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アフリカ人学長、京都修行中

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ウスビ・サコ 、 出版 文芸春秋
いやあ、これは面白い本でした。京都って、ぜひまた行ってみたいところですが、京都人って、「いけず」なんですよね…。そんな京都についての知らない話が満載でした。
たとえば、白い靴下の話。京都ではよその家を訪ねるときは、なるべく白い靴下をはいていったほうが望ましい。京都には「白足袋(しろたび)もんには逆らうな」ということわざがある。白足袋をいつもはいているのは、僧侶、茶人、老舗の証人、花街関係者など、古くから京都の街を取り仕切っていた人たち…。うひゃあ、とんと知りませんでした。
京都人は噂話が大好き。「いけず」というのは意地悪いという意味。ところが、好きな人にも使うことがある。「ほんま、この人、いけずやわ」なんて、恋人同士で甘えるときのコトバ。うむむ、なんて、奥が深い…。
京都の伝統的な町家(まちや)は、「オモテノマ」、「ダイドコ」、「オクノマ」という3室が一列に並んでいる。親しくなると、少しずつ奥のほうの部屋に通される仕組みになっている。
鴨川名物の「等間隔の法則」というのも初めて知りました。京都市内を流れる鴨川のほとりにはアベックが常に整然と同じ距離を保って座っているのだそうです。証拠の写真もあります。ええっ、こんなのウソでしょ…と叫びたくなります。
著者は、今では京都の精華大学の学長です。マンガ家ではありません。建築が専門です。ひょんなことから京都にやってきて、京都に住みつき、今や大学の学長になったのです。
1966年にアフリカはマリ共和国の首都バマコに生まれ、中国に国費留学し、ちょっとしたことから日本にやってきました。フランス語、英語、中国語そして関西弁を話します。テレビにも出演中のようです。
京都には「婿養子」というコトバもあるようです。京都に生まれ育った人たちは、お互いに暗黙のルールでしばりあっている。ところが、よそから入ってきた「婿養子」は、しきたりを無視して勝手なことをするけれど、やがて、それが発展する道になることもある、というわけです。
アフリカ人の著者(今では日本国籍をとっています)が、北野天満宮の曲水の宴に1000年前の平安装束を身にまとって参加しているのは、京都人が伝統を重んじる一方で、目新しさや遊び心を発揮することのあらわれでもあるというのです。
京都人は、京都の伝統と文化に誇りをもっている。だから京都を自慢したいし、見せびらかしたい。でも、自慢する相手、見せびらかす相手は厳選する。ここでも「一見(いちげん)さん、お断り」だ。一度や二度、その店に行ったくらいで「常連さん」になれると思ったら、大間違い。店の人の出迎の挨拶も、常連さんには「おこしやす」と言い、よそさんには「おいでやす」と言って、違いがある。「おこしやす」のほうが、ずっと丁寧な言い回しだ。
京都人は、暗示めいた話はたくさんするけれど、肝心なことは決してコトバにしない。それは自分自身で理解しなくてはいけない。「京コトバ」は、周囲とのトラブルを徹底的に避けるために発達したもの。狭い土地で長く互いに心地よく暮らすための、角を立てないための知恵が盛り込まれている。
よそから入ってきた人でないと言語化できない話だと理解しました。この本を読むと、著者は、まるで、民族(人種)学者としか思えませんが、建築学博士なんですね…。面白くて、一気に読了しました。
(2021年2月刊。税込1540円)

ガザ、西岸地区、アンマン

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 いとう せいこう 、 出版 講談社
「国境なき医師団」が活躍している現場を見に行く本の第2弾です。
空港の手荷物検査のときは、ノートパソコンなどは硝煙反応をみて、爆発物でないか調べるとのこと。そして、パスポートに、イスラエル入国のスタンプがあるとイランへの入国は無理。逆も同じ。いやはや、国が対立していると、そうなるのですね…。
そして、「国境なき医師団」(MSF)は、誘拐されたときに備えて、「プルーフ・オブ・ライフ」を書かされる。自分しか知らない自分の情報のこと。私だったら、何を書いたらいいのでしょうか…。すぐには思いつきません。
ガザに入る前には、両祖父にアラブの名前が入っていないかまで調べられる。
パレスチナ人の多くはガザ地区とヨルダン川の西岸地区に押し込められている。ガザ地区ではイスラム原理主義組織ハマスが支配し、西岸地区はパレスチナ自治政府の力の下にいる。この両者は対立している。
写真を外で撮ってはいけない。MSFの施設内には一切の兵器が置かれていない。誰であれ、丸腰でしか入れない。
MSFの患者には、ペインマネージメント専門の医師があたる。痛みは、精神面よりきていることが多い。痛みに苦しんでいる患者にVRゴーグルでCGを見せる。南の島の風景で、蝶や鳥が優雅に飛んでいる。
デモに参加して足を撃たれると、銃弾は出口を大きくえぐる。そして同時に傷口から外界のばい菌が入りこむ。菌が骨に感染すると、簡単に骨髄炎を起こす。抗生剤で治療するが、長期にわたる必要がある。つまり、足を一発撃たれるとは、肉をえぐられ、骨を粉々に砕かれて短くされ、感染症で体内を冒されるということ。
毎週金曜日の抗議デモで500人ほどがイスラエル兵士に撃たれている。
ドローンが一日中、上空を飛んでいる。ガザは、いつでも厳重に監視されている。
ドローンは、いくら落とされても訓練された軍人が傷つくわけではない。遠距離から正確に打つロケット弾・ミサイルと組み合わせると、ピンポイントで攻撃ができる。
イスラエルは、入植者のほとんどが公務員。個人に武器をもたせて地域に家を建てさせる。これも戦争のひとつの形態ではないのか…。
アラブの世界の全部が常時、戦争状態にあるのではない。のんびりしたアラブがあり、その裏では空爆があって銃撃もある。大やけどする大人も子どももいて、メンタルケアが必要な子どもたちもいる…。
「国境なき医師団」って、すごい活動をしているんですね。改めて心より敬意を表します。
(2021年1月刊。税込1650円)

満州国軍朝鮮人の植民地解放前後史

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 飯倉 江里衣 、 出版 有志舎
大変貴重な労作です。韓国軍トップの過去の黒い背景、そしてそれは日本帝国主義の負の遺産そのものだということを痛感させられました。
大韓民国政府が解放直後から朝鮮戦争期間までに韓国の人々に加えた暴力は、日帝強占期の暴力以上のものだった。それは日帝警察と同じ、あるいはそれ以上に残酷なものだった。
何が彼らにそれほど残忍な行動をとらせたのか…。果たして、同胞、同じ民族という事実は、人々の残酷な行動を抑制することができなかったのか。同じ民族であるにもかかわらず、否、同じ民族であるからこそより残忍であった。いかなる状況で、これほど残酷になれるものなのか…。
その答えは…。日本軍による虐殺イデオロギーのもと、中国の河北省で抵抗する民間人を「共匪(きょうひ)」とみなして虐殺した朝鮮人たちは、解放後の南朝鮮においても「共匪」は殺さなければならないというイデオロギーを持ち続けた。つまり、解放後の満州国軍出身朝鮮人たちにとって、同胞であるかどうかは重要でなく、「共匪」であるかどうか(「共匪」とみなせるかどうか)が決定的な意味をもっていた。
満州国軍出身の朝鮮人にとっては、麗順抗争時の鎮圧作戦を経て初めて、共産主義者が殺さなければならない存在に変わったのではなく、「共匪」は殺さなければならないという日本軍による虐殺イデオロギーが、その思想として解放後まで引き継がれていたのだ。
済州島事件に連動する麗順抗争のとき、満州国軍出身の金白一は、鎮圧作戦下の虐殺にもっとも積極的に加担した人物の一人だった。そして、このとき、「戒厳令」下の「即決処分」(処刑)は、何ら法令の根拠をもたなかったが、「緊急措置」として正当化されてしまった。
アメリカ軍は、このようにして進行する虐殺の一部始終を見ていたが、一貫して傍観者であり続け、民間人への多大な暴力を「秩序の回復」過程としてとらえていた。また、この虐殺は、韓国軍にとっての良い経験になると認識していた。
韓国軍の根幹は、日本軍そして満州国軍出身の朝鮮人によって構成されていて、日本軍の虐殺イデオロギーが引き継がれていた。これは歴史的事実である。
ところで、関東軍(日本軍)は、根本的に朝鮮人を信用していなかった。最後まで、朝鮮人に対する不信感を払拭できなかった。朝鮮半島を軍事的に支配していたとしても、日本軍は心の底で日本からの独立を願っている朝鮮人を恐れていて、いつかは裏切られるかもしれないとビクビクしていたということなのでしょうね…。
そこで、関東軍が満州国軍内に抗日武装闘争を展開中の東北抗日聯軍と対峙する間島特設隊を創設したとき、指揮官には多くの朝鮮人を登用したが、最高指揮官である隊長と、その下の連長の大半は日本人をあてた。朝鮮人兵士たちと、彼らを管理・指揮する朝鮮人を常に日本人が監視できる体制をつくった。日本の軍事教育を受けた人々が、いつ団結して日本人に銃口を向けるか分からないという恐怖心が朝鮮人指揮官は最小限に留めるという方針になった。
間島特設隊は、1938年9月に創設され、中国の河北省において、部落の民間人と八路軍を区別するどころか、いかに中国人部落の民間人の抵抗を抹殺して自分たちに服従させ、人々から八路軍についての情報を得るかに奮戦していた。そして、そのためには民間人の虐殺もいとわなかった。そこには、「共匪」は民間人かどうかを問わず殺さなければならないという日本軍の虐殺マニュアルがあり、それを実践し、身につけていた。
大変に実証的な研究の成果だということがよく分かり、とても勉強になりました。引き続きのご健闘・健筆を心より期待します。少し高価な本ですので、図書館に注文して、ご一読してみてください。
(2021年2月刊。税込7480円)

自由法曹団物語

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 自由法曹団 、 出版 日本評論社
家屋明渡執行の現場で、荷物の運搬・梱包のためにやってきた補助業者の男性は、居間で母親(43歳)がテレビで中学2年生の娘の運動会の様子を見ているのを目撃した。その横に当の娘がうつ伏せになっている。
母親は男性に、「これ、うちの子なの」と画面に映る娘の姿を指さした。そして、運動会で娘が頭に巻いていた「鉢巻きで、首を絞めちゃった」と言い、「生活が苦しい」、「お金がない…」とつぶやいた。娘は死んでいた。母親に首を絞められたのだ。母親は自分も死ぬつもりだった。まさしく母子無理心中になりかけた場面である。
8月末に、退去・明渡の強制執行の書類が留守中に貼られていた。母親は、この強制執行の日、ぎりぎりまで娘と一緒にいたかった。自分だけ死んで残った娘は国に保護してもらうつもりだった。娘を学校に送ってから死ぬつもりでいると、娘が母親の体調を心配して学校を休むと言ったので、計画が狂った。裁判で母親は、なんで娘を殺すことになったのか…、分からないと言った。
こんなことが現代日本におきているのですよね…。思わず涙があふれてきました。
夫と離婚して母親は中学生の娘と二人で県営住宅に住み、給食センターのパートをして暮らしていた。元夫が養育費を入れてくれないと生活できない。生活保護を申請しようとしても、「働いているんだから、お金はもらえないよ」と言われ、ついにヤミ金に手を出した。家賃を滞納しはじめたので、千葉県は明渡を求める裁判を起こし、母親は欠席して明渡を命じる判決が出た。その執行日当日、母親の所持金は2717円、預金口座の残高は1963円しかなかった。
母親は家賃減免制度を知らなかった。また、判決と強制執行手続のなかで、県の職員は母親と一度も面談したことがなかった。この母親には懲役7年の実刑判決が宣告された。
私も、サラ金(ヤミ金ふくむ)がらみの借金をかかえた人が自殺してしまったという事件を何件、いえ十何件も担当しました。本当に残念でした。来週来ると言っていた女性が、そのあいだに自殺したと知ったときには、「あちゃあ、もっと他に言うべきことがなかったのか…」と反省もしました。生命保険で負債整理をするといケースを何回も担当しました。本当にむなしい思いがしました。
この千葉県銚子市で起きた県営住宅追い出し母子心中事件について、自由法曹団は現地調査団を派遣しました。その成果を報告書にまとめ、それをもとにして、千葉県、銚子市そして国に対して厳しく責任を追及したのでした。同時に、日本の貧困者にたいするセーフティネットの大切さも強調しています。
創立100周年を迎えた自由法曹団の多種多様な活動が生々しく語られている本です。現代日本がどんな社会なのかを知るうえで絶好の本です。私は、一人でも多くの大学生そして高校生に読んでほしいと思いました。
(2021年5月刊。税込2530円)

闇の権力、腐蝕の構造

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 一之宮 美成 、 出版 さくら舎
九州から、はるか遠くの大阪を眺めると、デタラメ放題の維新政治をマスコミをはじめとして大いにもてはやす人がいるのが不思議でなりません。
コロナ対策にいいとイソジンを推奨したり(吉村知事)、雨合羽が必要だと高言して(松井市長)、寄せられた大量の雨合羽を市庁舎の地下に埋蔵して放置したり…。こんなとんちんかんなことを言うのは、まだ笑い話みたいに許せるのかもしれません。でも、コロナ禍が迫っているなかで公立病院の閉鎖を強行し、また、保健所を次々に廃止するなんて狂気の沙汰でしかありません。その結果として現在の医療崩壊がもたらされたのです。コロナに感染しても病院に入れずに自宅待機中に次々に患者が亡くなっている深刻な状況が報道されているにもかからわず、吉村知事も松井市長も平気な顔をして責任をとろうとしません。どうして、大阪人が、こんな無責任な連中を許しておくのでしょうか、不思議でなりません。
この本は、維新府政になってから医療職員と保健師が激減した事実を怒りをこめて指摘しています。これを読んだ私は心を痛めるばかりです。「二重行政のムダ」として、病院の統廃合をすすめている維新の府政は府民の生命と健康を守る立場に立っていないとしか言いようがありません。そして、維新が言うのはカジノによる経済振興です。ひどすぎます。
IRはカジノ開業と直結させるのが狙い。大阪万博は会場が同じカジノへ誘客を意味している。ところが、まあ、そんなカジノ誘致もコロナ禍の下で幸いにも頓挫しているようです。アメリカのカジノ業者(MGM)は大阪から撤退を決めたと報道されています。
カジノ汚職で自民党の国会議員についての刑事裁判が進行中ですが、大阪でのカジノ計画もコロナ禍でうまくいくはずがありません。まあ、それにしても、よくぞ汚い金で人心を惑わせようとうごめく人々がこんなにもいるのかと呆れます。それに惑わされている大阪人に目を覚ましてくださいとお願いしたい気分になる本でした。
(2021年4月刊。税込1650円)

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