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「弁護士の平成」(会報30号)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
福岡県弁護士会の国際的活動の取り組み状況と課題が詳しく紹介されています。その読みどころを独断と偏見をもって紹介します。
まず、韓国の釜山弁護士会、中国の大連弁護士会との定期的交流です。
1990年3月23日、福岡のホテルニューオータニにおいて双方会員80名と多くの来賓も招いたなかで「交流に関する合意書」が署名された。全国で2番目の先進的なことであったため、メディアにも大きく報道された。その後、両会は毎年の相互訪問を現在まで継続してきた。1999年から2005年までは、毎年それぞれが相手会を訪問するという年2回の交流だったが、それ以降は、毎年交代で一方のみが相手会を訪問するという、年1回の交流となった。裁判所、検察庁、法律事務所、司法関係機関、民間企業等を訪問したあと、テーマを決めて発表と討論を行い、夜は晩餐会。翌日は、公式観光。討論会のテーマは、法曹人口問題や法科大学院制度といった政策的な問題から、裁判員裁判や取り調べの可視化といった実務的問題まで、幅広い分野にわたっている。友好協定締結記念式典で近江会長が「交流のキーワードは人権」と述べたとおり、人権問題に関するテーマも多い。
2010年2月、大連市律師協会から18名を迎えて、福岡ニューオータニにて盛大に調印式が行われた。そして、毎年交代で一方が相手会を訪問するという、年1回の交流が現在まで続いている。
続いて、留学生を受け入れていること。1994年度、九州大学大学院法学研究科は、すべての授業を英語で教える「国際経済ビジネス法コース」(LLMコース)を開設した。それ以来、毎年10名から15名のLLMコースの留学生を、2月下旬から3月上旬の2週間にわたって受け入れてきた。ところが、2001(平成13)年度、九州大学大学院法学研究科は、日本政府(文部科学省)の国費外国人留学生制度である「ヤング・リーダーズ・プログラム」(YLP)法律コースの留学生を受け入れることとなった。この法律コースは日本で唯一九州大学のみが受け入れている。このコースに在籍している留学生は、アジア各国の将来のリーダーとして活躍が期待されている若手の法律家(弁護士、裁判官、検察官、官僚等)である。そこで当会は、この年度以降は、YLPプログラムの学生を対象とすることとした。
次は、通訳人協力会を発足させ、それを維持運営していること。当会は1992年7月に、「通訳協力会」を発足させた。発足当初から、対応言語40ヶ国にのぼる合計100人以上の通訳人の登録を得た。2020年10月の対応言語は36ヶ国、登録通訳人数はちょうど300人にのぼっている。
そして、外国人法律相談。福岡市は、1989年4月にオープンした天神イムズビルの8階に事務所「レインボープラザ」を開設して、外国人に対する情報提供事業を行うようになった。ここに当会は弁護士を派遣して法律相談に応じている。毎月2回3枠ずつの相談なので、年間で約70枠。まだまだ年間相談件数が少ない。
また、最近、収容された外国人への援助として、2016年6月から、「入管相談弁護士制度」を発足させた。被収容者が、福岡入管職員に弁護士に相談したい旨を申し出ると、福岡入管が氏名などの必要事項を記載した相談申込書を弁護士会天神センターにファックスし、当会職員が、対応弁護士名簿にしたがって事件を配点する。担当することになった弁護士は、原則として48時間以内に福岡入管へ面会に行くというシステムだ。
2011年4月に「国際取引プロジェクトチーム」を発足させた。2012年4月からは、中小企業支援センター委員会の有志も加わり、名称を「中小企業海外展開法的支援プロジェクトチーム」と改め、対外的活動にも力を入れている。
課題としては、現在まで、国際人権・人道問題に関するシンポジウムを単発的にいくつか開催しただけで、継続的取組みが出来ているとはいえない。国際人権・人道法は、さまざまな分野にわたっており、今後、「国際人権法・人道法に関する活動」をどうするのかが課題となっている。

ブラック霞が関

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 千正 康裕 、 出版 新潮新書
慶応義塾大学法学部を卒業して厚生労働省に入り、18年半ものあいだキャリア官僚(総合職)として働いてきた体験にもとづいた本です。
つい先日、厚労省の官僚たちが送別会で23人も夜中まで銀座の居酒屋で飲食していた事実が暴露され、世間のひんしゅくを買いました。しかも、クラスター発生とは…。開いた口がふさがりません。官僚の厳密なチェックを経て国会に提出された法案に多数の誤字等の誤りが判明したのも強い衝撃を与えました。
いずれも内閣人事局も官庁全体の人事を手中にして統制をきかせているはずなのに、いかにもタガがゆるんでしまっている状況です。いったい、官僚たちのホコリはどこに行ってしまったのでしょうか…。かつて、ほんのちょっぴりだけ官僚志向だったこともある私としては、情けないというか、腹立たしい思いに駆られます。
厚労省時代、著者は週の半分は終電過ぎまで働いていて、深夜のタクシーで帰宅していた。残業時間は、月に150時間から、国会審議のときには300時間…。信じられません。霞が関ではサービス残業が横行していて、本当の労働時間は公表できない。これまた、異常です。
幹部公務員は、土日にも国会議員からケータイに電話がかかってくるので、気の休まる時間がない。上から下まで余裕がなくなっている。
パワハラするような職員(公務員)には、仕事ができる人が多い。そして、パワハラする人に限って、先輩には丁寧だったりするので、上からは見えてこない。
最近の若手女性職員は、自分のライフデザインと合わないことを理由として離職するケースが多い。職員全体の働き方が変わらないかぎり、女性活躍など、実現できるわけがない。
公務員の定年を延長すると、現実には若手・中堅にしわ寄せが来て、いま以上に疲弊し、離職者が増加するだろう。それは、鉱務崩壊を招く。
うむむ、そういう視点をもたないといけないのですね…。
キャリア官僚の1割は体調を崩して休んだ経験がある。いやはや、これはひどい職場です。いつまでも、そんな職場であっていいわけがありません。
キャリア官僚の志願者はどんどん減っている。志願者は1998年度に5万5千人、2020年度は1万7千人弱。この20年間に3分の1になってしまった。これはこれは…。
キャリア官僚がやりがいのある仕事だと学生に見えなくなったことに原因がある。
それはそうでしょうよ。国会で平然と苦しいウソの答弁をさせられる。そのうえ、残業ばっかりで、給料は高くない。こんな仕事を誰が希望しますか…。
私は、官僚を全否定するつもりはまったくありません。そうではなくて、内閣人事局で人事を一元管理して、シロをクロに、クロをシロに言い換えさせられ、上にゴマをする人だけが出世するようなキャリアシステムをすぐにやめて、官僚は国民に対してのみ責任をもつという、本来の姿に戻るべきだと言いたいのです。
(2021年1月刊。税込858円)

忖度しません

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 斎藤 美奈子 、 出版 筑摩書房
反知性主義なるコトバは、私には、まったくピンとこないものです。いったい、誰が何を批判しているのか、さっぱり予測できません。
創価学会支持を高言している佐藤優は、結局、自公政権つまり与党支持者と考えるしかないと思うのですが、アベ政権を批判しているようでもありました(佐藤優の本をちゃんと読んでいるわけではないので、あくまで印象です)。
安倍晋三を批判する人を反知性主義の人たちと決めつけられると、違和感があります。いえ、ありすぎます。だって、安倍首相のやったことは、黒を白といい、「丁寧に説明する」と言いながら何も説明せずに時の過ぎるのをひたすら待つだけだったではありませんか。そこに知性のカケラもないことは明らかです。それを、なんだかこむずかしく「反知性主義」なんてコトバにしてしまうと、かえって、多くの国民は戸惑うだけなんじゃないでしょうか…。
やはり、物事はズバリ言えるときにはもってまわった言い方をせず、ズバリ、「ウソをついたらいけない」、「説明になっていない」と批判すべきです。
佐藤優のコトバは、もってまわった表現で、結局のところアベ政治の本質を擁護しているとしか私には思えませんが、どうなんでしょうか…。
この本の著者は、いつも歯切れよく時評をコメントしていますので、いつもいつも目を大きく見開かされる思いです。
コロナ禍は、おさまるどころか、急激に広がり、医療崩壊に日本中が直面している。ところが、政府のやっていることは相も変わらず「自粛」一辺倒。PCR検査はやらない、ワクチンの接種はいつになるか分からない。だけど、オリンピックはやる。「ムダ」な医療機関の整理・統合は既定方針どおり進める。
本当に日本の政治はまちがっています。アベ・スガ政権による大々的「人災」が進行中としか言いようがありません。
マスコミは、飲食店の「自粛」が徹底しているか「見守り隊」が点検してまわっているのを、さも行政が何かやっているかのように報道します。とんでもない報道です。その前に政府がやるべきことがあることを、なぜ厳しく追及しないのでしょうか、摩訶不思議としか言いようがありません。PCR検査を徹底させる、ワクチンをきちんと確保、病院で治療を受けられるようにする。これが政府の当然の使命です。ところが、どれもやられていません。なぜマスコミは厳しく糾弾しないのでしょうか。オリンピックにしても、聖火リレーの報道なんか止めて、オリンピックそのものを中止せよとなぜ言わないのでしょうか…。
「反中」、「反韓」、「反野党」。これをやっていると売れるとマスコミ経営陣はみているというコメントを読みました(本書ではありません)。戦前の大本営発表を無批判にたれ流していたマスコミの愚行を繰り返してほしくありません。マスコミに働く人々に、もっと現実を直視して、スガ政権に忖度しない報道をしてほしいと切に願うばかりです。
(2020年9月刊。税込1760円)

電柱鳥類学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 三上 修 、 出版 岩波科学ライブラリー
ええっ、こ、こんな学問って、ホントにあるのかしらん…。
私は町中(まちなか)にみる電柱を、いつも電信柱(でんしんばしら)と呼んでいます。でも、本人だって、これは電信(でんしん)の柱じゃないはずだ…と疑っていました。これって、明治の文明開化のころの呼び名がそのまま残っているだけじゃないの…って、思ってきました。
この本によると、電柱には3種類あるそうです。電信柱(電話柱)、電力柱、そして共用柱です。共用柱は、電力柱と通信線を渡す柱を共用しているのです。
電信柱は、もともと、当初は電報を送る線(電信線)だったことに始まり、すっかり定着してしまったということです。
電線の基本構成は、上に3本の電力線、下に3種類の通信線というもの。
日本で、東京と横浜のあいだで電報サービスが始まったのは1870年。したがって、文句なしに、このころは電柱は電信柱でした。その後、電話線そして電力線が渡されることになったのです。
ウグイスは、主としてヤブの中にいるので、電線のように目立つところに止まることはめったにない。電線によく止まる鳥は、スズメ、ムクドリ、ツバメ、ハシボソガラス(ボソ)、キジバト、ハシブトガラス(ブト)、ドバト、ヒヨドリ…、と続く。
わが家の庭によく来る、愛敬のいいジョウビタキは電線にはあまり止まらないようですが、なわばり内の巡回のときには電線にも止まるそうです。
スズメは、電線の中央付近によく止まり、カラスは電柱に近い電線によく止まる。
カラスは、電線を遊びの場としても利用している。カラスって、賢いんですよね。なので、よく遊ぶようです。すべり台ですべって遊んでいる様子を動画でみたこともあります。
カラスのなかで、電柱に巣をつくるのはボソ。ボソは周囲から様子が見られても気にしない習性をもっている。
ブトは、巣の周りに近づいた人をよく襲う。ボソが人を襲うことは少ない。
わが家の周辺ではカササギがよく巣をつくっています。電力会社は巣づくりを始めて、ヒナが誕生し、子離れしてしまうまではじっと待ち、子育てが完了して親たちが巣に戻らなくなってから、巣を撤去するそうです。
やはり人類と大自然との共有は大切なことですから、せめて、それくらいの配慮をこれからも電力会社にはお願いします…。
(2021年1月刊。税込1430円)

グレート・ギャッビーを追え

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジョン・グリシャム 、 出版 中央公論新社
グリシャムの文芸ミステリーというので、読みはじめました。やはり、さすがですね、途中で読み止めるわけにはいかなくなります。でもでも、心を鬼にして、本を読むのをやめ、重い心をひきずりながらも準備書面づくりを始めました。なんといっても生活していかなければなりません。今の生活を守るためには、なんてったってお金を稼がないといけないのです。
グリシャムの今度の本には弁護士はちらっとしか出てきませんし、法廷場面も、ほんのわずかだけ。主要な舞台は書店。新刊本だけでなく、高価な、それも超高価な初版本を扱う珍しい書店です。
アメリカでは書店で作家によるサインセールをするとき、一人でなく複数の作家が並んでするという。ということは、どちらが読者に人気があるのか、一見して分かることになる。
一方は長蛇の列で、もう一方は誰も並んでいないなんて、泣けてきますよね。映画『帰ってきた寅さん』でも、後藤久美子がサインセールしてましたっけね…。
それにしても、初版本を集める人がいて、それが高額で売り買いされる現象というのが私にはまったく理解できません。本は本でしかなく、初版本なので価値があるなんて、思いもよりません。私なら、作者が次々に加筆・修正していったとしたら、最後のものを読みたいです。そして、自分がそうしたら、最後のものこそ読んでほしいです。
主人公は売れない女性作家です。そして、その周囲に作家群がひしめています。その大半が、あまり売れていない作家たちです。インスピレーションが枯渇してしまった作家たちは、もはやどうにもならないようです。私もつくづく、兼業モノカキで良かったと思います。だって、どうやって、あんなにインスピレーションが次々に沸いてくるのでしょうか、不思議でなりません。
ミステリーなので、ネタバラシはしませんが、最後のドンデン返しがすごいです。なるほど、そういうことだったのか…という思いと、ええっ、そ、そんなことあるの…、という複雑な思いに駆られました。いつもノーベル文学賞候補にあがる村上春樹が訳しています。
「グリシャムのことは、もうだいたい分かった、とあなたが思ったそのとき、彼はあなたを驚かせる」
このキャッチフレーズは、あたっています。
(2020年10月刊。税込1980円)

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