろん、本人も…)。
好きなマンガ家は高橋留美子だとのことです。フランスで人気ナンバーワンといいますが、私は読んだ覚えがありません。
著者は、まったく日本のマンガに毒されてしまった、夢見る乙女だったようです。13歳のとき、すでに将来はマンガ家になると親に宣言したというのです。それを実現したのですから、すごいです。
フランスのコミック市場は、2018年に600億円。日本は4414億円。フランスの年間総売上部数4400万部のうち1700万部は日本マンガ。フランスで売られるコミックの4割近くは日本のマンガ。
いまフランスで人気があるのは、「ワンピース」や「進撃の巨人」など。少年向けのコミックが人気。そして著者のように、フランスで日本流のマンガを描く人も数多く出ている。
著者は池田理代子の「ベルサイユのバラ」にもはまったようです。そして、この「ベルバラ」は、なんと実写映画化されているんですね…。知りませんでした。
著者の娘12歳も息子9歳も、マンガやゲームに夢中のようです。
「こねこのチー」(こなみかなた)がフランスの子どもに大人気なんだそうです。これまた、知りませんでした。どんなストーリー展開なのでしょうか…。フランスって、日本に次いでアニメ・マンガ大好きな国なんですね。たしかに日本のマンガの質が高いことは認めます。
「家裁の人」や「ナニワ金融道」などは弁護士にとっても必読文献だと、私は本気で真面目に考え、若い人にすすめています。
フランスを知ることにもなる面白いマンガ本でもあります。
(2019年12月刊。税込1320円)

囚われし者たちの国

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 バズ・ドライシンガー 、 出版 紀伊國屋書店
アメリカの白人女性学者(英語教授)が世界の刑務所を訪問し、また刑務所内で収容者教育を試行していきます。大変勇気ある試みです。実は、今の刑務所システムの基本はアメリカが世界に輸出したものだったんですね…。
アメリカは、世界でもっとも大勢の人々を投獄している国。230万人が鉄格子の中に暮らす。成人100人につき1人の割合。これはアメリカは世界人口のなかの比率として5%にすぎないのに、囚人の人口では実に世界の25%を占めている。現在、全世界で1030万人が鉄格子の向こうで暮らしている。しかも、なんらかの矯正プログラムの監督下にあるアメリカ人は700万人にのぼる。これは成人の31人にひとり。また、成人の囚人の25%が精神疾患をかかえている。
薬物犯罪による囚人が連邦刑務所の51%を占め、強盗犯は4%、殺人犯は1%にすぎない。
25年以上の服役者のうち、終身刑に服しているアメリカ人がカルフォルニア州だけで、3700人いる。アメリカで終身刑に服しているのは16万人。そのうち、未成年のときの犯罪で終身刑になった人が2000人以上いる。
少年受刑者の10人にひとりが刑務所内で性的暴行を受けている。
刑法にもとづき監視対象となっているアメリカ系アメリカ人(黒人)は、1850年当時の奴隷より人数が多い。黒人のほうが白人よりも6倍も刑務所に入れられやすい。黒人男性の6人にひとりに服役の経験があった(2001年)。
黒人の子どもの4人にひとりは、18歳になるまでに親の投獄を経験する。
アメリカの家庭裁判所で扱われる少年事件のうち、94%が黒人がラテン系アメリカ系。
黒人男性150万人が行方不明になっている(2015年)。これは、24~54歳の黒人男性の6人にひとりは、若くして死亡したか刑務所に入れられたということ。
著者は、刑務所内で教育してみると、素晴らしい聡明な市民、人的資源が牢獄に閉じ込められていることを実感する。
アメリカは、大量投獄システムを産み出し、1990年から2005年までのあいだ、10日に1ヶ所のペースで新しい刑務所が開設された。それは1970年代に始まった麻薬戦争のおかげだ。
アメリカ政府が犯罪者の矯正に支出するのは500億ドル超。過去20年のあいだに刑務所につぎ込まれた費用は、高等教育費の6倍。若者ひとりを投獄すると、年に8万8千ドルかかる。同じ人物を教育するのには、年に1万653ドルが必要なので、その8倍もかかる。アメリカは、刑務所のために540億ドルも支出している。これを人材育成とインフラ再建にふり向けようとしている。
アメリカでは囚人の数が増加の一途をたどっているが、それを犯罪発生率とのあいだに相関関係はまったくない。つまり、刑務所のもつ抑止効果など幻想にすぎない。刑務所行きを恐れて犯罪を思いとどまる者など、ほとんどいない。
アメリカで投獄される人の数が減るにつれて(増えるにつれてではない)、犯罪率も低下していった。これが現実。
刑務所は、家庭を破壊し、社会規範を教えるうえでの親の役割を弱め、経済力を削ぎ、社会に反感を抱かせ、政治を歪めてきた。
囚人の子どもは、自らも刑務所に入る確率が高いことが判明している。
服役している期間は、社会における、その人の信頼関係や人間関係を著しく損なう。投獄を通じて、このような市民を生み出しておいて、地域社会がより安全になるなど期待できるはずがない。
著者はルワンダに行きました。あの大量虐殺があった国です。今では、犯人は死刑になりません。人民裁判にはかけられていますが…。ルワンダの裁判は、「許し」を目ざす。許しとは、被害を受けた者が、もはや加害者を避けたり加害者に復讐したりといった負の感情につき動かされることなく、反社会的でない建設的な動機を反動力に行動できるようになる状態のこと。被害者意識は、受け身の姿勢につながり、日々の仕事がうまくできなくなったり、諦めが早くなったりという結果を招く。
アメリカでは、女性囚人の75%に子どもがいる。親が投獄されている子どもが270万人もいる。
アメリカの刑務所では、8万人が独房監禁の状態にある。他の拘禁施設を含めると10万人にもなる。
ブラジルなど中南米の刑務所は、ギャングに牛耳られている。
アメリカの拘留センターで6万人もの移民が働かされていた(2013年)。これは報酬が時給13セントと、きわめて低く、一種の奴隷労働だ。
アメリカの民間刑務所は、経費節減のため、訓練を十分にせず、サービスの水準を下げ、人件費を低く抑えている。
アメリカの刑務所の囚人の8割は、健康保険に入るのは無理なので、出所してからの生活の保障がない(投票権がないので政治から、あてにされていない)。アメリカで、投票権を奪われた585万人のうち、200万人あまりはアフリカ系アフリカ人(黒人)だ。
ノルウェーの刑務所は、小規模で定員50人未満というのが大半を占めている。そして、それが全土に散らばっているので、家族面会は、その気になれば簡単だ。
アメリカでは囚人の刑期の平均は3年。ノルウェーでは、8ヶ月。そのうえ、ノルウェーでは刑期の3分の1を過ぎると、一時帰宅を申請できるし、刑期の半分をつとめたら、刑務所外での生活が認められる。その結果、成果として、再犯率は20%でしかない。ノルウェーでは、出所されたあと、刑務所にいたことが大きな汚点になることはない。誰も気にしない。
著者はニューヨークで暮らす不可知論者のユダヤ人。身内には、ナチスドイツによって殺害された人がたくさんいるため、ウガンダなどへ行ったとき、なんとなく分かりあえるようです。
世界の刑務所の実情と問題点が430頁もの本に要領よく紹介されています。これからも身の安全には、くれぐれも気を配って、元気にご活躍ください。
(2021年1月刊。税込2310円)

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