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闇の権力、腐蝕の構造

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 一之宮 美成 、 出版 さくら舎
九州から、はるか遠くの大阪を眺めると、デタラメ放題の維新政治をマスコミをはじめとして大いにもてはやす人がいるのが不思議でなりません。
コロナ対策にいいとイソジンを推奨したり(吉村知事)、雨合羽が必要だと高言して(松井市長)、寄せられた大量の雨合羽を市庁舎の地下に埋蔵して放置したり…。こんなとんちんかんなことを言うのは、まだ笑い話みたいに許せるのかもしれません。でも、コロナ禍が迫っているなかで公立病院の閉鎖を強行し、また、保健所を次々に廃止するなんて狂気の沙汰でしかありません。その結果として現在の医療崩壊がもたらされたのです。コロナに感染しても病院に入れずに自宅待機中に次々に患者が亡くなっている深刻な状況が報道されているにもかからわず、吉村知事も松井市長も平気な顔をして責任をとろうとしません。どうして、大阪人が、こんな無責任な連中を許しておくのでしょうか、不思議でなりません。
この本は、維新府政になってから医療職員と保健師が激減した事実を怒りをこめて指摘しています。これを読んだ私は心を痛めるばかりです。「二重行政のムダ」として、病院の統廃合をすすめている維新の府政は府民の生命と健康を守る立場に立っていないとしか言いようがありません。そして、維新が言うのはカジノによる経済振興です。ひどすぎます。
IRはカジノ開業と直結させるのが狙い。大阪万博は会場が同じカジノへ誘客を意味している。ところが、まあ、そんなカジノ誘致もコロナ禍の下で幸いにも頓挫しているようです。アメリカのカジノ業者(MGM)は大阪から撤退を決めたと報道されています。
カジノ汚職で自民党の国会議員についての刑事裁判が進行中ですが、大阪でのカジノ計画もコロナ禍でうまくいくはずがありません。まあ、それにしても、よくぞ汚い金で人心を惑わせようとうごめく人々がこんなにもいるのかと呆れます。それに惑わされている大阪人に目を覚ましてくださいとお願いしたい気分になる本でした。
(2021年4月刊。税込1650円)

虫は人の鏡、擬態の解剖学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 養老 孟司 、海野 和男 、 出版 毎日新聞出版
虫屋の著者と虫写真の専門家による画期的な本です。なぜ、虫が面白いか…。なにより形と色。そして、その多様性だ。虫は面白い。見ているだけで退屈しない。いろいろ見ていると、しだいに区別がつくようになる。
擬態にはじめて気がついたのは、ダーウィンと同世代のイギリス人のベイツ。アマゾンで昆虫を採集していて気がついた。
派手で有毒な虫が食われにくいので繁栄する。すると、派手であっても毒のない虫までもが食われにくくなる。これも一種の擬態。
虫の世界では、年中、「トラが出る」。ふだん、すなおに生きているときには、べつにトラ模様ではない。しかし、たとえば羽を開くと、なんのことわりもなしに、だしぬけにトラ模様が出現する。ふだんはなにげない顔つきをしていて、なにかの拍子に「ワッ」と他人を脅かす。同じように、突然、目玉を出す虫がいる。それがいいのだ。
人間には、クモ嫌いとヘビ嫌いがいる。私は、ヘビ嫌いです。庭に長いヒモ状のものが落ちているだけでもダメです。ところが、モグラのいるわが家の庭には、ずっとずっと歴代ヘビが棲みついています。何年も前のこと、ヒマワリ畑になっている一角で、ヘビがぶら下がって昼寝をしているのを、雑草を抜いていた家人が上を見上げて気がついて腰を抜かしたということもありました。ヘビの抜け殻を、ときどき庭のあちこちで見かけますので、ヘビが生息しているのは間違いありません。
運動のための必要最小限の装置をエネルギーももっている。運動と栄養という二つの条件を、二つの細胞がどちらかに分担することが有利。なので、一方は運動に専門化し、他方は栄養に専門化した。それが精子と卵子だ。
虫によっては、親が子どもの世話をする。コオイムシは、雄の背中に雌が卵をうみつける。
ハサミムシは、親は卵を保護し、かえった幼虫を見張り、ついには子どもに食われてしまう。親の鑑(かがみ)だ。オーストラリアのゴキブリのうちには、子どもを養育するものがいる。種によっては腹に腺があって、その分泌液を子どもがなめる。哺乳しているのと同じ。
虫、ムシ、むし、決して無視できない生きものたちの生きざまを知ることができます。
(2021年2月刊。税込2420円)

図解・武器と甲冑

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 樋口 隆晴 、 渡辺 信吾  、 出版 ワン・パブリッシング
この本を読んで、前から疑問だったことの一つが解き明かされました。馬のことです。
日本古来の馬(在来馬)はポニーくらいの小さな馬なので、戦闘用の乗馬に適さないとされてきた。今の競馬場で走るサラブレッドのように馬高が高くないからだ。しかし、今では、それは否定されている。日本在来馬は、疾走時の速力こそ低いが、持久力に富み、その環境にあわせて山地踏破性に優れていた。
そして、日本には蹄鉄(ていてつ)の技術がないため、長距離を走れない、去勢しないので、密集して行動できないとされてきた。しかし、日本在来馬は、蹄(ひづめ)が固いのが特徴で、アジア・ヨーロッパよりも戦場の空間が狭く、長距離を疾走する必要がない。むしろ、どのタイミングで馬に全力疾走させるのかが武士に求められる技量だった。
武士たちは扱いに困難を覚えても、戦闘のために気性の激しい、去勢していない牡馬(オスウマ)を好んでいた。そして敵も味方も、日本の馬しか知らないので、日本の馬が劣っているとは考えていなかった。
日本在来馬は、大陸から輸入した大型馬との交配によって日本馬の体格は向上していた。当時の日本馬は、西洋馬と比較すると頭が大きく、胴長・短足を特徴とした。現代の目からすると小型に思えるが、アジアの草原地帯の馬としては平均的な体格。
成人男性が大鎧(よろい)と武具一式を身につけると、およそ90キログラムにもなる。馬は、それに耐えなければならない。と同時に軍馬として、気性の激しさが求められていた。そうすると、去勢術を知らなかったのではなくて、気性の激しさを求めて去勢しなかったということなんですね…。
この本は、日本古来の戦いから戦国時代までの戦闘場面が図解され、また戦闘服と武器も図示されているので、大変よくイメージがつかめます。
武田(信玄)家には、部隊指揮官として、「一手役人」と呼ばれる役職が存在した。手にもつ武器は長刀(なぎなた)。隊列のうしろで目を光らせ、敵前逃亡者を処罰するのが役目。逃亡者は長刀で切り捨てる。
独ソ戦のとき、スターリンが最前線の軍隊のうしろに、このような部隊を配置していたことは有名です。兵士は前方の敵と戦いつつ、うしろから撃たれないようにもする必要がありました。
日本で使用された火縄銃は、ヨーロッパでは狩猟用、または船載用だった。このため、地上で使用される軍用銃より軽量で、狩猟用なので、命中率に優れていた。そして、この火縄銃には黒色火薬が使われていて、射撃すると、銃口と火辺の双方から大量の白煙が噴き出した。
大変わかりやすく、イラストたっぷりで、とても勉強になる本でした。
(2020年9月刊。税込2420円)

しゃにむに写真家

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 吉田 亮人 、 出版 亜紀書房
これは面白い。読ませます。私は何の期待もせず、車中で読みはじめました。ところが、なんとなんと、ええっ、そ、そんなことを奥さんから言われて写真家を志(こころざ)しただなんて…。信じられない展開が次から次に登場してきて、まったく目が離せません。車内放送もまったく耳に入らないうちに終点となりました。いやはや、とんだ経過と修行の結果、ついに立派な写真家になったのですね…。
写真家になる前は小学校の教員、5年目でした。奥様も同じ仕事。その奥方が、夫に向かってのたまわった。言葉は次のとおり。
「この家に公務員は2人もいらん。1人でいい。だから、あなたは教員やめて」
ええっ、なぜ…。
「自分の手で自らの人生を切り拓いて、道をつくっていってる姿を子どもに見せるのが親の役目…」
ふむふむ、なるほど、それで…。
「私は安定の道を進むから、あなたはいばらの道を行って。そして荒波を突き進んでいって、私と子どもに、その先に見つけた新しい風景を見せてほしい。父親って、そういう姿を子どもに見せるべきなんだから…」
ええっ、これって本当に言われたの…。信じられなーい。
夫として、父として、一人の人間として、この一度きりの人生をどう全うするのかという大きな命題を妻からいきなり突きつけられた。さあ、どうする…。
一晩寝て、翌日、著者は教員をやめると妻に告げ、妻はそれを受け入れた。では、何をやるのか…。思いつきのようにして写真家になることになった、のです。
それを知って、著者の父が宮崎から京都へやってきた。断乎反対、息子の転職を食いとめようと思って…。ところが、妻が夫の父に断乎として応対した。
「私たちはこう生きていくって決めたので、それを暖かく見守ってもらえませんか」
夫の父は、もちろん承知しない。
「あんたたちの人生はオレたちの人生でもあるとぞ」
「私たちの人生は、おとうさんの人生ではないです。私たちがどう生きようと、誰も口出しできる権利はありません。これ以上、何も口出ししないでください。うまくいかなかったら、私に見る目がなかったと思いますし、恥ずかしい思いも甘んじて受け入れます。何もせず、ただ、見守ってやってください。それが親の役目だと私は思います」
ドラマのセリフでも、こんな見事なタンカを私は聞いたことがありません。思わず、息を呑むほどのすごさです。そして、著者は妻のタンカに発破をかけられ一念発起して、一路、写真家へ成長をたどる…。なんてことはありません。それはありえないことです。それほど職業家としての写真家になることが甘い道であるはずがありません。でも、ともかく著者は現場に通い続けたのです。もちろん、奥様の支えがあってのことです…。
とりあえず著者は、2010年8月から2ヶ月間、インドを自転車で走破する旅に出ました。これまた、すごい、すごすぎます…。しかし、辛い日々でした。途中で、著者が唱えた呪文は、なんと…。「もう帰りたい、日本に帰りたい、今すぐ帰りたい」
そう言いながら、一本道を毎日70キロから100キロも自転車で走ったのでした。よく身体がもちましたね。そして無事でしたね…。
自分で発案した旅なので、誰も責められない。自分を徹底的に恨んだ…。ところが、人との出会いで、元気をとり戻してもいくのです。行く先々で人々から親切にしてもらったというのですから、よほど著者の人柄がいいのでしょうね…。
途中で、インドの染織工芸品をつくる工場に入っていった。そこの労働者たちは、こう言った。
「仕事を楽しいと思ったことはない。大変だと思ったこともない。嫌だと思ったこともない。なぜなら、これは神から与えられた仕事だから。オレたちは、それをやるだけなんだ…」
うむむ、しびれますよね、このセリフ…。
日本でカメラマンとして仕事を始めたころ、著者をつかってくれた人がこう言った。
「今日、ずっとキミの仕事を見ていたけれど、正直ものすごく不安だった。頼んだ側に現場で不安をいだかせるようなカメラマンではダメだよ。キミには仕事が来ないと思うよ」
いやあ、きつい言葉ですね。著者の頭が真っ白になったそうですが、当然ですよね…。
カメラマンの腕というのは、撮影技術はもちろんのこと、撮影現場を主体的に回し、雰囲気をつくり、適格に撮影していく能力にあらわれる。雰囲気をつくるだけでなく、商品そのものやモデルそしてセットも細やかな気配りをしながら、現場全体を冷静に把握する能力が必要だし、クライアントや政策チームに対してより良い提案をする積極性、そして臨機応変さも必要。そのどれをも的確に丁寧にやってのけてこそ、はじめて信頼してもらえる。なーるほど、プロとはそういうものなんですよね…。
写真は誰でも撮れる。でも、写真は誰でもは写せない。「写す」ためには、自分の中にある、自分だけの情熱が必要。カメラという道具を何も考えずに使えるようになるころ、新しい表現が生まれる。最初は広く見る。そして、そこから深く潜ることが大切。
バングラデシュのレンガ工場で働く労働者の写真の迫力は、まさしく圧倒的です。その目つきの鋭さには言葉を失ってしまいます。写真家になるというのが、本当に大変なことなんだっていうことがよくよく分かる本です。
もしも、疲れたなっていう気持ちに浸っていたら、ぜひ読んでみてください。何かが、きっと得られると思います。
(2021年2月刊。税込1760円)

シルクロード全史(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ピーター・フランコパン 、 出版 河出書房新社
世界史をひもとくと、知らないことだらけです。
ローマでは、剣闘は長いあいだ代表的な娯楽だったが、キリスト教徒が命の尊厳を貶(おとし)める見世物に強い嫌悪感を示したことから、廃止された。
「血なまぐさい光景は我々を不快にする。ゆえに剣闘士の存在を全面的に禁止する」
うむむ、これはいいことですね…。
ところが、アフリカの奴隷貿易については、キリスト教徒の多くが人間を奴隷として扱うことに道徳的な嫌悪感を示すことはめったになかった。売り手も買い手も、商品である人間の感情など考えもしなかった。それはキリスト教徒だけでなく、ユダヤ人もイスラム信徒も同じこと。
ヴァイキングの社会にとって、奴隷は欠かせない要素であり、経済の要(かなめ)だった。マルセイユは奴隷売買は盛んなところだった。地中海とアラブ世界では、奴隷があまりにも広く浸透していたため、イタリア人の挨拶するときの「チャオ」は、もともとは、「こんにちは」ではなく、「私はあなたの奴隷です」という意味だった。うひゃあ、ちっとも知りませんでした。
卓越した戦略と、戦場での駆け引きの巧みさにより、ムハンマドと信者たちは、圧倒的勝利を重ねた。ムハンマドは、620年代にユダヤ人に助けを求めた。ユダヤ人は、アラブ人をローマの支配からの解放者として歓迎した。
ジンギスカンの武力行使は技術的に高度であり、戦略としても巧妙だった。要塞化された標的を長期的に包囲するのは難しく、費用もかかる。大規模な騎馬軍を維持するには、放牧も必要とする。馬たちは周囲の草をすぐに食べ尽くしてしまう。
モンゴル人は、占領した都市の一部では大規模な資金を投じてインフラを整備した。
オランダの成功を支えたのは、高度な造船技術。
話が急にあっち、こっちへ飛んでいくので、ついていくだけでも大変ですが、内容は豊富で、感嘆するばかりの本でした。
(2020年11月刊。税込3960円)

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